老年社会科学
Online ISSN : 2435-1717
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認知症高齢者による場所の見当識障害にかかわる現象の捉え直し
―― 場所についての語りのディスコース分析 ――
田中 元基大橋 靖史
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2016 年 38 巻 1 号 p. 84-93

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抄録

 本研究では,場所の見当識障害として従来とらえられてきた,認知症高齢者が今いる場所を事実と異なる場所として語る現象を,保たれた能力として捉え直すことを試みた.認知症高齢者の語りを,ディスコース分析の手法を用い分析した結果,以下の2つの特徴が明らかとなった.第一の特徴は,今いる場所からみえる対象に言及してから話題を展開するという「共同参照→話題展開」という定式化である.この定式化は,他者との関係性に基づき話題を共有した語りが可能なことを示している.第二の特徴は,現在の状況と過去の状況の差異に言及した語り方である.今いる場所の状況と過去の経験との間に不一致が生じた際に,「過去への言及→だけど→現在における過去の不在」という定式化が行われていた.以上の特徴から,場所の見当識障害としてとらえられてきた発話行為は,他者への配慮や状況への気づきといった能力として捉え直すことが可能であることが示唆された.

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© 2016 日本老年社会科学会
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