産業衛生学雑誌
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調査報告
組織の心理的問題改善への意識調査の寄与に関する一事例
高原 龍二
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2010 年 52 巻 1 号 p. 28

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抄録

組織の心理的問題改善への意識調査の寄与に関する一事例:高原龍二.社団法人国際経済労働研究所―組織における心理的問題への対策のために用いられる意識調査は,対策が必要であるかを検証することと,必要であるならばどういった点が問題の要因であるのかを数量的に明確化することで組織的判断の材料とすることが主な目的といえる.本稿では,組織の心理的問題への対策の必要性を明らかにし,有効な対策へのヒントとなるように,共同調査項目と組織特有の問題や対策についての独自項目を組み合わせた意識調査を受託し,対策後にその有効性を確認するために経年調査を行った事例を報告する.従業員の負担感が高く,精神疾患休職者数が多い大手メーカー系企業の地方工場にて,労働組合を通じてヒアリングを行い,その結果に基づいて設計した項目を含んだ質問紙調査を行った.共同調査項目を用いた分散分析からは,従業員のメンタルヘルスや労働意欲が有意に低いことが示され,多母集団同時分析による意識構造の比較や,独自項目との相関からは,人の入れ替わりの激しさや指揮系統の混乱といった該当組織特有の状況の中で,仕事量の多さと雰囲気の悪さによって人間疎外的な状況が形成されていることが示された.結果は労働組合によって経営陣に伝えられ,労使での対策が実施された.1年後,労使での対策を項目化したものを加えて再調査を実施し,対策の検証を行った.分散分析からは有意な改善が示され,経年対応させたアグリゲート・データを用いた重回帰分析からは,労使での対策の一部が有効であった可能性が示唆された.本事例のように,調査の受託主体と対策の主体が異なる場合,組織的判断への資料や効果性の確認のために,調査設計や統計的分析を工夫して,実証的に組織の実態を提示することは有益な手段であると考えられる.
(産衛誌2010; 52: 28-38)

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