産業衛生学雑誌
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調査報告
精神科主治医からの情報提供を充実させるために産業医が依頼文書に記載すべき要素の検討
大河原 眞梶木 繫之楠本 朗藤野 善久新開 隆弘森本 英樹日野 義之山下 哲史服部 理裕森 晃爾
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2018 年 60 巻 1 号 p. 1-14

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抄録

目的:産業医-主治医間におけるメンタルヘルス不調者の就労状況や診療情報の共有方法とその効果に関する具体的な検証は少ない.本研究では,精神科主治医からの診療情報の提供を充実させるため,産業医から精神科主治医へ向けた診療情報提供依頼書(以下 依頼書)に記載すべき内容の検討と,依頼書の記載内容の違いが主治医の印象に与える影響の検証を行った.対象と方法:依頼書に記載が必要な項目及び連携に際して主治医の抱く懸念を明らかにするため,フォーカスグループディスカッション(FGD)を行った.FGDは9名ずつの異なる精神科医集団を対象として計2回実施した.FGD結果の分析を行い,依頼書に記載が必要な項目を設定した.つづいて異なる2つの事例を想定し,それぞれ記載項目,記載量の異なる3パターンの依頼書の雛型の作成を行ったうえで,雛型を読んだ精神科医が感じる印象について,臨床の精神科医に対する質問紙調査を実施し,得られた回答についてロジスティック回帰分析を行った.結果:FGDの結果から,依頼書に記載が必要な項目について,職場における状況,確認事項の明確化,産業医の立ち位置の表明,主治医が提供した情報の取り扱い等が抽出された.これらの結果と研究班内での検討をもとに,依頼書に記載が必要な項目を設定した.質問紙調査の結果は,設定した記載項目を網羅するにつれ,依頼書に書かれた情報の十分さや情報提供に対する安心感等の項目で,好意的な回答の割合が増えた(p<.01).一方で,読みやすさについては好意的な回答の割合が減った.考察:産業医と精神科医の連携を阻害する要因として,主治医が診療情報を提供することで労働者の不利になる可能性を懸念していること,産業医が求める診療情報が明確でないことなどがあることが示唆された.産業医が依頼書を記載する際に,文章量に留意しながら記載内容を充実させ,産業医の立ち位置や提供された情報の使用方法を含めて記載することで主治医との連携が促進する可能性があることが明らかとなった.

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