産業衛生学雑誌
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原著
睡眠の位相・質・量を測る3次元型睡眠尺度(3 Dimensional Sleep Scale; 3DSS)─日勤者版─の信頼性・妥当性の検討
松本 悠貴内村 直尚石田 哲也豊増 功次久篠 奈苗森 美穂子森松 嘉孝星子 美智子石竹 達也
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2014 年 56 巻 5 号 p. 128-140

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抄録

目的:ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)に代表される睡眠尺度の多くは,実際の睡眠時間や日中の眠気といった量的問題や,睡眠の維持・導入といった質的問題を捉えてある.それらに加えて,24時間型社会となった今日では起床時刻・就寝時刻といった位相の問題まで視野に入れていく必要があり,かつ睡眠の位相・質・量のいずれに問題があるのかを把握するためには各々に測定・評価しなければならない.そこで我々は位相・質・量の3つの睡眠関連問題について測定する3次元型睡眠尺度(3 Dimentional Sleep Scale; 3DSS)の日勤者版を開発した.本研究はその信頼性・妥当性を検証することを目的とする.対象と方法:対象は製造業およびサービス業に従事する日勤労働者635名(男性461名,女性174名)で,平均年齢は40.5歳であった.質問紙は全17項目から成り,事前研究結果および専門家との討議を参考に睡眠の位相・質・量に関する質問を設定した.回答偏向分析後,探索的および確認的因子分析を行った.信頼性はクロンバックα信頼性係数を算出して求め,尺度の得点化・上位-下位分析を行った.仮説検定ではPSQIおよびSDSより位相・質・量それぞれに関連した項目を抜粋し,3DSSの各尺度得点との相関をみて収束的妥当性および弁別的妥当性の検証を行った.また,PSQIの総合点と3DSSの各尺度得点との相関についても検証を行った.結果:回答偏向分析にて回答に大きな偏りはみられなかった.探索的因子分析の結果2項目が削除されたが3つ因子が抽出され,位相に関する質問5項目,質に関する質問5項目,量に関する質問5項目の計15項目となり,確認的因子分析においても15項目モデルの方が適合度が高かった.α 信頼性係数は下位尺度毎では位相 = 0.685,質 = 0.768,量 = 0.717であった.仮説検定では,収束的妥当性については仮説がすべて採択された.弁別的妥当性については新尺度および既存尺度の質尺度と量尺度の間で仮説をやや上回る相関がみられていた.PSQIの総合点と3DSSの各尺度得点との相関についてもすべて仮説が採択された.考察:本研究において,我々の開発した3次元型睡眠尺度(3DSS)の日勤者版について,日勤労働者を対象として使用するにあたり,必要と考えられる信頼性・妥当性が示された.今後さらに対象者数を増やし調査を重ねることで尺度の標準化およびカットオフ値の設定を行っていきたい.

I.緒 言

勤勉な国民性を持つ日本は,世界的に見ても睡眠時間が少ない国家である1).生産性の向上と引き換えに睡眠が犠牲にされてきた結果であると想像できるが,労働者にとっての睡眠問題は業務を遂行する上で深刻な問題となる.睡眠不足の状態では遂行能力が低下するだけでなく,いったん低下するとその後充分な睡眠を確保してもすぐには回復しない2).実際に睡眠障害のある者ではそうでない者と比べ業務中の事故が有意に多かったという報告もされている3)

睡眠の問題は当然のことながら労働者個人の健康にも影響を及ぼす.睡眠不足による健康障害としては,まずメタボリックシンドロームの助長4)や心血管系疾患の発症5)といった身体の健康問題との関連性が報告されている.また,精神の健康問題との関連も強く,睡眠不足の状態では前頭葉機能が低下し感情のコントロールが充分に機能しなくなることも報告されている6).一方で睡眠の導入や維持に問題のある入眠困難や中途覚醒,早朝覚醒など“質”的な問題は,特にうつ病の症状の一つとして知られている7).こうした睡眠の量的問題および質的問題に加えて,24時間型社会が浸透した現代では就寝・起床時刻が不規則・夜型化する8)という“位相”とも呼ぶべき新たな問題が生じてきている.「日の出とともに起床し,昼間に活動し,日が沈んで夜になると休息をとる」という生物としてのヒト本来の生活リズムが失われ,午後10時に寝ている者の割合は著しく減少した9).これまでに,体内リズムの乱れが自律神経系・内分泌系・免疫系など様々な生理機能に影響を与えることが報告されている10,11,12,13).井原はこうしたストレス応答に関わる機能が体内時計の管理下にあるため,抑うつ患者の多くに実は生活習慣是正の余地が存在しており,非精神病圏の病態を“睡眠・覚醒リズムの破綻による生活習慣病”とみなすとも述べている14).このような睡眠の位相に関する問題は時間栄養学の分野でも注目されており,体内リズムを形成する時計遺伝子BMAL-1が脂質代謝系および糖代謝系の制御を行っていることが明らかにされ15,16,17,18,19),毎日の起床時刻や就寝時刻に加えて朝食習慣の重要性も指摘されている.これら位相の問題への対処の必要性は,睡眠障害治療ガイドラインにおける「睡眠障害対処12の指針」20)でも触れられている.従って,現代社会を生きる労働者の健康維持と安全で効率的な業務の遂行のためには,睡眠の質的問題・量的問題だけでなく,位相の問題についても視野に入れていく必要がある.

睡眠の質的問題・量的問題について測定する際に用いられる尺度で代表的なものがピッツバーグ睡眠質問票21, 22)(以下PSQI)であるが,これは位相の問題について測定・点数化することは不可能である.位相の問題には,一週間で見たときに平日もしくは休日前後で起床時刻や就寝時刻が不規則に変動していないかという規則性,いわば“縦軸”の問題と,一日の中で見たときに起床時刻や就寝時刻が生理的・社会的に理想と考えられる時間からずれていないかという前進―後退,いわば“横軸”の問題が存在する.PSQI点数評価では,たとえば毎日決まって午前7時起床午後11時就寝している者と,起床・就寝時刻が毎日2時間以上不規則に変動しているが平均すると午前7時起床午後11時就寝している者とを区別することができない.また,毎日決まって午前7時起床午後11時就寝している者と毎日決まって午前10時起床午前2時就寝している極端に夜型化した者とを区別することができない.PSQIが開発された1980年代は未だインターネットや携帯電話等が世に出回る前の時代であり,コンビニエンスストアのような24時間営業の店も現在ほど身近に在るものではなかった.従って,当時は質的問題および量的問題のみを測定することで特に問題はなかったと考えられるが,24時間型社会が浸透し多様化した現代人については十分に網羅されているといえない.しかしながら,これはPSQIに限った問題ではなく,質や量だけでなく位相の問題まで設けてスコア化できる尺度は残念ながら存在しない.また,1つの尺度得点のみで評価するものがほとんどであり,位相・質・量のいずれかに問題があるのか,にわかには把握できないという問題点も挙げられる.そこで我々は睡眠の位相・質・量的問題について,各々にスコア化できる尺度の開発を試みた.その初版となるもので日勤労働者563名を対象として事前研究23)を行ったが,いくつかの質問項目における回答の偏りがみられ,信頼性および妥当性の検証についても課題が残った.我々は事前研究より得られた結果を参考に専門家の意見も交えながら再度尺度を編集し,改訂した.本研究では,新たに作成した位相・質・量の3つの睡眠関連問題を測る尺度“3次元型睡眠尺度(3 Dimensional Sleep Scale; 3DSS)”の日勤者版の信頼性・妥当性を検証することを目的とした.

II.対象と方法

1. 新尺度の構成概念的定義

日勤労働者における3つの睡眠関連問題(位相,質,量)を測定する尺度を想定し,各尺度の概念的定義を以下のように設定した.また,簡潔に記したものをTable 1に示した.

Table 1.  Conceptual definition of the three scales
Scales Definition
1 (Phase) This scale measures the intersection of vertical and horizontal axes in relation to sleep phase. The vertical axis represents circadian rhythm changes per week, including regularity of sleep onset and offset. The horizontal axis represents a circadian rhythm time lag per day, including a delay of sleep onset and offset.
2 (Quality) This scale assesses quality of sleep by examining the symptoms and factors of insomnia. Symptoms include difficulty in initiating and maintaining sleep, early morning awakening, and disturbances in deep sleep. Factors causing insomnia include personality characteristics.
3 (Quantity) This scale measures sufficiency of sleep. It evaluates individual sleep requirements, the extent of disruption of daily functioning due to drowsiness, and the minimum sleep requirement to ensure physical and mental health, as reported in previous research.

1つ目の尺度は位相に関するものである.位相においてはまず縦軸の問題として体内リズムを乱さずに安定性を保てているか,すなわち睡眠の“規則正しさ”を測る.横軸の問題としては理想とされる時間帯から体内リズムの周期がずれていないかどうか,特に睡眠相の後退がないかどうかを測るとする.これら位相の縦軸と横軸の問題については先行研究において互いに強い相関がみられており24),筆者の行った事前研究においても同一因子として解釈できることが確認されたため,同じ尺度にて測定することが適切と判断した.

2つ目の尺度は質に関するものである.睡眠障害国際分類(ICSD-2)においては,不眠は質の良くない睡眠として述べられている25).そこで不眠における四大症状の有無および不眠に対する個々の脆弱性について問うことで“質の良さ”を測ることとした.

3つ目の尺度は量に関するものである.6時間未満の睡眠で心血管系疾患の発症リスクが有意に増加する26)ことは確立された知見であり,過重労働の認定基準を決定する際にも用いられている27).しかしながら適切な睡眠量がどのくらいかというのは個人によって様々であるため,実際の睡眠時間よりも本人にとって適切な睡眠量がとれているか,日中の活動に支障が出ていないか等,個々の睡眠の充足度が重要となる28).そこで本人が望むほどの睡眠が充分にとれているかどうか,睡眠不足の症状が現れていないか,適切な量は様々とはいえ身体的・精神的健康障害の予防という観点から最低限必要と考えられる睡眠時間は確保しているかどうかを問うことで“睡眠充足度(=量と定義)”を測ることとした.

2. 質問項目の作成と測定モデル,および回答方法

事前研究結果に加え,先行研究および睡眠外来を有する病院の専門家・スタッフの意見を導入して質問項目の作成・編集を行った.

実際の指標における質問項目をAppendixに示す.指標は全17項目より構成されており,実施の際は順序を入れ替えて行った.教示文は「最近1ヶ月以内について最も当てはまるものを選択して下さい.特別な場合は考えず,平均的な日常について答えて下さい.」と記載した.1項目(1-6)を除きすべて1 (とても当てはまる),2 (やや当てはまる),3 (あまり当てはまらない),4 (全く当てはまらない) の4件法で回答する形式とした.1-6に関しては,事前研究の結果および専門家との討議より,平日の労働者では就寝時刻に比べて起床時刻には安定性があり,「当てはまる/当てはまらない」のような回答方法よりも具体的な時間に焦点を合わせた回答方法の方がデータの偏りが少なくなる可能性が示唆された.そのため回答方法を1→午前6時頃もしくは午前6時よりも早い,2→午前6時30分頃,3→午前7時頃,4→午前7時よりも遅い,という回答形式に設定した.

質問番号1-1~1-6は睡眠の位相問題に関連した項目を設定した.位相の縦軸の問題に関する質問では,特に日勤労働者においては休日およびその前夜における起床時刻や就寝時刻の変動が最も大きくなることが予想されるため,平日と休日双方を含めた就寝時刻および起床時刻の変動性 (「1-1: 平日・休日に関わらず,就寝時刻はほとんど変わらない」,「1-2: 平日・休日に関わらず,起床時刻はほとんど変わらない」) を設定した.また,体内リズムを形成している中枢時計と末梢時計の同調性に重要な15, 18, 19)朝食習慣 (「1-3: 朝食は毎日きちんとした食事を摂っている」) に関する質問を作成した.次に位相の横軸の問題に関する質問では主に睡眠相の後退がないかどうかを測るため,日常的な生活時間帯に焦点を置いた平日の就寝・起床時刻(「1-5: 平日の就寝時刻は午前0時よりも早い」,「1-6: 平日の起床時刻は?」),および朝型・夜型24, 29, 30) (「1-4: 「朝型」と「夜型」でいうと,自分は「朝型」である」) に関する質問を作成した.質問内にある具体的な時刻の設定に関しては,日本人の生産年齢における平均就寝・起床時刻8)および睡眠相後退による抑うつ状態に対する治療法として用いられている「セブン&イレブンリズム; 午前6~7時起床,午後11時就寝」31)等を参考に,生理的・社会的に理想と考えられる時間帯から後退しているか否かを判断することとした.設定した測定変数はすべて位相という構成概念の表れとして観測されるものであり,尺度の測定モデルとしてはreflective model32)が想定される.

質問番号2-1~2-6は睡眠の質問題に関連した項目を設定した.まず不眠の四大症状である入眠困難(「2-1: 寝る態勢に入ってから30分以上寝つけない」),中途覚醒(「2-2: 夜中に2回以上目が覚める」),早朝覚醒(「2-3: 起床する予定の時刻より2時間以上早く目覚めて,その後寝つけない」),熟眠障害(「2-4: 深く眠れた感じがしない」)に関する項目を作成した.また,それらに加えてSpielmanの不眠の3Pモデル33)より,不眠脆弱性を表す性格特性(「2-5: 眠れないことに不安を感じる」)およびストレス(「2-6: 仕事や私生活において過度のストレスを感じている」)に関する質問を設定した.精神的問題と不眠の発症のタイミングについては,これまでの研究によると不眠が先行する場合が多いと報告されている34).この質尺度における測定モデルについても,位相尺度と同じく設定した測定変数がすべて質的問題の表れとして観測されるものと考えられるため,reflective modelが想定される.

質問番号3-1~3-5は睡眠の量に関連した項目を設定した.適切な睡眠時間には個人差があり,短い睡眠でも日中の活動に全く支障を来たさない短時間睡眠者もいれば,人よりも長く寝る必要がある長時間睡眠者もいる35).従って個人にとって睡眠量がきちんと足りているかどうかを測るとして,本人が望むほどの睡眠が充分にとれているか (「3-1: 本当はもっと寝たいが,思うように睡眠がとれていない」),および睡眠不足の際にみられる症状(「3-2: 目覚めた直後に強い眠気や疲労感が残っている」,「3-3 昼時だけでなく,午前中や夕方に眠気を感じる」,「3-4: 居眠りやうたた寝をする」)に関する質問を作成した.3-2は睡眠不足の際にみられる症状の一つである睡眠慣性36, 37)を問うた質問である.睡眠慣性は特に徐波睡眠時や体温最低期に覚醒した際に強く出る37).一方で,浅い眠りやレム睡眠時の覚醒の際には比較的弱いことが知られている38, 39).徐波睡眠は睡眠の前半でみられ,入眠から時間が経つほど浅い眠りやレム睡眠が主体となる40).体温最低期は通常明け方にみられ,その後体温は上昇し自然覚醒が促される.従って,外的制約により就寝が遅れたり起床が早まるなどして睡眠時間が短くなった場合は,徐波睡眠時や体温最低期に覚醒を強いられることが多く,睡眠慣性が生じやすくなる.これに対して3-3および3-4は,主に日中の活動障害を問う質問である.眠気を伴わない居眠りも存在するため,この2つは区別して考えることが推奨される41)が,睡眠時間の長さと日中の眠気は直線的な関係にあり,睡眠時間が短くなると日中の眠気は増加し42),覚醒レベルが上昇している午前中や夕方にも感じるようになる (3-3).また,意図して眠る昼寝とは異なった耐え難い眠り(居眠り,うたた寝すなわち3-4)は,事故の原因ともなる睡眠不足で最も重要な兆候である43).適切な睡眠時間は個人によってそれぞれではあるものの,労働者における過重労働の労災認定基準で用いられている残業時間の設定27)には睡眠時間6時間未満における心血管系疾患の発症リスク26)を参考にしている.さらに,6時間未満の睡眠では有意に抑うつが増加したという報告もされている44).これらのことから,身体的・精神的健康障害の発症が懸念される最低限の睡眠時間が確保できているか否か(3-5: 平日の睡眠時間は6時間未満である)に関する質問も作成した.この量尺度についても設定した測定変数はすべて量的問題の表れとして観測されるものと考えられ,測定モデルはreflective modelが想定される.

3. 採点方法

解釈を容易にするために,点数が高くなるほど位相・質・量の状態が良好,低くなるほど不良となるように採点することとした.具体的には,尺度1 (位相) における質問項目1-1から1-6については,1→3点,2→2点,3→1点,4→0点と設定した.尺度2 (質) における質問項目2-1から2-6および尺度3(量)における質問項目3-1から3-5については,1→0点,2→1点,3→2点,4→3点と設定した.従って得点幅は,削除項目がない場合は尺度1および2では0点~18点,尺度3では0点~15点となる.また,これら3つの尺度についてはそれぞれの尺度毎に得点化し評価するものであり,3尺度すべての総合点で評価するものではないとする.

4. 対象者

本研究の対象者は3DSS-日勤者版-の使用対象となる日勤労働者を想定し,計3社の企業に研究協力を依頼した.承諾が得られた製造業およびサービス業に従事する労働者721名のうち,データ欠損者および交代勤務者を除いた日勤労働者635名 (男性461名,女性174名) を分析対象とした.平均年齢は40.5 ± 8.6歳 (最小値18歳,最大値62歳)であり,調査は2013年6月に実施した.

5. 信頼性・妥当性の検証

1) 回答偏向分析,信頼性,内容的妥当性および因子的妥当性

回答偏向分析として天井効果・フロア効果および尖度・歪度の確認を行い,信頼性はクロンバックα信頼性係数を算出することで確認を行った.内容的妥当性は専門家の意見および先行研究等を参考に検討を行った.因子的妥当性の検証においては探索的因子分析(主因子法,プロマックス回転を選択)および確認的因子分析を行った.

2) 仮説の設置(収束的妥当性および弁別的妥当性)

比較尺度としてはPSQIと自己評価式抑うつ尺度 (以下SDS)45,46,47)を選択し,新尺度との相関をみることとした.PSQIは睡眠効率や睡眠時間,日中の眠気といった,睡眠の質と量に関する質問18項目から成る.PSQIは睡眠研究分野では頻繁に用いられている一般化された尺度であり,信頼性・妥当性が証明されている21, 22).新尺度と同様に過去1ヶ月間という時間枠を設定してあり,下位尺度C1 (睡眠の質),C2 (入眠時間),C3 (睡眠時間),C4 (睡眠効率),C5 (睡眠困難),C6 (眠剤の使用) およびC7 (日中覚醒困難) の合計点 (0点~21点) が高いほど睡眠が障害されていると判定する.SDSは抑うつの強さを測る指標として信頼性・妥当性が証明されており,臨床現場でも広く用いられている.抑うつと睡眠は,睡眠の位相・質・量すべてにおいてその関連性が報告されている7, 14, 44).食欲,性欲,睡眠,身体愁訴,体重減少,将来への希望,希死念慮等に関する質問20項目から成り,回答方法は「1. ないかたまに,2. ときどき,3. かなりのあいだ,4. ほとんどいつも」の4件法となっている.総合得点(20点~80点)が高くなるほど抑うつが強いと判断される.

3DSSにおける位相・質・量尺度とPSQIおよびSDSにおけるそれぞれの関連項目を多特性多方法行列にて相関を算出し検証を行うこととした.PSQIは位相関連項目として問3における自記式の起床時刻を用いた.質関連項目としてC1 (睡眠の質),C 2(入眠時間),C4 (睡眠効率),C5 (睡眠困難),C6 (眠剤の使用)の合計点を用いた.量関連項目としてC3 (睡眠時間)およびC7 (日中覚醒困難)の合計点を用いた.SDSは位相関連項目として問2 (日内変動)「朝方はいちばん気分がよい」,質関連項目として問4 (睡眠)「夜よく眠れない」,量関連項目としては睡眠不足症候群でみられる症状48)の一つである問10 (疲労)「何となく疲れる」を用いた.PSQIを用いた仮説としては,位相尺度―位相関連項目,質尺度―質関連項目,量尺度―量関連項目それぞれの相関係数が–0.8 < r < –0.5であり,その他の変数同士の相関係数は–0.3 < r < 0.3と想定した.SDSを用いた仮説としては,質尺度―問4 (睡眠) における相関係数は–0.8 < r < –0.5,位相尺度―問2 (日内変動) および量尺度―問10 (疲労) についてはSDS下位尺度が直接睡眠について問うた項目ではないため中程度の相関が予想され,–0.5 < r < –0.3と想定した.その他の変数同士の相関係数は–0.3 < r < 0.3と想定した.

次に,PSQI総合点と位相・質・量尺度それぞれとの相関も算出し検証することとした.PSQIは本来,睡眠の質と量的問題に関する測定に長けた尺度であるため,仮説としては質尺度および量尺度との相関が強いと考えられ,その相関係数は–0.8 < r < –0.5と想定した.位相尺度については相関が弱いと考えられ,相関係数は–0.3 < r < 0.3と想定した.

6. 統計分析および統計ソフト

解析ソフトはIBM SPSS Statistics 20を使用し,両側検定に基づくp値を示し有意水準5%未満とした.相関分析ではPearsonもしくはSpearmanの相関係数を用いた.パラメトリックな2群間の検定ではunpaired t-検定,3群以上の検定ではANOVA検定,多重比較検定ではTukey-HSD検定を行った.確認的因子分析については解析ソフトとしてIBM SPSS Amosを用いた.

7. 倫理的配慮

本研究は各事業所にて直接配布し,後日回収を行った.質問紙に回答することで同意を得たものとした.この研究の不参加による個人の不利益および危険性が生じないよう,厳重に配慮を行った.対象者のプライバシー保護には充分配慮し,厳重なデータの管理,保管を行った.なお,本研究は久留米大学倫理委員会の承認を得て行った.

III.結 果

1. 回答偏向分析および相関分析

各項目について天井効果 (平均+1SD,上限4) とフロア効果 (平均–1SD,下限1) の確認を行った.「2-3: 起床する予定の時刻より2時間以上早く目覚めて,その後寝つけない」= 4.151,「2-5: 眠れないことに不安を感じる」= 4.080でわずかながらの天井効果を認めていた.しかしながら,いずれも著しく外れた値ではなかったため採用可と判断した.

次に,津田らの方法を参照し49)尖度・歪度が絶対値1.5を超えるか否かで回答偏向の確認を行った.その結果,すべての項目において尖度・歪度ともに絶対値1.5を下回り,回答の分布については問題ないことが示された.

各項目の相関分析については,|r| > 0.8となるような互いに強い相関を持つ項目は存在しなかった.

2. 因子的妥当性の検証

全17項目に対して探索的因子分析を行った.Kaiser-meyer-Olkinの標本妥当性測度 = 0.787,Bartlettの球面性検定はp<0.001であった.因子数は筆者の想定した構成概念から3因子と設定したが,スクリープロットの傾きより判断してみても採択可と判断された(固有値 = 4.010,2.804,1.598).累積寄与率 = 49.5%,因子間相関は第1因子–第2因子間 = 0.344,第1因子–第3因子 = –0.041,第2因子–第3因子間 = 0.449であった.因子負荷量は1つの因子にのみ0.4以上を示しているものをその因子に属するものとして残すとした.その結果,「1-5: 平日の就寝時刻は午前0時よりも早い」が第2因子と第3因子の2つに0.4以上の因子負荷量を示していた (0.449,0.420) ため削除対象とした.また,「2- 6: 仕事や私生活において過度のストレスを感じている」はどの因子に対しても因子負荷量が0.4未満 (0.390,0.140,0.020) であったため削除対象とした.以上の2項目を削除した15項目にて2回目の因子分析を行った.Kaiser-meyer-Olkinの標本妥当性測度 = 0.781,Bartlettの球面性検定はp<0.001,累積寄与率51.3%,因子間相関は第1因子–第2因子間 = 0.482,第1因子–第3因子 = 0.040,第2因子–第3因子間 = 0.346であった.すべての項目が1つの因子に対してのみ0.4以上の因子負荷量を示していたため,この時点で因子分析を終了した.最終的に残った15項目の因子負荷量をTable 2に示す.第1因子は質に関する項目,第2因子は量に関する項目,第3因子は位相に関する項目で構成されていた.

Table 2.  Extracted factors and factor loadings of items on the 3DSS
Items Factor loadings
First factor Second factor Third factor
2-3 I wake up earlier than usual (for over 2 hours), and cannot fall asleep again. 0.746 –0.113 –0.132
2-2 I wake up more than twice a night. 0.659 –0.147 –0.143
2-5 I worry that I cannot fall asleep. 0.647 0.105 0.085
2-1 It takes me more than 30 minutes to fall asleep. 0.631 –0.060 0.186
2-4 I don’t sleep soundly. 0.459 0.395 0.007
3-3 I feel sleepy not only in the afternoon, but also in the morning and/or evening. –0.074 0.674 –0.095
3-1 I cannot get enough sleep even though I want to. 0.066 0.634 0.062
3-5 I sleep for less than 6 hours on weekdays. –0.174 0.584 –0.042
3-2 I don’t feel free from sleepiness or fatigue when I wake up. 0.150 0.583 0.090
3-4 I often doze off. –0.075 0.576 –0.137
1-2 I wake up at a fixed, regular time on weekdays and weekends. –0.058 –0.017 0.728
1-1 I go to bed at a fixed, regular time on weekdays and weekends. –0.032 –0.018 0.630
1-4 “Morningness” is better suited to me than “Eveningness”. –0.075 0.129 0.546
1-6 What time do you wake up on weekdays? 0.040 –0.192 0.530
1-3 I have a well-balanced breakfast every day. 0.069 –0.075 0.426

The items from 1-1 to 1-6 were reversed on the scale. 1-5 and 2-6 were excluded.

当初設定していた17項目モデルと探索的因子分析にて残った15項目モデルでそれぞれに確認的因子分析を行った.17項目モデルの適合度はGFI = 0.848,AGFI = 0.800,CFI = 0.722,RMSEA = 0.108,ECVI = 1.662であった.15項目モデルの適合度はGFI = 0.883,AGFI = 0.839,CFI = 0.785,RMSEA = 0.098,ECVI = 1.082であった.従って適合度がより高かった15項目モデルに決定した.

3. 項目―全体相関分析および信頼性係数

各尺度における項目―全体相関分析および信頼性係数をTable 3に示す.信頼性係数は位相尺度にてα = 0.685,質尺度にてα = 0.768,量尺度にてα = 0.717であった.相関係数で0.2を下回るものはなく,削除した場合に信頼性が増加するものは「1-3: 朝食は毎日きちんとした食事を摂っている」のみであったが,0.1以上増加するものは存在しなかった.

Table 3.  Correlation scores between each item and total score, and confidence coefficients (α) for each scale when the item was excluded
Items Item - total correlation α when the item is excluded
Phase scale
(α = 0.685)
1-1 I go to bed at a fixed, regular time on weekdays and weekends. 0.462 0.627
1-2 I wake up at a fixed, regular time on weekdays and weekends. 0.540 0.592
1-3 I have a well-balanced breakfast every day. 0.333 0.691
1-4 “Morningness” is better suited to me than “Eveningness”. 0.488 0.614
1-6 What time do you wake up on weekdays? 0.403 0.651
Quality scale
(α = 0.768)
2-1 It takes me more than 30 minutes to fall asleep. 0.518 0.733
2-2 I wake up more than twice a night. 0.483 0.749
2-3 I wake up earlier than usual (for over 2 hours), and cannot fall asleep again. 0.575 0.717
2-4 I don’t sleep soundly. 0.535 0.727
2-5 I worry that I cannot fall asleep. 0.600 0.705
Quantity scale
(α = 0.717)
3-1 I cannot get enough sleep even though I want to. 0.565 0.631
3-2 I don’t feel free from sleepiness or fatigue when I wake up. 0.524 0.651
3-3 I feel sleepy not only in the afternoon, but also in the morning and/or evening. 0.501 0.661
3-4 I often doze off. 0.411 0.694
3-5 I sleep for less than 6 hours on weekdays. 0.405 0.707

4. 尺度の得点化と上位―下位分析

因子分析の結果,位相尺度から1項目,質尺度から1項目が削除されたため,各尺度における得点幅はすべて0点~15点となった.いずれも得点が高いほど良好,低いほど不良と判断される.対象者全体および基本属性別における尺度得点をTable 4に示す.各尺度得点は,質得点の10.5点に対し,位相および量得点が8点台とやや低い傾向がみられていた.位相得点は20代以下,サービス業中心の事業所および未婚者で有意に低かった.質得点は50代以上で有意に低かった.量得点は未婚者で有意に低かった.

Table 4.  Scale means, SDs, and p-values by participants’ demographics. The range of each score is 0–15
n Phase Quality Quantity
All subjects 635 8.8 ± 3.3 10.5 ± 3.0 8.1 ± 2.9
Gender Male 461 8.9 ± 3.2 10.4 ± 3.0 8.3 ± 2.8
Female 174 8.8 ± 3.4 10.8 ± 3.0 7.8 ± 3.2
p-value (unpaired t-test) ns ns ns
Age Under 29 77 6.7 ± 3.2 11.4 ± 2.7 8.1 ± 3.2
30 - 39 197 8.5 ± 3.4 10.9 ± 3.0 8.0 ± 3.1
40 - 49 268 9.2 ± 3.0 10.1 ± 3.1 8.2 ± 2.8
Over 50 93 10.3 ± 3.0 10.1 ± 2.8 8.3 ± 2.7
p-value (ANOVA) <0.001a 0.001b ns
Company A (mainly manufacturing) 275 9.0 ± 3.1 10.6 ± 2.9 8.4 ± 2.8
B (mainly manufacturing) 132 9.3 ± 3.2 10.0 ± 3.2 8.0 ± 2.9
C (mainly service) 228 8.3 ± 3.5 10.7 ± 3.1 8.0 ± 3.0
p-value (ANOVA) 0.010c ns ns
Marital status Married 406 9.5 ± 3.0 10.7 ± 2.9 8.4 ± 2.8
Single 202 7.3 ± 3.4 10.1 ± 3.2 7.6 ± 3.0
Others 27 10.0 ± 2.5 10.6 ± 3.4 8.0 ± 3.2
p-value (ANOVA) <0.001d ns 0.003e

aUnder 29 vs. 30–39 (p<0.001), 40–49 (p<0.001), and Over 50 (p<0.001); 30–39 vs. 50–59 (p<0.001); 40–49 vs. 50–59 (p=0.011). bUnder 29 vs. 40–49 (p=0.004), and Over 50 (p=0.024). cB vs. C (p=0.015). dMarried vs. Single (p<0.001); Single vs. Others (p<0.001). eMarried vs. Single (p=0.002); by Tukey’s HSD test.

次に各尺度得点における上位者25%群と下位者25%群にてunpaired t-検定を施行し上位–下位分析を行ったところ,すべてp<0.001と有意差が認められた.

5. 仮説の検証(収束的妥当性および弁別的妥当性)

多特性多方法行列に基づく収束的妥当性および弁別的妥当性結果をTable 5およびTable 6に示す.収束的妥当性についてはPSQIおよびSDSいずれを用いた場合においても仮説が採択された.弁別的妥当性については3DSSにおける質と量,PSQIにおける質関連と量関連,SDSにおけるNo. 4 (睡眠)とNo. 10 (疲労),3DSSにおける量とPSQIにおける質関連,3DSSにおける質とSDSにおけるNo. 10 (疲労)および3DSSにおける量とSDSにおけるNo. 4 (睡眠) との間で 予想を若干超えた相関がみられており,それ以外の変数同士の相関では仮説が採択された.また,PSQIの総合点と3DSSの位相・質・量尺度得点との相関係数 (Pearson) は順にr = –0.202,–0.616,–0.597 (いずれもp<0.001)であり,すべて仮説は採択された.

Table 5.  Convergent validity (shaded area) and discriminant validity (unshaded area) of 3DSS with PSQI
Table 6.  Convergent validity (shaded area) and discriminant validity (unshaded area) of 3DSS with SDS

IV.考 察

本研究において,新たに作成した指標“3次元型睡眠尺度”による3つの睡眠関連問題 (位相,質,量) に関するスコアリングとその信頼性・妥当性の検証を試みた.対象者は前回と同様に製造業およびサービス業に従事している日勤労働者635名であった.

睡眠尺度として最も頻繁に用いられているPSQIは採点方法が繁雑であり,おそらくは使用経験が豊富な研究者であってもマニュアルなしでは採点不可能であろう.こうした問題から採点に時間を要する上,途中で計算を誤る危険性も高い.また,総合点で評価するため,どういった睡眠の問題が生じているのかを把握することが難しい.我々の開発した3次元型睡眠尺度は粗点で評価を行うため採点は暗算でも可能である.さらに,睡眠の質・量的問題だけでなく位相の問題についても網羅しており,総合点ではなく3尺度別々に評価するため,それらのうちのいずれかに問題があるのか容易に評価できるという点で新しい.PSQIが朝型で規則正しい生活を営んでいることが多い高齢者を得意とする一方,本尺度は夜型で不規則な生活を営んでいることが多い若年者を対象とした調査により向いているのではないかと考えられる.

1. 回答の偏り,因子的妥当性および内容的妥当性

回答の偏りについては,回答偏向分析にて問題ないことが示された.次に因子的妥当性の検証として,まず探索的因子分析を行った.その結果,「1-5: 平日の就寝時刻は午前0時よりも早い」および「2-6: 仕事や私生活において過度のストレスを感じている」の2項目が削除対象となったものの,15の質問項目における位相,質,量の3因子構造が確認された.その後確認的因子分析にて17項目モデルよりも15項目モデルの方が適合度が高く,GFIは0.9に近似した値が得られておりAGFIとの差異も少なかった.RMSEAに関しては0.05を超えていたが0.1は超えていなかったため採択可とし,本尺度は15項目モデルが適切であると判断された.

次に内容的妥当性について考察する.第1因子はすべて睡眠の質問題に関する項目である.当初想定していた6項目のうち1項目が削除されたが,不眠の四大症状に関する項目はすべて残っており,不眠脆弱性の項目も含まれているため,睡眠の質的問題に関して包括的に捉えていると考えられる.中でも最も因子負荷量の高かったものが早朝覚醒をみた「2-3: 起床する予定の時刻よりも2時間以上早く目覚めて,その後寝つけない」であった.入眠困難が一時的な睡眠障害である急性不眠症に特徴的であるのに対し,早朝覚醒は比較的長期に渡る慢性不眠症に特徴的と考えられる7, 25).従ってこの質尺度は一時的に害された睡眠の質よりも,慢性的な睡眠の質の悪さの方をより強く捉えやすいと解釈でき,生活習慣における睡眠の質を測定するという主旨に適っているといえる.

第2因子はすべて睡眠の量問題に関する項目である.最も因子負荷量が高かったのは「3-3: 昼時だけでなく,午前中や夕方に眠気を感じる」であった.これは睡眠不足の症状の一つであるが,こうした眠気による日中の活動障害は日勤の労働者にとって最も目立つ自覚症状と考えられる.また,同程度の因子負荷量がみられていた「3-1: 本当はもっと寝たいが,思うように睡眠がとれていない」は主観的な睡眠充足感を率直に表しているものである.量に関する質問項目は削除対象となった項目がなく,実際の症状や主観的な充足感,および必要最低限の睡眠時間なども押さえてあり包括的に睡眠の量的問題を捉えていると考えられる.

第3因子はすべて睡眠の位相問題に関する項目である.最も因子負荷量が高かったものは起床時刻の規則性をみた「1-2: 平日・休日に関わらず,起床時刻はほとんど変わらない」であった.睡眠・覚醒リズムは主に松果体より分泌されるメラトニンの増減によって形成される50).メラトニンは起床時に朝日を浴びることでその約14~16時間後に分泌されることが約束される51).そのため睡眠・覚醒リズムの形成には就寝時刻よりもむしろ起床時刻の方が重要であるため,第3因子は体内リズムの位相についてよく捉えてあると考えられる.位相の横軸の項目では「1-4: 「朝型」と「夜型」でいうと,自分は「朝型」である」と「1-6: 平日の起床時刻は?」がほぼ同水準の負荷量で抽出されていた.「1-5: 平日の就寝時刻は午前0時よりも早い」は量因子に対しても一定の負荷量を示していたことから,位相因子のみを表す項目としては不適切であると判断され削除対象となった.この原因としては“就寝時刻”に焦点を合わせた場合,遅く寝ている者でも早起きをしている場合があり,その結果睡眠不足に陥っていることが考えられた.一方で「1-6: 平日の起床時刻は?」は量因子に対する負荷量はさほど高くなかった.すなわち“起床時刻”に焦点を置いた場合では,早起きをしている者ほど早く寝て遅く起きている者ほど遅く寝ている傾向が観測され,睡眠の量にはほとんど影響を及ぼさないことが考えられた.従って位相のずれ(横軸の問題)に関しては就寝時刻に関する項目がなくなったものの,起床時刻に関する質問(1-6)のみで捉えることが可能であると考えられる.

その他の知見として,「2-4: 深く眠れた感じがしない」については第2因子(量因子)に対して0.3を超える負荷量がみられていた.これについては,回答者の一部より「深く眠れたかどうかわからない」という声が聞かれた.事前研究においても眠りの“深さ”に関する解釈が難しい回答者が一部存在した.深く眠れたかどうかわからない場合,おそらくは充分に(要するに長く)眠れたかで判断し回答したのではないだろうか.より適切な表現がないかどうかは今後も考えていきたい.

2. 信頼性,項目―全体相関分析,得点化および上位―下位分析

信頼性係数は各尺度にて0.7前後の値が観測され,0.8は超えなかったものの著しく低い値をとったものはなかった.位相尺度における項目―相関分析にて,「1-3: 朝食はきちんとした食事を摂っている」で削除した場合の信頼性の増加がみられていたが,ごくわずかであることから削除対象とはしないと判断した.

各尺度得点については位相得点および量得点が質得点に比べると低い傾向がみられた.質尺度の質問項目にて回答偏向分析にて天井効果を示していた項目が2項目あることを考慮すると,偏りを小さくするために再考をする余地があるとも考えられるが,日本人の睡眠が世界的に見て夜型かつ短時間の傾向にあることも加味すると,むしろ位相および量尺度得点の平均点が低い方向へシフトしている可能性も考えられる.20代以下で低下していた位相得点は,若年者における不規則・夜型化傾向52)をよく反映しているといえる.また,50代以上における質得点の低下は,加齢により徐波睡眠やレム睡眠が減少し睡眠の質が低下している53),もしくは位相得点高値も加味すると加齢による深部体温リズムの個人差が明確化し睡眠の質が低下している54, 55)ことなどが考えられる.

上位―下位分析では尺度全体およびすべての下位尺度において得点の上位者と下位者の充分な識別がされていることが示された.

3. 仮説の検証(収束的妥当性,弁別的妥当性)

多特性多方法行列に基づく収束的妥当性については,各尺度すべてにおいて想定した程度・方向性の相関がみられており,その妥当性が示された.弁別的妥当性については,概念的に位相に部類される変数は他の変数との相関が低く,異なる概念であることが考えられ弁別的妥当性が示された.質もしくは量に部類される変数に関しては新尺度内および新尺度―既存尺度間において想定を超える相関がみられていた.しかしながら,大幅に上回るような値ではなかったため弁別的妥当性を示すには充分と判断した.また,質および量尺度でみられたこれらの特徴はPSQI内およびSDS内においても共通してみられており,すべて同程度・同一の方向性を示していた.こうした既存の尺度と同じ特徴がみられていたということについても,新尺度の収束的妥当性が示されたと考えられる.PSQI総合点と位相・質・量尺度得点との相関についてもすべて想定した程度・方向性の相関がみられており,その妥当性が示された.

4. 本尺度・本研究の限界と今後の展望

本尺度における限界・問題点としては,日勤労働者専用の尺度であり,不規則な睡眠を強制的に強いられる交代勤務者および睡眠相が前進している場合が多い高齢者に用いることは不適切であることを明記しておく.また,日勤労働者ではないが学生や主婦といった日勤労働者と同じ生活時間帯を営んでいる者に対する有用性ついては,新たに検証を行う必要がある.本尺度は健常者における生活習慣の中の睡眠の位相・質・量を測るものであるため,ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群,むずむず足症候群など他疾患による二次的な睡眠障害の測定を行う目的として使用することは適さない.

今後の展望としては,サンプル数を増やし尺度の標準化を行い,カットオフ値の設定についても検討していく.また,位相・質・量のいずれかに問題があるかによってタイプを分類し,3次元でみた際における様々な疾患との関連性を調査することを視野に入れている.精神疾患との関連性にとどまらず,糖代謝系・脂質代謝系および心血管疾患との関連性および業務上の事故発生との関連性とも示していきたい.また,被験者に対してフィードバックを行い睡眠習慣が改善することによって,健康問題や作業効率の低下・事故等の問題を予防・改善へと繋がっていくことを検証していきたいと考えている.

V.結 語

我々は位相,質,量の睡眠関連問題を別々に測定し評価する“3次元型睡眠尺度(3 Dimensional Sleep Scale; 3DSS)─日勤者用─”を開発し,その信頼性・妥当性の検証を行った.因子分析の結果,質問項目17項目中2項目を除いた15項目(位相5項目,質5項目,量5項目)が適切であると判断され,その因子的妥当性および内容的妥当性についても問題ないことが確認された.信頼性は尺度全体および下位尺度にて0.7前後の値が得られた.収束的妥当性および弁別的妥当性については事前に設置した仮説がほぼ採択された.本研究にて3DSS─日勤者用─を日勤労働者を対象として使用するにあたり,必要と考えられる信頼性・妥当性が示された.

References
 
© 2014 公益社団法人 日本産業衛生学会
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