産業衛生学雑誌
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調査報告
事業場における化学防護手袋の選択,着用,保守管理等に関する実態調査
加部 勇鶴岡 寛子幸地 勇古賀 安夫江口 将史松井 智美伊藤 理恵徳地谷 洋子宮内 博幸田中 茂
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2017 年 59 巻 5 号 p. 135-143

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抄録

目的:化学物質等による皮膚への障害を予防するために重要な保護具である化学防護手袋の要望・ニーズに関する情報を把握するため,事業場における化学防護手袋の使用等の実態調査を実施した.対象と方法:製造業の国内7事業場で化学防護手袋を使用する作業者およびその管理監督者817人を対象として,2015年9月~10月に化学防護手袋の使用環境・条件・準備選択,教育等,選び方,使い方,使用上の注意・交換時期及び保守管理等に関する調査票(無記名式)を配布,回収した.集計は職位による回答の違いを考慮して,管理監督者と現場作業者に分けて比較検討した.解析にはχ2検定を用いて,5%および1%未満を有意差とした.結果:回答者は,現場作業者が661人(80.9%),管理監督者が121人(14.8%),その他35人(4.3%)だった.化学防護手袋を使用する化学物質は,有機溶剤が70.5%と最も多く,酸・アルカリ28.9%,粉じん18.1%,発がん性物質10.3%の順だった.化学防護手袋を装着する決定理由は,有機溶剤・特定化学物質などの使用が46.5%と最も多く,「SDSに記載されている」が29.8%,「上司・管理監督者の指導」が21.4%だった.「対象作業・取扱い物質」は70.1%(「該当なし」を除くと91.1%)が把握しており,「皮膚及び眼に対する注意警告」は69.5%(91.0%)が表示され,「化学防護手袋の使用理由」の教育は68.1%(90.7%)が受け入ていた.一方,「対象物質の透過試験結果の入手している」,「混合物質は透過時間が短い物質を考慮して選定している」は25.2%(「該当なし」を除くと38.4%),29.2%(48.4%)と「透過試験」に関する項目は低かった.また,管理監督者と現場作業者の比較では,「対象物質の透過試験結果を入手している」が管理監督者27.7%,現場作業者41.2%(p=0.022),化学防護手袋の袖口を「折り返してタレ防止」および「テープで取り付け」では管理監督者各々30.5%,21.8%,現場作業者50.2%(p=0.001),42.2%(p=0.001)と現場作業者が有意に高かった.考察と結論:本調査結果では,化学防護手袋の「透過試験」の知識が産業現場ではまだ普及していないと推察された.今後,化学防護手袋の製造者等から使用する事業者へ「透過試験」に関する知識,普及活動が望まれる.化学防護手袋に関して,管理監督者より現場作業者の方が知識を持っている可能性が示唆された.事業者は,化学防護手袋の保護具着用責任者を選任するとともに,管理監督者は化学防護手袋の正しい知識や使用方法の理解度を上げ,現場作業者を指導する立場になることが期待される.

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© 2017 公益社団法人 日本産業衛生学会
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