産業衛生学雑誌
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編集者への手紙
岡田晃,中村裕之:話題 低レベル全身振動と腰痛の量反応関係についての検証(産衛誌2013;55(2):62-68)について
西山 勝夫原田 規章辻村 裕次
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2016 年 58 巻 3 号 p. 106-107

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はじめに

話題「低レベル全身振動と腰痛の量反応関係についての検証(産衛誌2013;55(2):62-68)」1)(以下,話題)においてなされた,「西山ら:総説 全身振動の職業的曝露と健康の関連性―主に背腰部症状について」2)(産衛誌54(4):121-40,2012)(以下,拙著)に対する批判に対し,本稿において反論する.

1. レビューされる疫学文献の抽出

話題は「MEDLINE掲載の1975年から2012年で抽出された和文と英文論文を,キーワードとしてwhole body vibration, lumbagoあるいはlow back pain, epidemiologyとして抽出された総説と,その総説の中で全身振動曝露と腰部症状の因果関係について論じているもの,あるいは全身振動の曝露量と背腰部症状の量反応関係を表したものとして引用されている論文を対象とした」としているが,肝心の抽出された総説が明らかされていない.拙著で抽出されたレビュー文献3-8)の内,Bovenzi & Hulshof4),Barondes6)を話題は対象にあげていないがその理由の説明はない.

「全身振動曝露と腰部症状の因果関係について論じているもの」は数百を下らないので,それぞれの総説はそれぞれの著者が自ら設定した抽出基準を満たしたものをレビューしているものと考えられるが,話題は抽出基準について言及していない.拙著のレビュー文献3-8)では抽出基準を満たしたものが重複を除くと28文献30研究であるが,それら以外の,抽出基準を満たさなかったとみられるものが話題では「対象」としてあげられている.しかし,話題は,それぞれが引用された総説やその抽出理由が明らかにされていない.

2. LBPの有無と全身振動曝露の有無の関係

話題が「1.0 m/s2を超えない場合,全身振動の腰部あるいは腰痛への影響の可能性は極めて低いといえる」としていることは根拠薄弱である.

拙著のレビュー結果では,Alcouffeら以外の27文献29研究でLBPの有無と全身振動曝露の有無に関する2値ロジスティック解析で関連が有意であることが明らかにされた.この中には実効値について2分割した研究もあるが,分割点は高々0.6 m/s2である.この拙著のレビュー結果は,疫学における因果関係の妥当性の基準中の関連の強固性(strength),関連の一致性(consistency)に照らし合わせると,全身振動曝露がLBPの原因としてあげられることを支持するものである.しかし,話題はこの事について全く言及していない.

3. 全身振動曝露の指標

関連の強固性に関しては,量反応関係が認められればなおよいのであるから,瞬時値の類の実効値以外に全身振動曝露についていかなる指標を用いれば,量反応関係が確認できるかということが,研究されてきた.

拙著と同様に,話題も,Bovenzi10)が「曝露指標としては,m/s2よりも累積振動曝露量が腰痛発症の優れた指標であることを示したものであること」を認めている.

しかし,8時間等価周波数補正加速度実効値(Asum(8))は,1日の累積曝露量(1日当りの実効値の時間積分値)を8時間の曝露時間に等価変換した指標であるから,1日分ではあるが累積振動曝露量が繰り込まれており,同じ単位(m/s2)が使われているといえども,瞬時値の類の実効値とは性質が異なる.したがって,LBPとの量反応関係を論じる際に,Asum(8)を,話題のように,実効値と同列に扱うことはできない.

以上の視点から,Bovenzi10)Asum(8)のような新たな指標で量反応関係を解明したことに,拙著が着目したことを見逃してはならない.

4. LBPとAsum(8)との量反応関係

話題は,Bovenzi11)が示した3×3分割表の「素データ(補正前のraw data)」をわざわざ2×2分割表にまとめ直してχ2検定を行い「加速度が小さいときの方が有意に腰痛の症状が重くなっている.したがって,量反応関係が認められるとはAsum(8)に限ってはありえないといえる.」と述べている.しかし,Bovenzi11)は,LBPと年齢やBMIなどの個人属性だけでなく,労働に関連したPhysical activity,Perceived physical work loadの要因が,LBPと全身振動曝露量の関連に交絡因子として関与していたことから,素データの単純なクロス集計によってではなく,ロジスティック解析によって検討することとし,尤度比検定により,傾向性が有意であるという結果を得たのである.したがって,話題のような単純化した2×2分割表のχ2検定による結果でもって,Bovenzi11)が示した有意な結果を否認することには無理がある.

5. おわりに

拙著は,1975年の基準12)のレビューにおいて,同基準が改訂されることの必要性を示し,文献レビューにおいて,LBPと関連させて基準を見直すことができるような研究があることを明らかにしたが,同基準に変わるべき新たな全身振動の「許容値」を示すことは全く行っていないので,その範囲において,話題に対する反論を行った.

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