2009 年 31 巻 3 号 p. 342-349
本研究の目的は,スティック型嗅覚同定能力検査法により,高齢者と若者の比較を行い,高齢者におけるにおいの主観的評価と客観的評価の特徴を明らかにすることである.研究協力者は,高齢者30人,若者30人である.手続きは,同定の得点を求める前に同定できるであろう数を見積の得点として求め,次に,12種類の「においスティック」を用いて同定の得点を求めた.その後,においを嗅いでいる状況を振返り,同定できたであろう数を振返りの得点として求めた.高齢者と若者との比較の結果,見積は高齢者のほうが高く,同定と振返りは高齢者のほうが低かった.高齢者においては,見積と同定,見積と振返りに差があったが,同定と振返りに差はなかった.以上,高齢者は,嗅ぐ前ではにおいの評価が同定の得点より過大であることが推測され,同定能力の低下がある場合,より危険や支障が生じる可能性があると考えられる.また,生活環境への予防対策とともに,同定能力に対する自覚を促すことは重要な視点であると考えられる.