産学官連携ジャーナル
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特集 地方の強みで廃校舎再生
旧町役場と廃校を地域産業の研究拠点に
武岡 英隆
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2019 年 15 巻 5 号 p. 11-13

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  • 武岡 英隆(たけおか・ひでたか)

    愛媛大学 南予水産研究センター センター長

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特集:地方の強みで廃校舎再生

・農業の生産性革新とビジネス展開をオープンイノベーションでhttps://doi.org/10.1241/sangakukanjournal.15.5_14

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◆ 南予水産研究センターの概要

愛媛大学南予水産研究センター(南水研)は、愛媛大学が愛媛県愛南町*1と連携して設立した全学附属の研究センターで、愛南町船越地区の「船越ステーション」(写真1)、同西浦地区の「西浦ステーション」(写真2)と松山在勤の教員からなる「松山ステーション」の3ステーション体制となっている。

写真1

南予水産研究センター船越ステーション(旧西海町役場)

写真2

南予水産研究センター西浦ステーション(旧西浦小学校、左側は新設の飼育棟)

現在の構成員は、教員22人(兼任教員6人、特定教員7人*2、客員教員2人を含む)、博士研究員2人、事務・技術職員13人、学生・院生29人の、計66人であり、これらのうち約40人が愛南町に在住している。研究部門は「生命科学研究部門(西浦)」、「環境科学研究部門(船越)」、「社会科学研究部門(松山)」の三つである。

愛媛県はわが国屈指の水産県であるが、中でも養殖業の生産額は全国1位であり、そのうち94%(618億円、2016年農林水産統計)を宇和海*3の養殖業が占めている。また、宇和海のみを見れば、漁業生産額のうち8割以上は養殖業によるものである。このような背景から、南水研における現在の研究課題は養殖に関わるものが多く、生命科学研究部門では「スマ」を中心とした新規養殖魚種の開発*4、環境科学研究部門では、ICT、IoT技術を活用した赤潮・魚病対策の研究を中心的に行っている。これらに加え、社会科学研究部門では「ぎょしょく教育*5」や水産物の流通に関する研究などを行っている。これらの研究はいずれも南水研単独ではなく、愛媛県水産研究センターや愛南町、地域の漁業協同組合などとの密接な連携により進められている。また研究以外でも、愛南町の食のイベントへの学生の参加、「愛南トライアスロン大会」でのボランティア活動、海岸清掃や地域の祭りへの参加などのさまざまな活動を通じて、地域との密接な交流を進めている。

◆ 設立の経緯

上記のように愛媛県南予地域は水産業の盛んな地域であるが、近年はわが国の他の地域と同様に、漁業者の高齢化や後継者不足、安価な養殖産物の輸入、消費者の魚離れなどによる水産業の衰退、さらには公共事業の縮小や大手製造業の撤退による町経済と雇用情勢の悪化が続いており、基幹産業である水産業の活性化が喫緊の課題となっていた。このため、愛南町の前身である5町村は、合併前の2003年に策定した新町建設計画において「大学水産研究施設誘致事業」を定め、愛媛大学に水産研究センターの設置を要請した。当時の愛媛大学は、水産に特化した組織は持っていなかったが、それまでの宇和海における漁場環境調査や養殖技術開発、「ぎょしょく教育」の普及推進による地域水産振興への取り組み実績を有していたことや、当時から「地域貢献」を大学の主要な責務と考えていた*6ことなどから、この要請に応えることとした。ここで壁となったのが、地方財政法である。センターの施設は既存施設を町が改修して大学に提供する計画であったが、同法では町の遊休施設の国立大学への長期的貸与は禁止されていた。このため、町が国と再三にわたり協議をした結果、地域の農林水産業振興の観点から長期無償貸与が認められることになった。

こうして、2008年に旧西海町役場を改修した船越ステーションが開設され、松山との2ステーション体制で南水研が発足した。さらに船越ステーションが少し手狭であったことや大型魚類の飼育実験を行うことが困難であったため、2013年に旧西浦小学校を改修した西浦ステーションが増設された。同ステーションには学生の居住施設も併設されたほか、運動場跡地に大型魚類の飼育棟も建設された。施設内の至る所には旧小学校の名残をとどめている(写真34)。なお、船越、西浦両ステーションともに南水研単独ではなく、町役場の支所や町のぎょしょく教育施設などと一部共存している。

写真3

旧図書室を利用したゼミ室。壁に小学校の図書を残している。

写真4

旧理科室の実験台を再利用。脚の黒い部分を継ぎ足している。

◆ 廃校活用に向けた課題

南水研は、設立後10年余を経て地域の一部として定着するとともに地域の期待に沿えるような成果も上げつつあり、現在のところ廃校などの施設活用の先進的成功事例となっていると思われる。その要因としては、地域の熱意や財力、遠隔地施設の運営に対する大学当局の覚悟はもちろんであるが、担当する教員の熱意も非常に重要である。南水研は、産業の中心地に研究施設を置き、教員や研究員がその地に定住して効率的に研究を推進する「レジデント型研究拠点」になっており、このことがさまざまな成果につながっているが、「定住」という点では、愛南町の拠点はメインキャンパスに比べて圧倒的に不利な位置にある*7。廃校は都会から見れば非常に不便な地域にあるのが普通であるから、これらを大学施設に利用しようとすれば、多くはこの問題に直面するだろう。この壁を越えるには、施設の取り組む課題が研究者にとって十分に魅力的であることが不可欠である。南水研の場合は、養殖王国と言われる地にあることや、県の水産研究センターが近く、密接な連携研究ができることなどが有利な条件として働いたと考えられる。しかし近年は、大学を活発に異動する教員が評価される時代であり、現教員の転出も十分考えられる。従って、将来にわたって南水研が持続的に発展していくためには、さまざまな成果を発信し続けて拠点としての魅力を増大させていくことが必要であろう。

本文の注
* 1  2004年に5町村の合併により誕生した、愛媛県最南端に位置する人口約2万人の町。

* 2  文部科学省の「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム(2017~2021)」等により雇用。

* 3  豊後水道の四国側海域。

* 4  「スマ」は小型マグロ類に属し、「全身トロ」といわれる美味な魚で、南水研が愛媛県等と共同で養殖技術を開発している。これまでに、毎日放送「池上彰のどうなる?ジャーナル」、日本テレビ「嵐にしやがれ」、「満点★青空レストラン」、「シューイチ」、NHK「あさイチ」ほか多数の全国放送、ANA機内誌「翼の王国」などで紹介されている。

* 5  「ぎょしょく」は愛媛大学の考案したコンセプトであり、「しょく」には食、触、色、殖、飾、職、植の7つの概念を含むため、漢字表記をしない。

* 6  2005年に制定した愛媛大学憲章の前文に明記されている。

* 7  例えば、愛南町の両ステーションには松山から車で2時間半程度かかる。西浦ステーションからコンビニ、スーパーまではそれぞれ最短で2.5km、10kmである。

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