2014 年 56 巻 6 号 p. 259-267
目的:NIOSH職業性ストレスモデルでは,職場ストレッサーとストレス反応の関係を緩和する要因としてソーシャルサポートが想定されている.しかしながら,職場においてソーシャルサポートを高める方法は,これまでにほとんど検討されていない.本研究の目的は,労働者の対人的援助とソーシャルサポート,職場ストレッサー,心理的ストレス反応,活気の関連について検討することである.対象と方法:製造業労働者240名が,労働者の対人的援助,ソーシャルサポート,職場ストレッサー,心理的ストレス反応,活気に関する調査票に回答した(回収率96.0%).そのうち,回答に欠損のある40名を除いた200名(男性163名,女性37名,平均年齢40.3歳)のデータを最終的な分析対象とした.対人的援助は,日本版組織市民行動尺度によって測定された.職場ストレッサー,心理的ストレス反応,ソーシャルサポート,活気を測定するために,職業性ストレス簡易調査票を使用した.対人的援助,ソーシャルサポート,職場ストレッサー,心理的ストレス反応,活気間の関係を明らかにするために,共分散構造分析を行った.結果:対人的援助は,ソーシャルサポートが高まることを通して,心理的ストレス反応に有意な負の影響を及ぼした.一方,対人的援助は,仕事の量的負担が高まることを通して,心理的ストレス反応に有意な正の影響を及ぼした.これらの2つの効果のうち,後者の効果よりも前者の効果が大きかった.さらに,対人的援助は,ソーシャルサポートが高まることを通して,活気に有意な正の影響を及ぼした.考察:仕事中に他の労働者を手助けする対人的援助は,仕事の量的負担を増加させるため,心理的ストレス反応が高まるが,一方で,対人的援助は,労働者間の信頼感や団結力を強化するため,ソーシャルサポートが高まることで心理的ストレス反応が低下し,活気が高まることが示唆された.ただし,本研究は横断的研究であり,変数間の因果関係までは言及することはできないため,逆の因果関係の存在も否定することはできない.
平成24年の労働者健康状況調査によると,現在の職業生活に関することで強い不安,悩み,ストレスを感じている労働者の割合は約6割であり,その内容については人間関係の問題が最も多いという1).米国国立職業安全保健研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)の職業性ストレスモデルでは,人間関係の問題などの職場ストレッサーは,抑うつ感などのストレス反応を引き起こし,その状態が持続すると健康問題や疾病に至るというプロセスが想定されている2).このようなことから,現代の日本において職業性ストレスを低減させ,疾病を予防するためには,特に人間関係の問題の改善に焦点を当てた検討が必要であると考えられる.
また,NIOSH職業性ストレスモデルでは,職場ストレッサーのストレス反応に及ぼす影響を緩和する重要な要因として,上司や同僚からのソーシャルサポートが想定されている2).ソーシャルサポートとは,人と人との支えあいを表す概念であり,「ある人を取り巻く重要な他者から得られる有形無形の援助」3)と定義される.ソーシャルサポートは,ストレッサーの量にかかわらず,常にストレス反応を低減する直接効果と,ストレッサーが多い時にストレス反応を低減する緩衝効果を持つことが知られている4).また,ストレスフルな状況に対処する方略としてコーピングがある.コーピングとは,「個人の資源に負荷を与えたり,個人の資源を超えると評定された,外的または内的要請を処理するための認知的行動的努力であり,その努力は常に変化する」5)と定義される.例えば,職場において同僚サポートが高い従業員は,積極的な問題解決コーピングによる心理的ストレス反応の低減効果が高いという報告もある6, 7).以上のことから,ストレス反応を低減させるためには,上司や同僚からのソーシャルサポートを高めることが重要であると考えられる.
ソーシャルサポートを高める方法のひとつとして,人間関係を円滑にするためのソーシャルスキルを高めることが挙げられている5, 8,9,10).ソーシャルスキルとは,「対人場面において,個人が相手の反応を解読し,それに応じて対人目標と対人反応を決定し,感情を統制したうえで対人反応を実行するまでの循環的な過程」11)と定義される.職場におけるソーシャルスキルには,職場での人間関係を調整する対人葛藤処理スキル,職務上でのマネジメントに関わる計画・管理スキル,職場での会話等に関わるコミュニケーションスキルがあり12),このような職場におけるソーシャルスキルが高いとソーシャルサポートが高くなり12, 13),質的ストレッサーが低下することが指摘されている14, 15).一方,外的な報酬を期待せずに他者を助けようとすることや,他者のためになることをしようとする行為である向社会的行動16)も,ソーシャルスキルと同様に人間関係を円滑にする側面を持っている17).職場における向社会的行動として組織市民行動がある.組織市民行動は「従業員が行う任意の行動のうち,彼らにとって正式な職務の必要条件ではない行動で,それによって組織の効果的機能を促進する行動」18)と定義される.組織市民行動は,対人的援助,誠実さ,職務上の配慮,組織支援行動,清潔さの5因子に分けられる19, 20).この中の対人的援助は,例えば,上司や同僚の仕事を進んで手伝うなど,職場内の他の労働者の仕事を自発的に手伝うことである.対人的援助は,援助者と被援助者の間に信頼感を形成し21),組織内の団結力を向上させる22)ことから,仕事を手伝うことを通して人間関係を円滑にする側面を持つと考えられる.ただし,対人的援助のような向社会的行動を行う場合には,自分自身の時間やエネルギーを他者のために使用するため,コスト(損失)を伴う16).例えば,職場において上司や同僚の仕事を手伝う場合,本務以外の仕事を余分に行うことになるため,それだけ仕事量が増加することになる.しかしながら,組織市民行動における対人的援助は,多少のコストを伴いながらも人間関係を円滑にする効果が認められるため,ソーシャルスキルと同様にソーシャルサポートを高める可能性が考えられる.また,「仕事の物理的・心理的・社会的・組織的側面であり,仕事の目標を達成する上で機能し,仕事の要求度とそれに関連した生理的・心理的コストを低減し,個人の成長と発達を刺激する側面である」23)と定義される仕事の資源は,就業条件(給与,キャリア開発の機会,雇用の安定性),ソーシャルサポートなどの社会・対人的関係(上司や同僚のサポート,チームの風土),組織での仕事の進め方(役割の明確さ,意思決定への参加),課題(パフォーマンスフィードバック,スキルの多様性,自律性など)といった内容が位置づけられる24).そして,仕事の要求度-資源モデル(Job Demands - Resources model: JD-Rモデル)では,仕事の資源が,ポジティブで充実した心理状態と正の関連を持つことが示されている25).したがって,仕事の資源のひとつとして想定されているソーシャルサポートが高まると,ストレス反応が低減する4)だけでなく,ポジティブで充実した心理状態の一種である活気が高まる可能性も考えられる.
組織市民行動の先行要因として,従業員の組織に対する忠誠度である組織コミットメントや職務満足感がある26).一方,知覚された組織的サポートの根本には恩義の感覚が存在し,それは組織決定の履歴に基づき,上司からの報酬の履歴が組織への恩義の感覚を生み出すとされている27).そして,従業員は,恩義よりも大きな情緒的なコミットメントを行うことで借りを返し,組織への援助努力を増すとされ,知覚された組織的サポートが情緒的なコミットメントを高めることが縦断研究により明らかにされている28).さらに,上司サポートが組織コミットメントと正の関連を示すこと29)や,上司サポートが組織コミットメントを介して組織市民行動と正の関連を示すことも明らかにされている30).このように,先行研究では,ソーシャルサポートが高いと組織コミットメントが高くなり,それによって組織市民行動が高まるという,本研究で想定している対人的援助がソーシャルサポートを高めるという因果の方向性とは逆方向の因果関係の存在が指摘されている.しかしながら,職場において他者からのサポートが十分に知覚できていない状況の場合には,自ら他者を助けて良好な人間関係を築くことで,ソーシャルサポートの知覚を高めていくことができる可能性も考えられる.さらに,ソーシャルサポートの先行要因として対人的援助を想定した場合,対人的援助は行動レベルで変化させやすいため,職場におけるソーシャルスキルが高いとソーシャルサポートが高くなる12, 13)という理論的背景をもとに,対人的援助とソーシャルサポートとの関連を検討していくことは意義があると思われる.
そこで,本研究では,対人的援助とソーシャルサポート,心理的な仕事の負担(量)(以下,量的負担と略記),心理的な仕事の負担(質)(以下,質的負担と略記),心理的ストレス反応,活気の関連を明らかにすることを目的とした.本研究の仮説は以下の3点である.(仮説1)対人的援助が高いとソーシャルサポートが高くなる.その結果,心理的ストレス反応が低下し,活気が高くなる.(仮説2)対人的援助が高いと量的負担が高くなり,心理的ストレス反応が増加する.(仮説3)対人的援助が高いと質的負担が低くなり,心理的ストレス反応が低下する.
中国地方の製造業3社に勤務する労働者250名を対象に質問紙調査を実施し,回答の得られた240名(回収率96.0%)のうち,回答に欠損のある40名を除いた200名(男性163名,女性37名)を分析対象とした(有効回答率83.3%,平均年齢40.3歳,SD =11.0).調査は2012年10月に,各企業の担当者に調査票の配布を依頼し,回答者は勤務時間中に回答を行った.回答後は,回答者が調査票を封筒に入れ,封をした状態で,調査票を配布した各企業の担当者の元へ提出した.調査者は,調査票の表紙に,調査の趣旨,および注意事項等を記載し,回答者は調査票の表紙に記載された調査の趣旨,注意事項等を読み,回答を行うことに同意した後に回答を行った.なお,本研究は,広島大学大学院教育学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施された.
2. 調査票本研究で使用した尺度について以下に示した.各尺度についてクロンバックのα係数を算出する方法により,信頼性の検討を行った.
(1) 対人的援助
日本版組織市民行動尺度19, 20)のうち,対人的援助に関する8項目(α=0.82)を用いた.質問項目には,「多くの仕事を抱えている人の手助けをする」,「仕事上のトラブルを抱えている人を進んで手助けする」などがある.回答は,「職場や組織における様々な行動について本人が行っているもの」を「まったく行わない」(1),「めったに行わない」(2),「たまに行う」(3),「しばしば行う」(4),「つねに行う」(5)の5段階で評定を求めた.対人的援助を行う頻度が高いほど得点が高くなるように得点化した.
(2) 量的負担
職業性ストレス簡易調査票31)の職場ストレッサー尺度のうち,心理的な仕事の負担(量)に関する3項目(α=0.65)を用いた.回答は,「仕事について最もあてはまるもの」を「ちがう」(1),「ややちがう」(2),「まあそうだ」(3),「そうだ」(4)の4段階で評定を求めた.職場ストレッサーの程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.
(3) 質的負担
職業性ストレス簡易調査票31)の職場ストレッサー尺度のうち,心理的な仕事の負担(質)に関する3項目(α=0.63)を用いた.回答は,「仕事について最もあてはまるもの」を「ちがう」(1),「ややちがう」(2),「まあそうだ」(3),「そうだ」(4)の4段階で評定を求めた.職場ストレッサーの程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.
(4) 心理的ストレス反応
職業性ストレス簡易調査票31)の心理的ストレス反応尺度(イライラ感:α=0.90,疲労感:α=0.88,不安感:α=0.79,抑うつ感:α=0.88)を用いた.回答は,「最近1か月間の本人の状態について最もあてはまるもの」を「ほとんどなかった」(1),「ときどきあった」(2),「しばしばあった」(3),「ほとんどいつもあった」(4)の4段階で評定を求めた.心理的ストレス反応の程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.
(5) ソーシャルサポート
職業性ストレス簡易調査票31)のソーシャルサポート尺度(上司サポート:α=0.79,同僚サポート:α=0.72)を用いた.回答は,「職場の上司・同僚について最もあてはまるもの」を「全くない」(1),「多少」(2),「かなり」(3),「非常に」(4)の4段階で評定を求めた.ソーシャルサポートの程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.
(6) 活気
職業性ストレス簡易調査票31)の活気(α=0.92)を用いた.回答は,「最近1か月間の本人の状態について最もあてはまるもの」を「ほとんどなかった」(1),「ときどきあった」(2),「しばしばあった」(3),「ほとんどいつもあった」(4)の4段階で評定を求めた.活気の程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.
3. 分析方法対人的援助,ソーシャルサポート(上司サポート,同僚サポート),量的負担,質的負担,心理的ストレス反応(イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感),活気の変数間の関係を明らかにするために,心理的ストレス反応,活気を最終的な目的変数とする仮説的因果モデルを作成し,共分散構造分析を行った.
対象者の内訳は,男性163名,女性37名で,年齢は20–60代,勤務年数は1年未満–40年以上,1日あたりの労働時間は7時間以上8時間未満–11時間以上の範囲にあった.また,雇用形態は正社員,勤務形態は常日勤,職種は生産・技能職が多数を占めていた.対象者の詳しい属性(性別,年齢,勤務年数,1日あたりの労働時間,雇用形態,勤務形態,職種)についてTable 1に示した.また,各指標(対人的援助,量的負担,質的負担,心理的ストレス反応,ソーシャルサポート,活気)の得点範囲,平均値,標準偏差についてTable 2に示した.
N | (%) | ||
Sex | Male | 163 | (81.5) |
Female | 37 | (18.5) | |
Age, groups | –29 | 42 | (21.0) |
30–39 | 61 | (30.5) | |
40–49 | 46 | (23.0) | |
50–59 | 43 | (21.5) | |
60– | 8 | (4.0) | |
Working years | <1 | 6 | (3.0) |
1 – <5 | 43 | (21.5) | |
5 – <10 | 37 | (18.5) | |
10 – <15 | 31 | (15.5) | |
15 – <20 | 17 | (8.5) | |
20 – <25 | 26 | (13.0) | |
25 – <30 | 9 | (4.5) | |
30 – <35 | 13 | (6.5) | |
35 – <40 | 14 | (7.0) | |
40< | 4 | (2.0) | |
Work hours/day | 7 – <8 | 26 | (13.0) |
8 – <9 | 117 | (58.5) | |
9 – <10 | 19 | (9.5) | |
10 – <11 | 20 | (10.0) | |
11< | 16 | (8.0) | |
Unknown | 2 | (1.0) | |
Employment t type | Full-time | 187 | (93.5) |
Part-time | 11 | (5.5) | |
Others | 2 | (1.0) | |
Work shift | Day-shift | 134 | (67.0) |
Shift work including night-shift | 65 | (32.5) | |
Shift work excluding night-shift | 1 | (0.5) | |
Occupation | Manager | 40 | (20.0) |
Researcher | 12 | (6.0) | |
Clerk | 40 | (20.0) | |
Technician | 103 | (51.5) | |
Others | 3 | (1.5) | |
Unknown | 2 | (1.0) |
Range | M | SD | ||
Interpersonal helping behavior | 8–40 | 25.6 | 5.2 | |
Job stressors | Quantitative workload | 3–12 | 8.8 | 1.9 |
Qualitative workload | 3–12 | 8.6 | 1.7 | |
Psychological stress responses | Irritation | 3–12 | 6.7 | 2.3 |
Fatigue | 3–12 | 7.0 | 2.3 | |
Anxiety | 3–12 | 6.5 | 2.3 | |
Depression | 6–24 | 10.8 | 3.9 | |
Social support | Supervisor support | 3–12 | 7.3 | 2.1 |
Coworker support | 3–12 | 8.1 | 1.9 | |
Vigor | 3–12 | 6.1 | 2.2 |
対人的援助とソーシャルサポート,量的負担,質的負担,心理的ストレス反応,活気の関係を明らかにするために,共分散構造分析を行った.この分析では,①職場において,人間関係を円滑にするソーシャルスキルが高いとソーシャルサポートが高い12, 13)ことから,職場の対人関係の構築を向上させる対人的援助が高いとソーシャルサポートが高い,②ソーシャルサポートが高いとストレス反応が低い4),③ソーシャルサポートが高いと活気が高い24),④向社会的行動を行う場合にはコスト(損失)を伴う16)ことから,対人的援助が高いと量的負担が高い,⑤量的負担はストレス反応の原因となる職場ストレッサーに位置づけられることから,量的負担が高いとストレス反応が高い2),⑥ソーシャルスキルが高いと質的負担が低い14, 15)ことから,対人的援助が高いと質的負担が低い,⑦質的負担はストレス反応の原因となる職場ストレッサーに位置づけられることから,質的負担が低いとストレス反応が低い2)という理論的根拠を踏まえ,対人的援助からソーシャルサポート,活気,量的負担,質的負担への影響指標,ソーシャルサポートから活気,心理的ストレス反応への影響指標,量的負担,質的負担から心理的ストレス反応への影響指標を想定して因果モデルを設定した.構成したモデルをFig. 1に示した.この仮説的因果モデルの適合度は,GFI=0.946,AGFI=0.897,CFI=0.949,RMSEA=0.079で,データとモデルとの適合性は十分であるといえる.この因果モデルによると,対人的援助からソーシャルサポート,活気,量的負担,質的負担への影響指標,ソーシャルサポートから心理的ストレス反応,活気への影響指標,量的負担から心理的ストレス反応への影響指標,活気と心理的ストレス反応間,量的負担と質的負担間の共分散が有意であった.これらのことから,対人的援助がソーシャルサポートに対して正の影響を及ぼし(β=0.46, p<0.001),ソーシャルサポートが心理的ストレス反応に対して負の影響を及ぼす(β= –0.35, p<0.001)という経路の存在が明らかとなった.また,対人的援助が量的負担に正の影響を及ぼし(β=0.19, p<0.01),量的負担が心理的ストレス反応に対して正の影響を及ぼす(β=0.25, p<0.01)経路の存在も明らかとなった.さらに,対人的援助がソーシャルサポートに正の影響を及ぼし(β=0.46, p<0.001),ソーシャルサポートが活気に対して正の影響を及ぼす(β=0.35, p<0.001)経路の存在も明らかとなった.以上のことから,対人的援助がソーシャルサポートを介して心理的ストレス反応を低下させる経路,対人的援助が量的負担を介して心理的ストレス反応を増加させる経路,対人的援助がソーシャルサポートを介して活気を高める経路という3つの主な経路があることが示された.
Structural equation modeling of interpersonal helping behavior, social support, psychological stress responses, quantitative workload, and vigor.
以上の結果のうち,対人的援助が高いとソーシャルサポートが高くなり,心理的ストレス反応が低下し,活気が高くなるという結果は,対人的援助のポジティブな側面を反映している.一方,対人的援助が高いと量的負担が高くなり,心理的ストレス反応が低下する結果は,対人的援助のネガティブな側面を反映している.そこで,対人的援助が心理的ストレス反応に与えるポジティブな効果とネガティブな効果の影響指標(間接効果)を比較したところ,対人的援助からソーシャルサポートへの影響指標は0.46,ソーシャルサポートから心理的ストレス反応への影響指標は–0.35であり,対人的援助からソーシャルサポートを介した心理的ストレス反応への間接効果は–0.16 (=0.46 × –0.35)であった.一方,対人的援助から量的負担への影響指標は0.19,量的負担から心理的ストレス反応への影響指標は0.25であり,対人的援助から量的負担を介した心理的ストレス反応への間接効果は0.05(=0.19 × 0.25)であった.したがって,間接効果の絶対値は対人的援助からソーシャルサポートを介して心理的ストレス反応に至る経路が大きいことが明らかとなり,対人的援助が心理的ストレス反応を低下させるというポジティブな効果が大きいことが示された(Fig. 1).
本研究では,対人的援助とソーシャルサポート,量的負担,質的負担,心理的ストレス反応,活気の関連を検討した.共分散構造分析の結果から,①対人的援助が高いほどソーシャルサポートが高くなり,ソーシャルサポートが高いほど心理的ストレス反応が低下し,活気が高くなる,②対人的援助が高いほど量的負担が高くなり,量的負担が高いほど心理的ストレス反応が高くなる,③対人的援助が高いほど質的負担が高くなることが示された.①,②,③の結果より,仮説1および仮説2は支持されたが,仮説3は支持されなかった.
共分散構造分析の結果から,対人的援助が高いほどソーシャルサポートが高くなることが示された.これは,対人的援助が行われると,職場における良好な人間関係が形成され,援助者自身の上司や同僚への頼りやすさ,相談のしやすさが増加したことが考えられる.他者を助ける際には,直接相手に接し,援助を与えるための適切な声掛け等を行うことが必要となる.そのため,対人的援助はソーシャルスキル(対人葛藤処理スキル,計画・管理スキル,コミュニケーションスキル)のうち,コミュニケーションスキルと共通する側面が多いと思われる.したがって,職場においてコミュニケーションスキルが高いと,ソーシャルサポートが高くなる12, 13)という先行研究と同様に,対人的援助が高いほどソーシャルサポートが高くなった可能性が考えられる.また,ソーシャルスキルは,自分の意図や感情を相手に正確に伝える記号化スキル,相手の意図や感情を正確に読みとる解読スキル,感情をコントロールする統制スキルに分類される場合もある32).前述のように,対人的援助は他者に援助を与えるために直接相手に働きかける性質を持つことから,対人的援助は記号化スキルと共通する側面があると思われる.ソーシャルスキルとソーシャルサポートの衡平性(ソーシャルサポートの入手量と提供量の差)に関しては,記号化スキルが高いほど知覚されたソーシャルサポートの入手量が多くなる33)ことから,自分の意図や感情を正確に相手に伝える側面を持つ対人的援助が高くなるほど,ソーシャルサポートが高くなるという結果が示された可能性が考えられる.
また,ソーシャルサポートが高いほど心理的ストレス反応が低下することが示された.これは,ソーシャルサポートが高くなったことで,たとえ仕事で困難を感じる場面に遭遇しても,上司や同僚からの援助が得られるだろうという期待感が高まることで安心感が増加し,不安感や抑うつ感などの心理的ストレス反応が低下したことが考えられる.この結果は,ソーシャルサポートは,ストレッサーの量にかかわらず,常にストレス反応を低減する直接効果を持つ4)ことを支持している.
さらに,ソーシャルサポートが高いほど活気が高くなることも示された.JD-Rモデルでは,ソーシャルサポートは仕事の資源に位置づけられ,ポジティブで充実した心理状態と正の関連を持つことが示されている25).したがって,ソーシャルサポートが高まり,活気が高くなったという本研究の結果は,JD-Rモデルを支持するものであったといえる.ソーシャルサポートが高まると,上司や同僚からの援助が期待できるため,仕事上の困難に遭遇する場面を恐れる度合いが減少することが考えられる.そのため,そのような安心感のある職場環境で働く労働者は,いきいきとした気持ちで仕事に臨むことができると思われる.
一方で,対人的援助が高いほど量的負担が高くなることも示された.この結果は,対人的援助のような向社会的行動を行う場合に,行為者側に時間や労力などのコストを伴う16)という指摘と一致すると考えられる.したがって,対人的援助を行うほど他者の仕事を手伝う頻度が増加し,必然的に本務以外の仕事量が増加したと考えられる.また,量的負担が高いほど心理的ストレス反応が高くなることも示された.このことは,仕事の要因がストレス反応を引き起こすというNIOSH職業性ストレスモデル2)の職場ストレッサー-ストレス反応の関係を反映しているといえる.
質的負担に関しては,先行研究において,すべてのソーシャルスキル(対人葛藤処理スキル,計画・管理スキル,コミュニケーションスキル)と有意な負の関連が認められたが,コミュニケーションスキルについては,ほぼ無相関に近い値(–0.051)であった15).そのため,本研究では,コミュニケーションスキルと共通する側面の多い対人的援助が高くなることにより,質的負担が低下する結果が認められなかったと考えられる.一般に,ソーシャルスキルが高いと業務が円滑に進み,結果的に量的負担や質的負担が低下すると考えられる.対人的援助は,それを行うことによって人間関係が円滑になるという点においてはソーシャルスキルと共通すると思われる.しかしながら,本研究では,対人的援助は本務以外の業務を行うという点においてソーシャルスキルと異なる側面を持つために量的負担が増加し,質的負担も量的負担と相関が高いために増加したと考えられる.
さらに,①における,対人的援助がソーシャルサポートを介して心理的ストレス反応に与える効果と,②における,対人的援助が量的負担を介して心理的ストレス反応に与える効果を比較した結果,②よりも①の効果が大きいことも明らかになった.このことから,上司や同僚のために自発的に仕事を手伝うという対人的援助は,ある程度の量的なコストを伴うことになるが,それ以上に,労働者のソーシャルサポートを増加させ,心理的ストレス反応を低減させる効果を持つ可能性があることが示唆されたといえる.
最後に,本研究の限界として以下の3点を指摘する.まず第1に,本研究では製造業労働者のみを分析対象としており,かつ男性が多数を占めている.そのため,結果の一般化には限界がある.今後は,業種や性別を考慮した検討が必要である.第2に,本研究では調査票の配布と回収を企業担当者が行った結果,回答者に多少の義務感が生じたことで回収率が過剰に高くなった可能性が考えられる.そのため,社会的に望ましいと思われる回答や,不誠実回答が生じている可能性も考慮する必要があると考えられる.今後は,調査の実施について回答バイアスが生じないような配慮が必要である.第3に,本研究では横断的研究法に基づく分析のみを行っており,対人的援助,ソーシャルサポート,職場ストレッサー,心理的ストレス反応,活気の因果関係に関して言及することはできない.つまり,ソーシャルサポートが高いから対人的援助を行った,ストレス反応が低いからソーシャルサポートが高くなった,活気が高いからソーシャルサポートが高くなったという,本研究で示唆されたものとは逆の因果関係が存在する可能性も考えられる.したがって,今後は,これらの因果関係を明確にするために,縦断的研究法を用いた分析が必要となる.