本稿は、あえて長い時間の幅を確保し、イスラームがいつ、いかにしてフランスの宗教になったのかを検討するものである。フランスにムスリムがいた事実は古い時代に遡って確認できるが、イスラームは長いあいだヨーロッパの外部にある鏡のような役割を果たしてきた。イスラームがフランスの宗教になる経緯として決定的なのは、植民地行政によってイスラームが「宗教」として把握され、管理されるようになったことである。一九〇五年の政教分離法は、宗教に自由を与える性格を持つが、同法が形式的に適用されたアルジェリアでは、実際にはイスラームに対する管理統制が統いた。フランス国家がイスラームを「宗教」と見なしてムスリムにアプローチする枠組みにおいて、イスラームはフランスの「宗教」になったが、そのアプローチの限界も浮き彫りになる。イスラームに対する構造的不平等があるなかで、ライシテは宗教の平等を唱える理念として機能している。