2015 年 89 巻 2 号 p. 243-268
イスラーム世界、なかでも中東は長い歴史の中で「政教一元論」に基づく固有の国家観・宗教観や政教関係を発展させたが、一九世紀以降は植民地化を経て、国民国家システムを受け入れるようになった。しかし、トルコなどを除いてそれは成熟せず、宗教を国内的に管理する仕組みは十分機能しなかった。特にアラブ諸国はイスラーム的な「ウンマ(普遍共同体)」の理念を用いてアラブ民族を定義したため、民族主義が衰退してイスラーム復興が起きると、イスラーム的ウンマ意識が再び高まった。イスラーム復興とグローバル化と合わさって、イスラーム政治が再生し、イスラームの越境性が強まっている。イラン・イスラーム革命、サウディアラビアの再イスラーム化、武装した国際NGOとしてのアルカイダ、領域国家をめざす武装NGOとしての「イスラーム国」などの登場は、国家観・宗教観と政教関係が大きく変容していることを示している。