産業衛生学雑誌
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調査報告
複数企業の一般労働者を対象としたWork Limitations Questionnaire日本語版(WLQ-J)の信頼性・妥当性の検討
井田 浩正中川 和美田上 明日香中村 健太郎岡村 達也
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2017 年 59 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

目的:プレゼンティーズムが企業にもたらすコストはアブセンティーズムよりも大きいことが先行研究で示されている.本邦において,従業員に対する健康増進の取り組みの結果を仕事のパフォーマンスとして評価することが,企業経営の観点からより重要になってきている.筆者らは先行研究において,Lerner Dらが開発したプレゼンティーズム測定尺度であるWork Limitations Questionnaire(WLQ)の日本語版(WLQ-J)を開発し,IT企業,医療機関の従業員710名を対象としてWebによる調査を行い,WLQ-Jの信頼性・妥当性についての検証結果を報告した.本研究では,先行研究よりも多数の企業,業種の従業員を対象に,開発研究と同様の方法でWLQ-Jの信頼性・妥当性について検証を行うことを目的とした.対象と方法:14企業,9業種の従業員4,440名を解析対象者として,WLQ-Jの信頼性・妥当性の検証を行った.解析対象者は,2014年9月から2015年1月にWeb又は質問紙によりWLQ-J及び職業性ストレス簡易調査票に回答した4,712名の対象者から抽出した.結果:解析対象者の平均年齢は40.3±11.8歳(開発研究では33.2±9.5歳)で,男性が77.9%,女性が21.1%であった.WLQ-Jの因子構造が開発研究と同様に原版と一致したことから,WLQ-Jの因子的妥当性が支持された.また,尺度全体及び下位尺度毎のCronbachのα係数を求めた結果,尺度全体で0.87(開発時0.97),下位尺度で0.77-0.94(開発研究0.88-0.95)となり,十分な内的一貫性が認められた.WLQ-Jの4つの下位尺度と職業性ストレス簡易調査票のストレス反応との相関を求めた結果,0.28-0.64(開発研究0.39-0.60)で有意(本研究,開発研究ともにp<0.01)な相関が示された.さらに,開発研究と同様にストレス反応が大きくなるにつれて,有意(開発時p<0.01,本研究p<0.001)にWLQ-Jの下位尺度得点が高くなる量反応関係が確認され,WLQ-Jの基準関連妥当性が支持された.結論:開発研究よりも多数の企業,業種で,平均年齢及び男女比が本邦の産業全体に近い母集団において,WLQ-Jの信頼性・妥当性が示されたことから,WLQ-Jが本邦の多種多様な母集団において,安定性を有するプレゼンティーズム尺度として活用可能であることが示唆された.

I. はじめに

健康問題による労働生産性の低下は,休業時のみならず出勤している場合にも生じうる.欧米の産業保健や労働科学の分野では,出勤しているが健康問題により労働遂行能力が低下している状態をpresenteeismと定義し1),presenteeismが企業に与える損失は,健康問題全般による休業を表すabsenteeismによる損失額や医療費よりも大きく,産業分野におけるpresenteeismの影響が大きいとの報告がある2).Presenteeismは客観的に把握することが難しく,労働遂行能力が低下した状態でabsenteeismに移行するまで働き続けることによって,長期化することも起こりうる.Presenteeismの帰結は,quality of life(QOL)及び健康状態の悪化,健康関連コストの増加,他の労働者への悪影響,労働災害の増加,製品やサービスの質の低下などが考えられ3),休業をとるべき健康状態にありながら仕事を続けることで,absenteeismに至る労働者が増加する可能性も指摘されている4).対策が行われにくく,損失が大きいことから,presenteeismは企業にとって組織全体の生産性に関わる,いわば見えざる経営課題である.

昨今,健康経営を実践する企業を中心に,本邦において労働者の健康状況や健康増進の取り組みを経営の視点から評価することが,より重要になってきており,労働生産性の測定尺度が徐々に注目されている.山下らは,労働遂行能力(英語の“work performance”に相当)を「労働者が主観的に認識する,労働を成し遂げるための能力」,労働生産性(同“work productivity”)を「産出量を生産に投入された労働力で割った比率」と定義し,労働遂行能力が労働生産性に影響を与えるとしている3).すなわち,労働遂行能力が日常的に投入される労働力の生産性として最終的な労働生産性に相応の影響を与えるとすると,労働生産性の向上を図る上で,労働遂行能力の低下の状況を把握し,改善を図ることの意義は大きいと考えられる.

Presenteeismを測定する尺度は米国を中心に開発されており,本邦で活用できる尺度が少ないことなどから,筆者らは1998年にLerner Dらが開発したpresenteeism測定尺度であるWork Limitations Questionnaire(WLQ)5,6)の日本語版(以下WLQ-Jとする)を開発(以下,開発研究とする)した7).WLQは,海外で高い信頼性と妥当性が確認され5,6),医学・健康分野で広く活用されており,医学分野では疾患の社会的影響についての定量評価8-13),産業保健分野ではうつ病の労働者の職業性ストレスと労働生産性の低下との関係14)など,豊富な活用実績がある.また,WLQは過去2週間の健康問題による労働遂行能力への影響を4つの下位尺度25問により把握できることや,質問への回答結果をアルゴリズムにより労働遂行能力低下率とすることで,労働遂行能力低下率の算出を回答者の主観に委ねないこと,労働遂行能力低下率に平均給与等を乗じることにより,金銭に換算することが可能であることなどの特徴がある.産業保健における実践上のメリットとしては,労働遂行能力を数値として把握できるのみならず,「時間管理」「身体活動」「集中力・対人関係」「仕事の結果」の4つの活動分野(下位尺度)において,健康上の問題がどの分野にどの程度の障害を与えているのかといったことについて具体的に把握することができるなどの点がある.また,労働遂行能力に関するエビデンスの活用により,深いレベルでの対策の検討や経営サイドの理解や納得性の向上,経営サイドからの支援の獲得が容易になるなどの可能性が考えられる.筆者らは開発研究において,医療機関の看護師337名,IT企業の従業員373名を解析対象者としてWLQ-Jの信頼性・妥当性についての検証を行い,下位尺度が原版と一致し,良好な内的一貫性,基準関連妥当性が確認されたとの結果を2012年に報告した7)が,母集団の業種,解析対象者数が少数であったことが開発研究の限界となっていたことから,今回,開発研究よりも多くの企業,業種の一般労働者から成る母集団において,WLQ-Jの信頼性・妥当性の検証研究を行なうことを本研究の目的とした.

II. 対象と研究方法

1. 調査期間及び解析対象者

2014年9月~2015年1月にWeb又は質問紙によりWLQ-J及び職業性ストレス簡易調査票に回答した14企業,9業種の労働者4712名に対し,欠損回答及び同一人物による過去の複数回答を除外して得られた4440名(Webによる回答者3909名,質問紙による回答者531名)の回答を解析対象とした.解析対象者の業種は製造業21.6%,情報通信業6.3%,建設業11.0%,金融・保険業6.5%,教育・学習支援業7.6%,学術研究・専門技術サービス業9.1%,卸売・小売業21.5%,運輸・郵便業12.3%,その他のサービス業4.1%であった.

2. 調査内容

1) 調査項目

WLQ-Jは「時間管理」(5項目),「身体活動」(6項目),「集中力・対人関係」(9項目),「仕事の結果」(5項目)の4つの下位尺度から構成される25問の質問項目を有する自記式の調査票である5,6).質問項目は,過去2週間において,健康問題により職務が遂行できなかった時間の割合や頻度を「常に支障があった」-「まったく支障はなかった」の5段階及び「私の仕事にはあてはまらない」から選択して回答する.WLQ-Jでは,「私の仕事にはあてはまらない」への回答は欠損値として扱われるが,下位尺度に含まれる項目の半数以上に回答している場合に限り,欠損値を他の項目の得点の平均値で補正するhalf-scale ruleを適用している.WLQ-Jの下位尺度の合計点は,それぞれ0-100点(まったく支障はなかった-常に支障があった)の得点範囲で数値化し,これらの下位尺度得点を用いてアルゴリズムにより労働遂行能力低下率を算定した.

職業性ストレス簡易調査票は,仕事のストレス要因(17項目),ストレス反応(29項目)修飾要因(社会的支援9項目,満足度2項目)の3つの下位尺度57項目で構成されている.ストレス反応は心理的ストレス反応と身体的ストレス反応から構成され,心理的ストレス反応は活気(3項目),イライラ感(3項目),疲労感(3項目),不安感(3項目),抑うつ感(6項目)の18項目,身体的ストレス反応は身体愁訴に関する11項目から構成され,各項目は過去1か月間を対象に「ほとんどなかった」-「ほとんどいつもあった」の4段階で評価される.本研究においては,ストレス反応の素点の総計を基準関連妥当性の外的基準とし,ストレス反応の下位尺度ごとに素点の合計を求め,総計することにより得られた29-116点のスコアを活用した.

2) 開発研究と本研究の母集団の比較

開発研究と本研究で,母集団の平均年齢,年代別の人数割合,男女比率,職業性ストレス(ストレス要因,ストレス反応,修飾要因),労働遂行能力(時間管理,身体活動,集中力・対人関係,仕事の成果)の比較を行った.

3) 因子的妥当性の検討

WLQ-Jのアルゴリズムが4つの下位尺度で成立していることから,因子数を4とすることについての妥当性を検証するために,開発研究と同様に主因子法による因子分析を行なった.スクリープロットの結果から因子数を想定し,再度,主因子法による因子分析を行い,因子負荷量を求め,因子負荷量(絶対値)の基準を0.35として下位尺度化を試み,最終的な因子数を決定した.

4) 信頼性の検討

尺度全体および各下位尺度について,Cronbachのα係数を求め,下位尺度の内的一貫性を検討した.

5) 基準関連妥当性の検討

職業性ストレス簡易調査票が多様な産業分野で活用されていること,労働者のストレスを幅広く捉えることができること15),労働遂行能力の低下率が職業性ストレスと関係していること14),職業性ストレス簡易調査票の下位尺度であるストレス反応の信頼性や因子的妥当性が確認されていること15)などから,開発研究では職業性ストレス簡易調査票のストレス反応を外的基準としたが,本研究においても同様とした.

WLQ-Jの下位尺度と職業性ストレス簡易調査票のストレス反応とのpearsonの相関係数を求めた.また,ストレス反応の素点の総計を平均値±SDを用いて「低ストレス群」「中ストレス群」「高ストレス群」の3群とし,3群間でWLQ-Jの各下位尺度の平均値を比較した.

6) 統計ソフト

本研究のデータ解析では,統計解析ソフトIBM SPSS Statistics Version22を用いた.

3. 倫理的配慮

WLQ-J及び職業性ストレス簡易調査票への回答は,自由意志に基づいて行われ,匿名化された分析結果を公表することについて,対象者から同意が得られ,提供された回答を本研究で用いることとした.回答はSOMPOリスケアマネジメント株式会社のデータベースに保存され,第三者の閲覧を防ぐ厳格なセキュリティシステムにより管理されている.また,本研究の実施について,外部の専門家,一般の有識者から構成される損保ジャパン日本興亜ヘルスケアサービス疫学研究倫理審査委員会からの承認を取得した.

III. 結果

1. 開発研究と本研究の母集団の比較

開発研究7)と本研究の母集団を比較すると,平均年齢が開発研究で33.2±9.5歳,本研究で40.3±11.8歳,男女比率が開発研究で男性39.7%,女性60.3%,本研究で男性77.9%,女性22.1%で,本邦の産業全体の労働者の平均年齢16)が42.1歳,男女比率17)が男性66.6%,女性33.4%であることから,本研究の母集団は本邦の産業全体の労働者に近かった.

労働遂行能力(Table 1)については,時間管理,仕事の成果,労働遂行能力低下率で本研究の方が開発研究よりも有意(時間管理,仕事の成果:p<0.001,労働遂行能力低下率:p<0.05)に良好であった.一方,身体活動では開発研究のほうが有意(p<0.001)に良好であった.職業性ストレス簡易調査票のストレス要因(Table 1)については,対人関係で開発研究の方が本研究よりも有意(p<0.001)に良好であったが,対人関係以外では本研究の方が有意(p<0.001)に良好であった.

ストレス反応(Table 1)については,活気で開発研究の方が本研究よりも有意(p<0.001)に良好であったが,疲労感,抑うつ感,身体愁訴及びストレス反応の総計では,本研究の方が有意(疲労感,抑うつ感,ストレス反応の素点合計:p<0.001,身体愁訴:p<0.05)に良好であった.

修飾要因及び満足度(Table 1)については,上司の支援,同僚の支援,家族や友人等の支援,仕事や生活の満足度で本研究の方が開発研究よりも有意(p<0.001)に良好であった.

以上より,総じて本研究の母集団の方が開発研究の母集団よりも労働遂行能力が高く,職業性ストレスが低かった.

Table 1. Characteristics of the study population
All (Development) Company (Development) Hospital (Development) All (Present)
n=710 n=373 n=337 n=4440
***p<.001 p<.05
“All (Development)” and “All (Present)” represent previously conducted development study and presently conducted study, respectively. (p<.05) and **(p<.001) represent significant difference at levels of 0.05 and 0.001 in values between All (Development) and All (Present).
Age. No. (%)
-20 167 (3.76)
20-29 331 (46.62) 134 (35.92) 197 (58.46) 832 (18.74)
30-39 163 (22.96) 86 (23.05) 77 (22.85) 1054 (23.74)
40-49 166 (23.38) 127 (34.05) 39 (11.57) 1365 (30.74)
50+ 47 (6.62) 23 (6.17) 24 (7.12) 1022 (23.02)
Unknown 3 (0.42) 3 (0.80) 0 (0.00)
Gender. No. (%)
Male 282 (39.72) 265 (71.05) 17 (5.04) 3460 (77.93)
Female 428 (60.28) 108 (28.95) 320 (94.96) 980 (22.07)
Work Limitations, Mean (SD)
Time management 23.20 (22.21) 17.29 (18.21) 29.74 (24.33) 19.41*** (20.44)
Physical tasks 19.75 (20.77) 14.79 (16.27) 25.24 (23.66) 27.23*** (23.88)
Mental-interpersonal tasks 23.58 (19.61) 20.31 (17.61) 27.19 (21.06) 22.20 (18.79)
Output tasks 26.78 (23.26) 20.61 (20.55) 33.61 (24.18) 22.87*** (22.01)
At-work productivity loss (%), Mean (SD) 6.55 (5.04) 5.24 (4.37) 8.00 (5.33) 6.146 (4.59)
Brief Job Stress Questionnaire, Mean (SD)
Job stressors, Mean (SD)
Quantitative job overload 9.35 (2.01) 8.78 (2.03) 9.99 (1.78) 8.71*** (2.12)
Qualitative job overload 9.44 (1.86) 8.72 (1.69) 10.24 (1.72) 8.61*** (1.85)
Physical demands 2.38 (1.17) 1.52 (0.69) 3.33 (0.78) 1.94*** (0.89)
Interpersonal conflict 5.93 (1.78) 5.96 (1.84) 5.90 (1.71) 6.44*** (1.87)
Poor physical environment 2.24 (0.91) 2.31 (0.99) 2.16 (0.81) 2.07*** (0.90)
Job control 7.40 (1.91) 7.83 (1.99) 6.91 (1.70) 7.13*** (1.98)
Skill underutilization 3.07 (0.72) 3.06 (0.74) 3.09 (0.70) 2.03*** (0.77)
Suitable Job 2.66 (0.75) 2.69 (0.74) 2.64 (0.77) 2.20*** (0.75)
Rewarding Job 2.88 (0.77) 2.74 (0.76) 3.03 (0.76) 2.22*** (0.80)
Stress responses, Mean (SD)
Vigor 6.46 (2.24) 6.55 (2.27) 6.36 (2.20) 8.28*** (2.18)
Hostility 6.47 (2.27) 6.20 (2.24) 6.77 (2.27) 6.59 (2.33)
Fatigue 7.40 (2.57) 6.65 (2.38) 8.22 (2.53) 6.64*** (2.43)
Anxiety 6.45 (2.30) 6.20 (2.21) 6.73 (2.37) 6.33 (2.16)
Depression 11.32 (4.33) 10.94 (4.18) 11.73 (4.45) 10.80*** (3.97)
Physical complaint 20.54 (6.76) 20.08 (6.58) 21.05 (6.94) 19.90 (6.08)
Social support and others, Mean (SD)
Supervisor support 7.67 (2.13) 7.75 (2.11) 7.58 (2.16) 7.33*** (2.13)
Coworker support 8.41 (2.19) 8.22 (2.12) 8.63 (2.24) 6.86*** (2.02)
Family and fiends support 9.68 (2.07) 9.43 (2.20) 9.97 (1.89) 5.44*** (2.13)
Satisfaction of work or family life 5.60 (1.30) 5.73 (1.28) 5.46 (1.30) 4.22*** (1.27)
Sum of Stress responses Mean (SD) 60.71 (16.28) 58.53 (15.64) 63.14 (16.65) 58.53*** (15.17)

2. 因子的妥当性

スクリー基準18)を適用した結果,因子が6以降で初期の固有値が1を切ることから,因子を1~5の範囲で想定し,因子1と2,2と3,3と4,4と5,5と6の間で初期の固有値の差を求めた結果,それぞれ8.390,1.401,0.118,0.140,0.184であることから,因子数の候補を2~5とした.抽出後の負荷量平方和の累積値が因子2で51.65%,因子3で55.50%,因子4で58.84%,因子5で60.94%であること,4つの因子により労働遂行能力低下率を算出するアルゴリズムが維持され,研究結果の共有化や比較検討が可能となる点を考慮し,原版及び開発研究と同一の因子数である4を想定し,下位尺度間の相関の絶対値が0.25~0.74であることから,主因子法によるプロマックス回転を行った.その結果,抽出後の負荷量平方和の累積値が因子4で58.57%となり十分な累積値が示された.因子負荷量の基準値(絶対値)を0.35としてプロマックス回転後の因子解(Table 2)を解釈した結果,4つの因子に分別され,原版及び開発研究の因子構造と一致し,因子負荷量の最低値0.41が基準値を上回ったことから,WLQ-Jの因子数を4とした.

Table 2. Factor patterns matrix and factor intercorrelations (promax rotation)
Factor (Population At Development) Factor (Population At Present)
Mental-Interpersonal Physical Output Time management Mental-Interpersonal Physical Output Time management
Items
Concentrate on work 1.03 -0.01 -0.01 -0.12 0.93 0.02 0.01 -0.05
Keep mind on work 0.84 0.00 -0.01 0.06 0.84 -0.01 -0.01 0.01
Work carefully 0.87 -0.01 0.08 -0.05 0.90 0.02 0.02 -0.04
Think clearly 0.80 -0.06 0.03 0.12 0.82 0.01 0.03 0.01
Lose train of thought 0.78 0.02 0.05 0.03 0.84 0.00 -0.01 0.00
Easily read/use eyes 0.75 0.01 -0.01 0.08 0.68 0.01 0.01 0.05
Control temper 0.50 0.07 0.18 0.06 0.61 -0.06 0.02 0.06
Speak in person/on phone 0.43 0.12 0.14 0.18 0.54 -0.03 0.11 0.06
Help others to work 0.39 0.15 0.27 0.09 0.41 -0.03 0.12 0.15
Bend, twist, or reach -0.04 0.92 -0.04 -0.03 -0.02 0.70 0.01 0.06
Lift, carry, move objects, ≧ 10 Ib -0.06 0.90 -0.04 -0.04 -0.04 0.46 0.05 0.15
Use handheld tools, equipment 0.04 0.85 -0.03 -0.01 0.07 0.71 0.00 -0.09
Repeat motions 0.01 0.85 0.07 -0.02 -0.02 0.61 0.02 0.03
Sit, stand stay in 1 position 0.05 0.73 0.00 0.04 0.01 0.70 -0.01 -0.06
Walk/move around work locations 0.06 0.68 0.01 0.08 -0.02 0.61 -0.05 -0.03
Work fast enough 0.02 -0.04 0.95 0.00 0.01 0.01 0.95 -0.02
Finish work on time -0.01 -0.01 0.89 0.07 0.03 0.01 0.88 0.03
Handle workload 0.09 0.00 0.85 0.01 0.06 0.01 0.85 0.02
Work without mistakes 0.26 0.04 0.64 -0.04 0.18 -0.14 0.68 0.01
Do all you’re capable of 0.31 0.06 0.61 0.00 0.22 0.00 0.63 -0.01
Work without breaks or rests 0.06 -0.01 -0.04 0.78 0.06 0.02 -0.06 0.72
Start on work soon after arriving 0.28 -0.08 -0.13 0.67 0.08 -0.02 -0.09 0.74
Stick to routine/schedule -0.03 0.03 0.25 0.64 -0.03 0.05 0.16 0.73
Work required hours -0.10 0.05 0.20 0.63 0.00 0.03 0.10 0.62
Get going beginning of work day 0.25 -0.03 0.05 0.55 0.28 0.01 -0.03 0.53
Factor intercorrelations
Mental-Inter personal 0.60 0.79 0.77 -0.33 0.74 0.70
Physical 0.54 0.58 -0.25 -0.28
Output 0.75 0.68
Time manegement

3. 信頼性

因子数を4として,尺度全体及び下位尺度毎のCronbachのα係数を求めた結果,尺度全体で0.87(開発研究0.97),下位尺度で0.77-0.94(開発研究0.88-0.95)で,十分な内的一貫性が認められた.

4. 基準関連妥当性

WLQ-Jの4つの下位尺度とストレス反応との相関を求めた結果,0.28-0.64(開発研究0.39-0.60)で有意(本研究,開発研究ともにp<0.01)な相関が示された(Table 3).Shapiro-Wilk検定の結果,WLQ-Jの全ての下位尺度で正規分布に従わないとの結果が示されたため,Kruskal Wallis検定による多重比較を行った.その結果,全ての下位尺度で漸近有意確率が有意(p<0.001)となり,「低ストレス群」,「中ストレス群」,「高ストレス群」の3群間に有意な差が示された(Fig. 1).以上から,開発研究と同様にストレス反応が大きくなるにつれて,有意(開発研究p<0.01,本研究p<0.001)にWLQ-Jの下位尺度得点が高くなる量反応関係が確認され,WLQ-Jの基準関連妥当性が支持された.

Table 3. Correlation coefficients between work limitations and stress responses (Pearson product-moment correlation coefficient)
Time Management Physical Mental-Interpersonal Output At-work Productivity
Development Present Development Present Development Present Development Present Development Present
**p<.01
“Development” and “Present” represent previously conducted development study and presently conducted study, respectively.
Stress responses 0.54** 0.54** 0.39** 0.28** 0.60** 0.64** 0.55** 0.55** 0.66** 0.64**
Fig. 1.

WLQ-J subscale scores at each stress group

Stress responses were divided into low-stress group (n=758), middle-stress group (n=2959), and high-stress group (n=723) with mean±SD (58.5±15.2) as borders. **p<.001.

IV. 考察

開発研究と同様に,本研究においてもWLQ-Jの因子的妥当性,信頼性,基準関連妥当性に良好な結果が得られ,信頼性・妥当性が支持された.

本研究の母集団は,WLQ-Jの開発研究よりも多数の企業,業種に従事する,開発研究の6倍を超える労働者から成り,本邦の産業全体の労働者の平均年齢,男女比率に近く,開発研究よりも労働遂行能力,職業性ストレスが良好であった.WLQ-Jの下位尺度間の相関では,身体活動以外で正の相関,身体活動と他の下位尺度間で負の相関が示され,全ての下位尺度間で正の相関が示された開発研究とは異なる結果になったが,本点は,開発研究と本研究の母集団の特性の相違を表すものと考えられる.今後,一般労働者の特性について,さらに検討する必要があると考える.

本研究による産業保健の実践上のメリットとしては,特性や規模の異なる複数企業の一般労働者の母集団において,開発研究と同様に信頼性・妥当性が支持され,WLQ-Jの測定尺度としての安定性が示唆されたことから,WLQ-Jを活用することで,様々な母集団において労働遂行能力に関する質の高いエビデンスが得られる可能性が示された点が考えられる.今後,様々な母集団において,WLQ-Jの信頼性・妥当性についての検証を継続的に行い,WLQ-Jが利用可能な母集団を拡げていくことで,測定尺度の安定性の検証のみならず,研究成果の共有化や比較検討が図られることで,学術的に意味のある新たな知見の獲得につながる可能性がある.また,ストレス対策などにおいて,ストレスチェックとWLQ-Jを併用することにより,高ストレス組織や個人の特定やプロフィールの把握,介入アプローチの検討,ベースラインとの比較による介入効果の検証などにおいて,労働遂行能力に関するエビデンスが活用できることで,対策に対するより深いレベルでの検討や経営サイドの理解や納得性の向上,経営サイドからの支援の獲得などが容易になる可能性などが考えられる.

本研究の限界については,presenteeismに関する先行研究と同様に,本研究は自記式によるものであり,回答者の過大・過少評価により結果の解釈が本来の実態と乖離するリスクが想定される.今後の課題として,本研究は横断研究であり,縦断研究などによりWLQ-Jの信頼性・妥当性の安定性や一貫性を検証する必要があると考える.また,幅広い産業,職種の職業人を対象とした研究を今後も進め,一般化を図っていきたい.

謝辞

本研究のフィールド調査にご協力をいただいだ企業の方々に篤く謝意を表する.

文献
 
© 2017 公益社団法人 日本産業衛生学会
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