産業衛生学雑誌
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調査報告
健診機関に勤務する看護職によるストレスチェック実施状況と実施への自信
池田 千聖子佐伯 和子平野 美千代
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2016 年 58 巻 3 号 p. 89-99

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抄録

目的:2015年12月のストレスチェック実施に向けて,健診機関にはメンタルヘルスケアに加え新たにストレスチェックを実施するアウトソーシング機関としての期待が高まると考えられる.本研究の目的は,健診機関の看護職が実施しているストレスチェックの現在の状況と,ストレスチェック実施の自信とその関連要因を明らかにすることである.対象と方法:対象は,全国労働衛生機関連合会に加盟する173機関を7地区に分け,無作為に抽出した60機関の常勤看護職である.2013年11月~2014年1月に,各機関に5通ずつ無記名自記式質問紙調査を送付し調査を行った.質問項目は,個人属性,研修への参加,業務の内容,ストレスチェック実施を含むメンタルヘルスケアの実施状況である.分析方法は,ストレスチェック実施と関連する要因の検討はχ2検定を行い,有意水準を5%とした.倫理的配慮として,所属機関および必要時調査対象機関の倫理委員会の承認を得た.結果:162通の調査票が配布され,89通を回収(回収率54.9%)した.有効回答は85人(有効回答率53.1%)であった.ストレスチェックの実施について,「実施」38.8%であった.ストレスチェックの実施の自信について,「自信あり」70.6%であった.ストレスチェック実施の関連要因では,年代,経験年数,学歴,職位,産業看護継続教育の受講経験,メンタルヘルスに関する研修への参加,メンタルヘルス以外の研修への参加においては有意差がなく関連がみられなかったが,ストレスチェック実施頻度とメンタルヘルスに関する研修への参加については関連の傾向がみられた.ストレスチェック実施の自信との関連要因では,年代で自信との関連を認め,その他とは関連を認めなかった.メンタルヘルスケアの実施とストレスチェック実施の自信については,ストレスチェックなどスクリーニングの実施,ハイリスク者へのフォロー,上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応,医療機関や産業医への連携を実施している場合において自信との関連を認めた.結論:健診機関の看護職で,現在ストレスチェックを実施している者は約4割だが,業務の頻度は年一回以上が大半でまだ関わりは少ない.ストレスチェックを実施する場合の自信は約7割にあり,ストレスチェックに携わっていない場合でも,ある程度の自信をもっていた.ストレスチェック実施をきっかけとして健診機関の看護職がメンタルヘルスケアを行っていくためには,ストレスチェックの一連の実施や上司同僚・事業場内の産業保健スタッフとの連携など実践的な内容の研修を行うことで経験の不足を補い,メンタルヘルスケアの経験をつむことで実力と自信をつけていく必要がある.

I. 緒言

近年,特にバブル経済崩壊以降の自殺者数の高止まりに見られるようなメンタルへルス問題,特に労働ストレスに起因する従業員のメンタルへルス不全が顕在化し,従業員や職場の安全衛生に関する考え方は大幅に変化した.多様な労働環境の中で健康診断も受けておらずメンタルヘルスに関しては何も支援を受けていない人が約6割という現状がある.働いている人の多くが産業保健サービスを適切に受けていない状況にあるともいえる1)

職場のメンタルヘルス対策において,2006年2月に厚生労働省より「労働者の心の健康保持増進のための指針」が公示され,事業者が講ずるように努めるべきメンタルヘルスケアが明示され,その取組みが強化されることが期待されている2).各企業におけるメンタルヘルス対策への取り組みの現状においては,教育研修・情報提供や職場復帰における支援をあげる事業場が多く,メンタルヘルスケアにおける対象者や上司・周囲へのサポートの実施割合は低い3,4).メンタルヘルス対策に取り組んでいない理由の「専門スタッフがいない」「取り組み方がわからない」は改善の傾向にはあるものの,依然解消できない状況にある3,4).一方,定期健康診断の実施割合は,どの規模の事業場においても約9割以上と高い実施割合を示している5).健康診断の実施は,事業場内の産業保健スタッフが実施する場合もあるが,現在では外部委託により病院・診療所などの医療機関や健診機関が実施の役目を担っている場合が多い.産業保健活動を実施する上で受けている外部支援機関は健診機関が最も多く,支援で必要な内容として,生活習慣・ストレス等のセルフチェックの実施およびその結果を活用してのアドバイス,メンタルへルスのカウンセリングなどについての要望が高い.定期健康診断など事業場が通常必要とするサービスに加え,健康づくりのアドバイスやメンタルヘルスケアなどの多様なサービスを提供できる健診機関は,利用者が複数のサービスを1ヶ所で受けられるよう一元化する仕組み「ワンストップサービス6)」を提供できる機関として外部機関のなかで利用しやすいものである5)

2014年の改正労働安全衛生法では,ストレスチェック制度が創設されることとなった.2015年12月からは,医師,保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施し,事後の措置を講ずることが事業者の義務となる7).しかし,事業場内に専門の産業保健スタッフがいない事業場では,ストレスチェックの実施,事業者への結果通知,相談・指導などのメンタルヘルスケアの提供においては,外部機関への委託とその有効活用が必要になってくる.ストレスチェックをはじめとするメンタルヘルスケア提供の実施機関としても,事業場側からのニーズは今後も高まりをみせるものと考えられる.そのため職場のメンタルヘルスに関して必要なサービスを提供できるように健診機関の側でも外部機関として業務の受け入れ制度を整えていくことがさらに重要となる.しかしながら,今のところ健診機関に所属する看護職の業務は,一般的な健康診断業務や契約による健康相談や保健指導などの比較的支援期間が短期間で終了するケアが中心である8).そのため個別的で継続性の高い直接的なケアを労働者に提供できる機会はまだ少なく,デリケートで個別的なメンタルヘルスケアの提供の経験が少ないと思われる.

そこで本研究の目的は,健診機関に所属する看護職が行っているストレスチェックの実施頻度とその関連要因およびメンタルヘルスケア提供のうちストレスチェック実施の自信とその関連要因を明らかにし,健診機関看護職の産業保健サービスの質の向上に向けての検討を行うこととした.

専属の産業保健スタッフを雇用していない中小規模事業場にとって,定期健康診断で利用している健診機関がストレスチェックをはじめとするメンタルヘルスケアの窓口ともなることは,従業員の心と体のトータルな健康づくりに役立ち,何かあった時にすぐに連絡できる継続的な外部専門機関としての機能を果たす存在になるものと思われる1).このような健診機関に所属する看護職の活動の質を今後さらに向上させることは,特に中小規模事業場の労働衛生の発展にとっても意義があることと考える.

なお本研究では,現在自分が行っていない業務であっても,ストレスチェック実施者に対する専門研修等で一定の知識を身につけたり,他の業務の実践や経験を活用し9),ストレスチェックができると思うことを「ストレスチェック実施の自信」とした.

II. 対象と方法

1. 調査対象

全国労働衛生機関連合会(以下,全衛連とする)に加盟する健診機関173機関を,北海道・東北・関東・中部・近畿・中国四国・九州沖縄地区の7ブロックに層化し,その上で60機関を無作為に抽出した.抽出においては各ブロックに所属する機関数に応じた抽出割合を算出して地域の偏りが起こらないように配慮した.対象となった健診機関の看護職の代表者または総務担当者などの調査研究窓口担当者に電話で依頼し,調査協力の内諾を得た.協力の内諾が得られない機関があった場合には,そのブロック内で再度無作為抽出による抽出と調査研究への依頼を行い,最終的に60機関を選定した.

内諾の得られた機関には回答者用に個別の封筒に入れた依頼文・調査票・返信用封筒からなる配布物を一律5組,代表者用に依頼文と調査票の配布数及び調査結果の送付希望の有無を連絡する返信用はがきを送付した.代表看護職には調査票を渡す看護職の選定と配布を依頼した.選定にあたり,今回の対象者は健診事後面談や保健指導など事業場支援に従事する常勤の看護職であること,非常勤の看護職と診察介助や計測・採血など健診実施業務だけに従事する看護職は除いて選定することを依頼した.

2. 調査期間

調査期間は,2013年11月~2014年1月であった.調査票に同封した返信用封筒で個別に回収した.代表看護職からの返信用はがきが回収できなかった機関には,電話で調査票の配付数と事業場支援に従事する保健師・看護師の人数を確認した.

3. データ収集

調査は無記名自記式質問紙調査を郵送により行った.調査票の項目は,個人に関する項目と,メンタルヘルスケアについての項目で構成した.個人に関する項目では,個人属性について先行研究8,10)を参考に,性別,年齢,健診機関勤務の経験年数,学歴,資格,職位について質問した.研修に関することは,日本産業衛生学会勧業看護継続教育の受講経験,昨年度のメンタルヘルスに関する研修の参加回数,参加したメンタルヘルスに関する研修の有益感,昨年度のメンタルへルス以外の研修の参加回数について質問した.

メンタルヘルスケアに関する項目では,うつ対応マニュアル11)を参考に,メンタルヘルスケアの実施頻度と,ストレスチェックなどのスクリーニングを含む2次予防についてのメンタルヘルスケア実施の自信の項目で構成した.メンタルヘルスケアの実施頻度は,1次予防としてのうつ対策3問,2次予防としてのうつ対策8問,3次予防としてのうつ対策4問について「週に1回以上」「月に1回以上」「年に1回以上」「実施していない」の4件法とした.1次予防としてのうつ対策3問は「文書などによる,うつに対する正しい知識の普及・啓発活動」「心の健康やうつについて個別・集団の健康教育」「うつについての相談窓口の設置や医療機関等との連携作り」である.2次予防としてのうつ対策8問は「過重労働面談の実施」「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」「ハイリスク者へ状況確認などのフォロー」「健診後面談等で把握したうつが疑われるケースへの対応」「上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応」「うつが疑われるケースに対し医療機関・産業医への連携」「うつのスタッフに関わる上司や同僚への支援」「うつに関する健康相談」である.3次予防としてのうつ対策4問は「職場復帰プログラム策定への関与」「職場復帰に関する面談への参加」「復職後の本人の状況確認を含む支援」「復帰後の職場適応について上司や同僚への支援」である.

2次予防についてのメンタルヘルスケア実施の自信は,「過重労働面談の実施」「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」など2次予防についてのメンタルヘルスケア業務の8問について質問した.自信の程度を,「できると思う」「たぶんできると思う」「あまりできないと思う」「できないと思う」の4件法とした.

本調査の前にプレテストを実施した.プレテスト参加者は,道内と道外の健診機関に所属する事業場支援に従事している常勤の看護職12名を対象に,調査票のレイアウト,理解しづらい設問,回答に要した時間などを確認した.プレテストの結果及び指導教員からの指導をもとに,質問項目を再検討し最終的な調査票を作成した.

4. 倫理的配慮

倫理的配慮として,2013年10月に北海道大学大学院保健科学研究院の倫理委員会の承認を得た(13-59).全国の健診機関に調査票を配布し回答者の所属機関が特定されないように配慮した.また,自由意思による参加を保障し,配布や回答をしないことによる不利益は健診機関にも個人にも生じないこと,個別の返信用封筒を用いて回収し,調査票の返信をもって調査への同意が得られたものとみなすことを明記した.結果の公表について,調査結果は論文にまとめ学術集会及び学会誌等で公表すること,データは研究目的以外では使用されないことを明記した.依頼文には実施責任者の連絡先を明記し問い合わせに対応できるようにした.必要時には調査対象機関の倫理委員会の承認を得るよう依頼した.

5. 分析方法

分析に際し,回答はすべて2群に分けてχ2検定を行った.年代は「39歳以下」「40歳以上」,経験年数は「10年以下」「11年以上」,学歴は「専門学校・短期大学」「大学・大学院」,職位は「一般職」「主任・課長・部長」とした.産業看護継続教育の受講状況は,「受講なし」「受講あり」,研修への参加は「参加なし」「参加あり」とした.メンタルヘルスケア以外の研修についても同様の2群とした.メンタルヘルスケアの実施状況は,実施頻度で測定した.メンタルヘルスケアの実施頻度は,「実施していない」を「未実施群」,「年に1回以上実施」「月に1回以上実施」「週に1回以上実施」の計を「実施群」とした.2次予防についてのメンタルヘルスケア提供の自信は「できると思う」「たぶんできると思う」を「自信あり」群,「あまりできないと思う」「できないと思う」を「自信なし」群とした.

関連要因の検討について,ストレスチェックの実施およびストレスチェックの自信については各要因についてχ2検定を行い,有意水準は5%とした.期待値が5未満の場合にはFisherの直接確率検定を使用した.統計解析には,SPSS version 22.0 for Windowsを使用した.

III. 結果

1. 調査票の配布と回収

送付した300通のうち,162通が配布されたことを返信用はがきと代表看護職への電話で確認した.回収は89通(回収率54.9%)であった.回収された調査票のうち,メンタルヘルスケア提供の自信の項目で欠損値があった3通と,職位の欄が未記入であった1通を無効回答とした.最終的な有効回答は85通(有効回答率53.1%)であった.

2. 対象者の属性(表1

今回の回答者の性別は全員が女性であった.年齢は24歳から63歳で,平均年齢39.1歳(SD9.43)であった.20歳代17.6%,30歳代36.5%,40歳代31.8%,50歳代以上14.1%であった.健診機関の経験年数は1年から38年で,平均10.8年(SD7.90)であった.

表1.  対象者の属性
n=85
人数 (%)
性別 女性 85 (100.0)
年齢 範囲 24~63歳 平均 39.1歳(SD9.43)
20歳代 15 (17.6)
30歳代 31 (36.5)
40歳代 27 (31.8)
50歳代以上 12 (14.1)
健診機関の経験年数
範囲 1~38年 平均 10.8年(SD7.90)
新任期(1-5年目) 26 (30.6)
中堅前期(6-10年目) 26 (30.6)
中堅後期以降(11年目以降) 33 (38.8)
学歴 専門学校 33 (38.8)
短期大学・専攻科 16 (18.8)
大学・専攻科 34 (40.0)
大学院 2 (2.4)
資格 看護師 85 (100.0)
保健師 81 (95.3)
衛生管理者 52 (61.2)
労働衛生コンサルタント 0 (0.0)
その他の資格を有する 19
     産業カウンセラー 8
     心理相談員 2
     日本産業精神保健学会の認定専門職 1
職位 一般職 45 (52.9)
主任・係長相当 29 (34.1)
課長相当 9 (10.6)
部長相当 2 (2.4)

3. 研修の参加状況(表2

日本産業衛生学会産業看護部会産業看護継続教育の受講状況は,基礎コース・Nコース・短縮Nコースいずれかの受講経験がある者が23.5%,受講経験なし76.5%であった.

昨年度のメンタルヘルスに関する研修への参加回数は,「なし(0回)」23.5%,「1-2回」42.4%,「3-5回」21.2%,「6回以上」12.9%であった.

昨年度のメンタルヘルス以外の研修への参加回数は,「0回(参加なし)」11.8%,「1-2回」41.2%,「3-5回」31.8%,「6回以上」15.3%であった.

表2.  研修の参加状況
n=85
人数 (%)
※基礎コース:保健師,Nコース又は短縮Nコースを修了した看護師対象
 Nコース・短縮Nコース:看護師対象
日本産業衛生学会産業看護継続教育※ 受講経験なし 65 (76.5)
基礎コースのみ受講経験あり 18 (21.2)
Nコース・短縮Nコースのみ受講経験あり 1 (1.2)
両方の受講経験あり 1 (1.2)
昨年度のメンタルヘルスに関する研修への参加回数 0回 20 (23.5)
1-2回 36 (42.4)
3-5回 18 (21.2)
6回以上 11 (12.9)
参加したメンタルヘルスに関する研修の有益感(n=65) とても役に立っている 21 (32.3)
少し役に立っている 38 (58.5)
あまり役に立っていない 6 (9.2)
まったく役に立っていない 0 (0.0)
昨年度のメンタルヘルス以外の研修への参加回数 0回 10 (11.8)
1-2回 35 (41.2)
3-5回 27 (31.8)
6回以上 13 (15.3)

4. メンタルヘルスケアの実施頻度(表3

メンタルヘルスケアの業務に対し,1次予防3項目では18.8%~44.7%,2次予防8項目では25.9%~42.4%,3次予防4項目では17.7%~31.8%が実施していた.2次予防の中で,「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」については38.8%が実施していた.

表3.  メンタルヘルスケアの業務実施頻度
n=85
週に1回以上 月に1回以上 年に1回以上 実施していない
人数(%) 人数(%) 人数(%) 人数(%)
1次予防 文書などによる,うつに対する正しい知識の普及・ 啓発活動 0(0.0) 3(3.5) 13(15.3) 69(81.2)
心の健康やうつについて個別・集団の健康教育 0(0.0) 4(4.7) 34(40.0) 47(55.3)
うつについての相談窓口の設置や医療機関等との連携作り 2(2.4) 5(5.9) 10(11.8) 68(80.0)
2次予防 過重労働面談の実施 2(2.3) 10(11.8) 12(14.1) 61(71.8)
ストレスチェックなどのスクリーニングの実施 4(4.7) 5(5.9) 24(28.2) 52(61.2)
ハイリスク者へ状況確認などのフォロー 2(2.4) 10(11.8) 21(24.7) 52(61.2)
健診後面談等で把握したうつが疑われるケースへの対応 1(1.2) 9(10.6) 26(30.6) 49(57.6)
上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応 1(1.2) 6(7.1) 23(27.1) 55(64.7)
うつが疑われるケースに対し医療機関・産業医への連携 3(3.5) 8(9.4) 24(28.2) 50(58.8)
うつのスタッフに関わる上司や同僚への支援 1(1.2) 6(7.1) 15(17.6) 63(74.1)
うつに関する健康相談 2(2.3) 7(8.2) 24(28.2) 52(61.2)
3次予防 職場復帰プログラム策定への関与 1(1.2) 1(1.2) 13(15.3) 70(82.4)
職場復帰に関する面談への参加 2(2.4) 3(3.5) 14(16.5) 66(77.6)
復職後の本人の状況確認を含む支援 1(1.2) 7(8.2) 19(22.4) 58(68.2)
復帰後の職場適応について上司や同僚への支援 1(1.2) 4(4.7) 16(18.8) 64(75.3)

5. 2次予防についてのメンタルヘルスケア実施の自信(表4

スクリーニングに関する2項目のうち,「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」について,「できると思う」27.1%,「たぶんできると思う」43.5%であった.以下,できると思う,たぶんできると思うの順に述べる.

直接支援に関する4項目のうち,「ハイリスク者へ状況確認などのフォロー」は15.3%,50.6%であった.「上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応」は8.2%,41.2%であった.

間接支援に関する2項目のうち,「うつが疑われるケースについて医療機関・産業医への連携」は18.8%,35.3%であった.

表4.  2次予防についてのメンタルヘルスケア実施の自信
n=85
できると思う たぶんできると思う あまりできないと思う できないと思う
人数(%) 人数(%) 人数(%) 人数(%)
スクリーニング 過重労働面談の実施 11(12.9) 31(36.5) 27(31.8) 16(18.8)
ストレスチェックなどのスクリーニングの実施 23(27.1) 37(43.5) 16(18.8) 9(10.6)
直接支援 ハイリスク者へ状況確認などのフォロー 13(15.3) 43(50.6) 15(17.6) 14(16.5)
健診後面談等で把握したうつが疑われるケースへの対応 9(10.6) 35(41.2) 27(31.8) 14(16.5)
上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応 7(8.2) 35(41.2) 28(32.9) 15(17.6)
うつに関する健康相談 10(11.8) 36(42.4) 25(29.4) 14(16.5)
間接支援 うつが疑われるケースに対し医療機関・産業医への連携 16(18.8) 30(35.3) 24(28.2) 15(17.6)
うつのスタッフに関わる上司や同僚への支援 6(7.1) 27(31.8) 36(42.4) 16(16.5)

6. ストレスチェック実施頻度と,個人属性・研修への参加との関連(表5

ストレスチェック実施頻度と,個人属性との関連を見たところ,年代,経験年数,学歴,職位,産業看護継続教育の受講経験,メンタルヘルスに関する研修への参加,メンタルヘルス以外の研修への参加においては有意差がなく関連がみられなかったが,ストレスチェック実施頻度とメンタルヘルスに関する研修への参加についてはP=0.066(Fisherの直接確率検定)であり,関連の傾向がみられた.

表5.  ストレスチェック実施頻度と個人属性および研修への参加との関連
n=85
未実施(%) 実施(%) P
χ2検定.斜体のP値はFisherの直接確率検定による.
年代 39歳以下 27(58.7) 19(41.3)
40歳以上 25(64.1) 14(35.9) 0.610
経験年数 5年以下 16(61.5) 10(38.5)
6年以上 36(61.0) 23(39.0) 0.964
学歴 専門学校・短大 27(55.1) 22(44.9)
大学・大学院 25(69.4) 11(30.6) 0.180
職位 一般職 26(57.8) 19(42.2)
主任・課長・部長 26(65.0) 14(35.0) 0.495
産業看護継続教育 受講なし 40(61.5) 25(38.5)
受講あり 12(60.0) 8(40.0) 0.902
メンタルヘルスに関する研修への参加 参加なし 16(80.0) 4(20.0)
参加あり 36(55.4) 29(44.6) 0.066
メンタルヘルス以外の研修への参加 参加なし 6(60.0) 4(40.0)
参加あり 46(61.3) 29(38.7) 1.000

7. ストレスチェック実施の自信と,個人属性・研修への参加との関連(表6

個人属性および研修への参加のうちストレスチェック実施の自信と関連がみられた項目は,年代(P=0.033)であった.経験年数,学歴,職位,産業看護継続教育の受講経験,メンタルヘルスに関する研修への参加,メンタルヘルス以外の研修への参加については,ストレスチェック実施頻度との間に関連がみられなかった.

表6.  ストレスチェック実施の自信と個人属性および研修への参加との関連
n=85
自信なし(%) 自信あり(%) P
χ2検定.斜体のP値はFisherの直接確率検定による.
年代 39歳以下 18(39.1) 28(60.9)
40歳以上 7(17.9) 32(82.1) 0.033
経験年数 5年以下 10(38.5) 16(61.5)
6年以上 15(25.4) 44(74.6) 0.224
学歴 専門学校・短大 13(26.5) 36(73.5)
大学・大学院 12(33.3) 24(66.7) 0.496
職位 一般職 17(37.8) 28(62.2)
主任・課長・部長 8(20.0) 32(80.0) 0.073
産業看護継続教育 受講なし 22(33.8) 43(66.2)
受講あり 3(15.0) 17(85.0) 0.160
メンタルヘルスに関する研修への参加 参加なし 9(45.0) 11(55.0)
参加あり 16(24.6) 49(75.4) 0.080
メンタルヘルス以外の研修への参加 参加なし 2(20.0) 8(80.0)
参加あり 23(30.7) 52(69.3) 0.716

8. 2次予防についてのメンタルヘルスケア実施の自信と,メンタルヘルスケア実施の頻度との関連(表7

2次予防についてのメンタルヘルスケア業務8項目について,「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」の自信と関連がみられた項目は,「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」(P=0.007),「ハイリスク者へ状況確認などのフォロー」(P=0.007),「上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応」(P=0.024),「うつが疑われるケースに対し医療機関・産業医への連携」(P=0.038)の4項目で有意な関連がみられた.

表7.  ストレスチェック実施の自信とメンタルヘルスケア実施の頻度との関連
自信なし(%) 自信あり(%) P
χ2検定.斜体のP値はFisherの直接確率検定による.
過重労働面談の実施 未実施 21(34.4) 20(65.6)
実施 4(16.7) 20(83.3) 0.122
ストレスチェックなどのスクリーニングの実施 未実施 21(40.4) 31(59.6)
実施 4(12.1) 29(87.9) 0.007
ハイリスク者へ状況確認などのフォロー 未実施 21(40.4) 31(59.6)
実施 4(12.1) 29(87.9) 0.007
健診後面談等で把握したうつが疑われるケースへの対応 未実施 18(36.7) 31(63.3)
実施 7(19.4) 29(80.6) 0.084
上司の相談等から把握したうつが疑われるケースへの対応 未実施 21(38.2) 34(61.8)
実施 4(13.3) 26(86.7) 0.024
うつが疑われるケースに対し医療機関・産業医への連携 未実施 19(38.0) 31(62.0)
実施 6(17.1) 29(82.9) 0.038
うつのスタッフに関わる上司や同僚への支援 未実施 21(33.3) 42(66.7)
実施 4(18.2) 18(81.8) 0.179
うつに関する健康相談 未実施 19(36.5) 33(63.5)
実施 6(18.2) 27(81.8) 0.070

IV. 考察

1. 対象者の特徴

今回の対象者の年齢や経験年数には幅があり,先行研究8,12)と同様に,健診機関では様々な年齢や経験の産業看護職が事業場への支援を行っていた.保健師の有資格者が多く,健康相談など事業場への支援には産業看護の専門家として保健師が従事していることがうかがわれた.看護関連の最終学歴について,大学・専攻科卒が最も多く,近年の看護教育が大学教育主体となっている傾向に一致していた.年齢について,20歳代が17.6%であり,新卒又は経験年数の短い産業看護職においても健診機関が就業先として選択されていた.衛生管理者の資格は61.2%が保有していた.先行研究では保健師の65.2%8)~86.8%13)が保有しており,今回の対象者は少ない傾向にある.

日本産業衛生学会産業看護部会産業看護継続教育の受講経験がある者は23.5%であった.先行研究14)では,産業看護師登録に対する考えとして健診機関の看護職の23.1%が「現在申請中」「取得予定」であることから,健診機関においては産業看護師登録につながる継続教育への関心はあまり高くない状況であった.昨年度の研修参加状況において,メンタルヘルスに関する研修には76.5%,メンタルへルス以外の研修には88.2%が1回以上参加していた.メンタルへルス以外の研修の内容は明らかではないが,今回の対象者のメンタルへルスへの関心は高く,必要なテーマとして選択して研修に参加していたと考えられる.

2. ストレスチェック実施と関連する要因

「ストレスチェックなどのスクリーニングの実施」は38.8%が年に1回以上実施していた.今回の対象者において,実施している者のうち週に1回以上実施している者は4.7%,月に1回以上実施している者は5.9%にとどまり,高い頻度で実施している者はまだ少なかった.職位や学歴などの個人属性とストレスチェックの実施頻度についての関連はみられなかった.全衛連に所属する健診機関の常勤看護職を対象とした今回の調査において,ストレスチェックの実施は上位の職位にある人や経験年数の長い人など一部の限られた人が担当する業務ではなく,健康相談やその他のメンタルヘルスケアと同じように従事する通常業務として行う業務であったと考えられる.ただしメンタルヘルスに関する研修への参加とストレスチェックの実施頻度について関連の傾向がみられ,研修参加者がストレスチェック業務に従事している傾向が推察された.

産業看護職の業務には「健康診断」に関することや「保健指導」,「健康教育」,「メンタルヘルス対策」などの健康管理分野および「他職種等とのコーディネート」,「保健計画・評価」などの業務があるといわれており,先行研究13)では,そのうち「メンタルヘルス対策」については,参画割合は77.3%であり,そのうち“よくおこなっている”人が50.4%を占めていた.企業外労働衛生機関の産業看護職において,メンタルヘルスケアは今後比重をかけたい業務と考えられていて8),事業場の産業看護職だけでなく健診機関においてもメンタルヘルスケア実施のための実力をつけることが急務である.メンタルヘルスケアの業務は事業場と健診機関の契約によって範囲が決まるものである.現在実施している者は約4割だが実施する場合の自信は7割にあり,契約が結ばれた際には実施ができる能力が高い集団であることが伺える.現在行っていない業務であっても,ストレスチェック実施者研修などの専門研修に参加するなどいつでも業務に取り組むことができるような能力をつけておくことが必要である.更には,実際のストレスチェック業務が始まった際にはOJTで評価できる仕組み作りが望まれる.

ストレスチェックの実施は今後多くの産業看護職が取り組む分野であり,健診機関においては今後提示される「外部機関への委託に関わる留意事項」7)を基に,企業と契約を結んで産業医や衛生委員会との連携を図りながら行うコーディネート力も必要とされる業務である.健康管理とメンタルへルスを分けて考えるのではなく,健康管理における心身の対応の一環として取り組むことを考え方の基本として,事業場へサービスを展開する15)ことは健診機関の強みである.契約の際にストレスチェック実施の一連の流れと健診機関の産業看護職が受け持つ役割を明確にして,専門性を発揮しながら業務を行う体制が重要である.具体的には,健診機関看護職は,企業にとっては事業場外のスタッフである.産業保健サービスの提供先となる事業場の特性を理解するアセスメント力を基本にした上で,1次予防のための情報提供,2次予防としての過重労働対策やうつ対策,3次予防としての復職支援などを支援先の事業場に合った形で提供する役割を担い,その上で事業場内産業保健スタッフと同様に,産業医や安全衛生委員会と連携してメンタルヘルスケアを行う体制が望ましい.

3. ストレスチェック実施の自信に関連する要因

ストレスチェック実施の自信と関連する要因について,年代と自信について関連がみられたが,経験年数については関連がみられなかった.産業看護職への先行研究12)より,業務経験年数と業務に関する自信の関係性には関連があるとされている.メンタルヘルスケアの項目である「本人からや上司からのメンタルヘルスに関する健康相談」についても同様の結果が得られていた.健診機関看護職に対する今回の調査では,健診機関での経験年数は保健指導や健康相談などの実施に対する自信とは異なり,ストレスチェックにおける自信への影響は少なかった.ストレスチェックは健診機関での業務として新しい分野のため,健診機関での経験年数と業務の自信が結びつくものではなく,専門の研修参加で知識をつけるなどの準備をすることが自信に影響すると考えられる.

今回の対象者は,ストレスチェックなどのスクリーニングの実施の自信について70.6%が「自信あり」と回答していた.実施経験があるのは約4割であるが,週1回以上と月1回以上実施しているのは約1割,年1回以上実施しているのは約3割とまだ日常的な業務といえるほどの頻度ではなかった.自分が行っていない業務であっても,メンタルヘルスケアやストレスチェックについての見識をもち実践に備えることは重要である12).ストレスチェック実施に対する自信についての全国的な調査結果は見当たらないが,今回は全衛連に所属している健診機関の看護職を対象としていたため,全衛連が提供しているストレスチェックの一様式である「心とからだのトータルチェック」について研修への参加経験や何らかの見識があり,そのことが現在実施していなくても自信があると回答している一因となっているとも考えられる.

そのほかのメンタルヘルスケア提供への自信においても,うつに対する健康相談など直接支援についての自信がある者の割合が高かった.過重労働面談の実施やうつに関する健康相談などのメンタルヘルスケアを年に1回以上経験している者は,ストレスチェック実施の自信の有無とも関連がみられ,他の看護技術の自信の習得と同様に16),メンタルヘルスケアの一環であるストレスチェック実施についても一般的なメンタルヘルスケア実施の経験によって自信をもつことができるのは自然な流れである.

今までの健診機関の看護職の業務は,一般的な健康診断業務やその事後指導,特定保健指導のように比較的支援期間が短期間で終了するケアが中心であり8),事業場や従業員と直接的なケアでの深いつながりを持ちにくく,個別性の高いメンタルヘルスケアの提供は困難な場合が多かったと思われる.これからは,健診機関にもストレスチェックをはじめとしたメンタルヘルスケアに限らず,健康診断の業務に加えて何かあった時にすぐに連絡できる継続的な外部専門機関としての機能も求められている1).自分が行っていない業務であっても,メンタルヘルスケアやストレスチェックについての見識をもち実践に備えることは重要である12).このような変化に対応するための自己研鑚として,健診機関の看護職にとって研修は有効な機会となっていた.

今回の対象者においては,上司同僚への支援が実施頻度も自信も低い結果であった.ストレスチェックによる集団的な分析の実施や効果的なセルフケアへの情報提供などが今後必要となることから7),上司同僚,事業場内スタッフや産業医含めた関係者との連携の実力を高めることも必要である.

4. 提言

今回導入されるストレスチェックをきっかけとして,市場が拡大し多くの外部機関がビジネスとして参入した場合,資質の伴わないスタッフによるメンタルヘルスケアが事業場や従業員に提供される可能性を否定できない.今回の研究で,健診機関看護職においてすでに約4割がストレスチェックを実施していたことから,今後は更に外部実施機関として普及が進むと考えられる.その際に健診機関がストレスチェックだけでなく健康診断を含めた心と体の健康づくりや働きやすい職場環境作りに貢献するために,健診機関の看護職にもいっそうの産業保健スキルの向上が望まれる.具体的には,①ストレスチェックや過重労働面談の場面から,抑うつ状態のアセスメントとセルフケアの情報提供ができる実践力,②うつの健康相談や本人支援の場面から,産業医をはじめとする他機関連携ができる実践力が必要と考えられる.

ストレスチェックは,まだ実施頻度は少なかったが健康相談などの直接的なケアと同様に自信がある者が多かった.実施の機会が少ない場合においても知識を習得し見識を深め経験を積むことができるような実践的で効果的な内容の研修を検討し,研修への参加のしやすさや情報提供にも配慮が必要である.看護職も自らの業務調整や情報収集を行って研修に参加し,知識と自己効力感を高めて自信を持って業務にあたることが必要である.複数の事業場を支援できる立場にある健診機関の強みを生かした産業保健サービスを提供していけるために,「産業保健師キャリアラダーイメージ10)」を参考に,健診機関看護職独自の到達目標を明確にして更なる産業保健スキルのレベルアップをすすめていけるような体制作りが必要である.

5. 本研究の意義と限界

本研究の意義として,健診機関の看護職が実施するメンタルヘルスケアについて全国労働衛生機関に加盟する全国の健診機関を対象に調査を行ったことで,ストレスチェックやうつに関する健康相談などのメンタルヘルスケアを行う健診機関看護職の実践の現状やうつ病対策への自信を明らかにすることができた.現在すでにストレスチェックには約4割が関わっており,健診機関の看護職にはストレスチェック実施に対する準備性があることを示唆しているものとなった.

本研究の限界は,今回の質問紙ではストレスチェック実施の具体的内容について明確な業務の範囲を限定していない.業務頻度についても実際の年間実施回数や頻度による実施経験の度合いは明確にできていない.ストレスチェックをはじめとした健診機関の産業看護職のメンタルヘルスケア業務について,契約の有無と契約に基づく具体的な業務内容は明らかにされていない.契約内容による業務の偏りが生じることが考えられるため,事業場の支援における契約の状況を確認する必要がある.また,代表看護職が配布者を選定する場合にも,配布する側の意図が入る可能性もある.

限られた時間の中で効果的な支援を自信を持って行うために,メンタルヘルスケア業務の具体的内容と実施頻度についてさらに詳しく把握して検討することと,専門的な研修などで習得した知識がメンタルヘルスケア実施に生かせているかどうかの確認をOJTで行いながら,経験の少ない業務であっても自信をつけていける工夫が必要である.その結果として,ストレスチェック実施における健診機関の看護職の関わりがさらに効果的なものになるためには,より効果的な能力開発につながる調査を行い,結果を研修内容などに還元していく必要がある.

V. 結論

健診機関の看護職において,現在ストレスチェックを実施している者は約4割だが,業務の頻度は年一回程度が大半でまだ関わりは少ない.ストレスチェックを実施する場合の自信は約7割で,ストレスチェックに携わっていない場合でも,ある程度の自信をもっていた.今回の労働安全衛生法の改正をうけて導入されるストレスチェックをきっかけとして健診機関の看護職がメンタルヘルスケアを行っていくためには,ストレスチェックの一連の実施や上司同僚・事業場内の産業保健スタッフとの連携など実践的な内容の研修を行い,メンタルヘルスケアの経験と自信をつけていく必要がある.

謝辞

本研究にあたり,調査票への回答にご協力いただきました健診機関に勤務する看護職の皆様,ならびに調査票配布やはがきでのご回答のご協力を賜りました健診機関の代表看護職の皆様,プレテストにご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます.

なおこの研究は平成24(2012)年度日本産業衛生学会産業看護部会研究活動費助成事業の対象として実施した研究の一部である.

文献
 
© 2016 公益社団法人 日本産業衛生学会
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