産業衛生学雑誌
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原著
職場における対人的援助向上プログラムの効果評価
堀田 裕司大塚 泰正
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2015 年 57 巻 5 号 p. 219-229

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抄録

目的:職場のソーシャルサポートを高める可能性のある要因として,組織市民行動における対人的援助がある.本研究の目的は,職場における対人的援助向上プログラムの実施により対人的援助が上昇すること,および,対人的援助の上昇により量的負担が増加するものの,ソーシャルサポートも増加し,心理的ストレス反応が低下することを検証することである.対象と方法:製造業A社に所属する労働者72名を調査対象とした.per-protocol解析を行うために,調査票への欠損回答者,退職者および研修の欠席者の24名を除いた介入群26名(男性22名,女性4名,B事業所所属)と統制群22名(男性19名,女性3名,C事業所所属)を最終的な分析対象とした.また,intention-to-treat解析(以下ITT解析)を行うために,pre testでの欠損回答者10名を除いた介入群35名(男性30名,女性5名,B事業所所属)と統制群27名(男性23名,女性4名,C事業所所属)を分析対象とした.調査票は,日本版組織市民行動尺度の対人的援助,職業性ストレス簡易調査票の量的負担,心理的ストレス反応,ソーシャルサポートを使用した.介入群の参加者のみ心理教育とロールプレイ,4週間のホームワーク(以下HW)を実施した.両群の参加者に pre test(以下pre),post test(以下post),follow-up test(以下follow-up)を同一時期に実施した.プログラムの効果を検証するために,各効果評価指標を従属変数,時期(pre,post,follow-up)と群(介入群,統制群)を独立変数とし,per-protocol解析については2要因分散分析を,ITT解析については混合効果モデルによる分析を行った.結果:per-protocol解析では,対人的援助および同僚サポートにおける介入群のpost時,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高かった.また,同僚サポートにおいて,post時に介入群の得点が統制群よりも有意に高かった.ITT解析では,対人的援助における介入群のpost時,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高かった.また,同僚サポートにおける介入群のpost時の得点がpre時よりも有意に高かった.結論:対人的援助向上プログラムの実施の結果,介入群の対人的援助および同僚サポートが有意に増加することが明らかとなった.しかしながら,上司サポート,量的負担の有意な増加,および,心理的ストレス反応の有意な低下は認められなかった.対人的援助を上昇させることで,特に同僚からのサポートを向上させることができる可能性がある.

I. はじめに

平成24年の労働者健康状況調査では,現在の職業生活に関することで強い不安,悩み,ストレスを感じている労働者の割合は約6割であり,その内容については人間関係の問題が最も多いことが報告されている1).労働者のストレス反応を低減させるための要因のひとつとして,周囲の人たちからのソーシャルサポートがある2).ソーシャルサポートは「ある人を取り巻く重要な他者から得られる有形無形の援助」と定義され3),ストレッサーの程度にかかわらず,常にストレス反応を低減する直接効果と,ストレッサーが多い時にストレス反応を低減する緩衝効果を持つことが知られている4).したがって,現代の労働者のストレス反応を低減させるためには,ソーシャルサポートを高めることが不可欠であると考えられる.職場において上司や同僚からのソーシャルサポートを高めるためには,他者との関係や相互作用を円滑に行うことを通して対人関係を良好にすることが必要である5, 6).このようなことを可能にする要因の一つに向社会的行動がある.向社会的行動の特徴には,「その行動が相手のためになる援助行動であること」,「相手に親切にしたり助力の手をさしのべたりすることが,お礼や品物などの外的報酬を目的としないこと」,「労力や時間,お金,気配りといったコストがかかるが,それをあまり気にせずに相手のためになる行動がなされること」,「その行動が自発的にされること」が挙げられている7)

職場における向社会的行動に組織市民行動がある.組織市民行動は,「従業員が行う任意の行動のうち,彼らにとって正式な職務の必要条件ではない行動で,それによって組織の効果的機能を促進する行動」8)であり,「自由裁量的で,公式的な報酬体系では直接的ないし明示的には認識されないものであるが,それが集積することで組織の効率的および有効的機能を促進する個人的行動」9)と定義される.つまり,組織市民行動は個人が自由裁量的に個人や組織のために自発的に行う業務外の行動であるものの,その行動は組織の生産性に貢献するものであるといえる.組織市民行動には,①多くの仕事を抱えている人の手助けをするなど,職場での対人的な援助行動を表す「対人的援助」,②不必要に仕事の手を休めないように心がけるなど,真面目で誠実な仕事ぶりを表す「誠実さ」,③自分が職務を遂行する際に同僚や上司,部下が嫌な思いをしないように行動する「職務上の配慮」,④参加が義務づけられていなくても,会社(組織)が主催する行事や祭典に参加するなど,従業員(組織構成員)が会社(組織)の外でも会社(組織)のために良かれと思って行う行動である「組織支援行動」,⑤文具品・消耗品を使いやすいように整理し配置するなど,自発的に職場をきれいにしようとする行動を表す「清潔さ」の5つが挙げられている10, 11).これらの5つの組織市民行動のうち,特に対人的援助は,援助者と被援助者との間に信頼感を形成し12),組織内の団結力を向上させる側面を持つ13)ことが指摘されている.したがって,組織市民行動における対人的援助は人間関係を良好にすると考えられるため,職場におけるソーシャルサポートを高める要因となる可能性がある14)と考えられる.

以上のことから,労働者のストレス反応を低減し,労働者の健康の保持増進を図るためには職場のソーシャルサポートを高めることが重要であり,そのためには対人的援助を上昇させることが有益であると考えられる.職場における対人的援助を高めるための先行研究はこれまでのところ見当たらないが,職場のソーシャルサポートを高めるための介入研究はいくつか存在する.本研究では,2015年5月10日に,PubMed,PsycARTICLES,PsycINFOの3つのデータベースを使用して,(“social support”)AND (“intervention”)AND (“job” OR “work” OR “workplace” OR “employee”)AND (“increase” OR “improve”)のキーワードを入力し,出版時期および検索フィールドを限定せずに文献検索を行った結果,580編の文献が抽出された.その中から,職場におけるソーシャルサポートを向上させるための介入研究を5編選定した.Heaneyら(1995)の研究15)では,対人援助職者を対象とし,個人と集団の心理社会的な対処資源と,その対処資源を利用する能力を増加させるために,一部の参加者が1回あたり4~5時間にわたる研修に6回参加して対処資源を利用するための新しいスキルを身に付け,それを研修に参加していない他の労働者に提供することが行われた.その結果,上司サポートが向上することが明らかにされた.次に,Oude Hengelら(2012)の研究16)では,建設業労働者を対象とし,職場のソーシャルサポートとワークエンゲイジメントの改善を図ることを行った.この研究では,6ヶ月間の介入プログラムの中で,まずはじめに自分自身の健康に対して責任を持つこと,自分の行動の責任について同僚と話し合うこと,上司とのコミュニケーションを改善することに関する自己効力感を増加させ,受動的な態度から前向きな態度に変わる方法を教育した.そして,労働者が介入期間中に変わりたいと思うこと(例:上司とさらにコミュニケーションがとれるようになりたい)をリストアップし,アクションプランをポスターに記入することが行われた.しかしながら,この研究では,ソーシャルサポートとワークエンゲイジメントの有意な増加は認められなかった.また,Torpsら(2008)の研究17)では,自動車修理会社の経営者を対象とし,参加者が,健康や安全に関する講義やグループディスカッションを交えた1日6時間の研修に合計4回参加し,それぞれ次回のセミナーまでの期間にはHWを行った.しかしながら,この研究では,ソーシャルサポートの有意な増加は認められなかった.そして,Lavoie-Tremblayら(2005)の研究18)では,医療従事者を対象とし,参加者が,チームをまとめて,チーム内でのより良いコミュニケーションや信頼感を構築することを目標とするアクションプランを6ヶ月間実行した.しかしながら,この研究では,ソーシャルサポートの有意な増加は認められなかった.さらに,Uchiyamaら(2013)の研究19)では,看護師を対象とし,6ヶ月間にわたる介入プログラムを行った.この研究では,参加者が,職場環境改善のためのアクションプランの作成のために,30分間のグループミーティングと30分間の個人面接をそれぞれ2回ずつ行った.そして,アクションプランを実行する過程においても,30分間のグループミーティングと30分間の個人面接をそれぞれ2回ずつ行った.その結果,同僚サポートが向上することが明らかにされた.

このように,ソーシャルサポートを高めることを目的とした従来の介入研究では,労働者が時間をかけて新たに何かを学習したり会得したりすることを必要とするプログラムを実施していることが多い.また,介入期間については,5件中3件が6ヶ月にわたるものであり,研修等の実施時間は5件すべてにおいて少なくとも合計4時間以上となっている.そのため,参加者の負担は必ずしも少ないものではなく,さらには,これら5つの先行研究のうち3つの研究において,介入後にソーシャルサポートが高まらない結果も認められている.一方,本研究においては,介入期間は約1ヶ月であり,研修(45分+60分)とHW(1日5分×実質約20日)の合計時間は3時間半程度である.したがって,本研究の介入プログラムの遂行時間は,先行研究と比較して短く,負担の少ないものとなっている.こうしたことから,労働者に対する介入プログラムの実施に伴う負担を鑑みると,職場におけるソーシャルサポートを高めるために対人的援助の上昇を図ることは,労働者にある程度の量的負担の増加を招く可能性はあるものの14),業務遂行や組織の生産性への支障が少なく,個人と組織が実行しやすい方法であるといえる.

以上のことを踏まえ,本研究では,職場における対人的援助向上のための介入プログラムを作成し,この介入プログラムを実施することにより,労働者の対人的援助が上昇することを検証する(仮説1).さらに,対人的援助の上昇によって量的負担が増加するものの,ソーシャルサポート(上司サポート,同僚サポート)も増加し,心理的ストレス反応(イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感)が低下することを検証する(仮説2).なお,本研究においては,プライマリアウトカムを対人的援助,ソーシャルサポート,量的負担を媒介変数,セカンダリアウトカムを心理的ストレス反応とする.

II. 方 法

1.参加者

中国地方に本社を置く製造業A社に対して介入プログラムへの参加者を募集した.企業担当者に,中国地方のB事業所(6部署)および関西地方のC事業所(6部署)に所属する労働者から無作為に参加者を抽出していただくよう依頼し,各事業所1部署につき6名ずつ,合計72名からの協力を得た.ただし,介入群と統制群の参加者が同じ事業所内に存在する場合,介入課題の特性上,介入群の参加者の対人的援助が統制群の参加者の対人的援助の生起に影響を与える可能性が考えられる.そのため,介入群と統制群の参加者の接触を回避するために,B事業所の労働者36名(男性31名,女性5名)を介入群,C事業所の労働者36名(男性31名,女性5名)を統制群に割り付けた.参加者はすべて非管理職の正社員で日勤の現場労働者であった.まず,per-protocol解析では,研修の欠席者,退職者,調査票への回答に欠損のあった者,合計24名を除いた,介入群26名(男性22名,女性4名,平均年齢36.1歳,SD=7.34)と統制群22名(男性19名,女性3名,平均年齢37.7歳,SD=10.5)を分析対象とした.また,intention-to-treat解析(以下,ITT解析と略記)では,pre test(以下,preと略記)での欠損回答者,合計10名を除いた,介入群35名(男性30名,女性5名,平均年齢36.6歳,SD=8.35)と統制群27名(男性23名,女性4名,平均年齢37.9歳,SD=10.3)を分析対象とした.なお,本研究のプロトコルに関しては,広島大学大学院教育学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施された.

2. 手続き

介入群については,2014年6月第1週にpreを実施し,続いて研修1(45分)を実施した.その後,2週間のホームワーク(以下HWと略記)を課した.研修1の実施から2週間後の2014年6月第3週に研修2(60分)を実施した.その後,再び2週間のHWを課した.研修2の実施から2週間後(HW終了直後)の2014年7月第1週にpost test(以下postと略記)を実施した.さらに,postの実施から4週間後の2014年7月第5週(8月第1週)にfollow-up test(以下follow-upと略記)を実施した.一方,統制群については,介入群のpre,post,follow-up と同一時期に調査のみを実施し,pre からfollow-up までの期間において何の操作も行わず,follow-up 終了後に研究計画の概要,介入プログラムの内容,研究結果について書面で説明した.そのため,統制群は介入プログラムの内容についてfollow-up終了時まで全く説明を受けていなかった.本研究における各群の参加者数と分析対象者,および,介入群,統制群の手続きについてFig. 1に示した.

Fig. 1.

 Flow diagram of the participants both intervention and control group through the program procedure.

3. 介入プログラムの概要

介入プログラムは,全工程を4週間で行い,2回の研修と4週間のHWで構成した.なお,研修の実施,HW帳の配布,調査票(介入群:pre)の配布および回収は第1著者が行った.また,調査票(介入群:post, follow-up,統制群:pre, post, follow-up)については,第1著者が企業担当者に調査票を郵送後,企業担当者が参加者に対して配布を行った.参加者は回答後,記入した調査票を回収用封筒に入れ,封をした状態で企業担当者に提出した.企業担当者は回収した調査票を第1著者のもとに郵送した.さらに,HWについても,調査票と同様に回収用封筒に封をした状態で企業担当者が回収し,回収後に第1著者に郵送した.

<研修1>

参加者全員による自己紹介(5分)の後,対人的援助に関する基礎知識の習得を目的として,仕事で困っている人を助けることが結果的に自分自身のソーシャルサポートの向上に繋がるという内容の心理セミナー(20分)を講義形式で実施した.その後,参加者は心理教育の内容を踏まえ,「現在実施している対人的援助」と「これから職場でできそうな対人的援助」についてのディスカッション(15分)を行い,その後,これから自分ができそうな対人的援助について全員に発言を求めた.最後に,HWに関する説明(5分)を行った.

<研修2>

参加者全員に2週間のHWを振り返ってもらい,最も印象に残った対人的援助場面と対人的援助を行った感想について発表を求めた(15分).その後,折り紙の製作を通して,仕事で困っている人に声を掛けて製品の作り方を教えてあげるという場面設定のロールプレイ(20分)を参加者同士(2人1組)で実施した.ロールプレイでは,援助者役と被援助者役を交互に相手を変えて行った.このロールプレイによって,参加者は対人的援助を自主的に行うことで相手から感謝される体験をした.その後,「どのようにすれば対人的援助をさらに行うことができるか」というテーマについてディスカッション(20分)を行い,全員に発言を求めた.最後に,今後のHWとpost,follow-upに関する説明(5分)を行った.

<HW>

勤務時間中に最も印象に残った対人的援助について,援助場面の状況,声掛けの内容,具体的な援助内容,被援助者からの反応,援助後の援助者自身の気分の変化について記入を求めた.出勤しなかった日,および対人的援助場面がなかった日は,その日の記入欄には記入せずに次の日の記入欄に進むように指示した.また,HWは開始2週間後の研修2の際に参加者に持参してもらい,研修1から2週間の間に行った対人的援助について全員に発表を求めた.さらにその後2週間HWを継続し,postの調査票とともにHWを提出するように指示した.

4. 効果評価指標

両群とも全てのテスト時点において,対人的援助,ソーシャルサポート,量的負担,心理的ストレス反応を測定した.本研究で使用した尺度は以下の通りである.なお,各尺度について,pre,post,follow-upの各時点においてクロンバックのα係数を算出する方法により信頼性の検討を行った.この3時点において測定したα係数の範囲を括弧内に示す.

(1) 対人的援助

日本版組織市民行動尺度10, 11)のうち,対人的援助に関する8項目(α=0.82~0.89)を用いた.質問項目には,「多くの仕事を抱えている人の手助けをする」,「仕事上のトラブルを抱えている人を進んで手助けする」などがある.回答は,「職場や組織における様々な行動について本人が行っているもの」を「まったく行わない」(1),「めったに行わない」(2),「たまに行う」(3),「しばしば行う」(4),「つねに行う」(5)の5段階で評定を求めた.対人的援助を行う頻度が高いほど得点が高くなるように得点化した.

(2) ソーシャルサポート

職業性ストレス簡易調査票20)のソーシャルサポート尺度(上司サポートに関する3項目:α=0.75~0.87,同僚サポートに関する3項目:α=0.84~0.88)を用いた.回答は,「職場の上司・同僚について最もあてはまるもの」を「全くない」(1),「多少」(2),「かなり」(3),「非常に」(4)の4段階で評定を求めた.ソーシャルサポートの程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.

(3) 量的負担

職業性ストレス簡易調査票20)の職場ストレッサー尺度のうち,量的負担に関する3項目(α=0.77~0.83)を用いた.回答は,「仕事について最もあてはまるもの」を「ちがう」(1),「ややちがう」(2),「まあそうだ」(3),「そうだ」(4)の4段階で評定を求めた.量的負担の程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.

(4) 心理的ストレス反応

職業性ストレス簡易調査票20)の心理的ストレス反応尺度(イライラ感に関する3項目:α=0.94~0.97,疲労感に関する3項目:α=0.82~0.84,不安感に関する3項目:α=0.67~0.74,抑うつ感に関する6項目:α=0.92~0.95)を用いた.回答は,「最近1ヶ月間の本人の状態について最もあてはまるもの」を「ほとんどなかった」(1),「ときどきあった」(2),「しばしばあった」(3),「ほとんどいつもあった」(4)の4段階で評定を求めた.心理的ストレス反応の程度が高いほど得点が高くなるように得点化した.

5. 分析方法

pre時の群間比較

介入プログラム実施前のpre時における介入群と統制群の特徴を比較するために,per-protocol解析およびITT解析の参加者の性別についてχ2検定を実施し,年齢,1日当たりの労働時間,最近1ヶ月間の時間外労働時間についてt検定を実施した.また,各効果評価指標のpre時の得点についてt検定を実施した.

プログラム効果の検討

仮説を検証するために,対人的援助,ソーシャルサポート(上司サポート,同僚サポート),量的負担,心理的ストレス反応(イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感)の得点を従属変数,時期(pre,post,follow-up)と群(介入群,統制群)を独立変数とし,per-protocol解析については2要因分散分析を行い,ITT解析については混合効果モデルによる分析を行った.単純主効果の検定における多重比較にはボンフェローニ法を用いた.また,各効果評価指標における介入群と統制群のそれぞれの効果量を,Cohen’s dを用いて以下の計算式 (1) にて算出した.

  

A:preの平均値,B:postまたはfollow-upの平均値

X:preの標準偏差,Y:postまたはfollow-upの標準偏差

III. 結 果

1. pre時の群間比較

分析の結果,per-protocol解析で用いた参加者においては,いずれの属性,効果評価指標における両群間に有意差は認められなかった(性別:χ2 (1)=0.03;年齢:t (46)=0.60;1日当たりの労働時間:t (46)=0.17;最近1ヶ月間の時間外労働時間:t (46)=0.21;対人的援助:t (46)=1.94;上司サポート:t (46)=0.56;同僚サポート:t (46)=0.68;量的負担:t (46)=0.33;イライラ感:t (46)=0.96;疲労感:t (46)=0.27;不安感:t (46)=0.20;抑うつ感:t (46)=0.74).また, ITT解析で用いた参加者においても,いずれの属性,効果評価指標における両群間の有意差は認められなかった(性別:χ2 (1)=0.03;年齢:t (60)=0.56;1日当たりの労働時間:t (60)=0.24;最近1ヶ月間の時間外労働時間:t (60)=0.91;対人的援助:t (60)=1.99;上司サポート:t (60)=1.00;同僚サポート:t (60)=0.67;量的負担:t (60)=0.06;イライラ感:t (60)=1.19;疲労感:t (60)=0.14;不安感:t (60)=0.05;抑うつ感:t (60)=0.77).

2. HWの実施結果

介入群の全参加者に対し4週間のHWを実施した結果,完遂率は100%であった.また,出勤日に1回以上対人的援助を行った比率は,HW実施者全員のHW実施期間中の総出勤日数646日中,361日(55.8%)であった.

3. プログラム効果の検討

per-protocol解析について,効果評価指標の各得点を従属変数,時期と群を独立変数とする2要因分散分析の結果をTable 1に示した.分析の結果,対人的援助において有意な時期と群の交互作用(F (2,92)=6.04, p<0.01)が認められた.単純主効果の分析の結果,介入群においてpost時,follow-up時の得点がpre時よりもそれぞれ有意に高いことが明らかとなった(p<0.001).他方,介入群と統制群のpre時の対人的援助の得点差が大きかったため,post時,follow-up時の対人的援助得点を従属変数,群を独立変数,pre時の対人的援助得点を共変量とする1要因2水準の共分散分析を行い,その結果をTable 2に示した.分析の結果,post時,follow-up時において,介入群は統制群よりも対人的援助得点が有意に高いことが明らかとなった(p<0.05).

Table 1.  Comparison of the scores between the intervention and control groups (Intervention: N=26, Control: N=22)
Groups Pre test Post test Follow-up test Time Group Interaction
M SD M SD M SD F F F
Interpersonal helping behavior Intervention 24.27 4.01 28.19 4.92 27.92 5.89 9.25*** 0.08 6.04**
Control 26.91 5.39 27.27 5.58 27.36 5.13
Social support Supervisor support Intervention 7.73 1.87 8.27 1.91 8.27 2.31 0.41 0.81 6.00**
Control 8.14 2.93 7.27 2.45 7.18 2.67
Coworker support Intervention 9.15 1.83 10.08 1.52 10.00 1.83 0.19 1.43 8.62***
Control 9.55 2.18 8.81 2.38 8.95 2.44
Job stressors Quantitative workload Intervention 8.08 2.06 8.92 1.94 8.96 2.07 4.27* 1.10 0.93
Control 7.86 2.46 8.09 2.09 8.27 2.16
Psychological stress responses Anger Intervention 6.80 2.43 6.31 2.19 6.23 2.72 0.96 2.63 0.95
Control 7.50 2.58 7.77 2.54 7.32 2.90
Fatigue Intervention 6.58 2.18 6.38 1.65 6.77 1.84 1.38 0.06 0.56
Control 6.41 2.20 6.73 2.53 7.00 2.65
Anxiety Intervention 6.15 2.52 5.92 2.45 5.88 2.47 1.18 0.00 0.07
Control 6.27 1.52 5.86 1.58 5.91 1.90
Depression Intervention 10.50 4.74 10.34 4.74 10.27 4.79 0.17 0.18 0.41
Control 9.64 3.35 10.18 3.20 9.86 3.68

M: Means. SD: Standard Deviation. ***p<0.001, ** p<0.01, * p<0.05.

Table 2.  Comparison of the scores between the intervention and control groups controlling for the scores of interpersonal helping behavior at pre test in each groups (Intervention: N=26, Control: N=22)
Groups Post test Follow-up test
EM SE F EM SE F
Interpersonal helping behavior Intervention 29.05 0.82 5.17* 28.89 0.83 4.57*
Control 26.26 0.89 26.22 0.90

EM: Estimated Means. SE: Standard Error. *p<0.05.

上司サポートにおいては,有意な時期と群の交互作用(F (2,92)=6.00, p<0.01)が認められた.しかし,下位検定の結果,有意な単純主効果は認められなかった.同僚サポートにおいては,有意な時期と群の交互作用(F (2,92)=8.62, p<0.001)が認められた.単純主効果の分析の結果,介入群においてpost時,follow-up時の得点がpre時よりもそれぞれ有意に高いことが明らかとなった(p<0.05).また,post時における介入群の得点は統制群よりも有意に高いことが明らかとなった(p<0.05).量的負担においては,有意な時期の主効果(F (2,92)=4.27, p<0.05)が認められ,多重比較の結果,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高いことが明らかとなった(p<0.05).心理的ストレス反応(イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感)においては,有意な時期と群の交互作用は認められなかった.さらに,各効果評価指標における介入群と統制群の効果量を求め,その結果をTable 3に示した.

Table 3.  Comparison of the effect size within pre test, post test and follow-up test (Intervention: N=26, Control: N=22)
Groups Cohen’s d
Post test – Pre test Follow-up test – Pre test
Interpersonal helping behavior Intervention 0.89 0.74
Control 0.07 0.09
Social support Supervisor support Intervention 0.29 0.26
Control –0.33 –0.35
Coworker support Intervention 0.56 0.47
Control –0.33 –0.26
Job stressors Quantitative workload Intervention 0.43 0.44
Control 0.10 0.18
Psychological stress responses Anger Intervention –0.22 –0.23
Control 0.11 –0.07
Fatigue Intervention –0.10 0.10
Control 0.14 0.25
Anxiety Intervention –0.09 –0.11
Control –0.27 –0.22
Depression Intervention –0.03 –0.05
Control 0.17 0.07

ITT解析について,効果評価指標の各得点を従属変数,時期と群を独立変数とする混合効果モデルによる分析の結果をTable 4に示した.分析の結果,対人的援助において有意な時期と群の交互作用(F (2,120)=5.59, p<0.01)が認められた.単純主効果の分析の結果,介入群においてpost時,follow-up時の得点がpre時よりもそれぞれ有意に高いことが明らかとなった(p<0.001).

Table 4.  Comparison of the scores between the intervention and control groups (intention-to-treat analysis) (Intervention: N=35, Control: N=27)
Groups Pre test Post test Follow-up test Time Group Interaction
EM SE EM SE EM SE F F F
Interpersonal helping behavior Intervention 24.09 0.89 27.27 0.90 27.00 0.89 5.26** 0.11 5.59**
Control 26.56 1.02 26.59 1.03 26.40 1.03
Social support Supervisor support Intervention 7.51 0.38 7.77 0.38 7.86 0.38 0.45 0.00 3.42*
Control 8.07 0.43 7.44 0.43 7.52 0.43
Coworker support Intervention 8.97 0.34 9.69 0.34 9.57 0.34 0.25 0.88 6.43**
Control 9.30 0.39 8.67 0.39 8.96 0.39
Job stressors Quantitative workload Intervention 8.11 0.35 8.89 0.35 8.89 0.35 4.43* 0.46 1.25
Control 8.15 0.40 8.33 0.40 8.44 0.40
Psychological stress responses Anger Intervention 6.69 0.42 6.41 0.43 6.26 0.43 0.76 2.31 0.19
Control 7.41 0.48 7.33 0.48 7.26 0.48
Fatigue Intervention 6.74 0.37 6.77 0.37 6.97 0.37 1.77 0.10 0.42
Control 6.67 0.42 7.00 0.42 7.30 0.42
Anxiety Intervention 6.34 0.38 6.11 0.38 6.17 0.38 0.56 0.00 0.02
Control 6.37 0.43 6.19 0.43 6.15 0.43
Depression Intervention 10.51 0.68 10.69 0.68 10.66 0.68 0.61 0.35 0.16
Control 9.74 0.78 10.30 0.78 10.12 0.78

EM: Estimated Means. SE: Standard Error. **p<0.01, *p<0.05.

上司サポートにおいては,有意な時期と群の交互作用(F (2,120)=3.42, p<0.05)が認められた.しかし,下位検定の結果,有意な単純主効果は認められなかった.同僚サポートにおいては,有意な時期と群の交互作用(F (2,120)=6.43, p<0.01)が認められた.単純主効果の分析の結果,介入群においてpost時の得点がpre時よりも有意に高いことが明らかとなった(p<0.05).量的負担においては,有意な時期の主効果(F (2,120)=4.43, p<0.05)が認められ,多重比較の結果,follow-up時の得点がpre時よりも有意に高いことが明らかとなった(p<0.05).心理的ストレス反応(イライラ感,疲労感,不安感,抑うつ感)においては,有意な時期と群の交互作用は認められなかった.

IV. 考 察

本研究の目的は,職場における対人的援助向上のための介入プログラムを実施することにより,労働者の対人的援助が上昇することを検証し,さらに,ソーシャルサポート,量的負担,心理的ストレス反応を指標として介入プログラムの効果を検討することであった.また,本研究では,介入プログラムの効果評価を行うために,per-protocol解析およびITT解析を行った結果,いずれの分析方法においても,介入群の対人的援助および同僚サポートが高まることが明らかとなった.

介入プログラムを実施した結果,介入群の対人的援助が高まる結果となったが, post時,follow-up時における介入群と統制群の対人的援助得点に有意差は認められなかった.ただし, pre時の対人的援助得点を共変量とする共分散分析の結果,post時,follow-up時において,介入群は統制群よりも対人的援助得点が有意に高いことが明らかとなった.そのため,介入プログラムの効果は認められたと考えられるものの,介入群の得点が統制群よりも有意に高くなるほどの効果が認められたかどうかというところまでは明らかにできなかった.以上のことから,仮説1は一部支持されたといえる.

同僚サポート得点については,介入群において,per-protocol解析ではpost時,follow-up時の得点が,ITT解析ではpost時の得点がpre時よりもそれぞれ有意に高く,per-protocol解析において,post時に介入群は統制群よりも有意に得点が高いことが明らかとなった.一方,上司サポート得点については,有意な時期と群の交互作用が認められたが,介入群において有意な単純主効果は認められなかった.また,量的負担,心理的ストレス反応については有意な時期と群の交互作用は認められなかった.したがって,仮説2は一部支持されたといえる.

以上のことから,本研究で実施した介入プログラムは労働者の対人的援助を高めることに対して一定の効果が認められたといえる.「職場で援助が必要と思われる人に対して,自主的に声を掛けて援助することが結果的に自分自身のソーシャルサポートの向上に繋がる」という心理セミナーを実施することは,対人的援助の向上に寄与する可能性が示唆された.また,仕事で困っている人に対する声掛けや援助を自主的に行うことで相手から感謝されることを想定したロールプレイ体験の中で,参加者が他者を助けてお礼を言われ,参加者自身の気持ちがポジティブに変化することを実感できたことも,対人的援助行動の上昇に結び付いたと考えられる.約4週間実施したHWでは,参加者が職場で援助が必要と思われる人に対して自主的に声を掛けて援助した結果,相手から感謝の言葉をもらい,援助者自身の気分がポジティブなものに変化したという記述が多く認められた(361件中290件,80.3%).援助行動は,他者を援助して良い気分になり,再び援助して良い気分を味わいたいと思うことで生起しやすくなる21).このことから,参加者が職場で対人的援助を実行すると,被援助者から感謝されて良い気分になることが心理的な報酬となり,対人的援助行動が増加する可能性が考えられる.介入プログラムの実施により,一定の上昇を示したpost時の対人的援助得点が,postから4週間後のfollow-up時も維持されていたことは,心理的な報酬によって動機づけられた対人的援助行動が介入プログラム終了後も自発的に行われ続けていたことを示唆する結果であるといえる.

ソーシャルサポートについては,介入プログラムの実施により同僚サポートの増加が認められたが,上司サポートの増加は認められなかった.先行研究では,対人的援助とソーシャルサポートとの間には正の関連が認められ,対人的援助が人間関係を良好にすることでソーシャルサポートが増加することが指摘されている14).したがって,同僚サポートに関しては,先行研究と同様に,対人的援助の一定の上昇によって人間関係が良好になった結果,ソーシャルサポートの増加が認められたと考えられる.一方,上司サポートの増加は認められなかったが,その理由としては以下のことが考えられる.第一に,参加者が上司,同僚のそれぞれに接する頻度が異なっていた可能性が挙げられる.本研究の参加者は,非管理職者で構成される班単位で業務を遂行する現場労働者であったため,勤務時間内に同僚と接触する時間は多いが,上司と接触する時間は少なかったといえる.第二に,参加者が上司および同僚の仕事内容を把握できている程度に違いがある可能性が挙げられる.参加者は,同等の立場にある同僚に対しては,仕事内容を把握しており,援助を必要とする状況を察知して対人的援助を行うことが比較的容易にできたと思われる.しかしながら,本研究の参加者は非管理職者のみであり,基本的に上司(管理職者)の職務の大部分は未経験である.被援助者の状況の曖昧度が低いほど援助行動が起こりやすい22),援助する能力や資格が自分にはないと思うことが援助行動を抑制する23)という指摘を踏まえると,非管理職者である参加者は上司の仕事内容を十分把握することができず,上司が援助を必要としているのかどうかを察知することが困難であったことや,自分が持っている知識や技能では上司を援助することができないと考え,上司に対して対人的援助を実施することが困難であった可能性が考えられる.

先行研究では,対人的援助が高くなると量的負担が増加することが指摘されている14)が,本研究では介入プログラムの実施による量的負担の増加は認められなかった.これについては,対人的援助向上プログラムの実施により参加者の対人的援助に対する意識が高まり,これまで特に対人的援助を行うことのなかった参加者も職場で対人的援助を行うようになったことが考えられる.つまり,本研究においても先行研究と同様に,援助者自身が対人的援助を行うことで量的負担が増加することに変わりはなかったと考えられるが,介入プログラムの実施によって対人的援助を行うようになった他の参加者から,逆に援助者自身が対人的援助を受け,援助者自身の量的負担が軽減される機会もあった可能性があると考えられる.そのため,他の参加者から対人的援助を受けた分,援助者自身の量的負担が軽減し,結果的に援助者自身の量的負担がそれほど増加しなかったという可能性が考えられる.このように,対人的援助が増加していくと,援助者は被援助者にもなる.そうなると,職場内で従業員同士の助け合いの輪が広がっていくこととなり,組織全体が「組織市民行動が集積すると組織の効率的および有効的機能を促進する」9)という指摘にあるような状態に至ることができる可能性が示唆される.

一方,心理的ストレス反応については,ソーシャルサポートの増加を介して心理的ストレス反応が低減することが指摘されている14)ものの,本研究では心理的ストレス反応の低下は認められなかった.これは,群にかかわらずfollow-up時の量的負担がpre時よりも有意に高かったことが一因であると考えられる.本研究で対象とした企業では,研究実施期間中に製品販売量の増加に伴う増産を行った.つまり,介入プログラムの実施に伴う介入群の量的負担の有意な上昇は認められなかったものの,follow-up時において事業所全体の量的負担がpre時よりも有意に増加していたといえる.そのため,介入プログラムによってプライマリアウトカムである対人的援助が一定の増加を示し,次に媒介変数である同僚サポートが増加し,セカンダリアウトカムである心理的ストレス反応が低下したと考えられる14)一方,本研究で対象とした企業全体における量的負担の増加が心理的ストレス反応に正の影響を与えた24)ことにより,心理的ストレス反応の低下が認められなかった可能性が考えられる.ただし,介入プログラムの実施により同僚サポートの上昇は認められているため,ソーシャルサポートの心理的ストレス反応に対する直接効果4)を考慮すると,さらにフォローアップ期間を延長すれば心理的ストレス反応が低下する可能性も考えられる.この点については今後フォローアップ期間を延長して検討することが必要である.

本研究の限界として以下の5点を指摘する.まず第1に,本研究において,サンプリングが1企業内の2事業所のみであったため,結果の一般化には限界がある.今後はランダムサンプリングによる標本抽出を行うことが必要である.第2に,研究対象となったB事業所とC事業所の各6部署のうち,両事業所で共通の製品を扱う部署は2部署に過ぎず,残りの4部署は,もう一方の事業所とは異なる製品を扱っていた.そのため,異なる製品を扱う4部署に関しては業務内容等が異なるため,両事業所間で対人的援助の生起に偏りが生じる可能性も示唆される.今後は同一の業務を行う部署間において検討を行うことが必要である.第3に,本研究では参加者が少数であったため,男女別の検討ができなかった.組織市民行動における対人的援助を行う傾向は,男性よりも女性が強い25)という指摘を踏まえると,今後は参加者を増やして男女別にプログラムの効果評価を行うことが必要である.第4に,介入群のpre時の対人的援助得点は,統制群と比較して有意差は認められなかったものの,もともと低い傾向にあったためにpost時およびfollow-up時に対人的援助得点が有意に上昇したという可能性を否定できない.今後はpre時において両群に差が認められないような適切な群分けを行った上で検討することが必要である.第5に,本研究の参加者は製造業の非管理職者のみであったため,結果の一般化には限界がある.今後は,他の業種や管理職者を対象とした介入プログラムの実施も必要である.

V. 結 論

本研究では,職場における対人的援助向上プログラムの効果評価を行い,対人的援助の上昇によって量的負担が増加するものの,ソーシャルサポートも増加し,心理的ストレス反応が低下することを検証することを目的とした.プログラム実施の結果,介入群の対人的援助および同僚サポートが有意に増加することが明らかとなった.しかしながら,上司サポート,量的負担の有意な増加,および,心理的ストレス反応の有意な低下は認められなかった.対人的援助を上昇させることで,特に同僚からのサポートを向上させることができる可能性が示唆される.

References
 
© 2015 公益社団法人 日本産業衛生学会
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