SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
Original
Effects of intervention program for systematic use of transfer equipment on care workers' low back pain in elderly care facilities
Kazuyuki IwakiriKo MatsudairaKiyosi IchikawaMasaya Takahashi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 59 Issue 3 Pages 82-92

Details
抄録

目的:本研究の目的は,介護者に福祉用具を使用させるプログラムを作成し,そのプログラムによる組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響について検討することとした.対象と方法:アンケート調査は,対象施設とした2つの特別養護老人ホームのうち,1つを対照施設,もう1つを介入施設とし,その施設の介護者全員に対して介入前,介入1年後,介入2年半後の時期に実施した.調査票は,施設用および介護者用アンケートを用いた.介入施設では,福祉用具を適用すると判断した入居者に対し(全入居者の27.5%),移乗介助において移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを必ず使用するプログラムを作成し,介護者に実施させた.一方,対照施設では,福祉用具の使用に関する指導は行わなかった.両施設とも,介入前の時期から福祉用具は導入されており,介護者の判断で個々に使用されていた.結果:施設用および介護者用アンケートの平均回収率は100%と90.3%であった.介護者用アンケートの解析対象者は,3回の調査全てに回答した対照施設の23名,介入施設の29名とした.福祉用具は,介入前調査の時点において既に対照施設と介入施設に導入されていたが,福祉用具を必ず使用している介護者はいなかった.その2年半後には,介入施設の31.0%の介護者が,移乗介助時にリフトを必ず使用していた.しかし,対照施設では必ず使用していた介護者は4.3%のみであった.また,介入施設の27.6%の介護者は,スライディングボートまたはスライディングシートを必ず使用していたが,対照施設にて必ず使用していた介護者は4.3%のみであった.介護者の腰痛の訴えは,両施設とも2年半の調査を通して約6~7割を占めており,施設間および調査期間において統計的有意差はなく,介入施設における施設全体としての介入効果は認められなかった.しかし,介入施設では移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを積極的に使用していた介護者に腰痛の改善効果が認められた.一方,対照施設では福祉用具を使用していた介護者に腰痛の改善効果は認められなかった.考察:これらの結果から,介護者の腰痛症状を緩和したり,腰痛を予防したりするには,福祉用具を導入するだけではなく,介護者に福祉用具を使用させる組織的な取り組みが必要と考えられる.また,福祉用具を適用する入居者が今後増えると,この組織的な福祉用具の使用が介護者の腰痛をさらに改善し,より安全で健康な介護環境を構築するものと思われる.

I. はじめに

介護労働者(以下,介護者と記載)は,介護保険制度が始まった2000年の54.9万人を基準にすると,2014年には3.2倍に増え,さらに2025年には3.9~4.6倍に増えると予想されている1).近年この介護者数の増加に伴い,労働災害に認定された介護者の腰痛発生件数が急増している2).今後も介護者数が増え,また施設にて有効な対策が講じられずにいると,腰痛発生件数はさらに増えるものと思われる.

欧米諸国では,この対策としてリフトをはじめとした福祉用具の使用が推奨されており3,4),介護者の腰痛予防に大きく貢献している5-7).わが国における福祉用具の導入と使用に関しては,2009年から厚生労働省の福祉用具購入のための助成金制度8)が始まり,申請条件を満たせば福祉用具導入費用の半額が援助される.また,2013年には厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」9)が改訂され,福祉用具の使用が推奨されている.しかしながら,福祉用具を導入し使用している施設はいまだ少なく10),また福祉用具を導入していても十分に使用されていない11)

福祉用具の使用を促進するには,福祉用具の必要な入居者に対し,介助作業ごとに入居者の状態に合った福祉用具を選定し,介護者にその福祉用具を使用させる組織的な取り組みが必要である.欧米諸国では,介護者に福祉用具を使用させるプログラムを実施することで,介護者の腰痛予防や欠勤日の抑制などの効果を上げている5-7).我が国においても,それらの取り組みを行うことにより,腰痛予防に成功している介護施設はあるものの,福祉用具を継続的に使用するためのプログラムは一般化されていない.また,日本の介護施設における福祉用具の導入効果を適切に検証した介入研究もない.

そこで本研究では,既に福祉用具を導入しているものの十分に使用されていない高齢者介護施設を対象に,組織的に福祉用具を使用させるプログラムを作成し,そのプログラムによる福祉用具の使用促進が介護者の腰痛症状に及ぼす影響について介入研究にて検討した.

II. 対象と方法

1. 対象

対象施設は,介入前の時点において平均要介護度が3.7の2つの特別養護老人ホームとした.そのうち,1つは対照施設,もう1つは介入施設とした.対照施設は東京都の多床室タイプの施設,介入施設は北海道のユニットケア・タイプの施設とした.対照施設は,長期滞在の施設入居者に加え,ショートステイおよびデイケア用の施設も併設されていた.一方,介入施設は,長期滞在の施設入居者のみを対象にしていた.対象介護者は,それらの施設に勤務する施設入居者担当の介護者全員とした.

2. 調査方法

調査では,対照施設と介入施設に対し,介入前(2011年9~10月),介入1年後(2012年10~11月),介入2年半後(2014年2~3月)の時期にアンケート調査を実施した.調査票には,本研究用に作成した記名式の施設用アンケートおよび介護者用アンケートを用いた.調査票の送付は,両アンケートともに施設管理者宛とした.介護者用アンケートは,施設管理者に施設入居者担当の介護者全員に配布するよう依頼した.回答後は,回答者本人が封をしたものを施設ごとに一括して返送してもらった.

介入施設では,福祉用具を適用すると決めた入居者に対し,食事の3回または食事とお茶の4回は,移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートといった福祉用具を必ず使用してベッドと車いす間の移乗介助をするようにした.また,トイレや入浴に伴う移乗介助においても使用するように指導した.一方,対照施設では,介護者の認識や作業の忙しさなどから,既存の福祉用具を使用したり使用しなかったりしていたが,福祉用具の使用を促す指示などは行わなかった.介入施設に対しては,介入の進捗状況を把握するためのレポートを隔月ごとに施設側から提出してもらった.なお本研究は,独立行政法人労働安全衛生総合研究所の研究倫理審査委員会の承認(通知番号H23021,H25001)を得て実施した.

3. 福祉用具使用推進プログラム

介入施設では,長年にわたって福祉用具の使用方法を指導してきた専門家(以下,福祉用具インストラクターと記載)の指導の下,組織的に福祉用具の使用方法を取り決めて,介護者にその方法を実施させるプログラム(以下,福祉用具使用推進プログラムと記載)を行った.介入施設にて使用した移乗用の福祉用具は,移動式リフトが5台,スライディングボードが7枚,スライディングシートが20枚であった.福祉用具使用推進プログラムでは,まず福祉用具の使用を推進するためのワーキンググループ(以下,WGと記載)を設置し,その後,WGのメンバーは福祉用具の使用方法を標準化し,その方法を介護者に実施させるための講習会や試験制度を設けた.以下に,WGメンバーの取り組み,一般介護者の取り組み,入居者への福祉用具の適用に分けて,その内容と時期について記載する.

<WGメンバーの取り組み>

①福祉用具使用推進のためのWGを設置:WGは,運営部門の課長代理を責任者とし,ケアマネジャー(兼区画代表者),作業療法士,4区画(1区画:2ユニット)の各代表者の計7名で構成した.WGメンバーは,原則,固定としたが,退職などにより2名が入れ替わった.設置時期は,介入前調査の約1年前とした.

②WGメンバーの教育:WGメンバーは,福祉用具使用に関する外部の講習会に参加し,福祉用具インストラクターから直接指導を受けた.また,既に福祉用具の導入に成功している施設への見学および研修も実施した.実施時期は,WG設置後の介入前調査の約1年前とした.

③福祉用具を使用した介助方法の標準化:外部の講習会や他施設の成功例,福祉用具インストラクターの意見を参考に,入居者および介護者の両者にとって負担が小さく安全な福祉用具を用いた介助方法について検討し,標準化した.実施時期は,介入前調査の約1年前から,WGメンバーの教育と並行して行なった.

④福祉用具使用マニュアルの作成:福祉用具の仕様書と標準化した介助方法などをもとに,福祉用具を適切かつ安全に使用するためのマニュアルを作成した.このマニュアルは,介入前調査の約8ヶ月前に作成し,数度の改訂を経て,介入前調査の5ヶ月後までに確定した.

⑤福祉用具の使用に関する試験制度の確立:マニュアルの内容を理解しているか測るための試験制度を設けた.この試験制度は,介入前調査の約半年前から介入前調査までの期間に作成した.

⑥福祉用具の使用に関する試験の実施:WGメンバーを対象に,福祉用具を適切かつ安全に使用するための試験を実施した.この試験は,介入前調査の直後から約3ヶ月後まで随時実施した.

<一般介護者の取り組み>

⑦福祉用具を使用した介助方法の講習会の実施:一般介護者を対象とした福祉用具インストラクターによる講習会を開催した.勤務時間の異なる介護者も参加できるように複数回開催した.この講習会は,介入前調査の約3ヶ月後と介入1年後調査の約3~4ヶ月後に実施した.講習時間は1回あたり約1時間,講習回数は移動式リフトに関する内容が2回,スライディングボード等に関する内容が1回であった.また,講習会後には2週間の自主練習をするようにした.

⑧福祉用具の使用に関する試験の実施:一般介護者を対象に,福祉用具を適切かつ安全に使用するための試験を実施した.試験では,福祉用具インストラクターが試験官となり,要介護者の落下や転落などにつながる安全配慮ミスや介護者の作業姿勢の項目を評価し,総合得点が基準値以下かまたは安全配慮ミスが2つ以上ある場合,不合格とした.介護者には,この試験に合格して初めて福祉用具の使用を許可したため,対象者が合格するまで複数回試験を行った.この試験は,介入前調査の約4~7ヶ月後と介入1年後調査の約4~5ヶ月後の期間に実施した.

<入居者への福祉用具の適用>

⑨福祉用具の適用:入居者の状態に合った福祉用具を順次導入し,使用した.原則,自力での移乗介助が困難で座位姿勢がとれる入居者には,ベッド,車いす,ポータブルトイレ,ストレッチャーへの移乗介助において,スライディングボードを使用した.また,皮膚の状態が悪い入居者には,スライディングボードにスライディングシートを組み合わせて使用するか,またはシートのみを使用した.全介助の必要な入居者には,移動式リフトを使用した.福祉用具を使用する前には,入居者本人とその家族に対して使用の必要性を説明し,了承を得てから使用した.新たに福祉用具を使用する際には,事前にWGメンバーと福祉用具インストラクターが,適切で安全な介助方法を検討してから導入した.入居者には,介入前調査の約9ヶ月後から,福祉用具を必要に応じて随時使用した.

⑩福祉用具の使用方法の再確認:WGメンバーは一月ごとに,福祉用具インストラクターは隔月ごとに福祉用具の使用方法を順次再確認し,必要に応じて介護者を指導し,介助方法を改善させた.

4. 調査票

施設用アンケートは2頁で構成し,施設管理者に記入をお願いした.介護者用アンケートは8頁で構成し,介護者に記入をお願いした.施設用アンケートの1頁目および介護者用アンケートの2頁目には,調査趣旨,個人および施設情報の保護について記載し,調査参加への意思確認の欄を設けた.個人および施設情報の保護については,目的以外に使用しないこと,個人および施設が特定される情報は公開しないこと,調査への参加意志がなくなった場合には,回答の前後に係わらずに不利益を被ることなく参加を拒否または撤回できることを記載した.調査参加への意思確認の欄では,本調査の趣旨を理解して参加に同意した場合にのみ記入年月日,施設名,氏名を記入し,アンケートの調査項目に回答するよう記載した.施設用および介護者用アンケートの調査項目は以下の通りとした.

<施設用アンケートの調査項目>

・施設の基本情報:介護者数,施設入居者数,平均要介護度,離職介護者数,休業介護者数

・安全衛生活動:健康診断の実施,腰痛健診の実施,衛生委員会の設置,介助方法に関する講習会の実施,福祉用具の使用に関する講習会の実施

・福祉用具数:移動式リフト,レール走行式リフト,設置式リフト,自動入浴装置(特殊浴槽),スタンディングマシーン,スライディングボード,スライディングシート,電動昇降ベッド

<介護者用アンケートの調査項目>

・介護者の基本情報:性別,年齢,身長,体重,喫煙の有無,保有資格,介護業務の通算経験年数,勤務形態(常勤/非常勤・パートタイム),勤務体制(日勤/二交代制/三交代制/変則三交代制を含むそれ以外),平均的な1週間の労働時間,平均的な睡眠時間

・腰痛症状:最近1ヶ月の腰痛の程度を①痛くない,②少し痛い,③中程度痛い,④かなり痛い,⑤ひどく痛いの5段階で評価した.腰痛の定義は,背下部,腰部,臀部(肋骨下縁~殿溝の範囲を図示)に1日以上続いた痛みとし,脚の痛み・しびれを伴う場合も含むとした.ただし,生理や妊娠,風邪で熱がある時に感じる痛みは除くとした.

・移乗および入浴介助方法:移乗介助におけるリフト,スライディングボードまたはスライディングシート,ベッドの昇降および背上げ機能の使用頻度,入浴介助におけるリフトおよび自動入浴装置の使用頻度,人力での入居者の持ち上げ頻度,無理な作業姿勢の頻度について,それぞれ5段階で評価を求めた.

・職業性ストレス:職業性ストレス簡易調査票12)から,仕事の量的負担に関する設問として,非常にたくさんの仕事をしなければならない,時間内に仕事が処理しきれない,一生懸命働かなければならない,仕事の質的負担に関する設問として,かなり注意を集中する必要がある,高度の知識や技術が必要な難しい仕事だ,勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならないの6項目を抜粋し,4段階で評価を求めた.また,上司や同僚からの社会的支援度に関する設問として,上司または職場の同僚と,どのくらい気軽に話ができるか,どのくらい頼りになるか,個人的な問題をどのくらい聞いてくれるかの6項目について4段階で評価を求めた.

5. 解析方法

施設用アンケートのデータは,単純集計をした.介護者用アンケートのデータは,介入前,介入1年後,介入2年半後の3回の調査に回答した介護者を対象に,単純集計およびクロス集計をした.また,対照施設と介入施設を比較するために,χ2検定または対応のないt検定にて解析した.さらに,介護者の腰痛症状(①痛くない~⑤ひどく痛い)を比較するため,施設(2水準)と調査期間(3水準)を要因とした二元配置分散分析にて解析した.

次いで,腰痛症状の変化に着目し,介入前に比べて介入1年後または介入2年半後に腰痛の症状が少しでも悪くなった介護者を「悪化」,少しでも良くなった介護者または変化しなかった介護者を「改善・悪化なし」として,介入前と比較した介入1年後の腰痛症状の変化,介入前と比較した介入2年半後の腰痛症状の変化をそれぞれ算出した.例えば,介入前の腰痛症状が④かなり痛いだったのが,介入1年後に②少し痛いに変化した場合,介入前と比較した介入1年後の腰痛症状の変化は「改善」とした.「改善」と「悪化なし」を一つにまとめたのは,腰痛の改善効果は現われづらく,悪化しないことも悪い状態ではないと判断したためである.さらに,腰痛の「改善・悪化なし」と関連する介助方法を明らかにするために,従属変数を腰痛症状の変化,説明変数を移乗介助方法または入浴介助方法の項目としたロジスティック回帰分析を施設ごとに実施し,オッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)を算出した.本来であれば,両施設をまとめて,性別や年齢などで調整して解析すべきところであるが,解析対象者数が少なく,また対照施設の介助方法が偏っていたことから,ロジスティック回帰分析では施設ごとのCrudeのオッズ比を算出した.説明変数として用いた介助方法の項目は,例えば,リフトの使用頻度を,「全く使用しない,ほとんど使用しない」と「時々使用する,しばしば使用する,必ず使用する」の2群にしたり,また「全く使用しない,ほとんど使用しない,時々使用する,しばしば使用する」と「必ず使用する」の2群にしたりと,種々の組み合わせにて解析を試みた結果,最終的には統計的有意差の得られた前者の先行研究13)と同様の方法にて2群化した.統計解析にはIBM SPSS ver.22を用い,統計的有意差は危険率5%未満とした.

III. 結果

1. 介護施設の基本情報

施設用アンケートは,3回の調査にて施設ごとに1部配布し,いずれも1部回収して100%の回収率であった.対照施設における介護者用アンケートの配布数および回収数(回収率)は,介入前調査では50部配布し50部(100%)回収,介入1年後調査では50部配布し46部(92.0%)回収,介入2年半後調査では50部配布し37部(74.0%)回収した.介入施設における介入前調査では57部配布し54部(94.7%)回収,介入1年後調査では59部配布し55部(93.2%)回収,介入2年半後調査では55部配布し44部(88.0%)回収した.そのうち,3回の調査全てに回答した介護者は,対照施設では50名中23名(46.0%),介入施設では57名中29名(50.9%)であり,本研究ではこれらの者を解析対象者とした.

Table 1には,介入前,介入1年後,介入2年半後における施設の基本情報を示す.各調査時点の1年前から各調査時点までの1年間の離職者数は,介入前,介入1年後,介入2年半後の順に,対照施設では8名,0名,2名(計10名),介入施設では9名,6名,8名(計23名)であった.また,各調査時点の1年前から各調査時点までの1年間の休業者数は,対照施設では0名,12名,0名(計12名),介入施設では4名,1名,3名(計8名)であった.対照施設においては,介入1年後調査の前に,系列施設が1施設新設されたことにより,約4分の1の介護者が新施設に移動になった.施設入居者数,平均要介護度,福祉用具数はTable 1に示す通りであった.

福祉用具は,介入前調査の時点において,既に対照施設および介入施設の両施設に導入されていた.しかし,両施設とも,施設全体として組織的に使用方法を決めていた訳ではなく,必要に応じて介護者が個々に判断し使用していた.介入前調査の時点において,対照施設に導入されていた福祉用具は,移動式リフト3台(介入2年半後の時点では4台),浴室の設置式リフト3台,自動入浴装置2台,スタンディングマシーン1台,スライディングボード3枚(介入2年半後の時点では2枚),スライディングシート5枚(介入2年半後の時点では2枚)であった.一方,介入施設に導入されていた福祉用具は,移動式リフト5台,自動入浴装置1台,スライディングボード1枚(介入2年半後の時点では7枚),スライディングシート20枚であった.また,介入施設の介入1年後の時期からは,浴室のレール走行式リフトが1台加わった.電動昇降ベッドは,介入1年後の時期から,両施設ともに施設入居者の数だけ導入された.

対照施設および介入施設では,3回の調査時期において,衛生委員会が設置されており,また健康診断,腰痛健診,福祉用具使用のための講習会も実施されていた.さらに,対照施設の介入2年半後の調査時期を除いて,介助方法に関する講習会も両施設において実施されていた.

Table 1. Basic information of control and intervention care facilities
Investigation items Control care facility Intervention care facility
Baseline After one year from baseline After two and a half years from baseline Baseline After one year from baseline After two and a half years from baseline
Number of care workers 50 50 50 57 59 55
Number of resident in a care facility 110 110 102 80 80 80
Level of needing care 3.7 3.8 3.9 3.7 3.7 3.6
Number of retired care workers per year 8 0 2 9 6 8
Number of absent care workers per year 0 12 0 4 1 3
Care equipment
Mobile hoist 3 1 4 5 5 5
Rail guide hoist in a bathroom 0 0 0 0 1 1
Stationary hoist in a bathroom 3 3 3 0 0 0
Automatic bathing equipment 2 2 2 1 1 1
Assistance equipment for standing of resident 1 1 1 0 0 0
Sliding board 3 2 2 1 6 7
Sliding sheet 5 2 2 20 20 20
Powered adjustable bed 78 107 107 80 81 81

2. 介護者の基本情報と福祉用具の使用状況

Table 2には,介入前調査における介護者の基本情報を示す.対照施設における対象介護者23名のうち男性は11名(47.8%),女性は12名(52.2%),年齢の平均値と標準偏差は36.9±11.9歳(20歳~61歳)であった.介入施設における対象介護者29名のうち男性は8名(27.6%),女性は21名(72.4%),年齢は33.5±12.2歳(20歳~62歳)であった.介護者の身長,Body Mass Index(BMI),喫煙の有無,保有資格,介護業務の通算経験年数,勤務形態,勤務体制,平均的な1週間の労働時間,平均的な睡眠時間,職業性ストレスはTable 2に示す通りであった.以上の項目について,対照施設と介入施設を比較した結果,勤務体制と職業性ストレスの仕事の量的負担を除く全ての項目において,施設間に統計的有意差は認められなかった.勤務体制に関しては,対照施設において日勤者が多く,介入施設において三交代制の者が多かった.職業性ストレスに関しては,介入施設に比べて対照施設の介護者が,仕事の量的負担が大きいと感じていた.

Table 3には,介入施設において福祉用具を適用した入居者数を示す.介入施設の介入前調査の時点において,移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを適用されていた入居者はいずれも0名であった.介入1年後調査の時点において,移動式リフトを適用されていた入居者は4名,スライディングボートを適用されていた入居者は4名,スライディングシートを適用されていた入居者は5名,それらを併せて重複者を省いた福祉用具適用者は8名であった.介入2年半後調査の時点において,移動式リフトを適用されていた入居者は11名,スライディングボードを適用されていた入居者は13名,スライディングシートを適用されていた入居者は7名,それらを併せて重複者を省いた福祉用具適用者は22名であった.

Table 4には,対照施設と介入施設における介護者の福祉用具の使用頻度を示す.福祉用具使用推進プログラムは,介護者に福祉用具の積極的な使用を促すことを目的としたことから,ここでは福祉用具を「必ず使用する」介護者の割合に着目する.対照施設において移乗介助時にリフトを必ず使用していた介護者は,介入前調査の時点において0%,介入1年後調査の時点において0%,介入2年半後調査の時点において4.3%であった.介入施設において移乗介助時にリフトを必ず使用していた介護者は,介入前調査の時点において0%,介入1年後調査の時点において0%,介入2年半後調査の時点において31.0%であった.対照施設において移乗介助時にスライディングボートまたはスライディングシートを必ず使用していた介護者は,介入前調査の時点において0%,介入1年後調査の時点において0%,介入2年半後調査の時点において4.3%であった.介入施設において移乗介助時にスライディングボートまたはスライディングシートを必ず使用していた介護者は,介入前調査の時点において0%,介入1年後調査の時点において24.1%,介入2年半後調査の時点において27.6%であった.移乗介助におけるベッドの昇降・背上げ機能,入浴介助におけるリフト,自動入浴装置の使用頻度は,Table 4に示す通りであった.

Table 2. Basic information of care workers in baseline of control and intervention care facilities
Investigation items Control care facility
(n=23; % or Mean±S.D.)
Intervention care facility
(n=29; % or Mean±S.D.)
p
p: χ2 tests or t tests were applied to examine the difference between care facilities. ns: no significant, **: p<0.01.
Sex (%)
Male 47.8 27.6 ns
Female 52.2 72.4
Age (yr) 39.6±11.9 33.5±12.2 ns
Height (cm) 163.8±8.0 160.2±8.4 ns
Body Mass Index: BMI 22.3±2.8 21.6±3.2 ns
Smoke
No smoking 30.4 31.0 ns
Smoking 69.6 69.0
Qualification
Certified care worker 56.5 62.1 ns
Home helper 60.9 34.5 ns
Nursing care manager 8.7 3.4 ns
Public health nurse or nurse 0.0 10.3 ns
Certified social worker 4.3 6.9 ns
No qualification 4.3 3.4 ns
Years of experience in total (yr)
<2 34.8 31.0 ns
2≦, <10 43.5 58.6
10≦ 21.7 10.3
Work time
Full-time 78.3 69.0 ns
Part-time 21.7 27.6
Work shift system
Day shift 26.1 0.0 **
Two shifts 17.4 10.3
Three shifts 17.4 82.8
Irregular three shifts and so on 17.4 6.9
Total weekly working hours (hr)
<35 13.0 13.8 ns
35≦, <40 21.7 41.4
40≦, <45 43.5 17.2
45≦ 17.4 27.6
Hours of sleep (hr)
<5 13.0 13.8 ns
5≦, <6 34.8 31.0
6≦, <7 39.1 31.0
7≦ 13.0 24.1
Job stressors
Quantitative job overload (between 3 and 12) 10.5±1.7 8.7±1.7 **
Qualitative job overload (between 3 and 12) 9.9±1.5 9.4±2.1 ns
Supervisor and coworker support (between 6 and 24) 11.5±4.0 12.7±4.1 ns
Table 3. Number of residents who applied care equipments in an intervention care facility
Mobile hoist Sliding board Sliding sheet Total
Baseline investigation 0 0 0 0
After one year from baseline 4 4 5 8
After two and a half years from baseline 11 13 7 22
Table 4. The use frequency of welfare equipment
Welfare equipment Control care facility (n=23; %) Intervention care facility (n=29; %) p
Completely not use Almost not use Sometimes use Often use Always use Completely not use Almost not use Sometimes use Often use Always use
p: χ2 test was applied to examine the difference between care facilities. ns: no significant, **: p<0.01, ―: calculation was impossible.
Transfer
Use of hoist
Baseline investigation 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0 100.0 0.0 0.0 0.0 0.0
After one year from baseline 87.0 13.0 0.0 0.0 0.0 89.7 3.4 6.9 0.0 0.0 ns
After two and a half years from baseline 0.0 39.1 52.2 4.3 4.3 24.1 10.3 17.2 13.8 31.0 **
Use of sliding board or sliding sheet
Baseline investigation 52.2 21.7 26.1 0.0 0.0 55.2 20.7 17.2 6.9 0.0 ns
After one year from baseline 60.9 30.4 8.7 0.0 0.0 34.5 0.0 24.1 17.2 24.1 **
After two and a half years from baseline 0.0 17.4 73.9 4.3 4.3 10.3 17.2 24.1 20.7 27.6 **
Adjustment of the height and back support section of bed
Baseline investigation 17.4 17.4 39.1 17.4 8.7 10.3 6.9 31.0 34.5 17.2 ns
After one year from baseline 4.3 30.4 30.4 21.7 8.7 10.3 3.4 13.8 24.1 48.3 **
After two and a half years from baseline 8.7 17.4 52.2 13.0 8.7 3.4 3.4 6.9 13.8 72.4 **
Bathing
Use of hoist
Baseline investigation 43.5 4.3 13.0 4.3 21.7 96.6 0.0 0.0 0.0 0.0 **
After one year from baseline 43.5 21.7 0.0 4.3 13.0 96.6 0.0 0.0 0.0 0.0 **
After two and a half years from baseline 47.8 13.0 4.3 0.0 17.4 58.6 13.8 3.4 3.4 13.8 ns
Use of automatic bathing equipment
Baseline investigation 13.0 4.3 8.7 13.0 34.8 41.4 6.9 20.7 13.8 13.8 ns
After one year from baseline 0.0 0.0 13.0 21.7 47.8 41.4 13.8 17.2 6.9 13.8 **
After two and a half years from baseline 4.3 8.7 8.7 8.7 52.2 24.1 10.3 17.2 3.4 31.0 ns

3. 介護者の腰痛

介入前調査の時点において腰痛を訴えていた介護者は,対照施設では65.2%(少し痛い:39.1%,中程度痛い:17.4%,かなり痛い:8.7%,ひどく痛い:0%),介入施設では72.3%(44.8%,24.1%,3.4%,0%)であった.介入1年後調査の時点において腰痛を訴えていた介護者は,対照施設では73.8%(56.5%,13.0%,4.3%,0%),介入施設では58.5%(31.0%,20.7%,3.4%,3.4%)であった.介入2年半後調査の時点において腰痛を訴えていた介護者は,対照施設では60.8%(26.1%,30.4%,4.3%,0%),介入施設では69.0%(34.5%,27.6%,6.9%,0%)であった.これらの値を二元配置分散分析にて解析した結果,施設間の主効果,調査期間の主効果,施設と調査期間の交互作用のいずれにも有意差は認められなかった.また,各調査においてドロップアウトした非対象者と解析対象者の腰痛訴え率を施設ごとに比較した結果,解析対象者と非解析対象者間に有意差は認められなかった.

介入前に比べて介入1年後の腰痛症状が「悪化した」介護者は,対照施設では26.1%,介入施設では17.2%,「改善・悪化なし」の介護者は,対照施設では73.9%,介入施設では79.3%であった.介入前に比べて介入2年半後の腰痛症状が「悪化した」介護者は,対照施設では21.7%,介入施設では20.7%,「改善・悪化なし」の介護者は,対照施設では78.3%,介入施設では72.4%であった.介入1年後と介入2年半後の値ごとにχ2検定を行った結果,施設間の腰痛症状の変化に有意差は認められなかった.

4. 腰痛と介助方法の関係

Table 5には,施設ごとのロジスティック回帰分析による,介入前に比べて介入2年半後に腰痛症状が「改善・悪化なし」の介護者と移乗介助方法または入浴介助方法に関する項目との関係を示す.介入施設において,介入2年半後の腰痛症状が「改善・悪化なし」の介護者と関連性を示した項目は,移乗介助時に移動式リフトを使用している(OR:15.00, 95%CI:1.40-161.05),スライディングボートまたはシートを使用している(OR:8.50, 95%CI:1.13-63.87)であった.一方,対照施設における項目はいずれも,介入2年半後における腰痛症状が「改善・悪化なし」の介護者と関連性を認めなかった.また,両施設において,介入1年後の腰痛症状が「改善・悪化なし」の介護者と移乗介助方法または入浴介助方法の項目に関連性は認められなかった.

Table 5. Associations of care workers which improved low-back pain or no change with care methods after two and a half years from baseline investigation
Care methods Control care facility (n=23) Intervention care facility (n=29)
OR 95%CI p OR 95%CI p
OR: odds ratio, 95% CI: 95% confidence interval. ns: no significant, : p<0.05, ―: since the cell had 0, calculation was impossible.
Transfer
Use of hoist
Completely or almost not use 1.00 1.00
Sometimes, often or always use 15.00 1.40-161.05
Use of sliding board or sliding sheet
Completely or almost not use 1.00 1.00
Sometimes, often or always use 8.50 1.13-63.87
Adjustment of the height and back support section of bed
Completely or almost not use 1.00 1.00
Sometimes, often or always use 0.65 0.06-7.32 ns 4.00 0.21-75.66 ns
Lifting of the resident by human power
Always, often, sometimes lift 1.00 1.00
Completely or almost not lift
Taking a unsuitable posture
Always, often or sometimes taking 1.00 1.00
Completely or almost not taking 3.33 0.33-34.12 ns
Bathing
Use of hoist
Completely or almost not use 1.00 1.00
Sometimes, often or always use 1.60 0.13-19.09 ns 0.71 0.06-8.70 ns
Use of automatic bathing equipment
Completely or almost not use 1.00 1.00
Sometimes, often or always use 1.50 0.17-12.94 ns
Lifting of the resident by human power
Always, often, sometimes lift 1.00 1.00
Completely or almost not lift
Taking a unsuitable posture
Always, often or sometimes taking 1.00 1.00
Completely or almost not taking 0.32 0.02-4.66 ns

IV. 考察

本研究では,介護者に福祉用具の使用を組織的に取り組ませるためのプログラムを作成し,そのプログラムによる福祉用具の使用が介護者の腰痛症状に及ぼす影響について,2年半の介入研究にて検討した.その結果,対照施設および介入施設ともに,2年半の調査を通して腰痛を訴えていた介護者は約6~7割おり,また介入前に比べた介入1年後および介入2年半後の腰痛症状の変化においても,施設間および調査期間の違いはなく,介入施設における施設全体としての介入効果は認められなかった.しかしながら,介入施設において,移動式リフト,スライディングボード,スライディングシートを積極的に使用している介護者は,介入前に比べて介入2年半後の腰痛症状が改善するかまたは悪化していなかった.これは,リフトなどの福祉用具を積極的に使用することが,介護者の腰痛の改善や予防に有用であることを示唆する.一方,対照施設では,福祉用具を使用していた介護者に腰痛の改善効果は認められなかった.

欧米諸国では,リフトなどの福祉用具を組織的に導入して使用させると,介護者の腰痛,欠勤日,労災補償費が減少することが,多くの先行研究にて報告されている.例えば,Garg and Kapellusch5)は,移動式リフト,スライディングシート,スタンディングマシーン,取って付きベルトなどの福祉用具を使用させるプログラムを作成し,介入研究を行った.その結果,介入前に比べて介入後は,介護者の抱え上げ作業に伴う傷害が59.8%,欠勤日が86.7%,労災補償費が90.6%減少した.その上,入居者の大多数が,使用された福祉用具を快適で安全と評価していた.Collonsら6)は,介護施設においてリフトおよびスライディングシートを導入するプログラムを作成し,介護者にそれらの福祉用具を使用するためのトレーニングを実施した.その結果,入居者の抱え上げに伴う介護者の疾病数や欠勤日が減少した.

これらの報告では,共通して介護者に福祉用具の使用を推進している.本研究においても,介入施設では,段階的な導入ではあったものの,福祉用具を適用すると決めた入居者には積極的に使用するようにした.実際にリフトを必ず使用していた介護者は31.0%,スライディングボードまたはシートを必ず使用していた介護者は27.6%に至った.一方,対照施設では,福祉用具は導入されていたものの,その使用は十分ではなく,使用の有無は個人の判断に任せられていた.このため,実際にリフトを必ず使用していた介護者は4.3%,スライディングボードまたはシートを必ず使用していた介護者は4.3%にしか過ぎなかった.これらのことから,介護者の腰部負担を軽減し,腰痛を予防するには,福祉用具を導入するだけではなく,介護者に福祉用具を使用させる組織的な取り組みが必要と考えられる.

今回の調査では,対照施設と介入施設における介護者の腰痛の訴え率に違いは認められなかった.これは,介入施設において介入前調査の約9ヶ月後から,入居者の状態に合わせて福祉用具を段階的に使用していったためと考えられる.これにより,介入施設では,介入1年後調査の時点では入居者80名のうち8名(10.0%)のみ,介入2年半後調査の時点においては入居者80名のうち22名(27.5%)のみにしか,福祉用具の適用には至らなかった.福祉用具を適用される入居者が今後さらに増えると,腰痛が改善される介護者が増え,施設全体としての改善効果も現われると期待される.

以上のことから,介護者に福祉用具を使用させる組織的な取り組みは,介護者の腰痛予防に有用と考えられる.また,介入施設にて行なった福祉用具使用推進プログラムは,介護者に福祉用具を使用させるのに有用であったと思われる.本調査は,対象施設数および対象介護者数が少なく,また対照施設と介入施設では施設タイプが異なる.両施設の介護者は,介入前の腰痛訴え率,労働時間,睡眠時間などに違いはなかった.しかし,多床室タイプの施設では,ユニットケア・タイプに比べ,決められた時間内に数十人の利用者に対しておむつ交換や移乗介助を行っていたり,対象人数が多いため入居者の状態把握が希薄になったりすることがあり,これらが介護者の作業負担の増大につながる可能性が考えられる.これらのことより,今後は施設タイプの違いも考慮した大規模な調査を実施し,さらに検証していく必要があると考える.

謝辞

本研究にご協力いただきました介護施設の介護職員および管理者の皆様に心より感謝いたします.

文献
 
© 2017 by the Japan Society for Occupational Health
feedback
Top