産業衛生学雑誌
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短報
外付け式プレーン円形フードの排風量予測式
小嶋 純
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2017 年 59 巻 1 号 p. 19-22

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はじめに

製造現場や建設・工事現場等では,作業に伴って様々な有害物質が発生し周囲の気中に拡散することがある.それらの拡散を未然に防ぎ,効果的に作業環境から排除して作業者へのばく露を抑制する最も一般的な方策は,今も局所排気装置(以下,局排)を用いた工学的対策であろう.この局排による換気を有効たらしめるには,その設計段階において,フードに必要な排風量(フードが制御風速で吸引する際に必要な空気の流量)を正確に予測しなければならない.種々のフードの排風量を予測する式としては,古くからDalla Valleが提案した計算式(以下,DV式)が利用されており,現在国内で刊行されている解説指導書1,2)にも記載されているが,DV式で予測した排風量はしばしば実測値と乖離することが知られている3-8).これに対し,近年,国内では実測値との一致度がより高い排風量予測式が複数提案されているが9,10),それらは何れも外付け式矩形開口フードの排風量を,吸引風速,開口面からの距離,開口面の寸法等との関係から重回帰分析によって定式化したものである.一般に,回帰分析による排風量予測式から得られる値は,実測値との一致度が高い反面,予測式の中に指数関数を含む,あるいは項の数が増えるなど,予測式自体は複雑化することが避けられず,これが実用上の難点ともなる.

そこで本研究では,未だDV式に優る予測式が提案されていない外付け式プレーン円形フード(ダクトの終端部の開口をそのまま簡易フードとして使用する円形ダクトエンド)の排風量について,これを予測する比較的簡素な式を新たに考案し,この式から得られる予測値と実測値を対比させて同式の妥当性を検証した.

装置および実験方法

本研究では,長さ50 cm,直径(D)=10,15,20,25 cmの4種類の塩ビ製円形ダクトを外付け式プレーン円形フードとして使用し,各々のダクトの開口から吸引を行った際の風速(VX),開口面から風速測定点までの距離(X)および排風量(Q)を計測・記録した.実験装置およびその概略図をFig. 1に示す.風速の測定には熱線式風速計(日本カノマックス;アネモマスターModel6035)を使用し,測定点は円形フード開口面の中心軸上の各点とした.なお,この風速計が表示する風速は,1秒間隔で得た10個の瞬間値の算術平均値である.排風量の測定には,整流機能付き多孔ピトー管風量計(芝田技研;エアメジャーAMA100DA,150DA,200DAもしくは250DA)を使用し,これを円形ダクトの下流側に接続して計測を行った.多孔ピトー管風量計のさらに下流側には,変圧器で出力調整が可能なポータブル送排風機(スイデン;ジェット・スイファンSJF-250RSもしくは200L)を接続して適宜必要な吸引風量を得た.なお,この実験では排風量を以下の範囲で段階的に変えながらVXおよびXの計測を行った.

D=10 cmの場合:Q=3.44~6.18 m3/min

D=15 cmの場合:Q=6.22~10.71 m3/min

D=20 cmの場合:Q=11.35~21.04 m3/min

D=25 cmの場合:Q=19.61~31.05 m3/min

これは,実験時の吸引風速が,粉じん則および有機則等で定める外付け式フードの制御風速(それぞれ1.0~1.3 m/secと0.5~1.0 m/sec)から著しく逸脱しない範囲に収まるよう調整した結果である.

プレーン円形フードはテーパー角が0°の円形開口フードと考えられるので,同フードの排風量をDV式によって求める際は,自由空間に設けられた外付け式円形フードの排風量式11)を用いる.

Q=60・VX・(10X2+A)・・・・・(1)

ただし,Q:排風量[m3/min]

VX:開口面からX距離の点における風速[m/sec]

X:開口面からの距離[m]

A:開口面積[m2

また,プレーン円形フードの排風量に関しては,以下に示す予測式もある12)

Q=60・4π・X2・VX・・・・・(2)

(2)式は,開口面真中を中心とする全球面を吸引風速の等速度面と仮定して排風量を計算した式である.

一方,本研究では,(1)および(2)式に代替する以下の式を考案した.

Q=60・(3π・X2-A)・VX・・・・・(3)

この式では,開口前面の半球の表面積と,開口周囲のドーナツ状部分の平面積(半径Xの円の面積から開口面積を除いた部分)とを合わせた部分を等速度面と仮定し,この面積と吸引風速の積から排風量を計算するものである(Fig. 2).

以上の3種の予測式に,実測で得たX,VXおよびAの値を代入してそれぞれの予測排風量を求め,同時に実測した排風量との比較からAIC(情報基準量;モデルの相対的な当てはまり度を示す統計量で,値が小さいほど当てはまり度が高い.)を算出し,各予測式の当てはまり度を求めて優劣を比較した.

Fig. 1.

General view and dimension of the experimental set-up. (D=10, 15, 20 and 25 cm) When the diameter of the jet fan was different from the diameter of the flow meter, a taper duct was suitably used between them.

Fig. 2.

Image of the velocity contour which consists of two areas, half of the sphere surface area in the front of the opening and the donut shape plane area around the opening.

実験結果

各プレーン円形フードにおける,開口面からの距離(X)と開口面からX距離の点における風速(Vx)との関係をFig. 3に示す.また,Fig. 3上に示した計測データと(1)~(3)式により算出した排風量および実測で得た排風量との比較結果をTable 1およびFig. 4に示す.ただし,Fig. 4の縦軸と横軸は,それぞれ排風量の予測値と実測値を示している.これより,式(1)および式(2)による排風量は,どちらの場合においても,実測より過大な値を与える傾向のあることが示された.一方,本研究で提案した式(3)による排風量と実測値とは,比較的良好な一致を示した.

次に,各予測式に基づく排風量と実測排風量との当てはまり度を検証したところ, AIC(情報基準量)は式(1),(2),(3)においてそれぞれ81.5,100.8,63.4となり,本研究の予測式に基づいた排風量が最も実測値に近いことが確認された.

Fig. 3.

Relationship between velocity (Vx) and centerline-distance (X) of the hood.

Table 1. Comparison of predicted flow rates with measured flow rates.
Exhaust flow rate (measured), m3/min Exhaust flow rate (predicted), m3/min
conventional DV equation (=equation (1)) conventional equation (=equation (2)) newly proposed equation (=equation (3))
Values are the mean±S.D. (n=10)
31.05±0.44 40.24 47.93 33.52
28.53±0.44 36.18 43.12 30.18
24.61±0.38 30.19 35.67 24.68
21.04±0.32 25.52 30.66 21.66
19.61±0.49 22.96 26.20 17.29
17.18±0.30 20.54 23.97 16.27
14.12±0.30 17.40 20.30 13.79
11.35±0.10 13.65 15.64 10.35
10.71±0.16 12.65 15.13 10.60
9.11±0.16 10.82 12.95 12.95
7.67±0.18 9.14 10.37 6.72
6.22±0.10 7.27 8.24 5.34
6.18±0.24 6.61 7.97 5.61
5.45±0.20 5.98 7.21 5.08
4.75±0.13 5.17 6.12 4.21
3.44±0.13 3.70 4.39 3.01
Fig. 4.

Comparison of predicted flow rates with measured flow rates. The dotted line indicates coincidence with the measured flow rate (X-axis) and the predicted flow rate (Y-axis).

○: newly proposed equation [equation (3)]

△: conventional DV equation [equation (1)]

□: conventional equation [equation (2)]

考察とまとめ

本研究では,等速度面を単純な形状の表面(半球面と平面の複合面)と見なすことにより,従来の予測式よりも実測値との乖離が少ない式を導くことが出来た.しかし,仮に重回帰分析を利用した場合,さらに乖離の少ない予測式を導出することが可能である.

いま,排風量(Q)を目的変数,距離(X)および風速(VX)を説明変数として,当研究の実測データから2次の重回帰分析を行った場合,排風量の予測式は次式のように記述される.

Q=0.56-28.97・X+105.46・X2-9.49・VX-1.33・VX2+172.41・X・VX・・・・・(4)

この式(4)に基づいて予測される排風量と実測排風量からAICを計算すると41.97となり,先の式(3)を用いる場合よりもさらに実測値との一致が優れている.しかし式(4)のように表記が長大となり,局排設計時の実用性で劣ることが大きな欠点と言える.1950年代に考案されたDV式が今日なお廃れずに国内外で普及している理由の一つはその単純な表記にあると見られ,この様な利便性は排風量予測式の重要な条件であると言えよう.本研究で提案した式(3)は,表記の簡素なる点でDV式に劣らず,実測値との整合性においてはDV式に優るので,今後プレーン円形フードのDV式に代替し得る新たな予測式として提案できるものと考える.

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© 2017 公益社団法人 日本産業衛生学会
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