2013 年 55 巻 5 号 p. 165-171
有機ガス用の呼吸保護具吸収缶などに見られる活性炭層の利用可能時間は,入口のガス濃度に対する出口のガス濃度の時間変化を表した破過(はか)状態から,破過時間・破過濃度という定義を基に多くの議論がなされている 1 , 2 , 3 ).破過状態に影響する要素は多く,これまでに活性炭層の適切な利用に向けて,各種の有機ガスと使用条件に対する破過状態の実測の努力がなされると共に,数式モデルによる予測への期待も存在している 1 , 2 ).
前稿 3 )では,活性炭層での破過状態を表した代表的な数式モデルであるWheeler-Jonas式 4 , 5 , 6 , 7 )を紹介し,直径として数cmから数mm程度である小型の円筒状活性炭層での有機ガス破過に同式を適用した場合の有効性についての検討を記した.あらためて同式の構成の例を以下に示す.
(1)
t b = 破過時間 [min]
W e = 活性炭の単位重量あたりの有機ガス吸着容量 [g/g]
W = 活性炭層の重量 [g]
C 0 = 入口ガス濃度 [g/cm3]
Q = ガス流量 [cm3/min]
ρ B = 活性炭層のかさ密度 [g/cm3]
k 0 = 吸着速度定数 [min–1]
C = 破過濃度(出口ガス濃度) [g/cm3]
2004年,ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory(LANL), USA)の研究者であったG. O. Woodは,上記のWheeler-Jonas式を中心とする活性炭層の破過時間の詳細な推算モデルを報告した 6 , 8 ).このモデルは,前稿に示したようなWheeler-Jonas式の単独での破過状態への適用から発展して,吸着対象の有機ガスの種類,使用環境の温度・相対湿度などを考慮に入れており,より詳細な推算が可能である.活性炭層のガス吸着性能のうち,特に吸着容量は湿度の影響によって減少することが知られている 9 , 10 , 11 , 12 ).これは実際の活性炭層の利用では,事前に乾燥雰囲気下で保管するか,または使用の直前までに充分に乾燥させることで抑えることができるが,ここでの推算は湿度が破過時間にどの程度の影響をもたらすかという予防的知見を得るものである.Woodはさらに,複数種類の有機ガスが同時に吸着する場合の破過時間推算モデルについても報告している 13 ).本稿ではその詳細までは触れないが,そこでは式(1)での活性炭の単位重量あたりの有機ガス吸着容量 W e は,混合溶液における各成分のモル分率と蒸気圧の関係を表したRaoultの法則などにより,各有機ガスそれぞれに相当する容量にさらに分けて考慮の上で計算が行われている.
さらに近年,アメリカ合衆国・労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH),USA)のNational Personal Protective Technology Laboratory(NPPTL)では,上記のWoodの破過時間推算モデルを基にしたソフトウェアMultiVaporTM(以降はMultiVaporと記載する.)をウェブサイト上で公開している 14 ).このMultiVapor は,前述のWoodの破過時間推算モデルに多くの人が比較的容易に触れることができるツールとして大きな関心が持たれる.しかし,その一方で MultiVapor から得られる計算結果についてはその妥当性をはじめとして多くのことが現在のところまだ明らかではなく,今後の具体的な応用に向けて,より詳しい検証と検討が進められる必要が大きいと言える.
ここで本稿では MultiVapor 2.2.3 とその利用方法について紹介するとともに,上記の検討を行うにあたって,呼吸保護具吸収缶に見られる大きさの活性炭層を対象とした日本国内での既報中にある有機ガス破過データを利用し,まず単一種類の有機ガスでの破過状態に同ソフトウェアを適用した場合の有効性について確認した結果を以下に示す.
MultiVapor 2.2.3は,Multiという語句に示されるように5種類までの有機ガスが混合した状態での破過を想定した計算が可能である.MultiVaporは現在,Microsoft Windowsでの32ビット及び64ビットオペレーティングシステム(OS)に対応する MultiVapor 2.2.3(732KB,使用言語は英語のみ.)の無償でのダウンロードが提供されている.MultiVapor は2012年12月末までに公開されていたプログラムでは32ビットOSのみが対象となっており,さらに筆者が同プログラムのインストールを試行した結果では,Windows XPでは問題なく作動したものの,それ以降のOS であるWindows Vista, Windows 7では条件入力や実行の途中でエラーメッセージが表示され計算ができないという問題を残していた 15 ).しかし,2013年1月以降に公開されたプログラムでは最近のOSでの利用も行えるものとなっている.
MultiVapor 2.2.3での破過時間推算の実行にあたっては,
(1)活性炭層の物性値
(2)有機ガスの性質に関するデータ
(3)ガス流量・温度・相対湿度などの使用条件
の3事項のデータの入力が順に必要である.それぞれの入力項目と呼吸保護具吸収缶での数値の例を Table 1 から Table 3 までに示す.これらのTableの番号は,MultiVapor 2.2.3の実行において入力を要求される画面が現れる順である. Table 1 での条件入力に際して,特にMicropore volume(マイクロ孔容積),Adsorption potential(吸着エネルギー,ここではベンゼンを基準とする.),Affinity coefficient for water(水への親和係数)については,厳密には既報 6 ) に示したように専門の測定装置を使用して,推算の対象とする活性炭に関する物性値を事前に得る必要がある.ただし,これらの各項目を直接入力する方法のほかに,MultiVapor 2.2.3では吸収缶における代表的な値(cartridge(小型吸収缶),canister(大型吸収缶)の2種類)が最初から登録されており,それらを使用することも可能である.
Input condition | Value |
Bed diameter / cm | 8 |
Bed depth / cm | 2 |
Carbon weight per cartridge or bed / g | 22 |
Micropore volume / cm3 g–1 | 0.533 |
Preconditioned relative humidity / % | 50 |
Carbon granule average diameter / cm | 0.22 |
Adsorption potential (for Benzene) / kJ mol–1 | 18.666 |
Affinity coefficient for water / dimensionless number | 0.06 |
Input data |
Name |
CAS Number (Chemical Abstracts Service Registry Number) |
Molecular weight / g mol–1 |
Liquid density / g cm–3 |
Molar polarization / cm3 mol–1 |
Water solubility factor |
Average vapor concentration / ppm |
Antoine vapor pressure parameters |
A, B, C |
P = A–B/(T+C) |
P / Torr , T / K |
1 Torr = 1 mmHg |
Input condition | Value |
Temperature /℃ | 20 |
Atmospheric pressure / atm | 1 |
Relative humidity / % | 50 |
Number of cartridges on a respirator | 1 |
Average breathing air flow / L min–1 | 30 |
Vapor concentration / ppm | 300 |
Breakthrough concentration / ppm | 5 |
同様に, Table 2 に示した有機ガスの性質に関するデータについても,直接入力する方法のほかにあらかじめプログラム中に登録されている物質名(728個)を選択し,それらのデータを読み出して使用することもできる.これは Table 2 での物質名またはCAS Numberを入力することによって自動的に読み出しがなされる.しかし,あらかじめ登録されていない有機ガスに関するデータについては直接入力する必要がある.それらのうち,使用条件として定まるAverage vapor concentration(平均ガス濃度)以外は各種の便覧,ハンドブックなどのデータ集 16 , 17 , 18 , 19 )を参照して値を得ることができる 6 ).ただし,それらのうちWater solubility factor(水への溶解度因子)だけはその定義が明らかでない.多くの場合に,ある物質の水への溶解度(Water solubility)は水の単位重量または体積あたりに溶解する重量または体積などで表されるが,ここではWater solubilityの後にfactorという語句が付加されており,さらにあらかじめ登録されている物質での値も各データ集に掲載されているものとは異なっている.詳しく見ると,MultiVapor 2.2.3ではAcetone cyanohydrin(アセトンシアノヒドリン)でのWater solubility factorが1.0000となっている.他の登録されている物質での値との比較の結果から,おそらくここではアセトンシアノヒドリンでの水への溶解度を基準とした相対的な値が使用されているものと考えられる.
以上の一連のデータの入力に基づき,各有機ガスの破過時間の計算が行われる.
呼吸保護具吸収缶や,それを模した小型の活性炭カラムによる有機ガス破過測定の日本国内での報告例のなかで,田中らは多くの種類の有機ガスを使用した破過状態の測定結果をこれまでに示している 20 , 21 ).今回はそれらのなかの実測データを利用して,MultiVapor による推算結果との比較検討を行った.
本稿での計算に使用した活性炭層のデータは Table 1 に示すとおりである.田中らの既報には,使用された活性炭の重量以外の物性値のデータは記載がなく,過去の製品ということもあり詳細は明らかでない.それらの物性値は厳密には活性炭製品それぞれに対していくらかの違いがあるが 22 , 23 ),ここではまずおおよその破過時間の推算結果を得るために, Table 1 に示される重量以外のデータは MultiVapor 2.2.3 にあらかじめ登録されている代表的なデータ(cartridge)を参考にして数値を適用することとした.
田中らは Table 3 に示される測定条件の下に,46種類の有機ガスの破過時間の実測データを報告している 20 ).それらのうち異性体の区別が難しかったものなどを除き,MultiVapor 2.2.3での計算結果を得た34種類の有機ガスについて推算値と実測データとの比較を Table 4 に示した.ここでは左から2列目に示される実測データに対して,3列目から5列目まで3つの推算値が示されている.MultiVapor 2.2.3 の計算では,通常の推算値の他に最小値,最大値の合計で3つの推算値が示される.筆者が MultiVapor 2.2.3 を操作した印象では,通常の推算値と最小値,最大値との違いはそれぞれほぼ同じく取られているように見受けられる(ただし,そのままでは最小値がマイナスの値となる場合は,いずれも 0 分と結果が表示されているように見受けられる).3つの推算値のうち,最小値,最大値の算出の根拠はウェブサイト上の説明からも明らかでない 14 , 24 ).この根拠について考えると,Woodの破過時間推算モデルでは,式(1)での吸着速度定数 k 0 に相当する箇所を中心として,理論式だけではなく経験的な要素を多く含む式がいくつか採用されている.しかし,Woodらによる既報中のグラフからは,これらの経験式のなかには必ずしも精確さが高いと見えないものもある 25 , 26 ).よってMultiVaporにおいては,その点の不足を補うために推算結果に幅を取り,3つの推算値を提供するかたちを採っていることが予想される.
Organic vapor | Measurement breakthrough time /min | Ordinary estimation by MultiVapor 2.2.3 / min | Minimum estimation by MultiVapor 2.2.3 / min | Maximum estimation by MultiVapor 2.2.3 / min |
Cyclohexane | 124 | 52.5 | 0 | 153 |
Methanol | 1.8 | 0 | 0 | 0 |
Dichloromethane | 28.1 | 0 | 0 | 0 |
Acetone | 63.5 | 0 | 0 | 0 |
Methyl acetate | 78 | 0 | 0 | 0 |
Ethyl ether (Diethyl ether) | 80.7 | 0 | 0 | 0 |
Chloroform | 97 | 29 | 0 | 105 |
n-Hexane | 109.7 | 33.9 | 0 | 120 |
Ethyl acetate | 126.9 | 35.2 | 0 | 121 |
Carbon tetrachloride | 131.4 | 55.8 | 0 | 160 |
Pentyl acetate | 134.2 | 79.6 | 0 | 189 |
Isobutyl acetate | 142 | 55.8 | 0 | 155 |
1,1,1-Trichloroethane | 137.8 | 49.4 | 0 | 148 |
2-Propanol (Isopropyl alcohol) | 142.3 | 52.3 | 0 | 166 |
Isopentyl acetate | 145 | 75.8 | 0 | 184 |
2-Butanone (Methyl ethyl ketone) | 145 | 33.9 | 0 | 119 |
Isopropyl acetate | 145.9 | 50.6 | 0 | 150 |
1,1-Dichloroethane | 154.1 | 19.1 | 0 | 77 |
Propyl acetate | 158.6 | 65.1 | 0 | 176 |
Tetrahydrofuran | 165 | 23.1 | 0 | 91 |
Butyl acetate | 169.5 | 92.7 | 0 | 204 |
4-Methyl-2-pentanone (MIBK) | 173.1 | 74.9 | 0 | 189 |
Toluene | 175.8 | 93.9 | 0 | 215 |
Tetrachloroethylene | 176.7 | 107 | 0 | 234 |
Trichloroethylene | 184.9 | 70.7 | 0 | 188 |
1,1,2,2-Tetrachloroethane | 191.3 | 128.7 | 0 | 261 |
Ethylene glycol monomethyl ether (Methyl cellosolve) | 194 | 121.6 | 0 | 277 |
2-Butanol | 198.5 | 92.4 | 0 | 228 |
Chlorobenzene | 203.9 | 118.8 | 0 | 248 |
Styrene | 208.5 | 117.1 | 0 | 239 |
Ethylene glycol monoethyl ether (Cellosolve) | 212.1 | 154.2 | 2 | 306 |
Ethylene glycol monoethyl ether acetate (Cellosolve acetate) | 219.4 | 103.6 | 0 | 233 |
Cyclohexanone | 223 | 126.7 | 0 | 267 |
1-Butanol | 224.8 | 125.5 | 0 | 274 |
まず Table 4 における結果では,計算結果のうち最小値はほとんどが 0 分であり,明らかに実測データとは見合っていない.田中らの測定 20 , 21 )では有機ガス用の直結式小型マスク用吸収缶である日本国内製品が使用されている.これには Table 3 での測定条件において, シクロヘキサンを対象として破過時間が50分以上のものであることが求められており 27 ),国家検定が実施されている 28 ).そのことから考えても,ここでの最小値における一連の推算の結果はあまり有意なものとは見なしがたい.
そこで通常の推算値と最大値について,実測データとグラフ上での比較を行った( Fig. 1 ).ここでは,横軸が実測データ,縦軸が計算値を示しており,グラフ上のプロットが図中にある斜線( y = x )に近いほど計算値が実測データに見合っていることを示す.比較の結果,通常の推算値では実測データからはいずれも外れており,全体的に推算値が低い水準にある( Fig. 1 (a)).一方,最大値の場合は,やはり外れてはいるものの実測データといくらか見合った結果となっている( Fig. 1 (b)).
田中らは同じ活性炭層を使用して,6種類(アセトン,アクリロニトリル,四塩化炭素,ジメチルホルムアミド,トルエン,二硫化炭素)の有機ガスにより,ある一定の破過濃度に対して入口ガス濃度を変えていった場合の破過時間の測定結果も報告している 21 ).それらのデータのうち,あらかじめ MultiVapor 2.2.3 に有機ガスの性質のデータの登録があった4種類について,同様に MultiVapor 2.2.3 での計算を行った.ここでの測定条件を Table 5 に,計算の結果を Table 6 に示すとともに,通常の推算値と最大値について実測データとグラフ上での比較を行った( Fig. 2 ).その結果として, Table 4 と同様に最小値はほとんどが 0 分であった( Table 6 ).通常の推算値では実測データからいずれも外れており,推算値が全体的に低い水準にある( Fig. 2 (a)).一方,最大値の場合は,アクリロニトリルを除いてそれぞれの入口ガス濃度の場合について,実測データとかなり近い結果となった( Fig. 2 (b)).ただし,推算結果に対するその他の明瞭な物質依存性などは今回の結果からは見いだすことはできなかった.ここまでの推算結果については,既報 22 , 23 )の値を参考に Table 1 での活性炭に関する物性値をいくらか変えてみた場合にもほぼ同様の傾向であった.
Input condition | Value |
Temperature / ℃ | 20 |
Atmospheric pressure / atm | 1 |
Relative humidity / % | 50 |
Number of cartridges on a respirator | 1 |
Average breathing air flow / L min–1 | 30 |
Vapor concentration / ppm | 50, 100, 300 |
Breakthrough concentration / ppm | 2, 5, 20 described in Table 6 |
Organic vapor | Vapor concentration / ppm | Breakthrough concentration / ppm | Measurement breakthrough time / min | Ordinary estimation by MultiVapor 2.2.3 / min | Minimum estimation by MultiVapor 2.2.3 / min | Maximum estimation by MultiVapor 2.2.3 / min |
Acetone | 50 | 20 | 222 | 134.9 | 94 | 176 |
100 | 20 | 147 | 37.8 | 0 | 125 | |
300 | 20 | 71 | 12 | 0 | 50 | |
Acrylonitrile | 50 | 2 | 173 | 0 | 0 | 0 |
100 | 2 | 120 | 0 | 0 | 0 | |
300 | 2 | 65 | 0 | 0 | 0 | |
Carbon tetrachloride | 50 | 5 | 557 | 289.7 | 0 | 676 |
100 | 5 | 355 | 148.3 | 0 | 393 | |
300 | 5 | 138 | 55.8 | 0 | 160 | |
Toluene | 50 | 5 | 1198 | 561.1 | 146 | 976 |
100 | 5 | 624 | 277.2 | 0 | 557 | |
300 | 5 | 220 | 93.9 | 0 | 215 |
MultiVaporの基となっているWoodの破過時間推算モデルについては既に詳細が明らかとされており,我々はその問題点と予想される改善方法を過去に指摘している 6 , 7 , 12 , 15 ).ただし,入力するデータと計算結果として与えられる値の数などから考えて,MultiVapor はこのモデルとはいくらか違いがあるとも思われる.また,MultiVapor 2.2.3 ではプログラム中の数式の詳細とその決定の経緯までは明らかとされていないため,言わばブラックボックスのような状態の箇所もあり,踏み込んだ議論が難しい.しかし,上記の2件の比較検討の結果からは,MultiVapor 2.2.3ではいずれの実測データに対しても式(1)での吸着速度定数 k 0 および活性炭の単位重量あたりの有機ガス吸着容量 W e に相当する箇所が実際よりも小さく見積もられるために破過時間が短く計算される傾向があると予想される.そして,通常の推算値に対して最大値での推算結果に改善が見られることは,より適した定数が算出されて用いられているためと考えられる.そこで,これらの点の補正または修正によって,同ソフトウェアでのより精度の高い推算が可能となると見込まれる.
実際の利用を考慮したとき,現行の MultiVapor 2.2.3は活性炭の物性や有機ガスの科学的知識を要する部分も大きいことから,まだ現在の段階では労働現場での具体的な応用に供されるものというよりも,科学研究用のソフトウェアとして理解するのが妥当である.しかしその用途に際しても,本稿での検討の結果では,MultiVapor 2.2.3は単一種類の有機ガス破過状態に対しても,まだそのままでの適用は推算結果の精度をはじめとして困難があると見られ,注意が必要である.また,混合ガスにおける破過を想定して計算での有機ガスの数を増やした場合は,さらに推算結果の実測データとの差異の増加につながることが予想される.加えて,今回は相対湿度に関して活性炭層への影響が低いと考えられる50%の条件下で検討を行ったが,より高い相対湿度条件下での推算はさらに複雑となると考えられる 9 , 10 , 11 , 12 ).
しかしその一方,今回の比較検討の結果では,最大値での推算結果は多くの場合に実測データといくらか見合ったものとなっていることは注目される.MultiVapor はまだ不完全な部分を残しているが,破過時間推算の計算モデルそのものとしては,さらなる改良により高い水準に向かう可能性があると考えられる.現在の MultiVapor を基にして,計算の過程で用いられる式や係数の調整などの今後の改良により,将来に破過時間の推算に向けたより有効なソフトウェアが開発されることが期待される.