2015 年 57 巻 3 号 p. 97-107
目的:従業員食堂を中心とした長期間の食環境介入が野菜類の摂取量に及ぼす効果を検討する.対象と方法:対象は福井県現業系事業所の従業員約1,200人(19–61歳)である.野菜摂取量を増加させるため,日本型の3要素(主食・主菜・副菜(野菜))を組み合わせた食事の摂取を推進した.適切な食物選択を導くための食環境整備として,従業員食堂の全ての献立表示を3色で示した(3要素順に,黄色・赤色・緑色).食事の代金清算時に,3要素を組み合わせて食事を選択するよう栄養教育を実施した(適切選択者).同時に適切選択者の割合も評価した.介入前後に,半定量食物摂取頻度調査法に準じた質問紙調査を実施した.野菜類の摂取頻度と摂取目安量を質問し,1人1日当たりの推定摂取量の平均値を求めた.結果:適切選択者は,介入1年後63.5%から,介入2年後82.1%(p<0.001),介入3年後80.0%(p<0.001)へと有意に増加した.介入3年後では,朝食時(p<0.001),昼食時(p<0.001),夕食時(p=0.011)の野菜,野菜ジュース(p=0.030)の推定摂取量は,有意に増加した.漬物は有意に減少した(p=0.009).これにより野菜類摂取量は,男性では167.3 gから184.6 g,女性では157.9 gから187.7 gに増加したと推定された.考察:従業員食堂を中心とした長期間の食環境介入によって(3年間),野菜の推定摂取量の増加,漬物の推定摂取量の減少が認められ,野菜類の摂取量に望ましい効果が示された.
野菜は現代の日本人が摂取不足に陥りやすいビタミン,ミネラル,食物繊維などの摂取給源として重要な食品である1, 2).これまでにもいくつかの研究報告において,野菜や果物を積極的に摂取することの必要性が指摘されている3,4,5).厚生労働省が2013(平成25)年度から展開している21世紀における第2次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))6)では,栄養・食生活の目標のひとつに,「適切な量と質の食事をとる者の増加」として,「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日がほぼ毎日の者の割合の増加,食塩摂取量の減少,野菜と果物の摂取量の増加」が掲げられている.これらの中でも特に副菜の主たる給源となる野菜について,ここ数年の国民健康・栄養調査結果7)を見てみると,成人1人1日当たりの摂取量の平均値は,2006(平成18)年の303.8 gをピークに横ばいを続けている.このため,2000(平成12)年度から実施された健康日本218)の目標値である350 gには一度も達していない.このことから,野菜摂取量の増加はわが国における喫緊の課題であるといえる6,7,8,9).
健康日本21(第二次)では,さらに環境の改善に関する目標として,「利用者に応じた食事の計画,調理及び栄養の評価,改善を実施している特定給食施設の割合の増加」6)を掲げている.これは,個々人の努力だけでは実現が難しい食習慣の改善を,食環境面から支援して,「適切な量と質の食事をとる者の増加」の実現を図ろうとするものである.海外では,食環境面からの介入による野菜,果物の摂取の増加に関する研究報告がいくつか見られている10, 11).一方,わが国でも食環境面の介入による野菜摂取の増加の報告は,認められている12).しかし,その介入は短期間である.食習慣の改善を導くため,長期間の食環境面の介入研究(3年以上)はわずかに認められるが13,14,15),いずれも野菜摂取の増加に焦点をあてていない12,13,14,15).そこで,本検討においては,従業員食堂を中心とした長期間の食環境介入が13, 14),従業員の野菜類の摂取量に及ぼす効果について検証する.
対象者は,「青・壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究:The high-risk and population strategy for occupational health promotion(HIPOP-OHP)study」13, 14)の介入事業所の1つで,北陸地方に所在する現業系事業所に勤務する19歳から61歳の従業員約1,200人である(ベースライン時).対象者にはポピュレーションアプローチとして,従業員食堂における食環境介入(食環境の整備,栄養教育・モニタリング)を実施した.並行して,ハイリスクアプローチとして個別健康教育(個別指導)も実施した.食環境介入は,2000(平成12)年3月から2003(平成15)年4月の約3年間,研究班13, 14)と事業所の健康管理部門,給食部門が連携して行った.本検討では,介入前・後に実施した食生活に関する質問票(食生活質問票)13, 14)から,野菜類の摂取状況に着目して検証した.加えて,野菜類の摂取状況の中間評価として,従業員の主食・主菜・副菜(野菜)を組み合わせた食事の摂取状況を経時的に評価した.
2. 介入プログラム1)介入開始前の食環境のアセスメント
食環境介入のプログラム作成に当たり,当該事業所の食環境に関する事前アセスメントを実施した.この事業所内には,栄養士が管理しているカフェテリア方式の従業員食堂が1ヶ所設置されていた.従業員食堂で提供されていた献立の提供種類,その個々のエネルギーや栄養素量を評価したところ,おおむね良好であった.食堂の利用者である従業員への情報提供として,出食窓口(提供カウンター)に設置された個別の献立表示には,献立名,1食当たりのエネルギー量(kcal),価格が示されていた.以前,この食堂は,定食方式による食事提供が行われていたが,従業員の要望により,カフェテリア方式に変更された.カフェテリア方式においては,利用者は個々の献立に関する情報や正しい知識を活用して適切に献立を選択しなければ,望ましいエネルギーや栄養素の摂取は得られ難い.しかし,この事業所の従業員においては,食堂における食事提供方式変更後の健診成績の変化から,どのように組み合わせて食事を摂れば良いかを十分に理解できていない者が,相当数存在している可能性があるものと予測された.
2)従業員食堂における食環境介入(ポピュレーションアプローチ)
① 食環境の整備
ベースライン時に得られた成績では,男女ともいずれの年齢階級においても,野菜の摂取頻度と推定摂取量は夕食時において最も高値を示していた.前述のアセスメント結果も考慮すると,食堂利用者の野菜摂取量を効率的に増加させるためには,特に昼食時に積極的な摂取を実践してもらうことが必要であると考えられた15).そこで,本研究では,日本食の基本である主食・主菜・副菜(野菜)の3つの要素を組み合わせた食事6)の摂取を,従業員食堂を中心に推進することにした.このため,従業員に対する食行動の目標を,「バランスのとれた食事をとるために3色(3つの要素)を揃えましょう」とした.この行動目標を推進し,従業員が3つの要素を自然に選択できるスキルが高まるよう,従業員食堂の食環境の整備を図った.
まず,従業員食堂で提供されている全ての献立を3つの要素に分類した.次に,利用者が3つの要素の特性を一目で理解できるよう,各献立表示の背景色を3つの要素別に3色に分けてイメージ色で示した.具体的には,主食(主に炭水化物の供給源)は黄色,主菜(主にたんぱく質の供給源)は赤色,副菜(主にビタミン,ミネラル,食物繊維の供給源)は緑色とした16).ただし,カツ丼やカレーライスのように1つの献立で複数の要素(この場合,主食と主菜)を含む場合は,主となる要素に別の要素が加わっていることが認識できるよう,主となる要素の背景色に,加わる要素のイメージ色のシールを貼付けた.利用者が,黄色・赤色から各々1つずつ,緑色から1つ以上を選び,3色(3つの要素)を揃えて選択してもらうよう推進した.また,提供カウンターの手前付近には,望ましい栄養バランスが得られる組み合わせ方を示すポスターを作成し掲示した.
食事や休憩のために食堂を利用している従業員に対しては,継続的な健康・栄養情報を提供した.これは,単に従業員食堂内だけではなく,家庭やそれ以外の場所で摂取する食事においても,野菜が増加することを目指したものである.具体的には,一口メモ(4色刷り両面同一内容)を作成し,それを食堂内の全テーブルに設置したテーブルポップ17)(A5サイズ横位置型の卓上メモ立て)で示した.一口メモの内容は野菜に関する情報をメインとし,それ以外にも介入計画やアセスメント結果と連動させ,生活習慣病予防と食事,減塩などもテーマとして加えた.この一口メモは,原則として週1回内容を更新し,介入期間中継続して実施した.
② 栄養教育とモニタリング(拝見キャンペーン)
主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の摂取を推進するため,食堂利用者全体への栄養教育として,「あなたのお食事拝見キャンペーン(拝見キャンペーン)」を実施した.拝見キャンペーンは,食事の摂取状況の評価(アセスメント・モニタリング)も兼ねていた.実施時期は介入開始1年後(2001年),2年後(2002年),3年後(2003年)のいずれも4月であった.従業員がレジカウンターで食事の代金を清算した直後に,研究班の管理栄養士がその場で3つの要素の選択状況を判定した.具体的には,3つの要素を組み合わせて選択した者(適切選択者と判定)には,「Good Balance Card」と参加賞の野菜ジュースを進呈した.同時に,献立の選択が良好である旨の声かけも行った.一方,3つの要素を組み合わせて選択しなかった者(不適切選択者と判定)には,「Yellow Card」と参加賞を進呈して,食事の改善点について簡単な助言を行った.
従業員食堂では,拝見キャンペーン以外にも,野菜摂取の増加のためのキャンペーンおよびイベントを開催した(Table 1).
Year | Period | Participants | Theme and contents | Teaching materials |
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2000 | From the middle of November to the middle of January | - | The theme of the display was the quantity of vegetables that is desirable to eat per day. The theme of the display was “let’s eat three dishes”. | Food model and leaflets were used. |
2001 | 4/9~4/21 | 935 employees | The theme of the campaign was “let me take a look at your meal balance”. | Vegetable juice and leaflets were distributed as a prize for participation. |
2002 | 4/5~4/20 | 817 employees | The theme of the campaign was “let me take a look at your meal balance”. | Vegetable juice and leaflets were distributed as a prize for participation. |
7/30~8/23 | 15 employee families | We gathered easy recipes from participants’ homes for this event. | Vegetable juice was distributed as a prize for participation. We recommended a good nutritionally balanced menu, and adopted it as the menu of the cafeteria. | |
11/13~11/24 | 787 employees | The theme of the campaign was “the week to eat vegetables”. | Vegetable dishes were distributed as a prize for participation. | |
11/25~12/27 | 119 employees | The theme of the campaign was “let’s drink vegetable juice”. | Vegetable juice was distributed as a prize for participation. | |
Approximate intake of vegetables was displayed. | ||||
2003 | 2/22~2/28 | 345 employees | The theme of the campaign was meal balance improvement. | When employee cafeteria users paid for their vegetable dishes, they received reward points equivalent to the price of the vegetable dishes. |
4/4~4/14 | 926 employees | The theme of the campaign was “let me take a look at your meal balance”. | Vegetable juice and leaflets were distributed as a prize for participation. |
Action on the part of 「The high-risk and population strategy for occupational health promotion (HIPOP-OHP) study」13, 14). In addition, we created a memo and utilized a tabletop card stand on all tables in the cafeteria for providing continuous information on vegetables.
3)個別健康教育(ハイリスクアプローチ)
研究対象者の中で,ベースライン時および介入期間中の健康診断結果において,特に高血圧,高コレステロール血症,耐糖能異常の3つのハイリスク者をリストアップした.個別指導は,これらのハイリスク者の中から希望者を募集し,個別健康教育マニュアル13, 14)に基づいて当該事業所の保健師が実施した.このうち,マニュアルに基づいて積極的に野菜摂取を推奨したのは,高血圧の者であった.
3. 調査の実施および調査項目1)食生活質問票
介入効果を検証するため,ベースライン時(介入前調査:1999(平成11)年9月)およびエンドポイント時(介入後調査:2003(平成15)年5月)に,食生活質問票13, 14)を用いた記名自記式質問紙調査を実施した.食生活質問票は,健康診断前に受診票と共に従業員へ送付し,受診当日に回収した.
調査項目には,日常の食事における主要な食品群別摂取状況に関する質問を設定した.このうち本検討では,野菜類の摂取に関する朝食時の野菜,昼食時の野菜,夕食時の野菜,野菜ジュース(野菜ミックスジュース・トマトジュース),浅漬(浅漬・一夜漬),漬物(糠漬・奈良漬・しば漬・野沢菜漬・タクアン・梅干等)を評価の対象とした.
これら6項目の習慣的な摂取状況について,摂取頻度と1回当たりの摂取目安量について回答を求めた.回答方法は,朝食時,昼食時,夕食時別の野菜の摂取頻度について,5つの選択肢「食べない・週1回以下食べる・週2~3回食べる・週4~5回食べる・毎日1回食べる」から1つを選んでもらった.また,野菜ジュース,浅漬,漬物の摂取頻度については,さらに2つの選択肢「毎日2回食べる・毎日3回以上食べる」を加えて,7つの選択肢から1つを選んでもらった.
1回当たりの摂取目安量は,基準となる量(基準量)を示した上で,それと比較して1回にどの程度の量を摂取しているかを,4つの選択肢「基準量の半分以下・基準量程度・基準量の1.5倍・基準量の2倍以上」から,1つを選んでもらった.具体的な基準量は,朝食時,昼食時,夕食時の野菜については,生野菜中皿1杯(1サービング:野菜70 g)・お浸し小鉢1杯(1サービング:野菜70 g)・煮物小鉢1杯(2サービング:野菜140 g)・野菜炒め中皿1杯(2サービング:野菜140 g)の何れか1つとした.また,野菜ジュースは小缶1本(180 ml),浅漬と漬物は漬物皿1杯(20 g)とした16).なお,これらの基準量は6項目の各問の欄に明記した.
2)拝見キャンペーンの判定
介入効果の中間評価として,拝見キャンペーンにおいて,3つの要素を組み合わせて適切に献立を選択した適切選択者と,そうでない不適切選択者の人数を把握し,評価した.
4. 解析対象者および解析方法1)解析対象者
介入前調査は,食生活質問票を従業員へ1,210枚配布し,回答者は858人(回収率70.9%)であった.また,介入後調査は1,210枚配布し,回答者は857人(回収率70.8%)であった.この中で,介入期間中に人事異動や退職等により,何れか一方のみを回答した者は除外した.明らかな矛盾や誤回答が認められた者も除外したところ,最終的な解析対象者は593人であった.
2)解析方法
食生活質問票による調査結果の解析に当たり,各々の回答の摂取頻度の選択肢を数値化して,その値を1人1日当たりの摂取回数(回)とした.具体的には,「食べない」を0,「週1回以下食べる」を0.14(1/7),「週2~3回食べる」を0.36(2.5/7),「週4~5回食べる」を0.64(4.5/7),「毎日1回食べる」を1,「毎日2回食べる」を2,「毎日3回以上食べる」を3とした.
次に,1回当たりの摂取目安量の選択肢も数値化して,その値を1人1回当たりの基準量に対する摂取比率とした.「基準量の半分以下」を0.5,「基準量程度」を1,「基準量の1.5倍」を1.5,「基準量の2倍以上」を2とした.なお,1人1日当たりの摂取回数が0の場合は,1人1回当たりの基準量に対する摂取比率も0とした.
そして,1人1日当たりの摂取回数(摂取頻度)の値と,1人1回当たりの基準量に対する摂取比率(摂取目安量)の値を乗じて,これを習慣的な推定摂取量とした.これらの値について平均値を求め,介入前・後で比較した.2群間の平均の値の比較には対応のあるt-検定を用いた.拝見キャンペーンにおける中間評価は,適切選択者・不適切選択者の各々の人数を総人数で除して,割合(%)を算出した.介入1年後と2年後・3年後について,各々その割合を比較した.割合の比較にはカイ2乗検定を用いた.統計学的解析には,IBM SPSS Statistics 17.0を用い,有意確率5%未満で有意差ありとした.
5. 倫理的配慮本研究は,滋賀医科大学倫理委員会の審査・承認,施設長の許可を得てから実施した.「青・壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究」は,会社の健康管理業務の一環として行われ,その実施については安全衛生委員会での承認を得た.また本質問紙への回答は従業員の自由意志であり,調査趣旨および個人情報保護等の倫理的な配慮に関しては質問票へ明記し,回答者から書面で同意を得た13, 14).
今回の解析対象者において,個別指導を受けた者は,高血圧13人,高コレステロール血症6人,耐糖能異常10人で,合計29人であった(Tableに示さず).
2. 食環境介入中の適切選択者の変化拝見キャンペーンにおける判定結果は,適切選択者数(%)・不適切選択者数(%)の順に,介入1年後は594人(63.5%)・341人(36.5%),介入2年後は671人(82.1%)・146人(17.9%),介入3年後は739人(80.0%)・187人(20.0%)であった.適切選択者の割合は,介入1年後と比較して2年後,3年後もいずれも有意に増加した(p<0.001,p<0.001)(Tableに示さず).
野菜摂取増加のためのキャンペーン,イベントへの参加者の実績値は,Table1に示した.
3. 食環境介入3年後の野菜類摂取量の変化解析対象者の属性は,男性383人(64.6%),女性210人(35.4%)であった.男女間に,年齢階級別構成割合の差は認められなかった(p=0.157).男女別,年齢階級別の構成人数は,Table 2~4に示した.
1)1人1日当たりの摂取回数(摂取頻度)
野菜類の1人1日当たりの摂取回数の平均値は,全年齢の男女では,朝食時の野菜は,介入前・介入後の順に0.26回・0.30回(p<0.001),昼食時の野菜は以下,同順に0.39回・0.44 回(p<0.001),夕食時の野菜は0.54回・0.58回(p=0.004),野菜ジュースは0.16回・0.20回(p=0.020)へ,いずれも有意に増加した.漬物は0.36回・0.32回へ,有意に減少した(p=0.003).
男女別に分けると,全年齢の男性では,朝食時の野菜,昼食時の野菜,夕食時の野菜は,いずれも有意に増加した.漬物は有意に減少した.全年齢の女性では,朝食時の野菜,昼食時の野菜,夕食時の野菜,野菜ジュースは,いずれも有意に増加した(Table 2).
2)1人1回当たりの基準量に対する摂取比率(摂取目安量)
野菜類の1人1回当たりの基準量に対する摂取比率の平均値は,全年齢の男女では,朝食時の野菜は,介入前・介入後の順に0.58・0.67(p<0.001),昼食時の野菜は以下,同順に0.82・0.86(p=0.026),野菜ジュースは0.42・0.57(p<0.001),浅漬は0.73・0.78(p=0.005)へ,いずれも有意に増加した.
男女別に分けると,全年齢の男性では,朝食時の野菜,昼食時の野菜,野菜ジュース,浅漬は,いずれも有意に増加した.全年齢の女性では,朝食時の野菜,野菜ジュースは,いずれも有意に増加した(Table 3).
3)1人1日当たりの習慣的な推定摂取量
野菜類の1人1日当たりの習慣的な推定摂取量の平均値は,全年齢の男女において,朝食時の野菜は,介入前・介入後の順に0.23・0.28(p<0.001),昼食時の野菜は以下,同順に0.37・0.42(p<0.001),夕食時の野菜は0.55・0.59(p=0.011),野菜ジュースは0.17・0.21(p=0.030)へ,いずれも有意に増加した.漬物は0.32・0.28 へ,有意に減少した(p=0.009).
男女別に分けると,全年齢の男性では,朝食時,昼食時の野菜は,いずれも有意に増加した.漬物は有意に減少した.全年齢の女性では,朝食時,昼食時,夕食時の野菜,野菜ジュースは,いずれも有意に増加した.年齢階級別に分けると,20歳代以下の男女では,昼食時の野菜,野菜ジュースは,いずれも有意に増加した.20歳代以下女性では,野菜ジュースは有意に増加した.30歳代男女では,朝食時の野菜は有意に増加した.漬物は有意に減少した.30歳代男性では,朝食時の野菜は有意に増加した.漬物は有意に減少した.30歳代女性では,朝食時の野菜,野菜ジュースは,いずれも有意に増加した.40歳代男女では,朝食時,昼食時,夕食時の野菜は,いずれも有意に増加した.40歳代男性では,朝食時,昼食時の野菜は,いずれも有意に増加した.40歳代女性では,昼食時,夕食時の野菜は,いずれも有意に増加した.50歳代以上男女では,漬物は有意に減少した.50歳代以上男性では,漬物は有意に減少した(Table 4).
4)推定される平均的な野菜類摂取の増加量
食事バランスガイド16)等を参考として,今回用いた調査票の基準量を野菜105 g,野菜ジュース180 g,浅漬と漬物を各々20 gと割り付けた.その後,おのおのTable 4に示した男女別の全年齢に示した値との積を求め,その合計値を算出した.ベースラインとエンドポイントの合計値は,男性では167.3 gから184.6 gとなり,10.3%の増加が認められた.女性では157.9 gから187.7 gとなり,18.9%の増加が認められた.
介入前後の成績を比較すると,男性全体では朝食・昼食時に,野菜の推定摂取量の増加が認められた.女性でも,朝食・昼食・夕食時の野菜と,野菜ジュースの推定摂取量について増加が認められた.これらのことから,従業員食堂における昼食時の取り組みに加えて,継続的な情報発信17)により,朝食や夕食時の野菜増加にも影響を及ぼしたと考えられる.一方,男性においては,漬物の推定摂取量の減少が認められた.わが国の食塩摂取量は近年減少傾向を示しているが7),それでも漬物は主要な食塩摂取源の1つとして問題視されている1, 18, 19).今回の取り組みでは,野菜摂取と減塩対策を明確に区別して,情報提供したことが好影響を及ぼしたと考えられる.
2. 野菜類摂取の増加量の推定値について本研究では食環境の整備により,男性で10.3%,女性で18.9%の野菜類の摂取量の増加があったと推定された.しかし,本研究で増加が認められた調査票は,定量的な摂取量を推定する目的で作成されたものではないため,ここで得られた合計値は定量的な習慣的摂取量とは受け取れない.しかし,検出した増加割合には一定の妥当性があるものと考えられる.また,野菜は汁物,めん類,加工食品などからも摂取可能である16)ことにも留意しなければならない.したがって,定量的な習慣的野菜摂取量は既述の値よりも高値であると推察される.一方,ベースラインである2000(平成12)年に実施された当時の国民栄養調査7)において,20歳以上の成人男女別の野菜摂取量(緑黄色野菜+その他の野菜)の平均値は,男性294.2 g,女性287.1 gである.仮に今回の集団がこの時点での全国平均に近い集団であったと仮定し,これらの値に対して,先に示した男女別の増加割合を掛け合わせると,平均的な野菜類摂取の増加量は,男性30.3 g程度,女性54.3 g程度と概算される.
3. 野菜摂取量増加のための取組ポイント近年公表された国民健康・栄養調査結果20)によると,野菜・果物摂取量は年収が高い者ほど多いことが示されており,収入の格差が栄養摂取面での格差にもつながる傾向が指摘されている7).著者らの先行研究15)でも,企業の景気低迷期には,3つの要素が揃った定食よりも,安価な麺類の販売実績が高くなることが明らかとなっている.このため,3つの要素を揃えて選択した場合には,価格を割り引く対策を実施した.本検討でもキャンペーン等において,野菜ジュースなどを積極的に景品として配布するなどの働きかけを実施した.この結果,収入が必ずしも高いレベルではなく,野菜摂取が低値傾向である若年層であっても,野菜摂取量の増加にある程度の効果が得られた可能性がある.今後は,このような経済的な側面も視野に入れた取り組みについても,重要な視点としなければならないと考える.
4.ポピュレーションアプローチとしての従業員食堂を活用した健康づくりの有効性野菜の摂取量増加を目的とした栄養・保健指導は,生活習慣病の予防や改善21),特定保健指導22)等においても重要なテーマである23).さらに指導効果を客観的な成果に結びつけるためには,多くの場合は長期的な支援が必要と考えられる.しかし,実際には,ハイリスクアプローチを長期間に渡って網羅的に実施することは,取り組みを実施する側・される側,いずれの負担も大きく明らかな限界がある24, 25).
従来,従業員食堂は従業員に対する福利厚生の一環として設置されてきた意味合いが強く,限られた休憩時間内に安価で利用者の嗜好に応じた食事を提供することが求められてきた.しかし,近年になって従業員の健康管理を目的とした食事提供が実施され,健康・栄養情報を発信する拠点として活用されることが試みられている12,13,14,15, 17, 26,27,28).この中でもメタボリックシンドローム対策の一環として比較的低エネルギー(1食あたり500~600 kcal程度)でありながらも,満足感が得られやすい食事提供を行っている従業員食堂や献立15)に国民の関心が高まっている.
本研究は職域全体を長期間支援するポピュレーションアプローチの有力な対策13,14,15, 17)の1つとして,従業員食堂を中心に介入した.その結果,野菜摂取量の増加の有効性が確認されたと考えられる.野菜摂取量の増加に影響を与えた要因は,食堂に勤務する産業栄養士による適切な栄養管理がなされた献立が提供されている状況下で,主食・主菜・副菜の3要素が揃った日本型の食事摂取を長期間推進したこと,従業員の誰もが親しみやすく分かりやすい献立の色別化表示による食環境の整備,さらには定期的なモニタリングを兼ねた栄養教育であったと考えられる.今後,このような従業員食堂を中心とした長期間の食環境介入による野菜摂取量増加の効果が,従業員の健康状態の改善や医療費削減24, 25)等にどのように繋がるのか,さらなる検証を行うことが望まれる.
5.研究の限界今回の解析対象者の中には,希望して個別指導を受けた者も一部含まれているため,得られた結果は食環境介入の単独効果であるとは言い難い.しかし,今回の解析対象者の中で個別指導を受けた者は29人であり,しかも積極的に野菜摂取を推奨した高血圧の指導人数は13人に過ぎない.よって,本成績は食環境介入の効果がより強く影響していると推察される.また,本研究は定量的な習慣的野菜摂取量の調査ではないことにも留意する必要がある.
従業員食堂を中心とした長期間の食環境介入が野菜類の摂取量に及ぼす効果を検討した. 献立表示の色別化による食環境整備,栄養教育を行い,日本型の主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の摂取を推進した.その結果,野菜の摂取頻度と推定摂取量の増加,漬物の摂取頻度と推定摂取量の減少が認められ,野菜類の摂取量に関する望ましい効果が示めされた.
利益相反:本研究での利益相反に相当する事項は無い.
謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます.本研究は,平成13年度~15年度厚生労働科学研究費補助金,効果的医療技術の確立推進臨床研究事業「青・壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究(主任研究者上島弘嗣)」の一環として実施された.