産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
原著
若年看護師と中高年看護師におけるプレゼンティーズムに関連する要因
吉田 麻美三木 明子
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 60 巻 2 号 p. 31-40

詳細
抄録

目的:プレゼンティーズムには,仕事のストレッサーに加えて,ワーカホリズムの働き方やうっかり者などと形容される失敗傾向が関連すると考える.また,加齢変化に伴う健康上の問題の増加により,中高年看護師のプレゼンティーズム対策は若年看護師と異なる可能性がある.以上より本研究では,若年看護師と中高年看護師それぞれにおけるプレゼンティーズムに関連する要因を明らかにすることを目的とした.対象と方法:10病院に勤務する全看護師2,006名に無記名自記式質問紙調査を実施し,40歳未満の若年看護師761名,40歳以上の中高年看護師536名を対象とした.プレゼンティーズムは日本語版Stanford Presenteeism Scaleの労働障害指数を,関連要因は仕事のストレッサー,ワーカホリズム,失敗傾向を測定した.労働障害指数を従属変数,関連要因を独立変数とする重回帰分析を行った.結果:健康上の問題がある若年は70.8%,中高年は82.5%であり,労働障害指数は若年の方が中高年と比べて有意に高かった(p < 0.001).また,若年は,「仕事の困難さ(β = 0.28, p < 0.001)」のストレッサーの高さやワーカホリズムの下位尺度である「働き過ぎ(β = 0.18,p < 0.001)」の傾向,「アクションスリップ(β = 0.14,p < 0.01)」および「認知の狭窄(β = 0.11,p < 0.05)」の失敗傾向と有意な関連をみとめた.一方,中高年は,「認知の狭窄(β = 0.29,p < 0.001)」の失敗傾向や「働き過ぎ(β = 0.17,p < 0.001)」の傾向,「仕事の困難さ(β = 0.12,p < 0.05)」および「連絡・コミュニケーション不足(β = 0.13,p < 0.01)」のストレッサーの高さと有意な関連をみとめた.考察:中高年看護師は健康上の問題は増加するが,労働能力が低下するとは限らないことが明らかとなった.また,中高年看護師は若年看護師に比べて,仕事のストレッサーよりも失敗傾向の高さがプレゼンティーズムに関連していた.注意の狭小化により適切な行動がとれない経験は,自身の労働能力低下を自覚しやすいものと考えられる.このような失敗傾向のある者については特に配慮を必要とするとともに,疲労や緊張状態などは注意の狭小化を起こしやすくすることから,これらリスクの低減やミスの起こりにくい作業環境の調整の必要性が求められる.

I. はじめに

国内における医療・福祉業の労働者人口は,高齢化の進展による需要の増大に伴い2030年には962万人(2014年と比較して215万人増)と大幅に増加するといわれている1).医療・福祉業の中でも看護師の就業者数は年々増加しており,年齢階級別にみると35~39歳をピークとした山型となっているが,2004~2014年の10年間で60歳以上の看護師は約3倍となった2).アメリカやヨーロッパ,オセアニアなどの国々では,看護師不足と看護労働の高齢化を背景に,高齢看護師が働きやすい職場環境改善やマネジメントへの提言が様々なされている3,4).今後,国内においても看護師の労働力の高齢化が進むことが考えられ,長く働き続けられる職場環境形成が求められる.

加齢変化が顕在化し始める中高年は,個人差は大きいものの,年齢とともに,身体および認知機能の低下や生活習慣病をはじめとする慢性疾患が増加する可能性がある.労働力の高齢化にあたり課題となるのは,加齢変化や慢性疾患の増加により,健康問題を抱える者が増加することである.健康問題を抱える労働者はWork Abilityの低下5)や労働生産性の低下6),病気欠勤7)などのリスクを抱え,さらには健康問題が就労開始や継続の重要な決定要因となる8)ことも先行研究より明らかとなっている.プレゼンティーズムとは,「出勤しているものの,疾病などの健康問題により労働能力が低下している状態9)」と定義される.健康問題を抱える者が増加する中高年労働者に対しては,疾病予防や適切な治療が行われる必要性と同時に,プレゼンティーズムに影響する因子を低減するよう,職場環境改善や個人への支援が求められると考えるが,中高年労働者におけるプレゼンティーズムの実態や関連要因に着目した研究はほとんどない.

医療介護福祉職や教育職といったいわゆる対人援助職は,プレゼンティーズムが起こりやすい職種であることが報告されている10).韓国の看護師を対象としたフォーカスグループインタビューを用いた研究では,協力した看護師20名全てがプレゼンティーズムを経験しており,上司や同僚からの配慮を求めていることが報告された11).また,ノースカロライナ州の看護師1,171名のうち71%が腰痛を抱え,18%が抑うつ状態にあり,62%の者が過去1年間にプレゼンティーズムの状況にあったことが報告されている12).さらに,痛みや抑うつはプレゼンティーズムに有意に関連しており,患者の転落や薬剤エラーの数,ケアの質の低下に有意に関連していた12).一方,国内の看護師におけるプレゼンティーズムの実態や関連する要因については十分に明らかとなっていない.また,オーストラリアの50代以上の看護師を対象とした調査では,長時間の立ち仕事や,更衣や入浴介助,体位変換や搬送,ベッドメーキング等日常生活援助や交替制勤務等に困難感を感じていることが報告されるなど13),看護師の労働環境は年齢を重ねるにつれて負担が大きいことが考えられるが,若年看護師と中高年看護師それぞれにおいて,プレゼンティーズムに差異があるかどうかについて検討された研究はほとんどない.

プレゼンティーズムに関連する要因については,例えば,賃金や傷病手当,出退勤管理や人員削減による経営合理化,雇用形態など組織の方針や,仕事の要求度や仕事のコントロール度,交代のしやすさ,チームワークなどの職務設計などが報告されている14).看護師は他職種と比べて,量的労働負荷や労働負荷の変動,認知的要求,役割葛藤などの仕事のストレッサーが高く,抑うつのストレス反応が高いことが報告されており15),人命に関わる仕事内容であることや,患者や家族との関係や医師との関係など看護師特有の仕事のストレッサーを抱える16).このことから,看護師のプレゼンティーズムに関連する要因を検討する上では,看護師に特徴的な仕事のストレッサーにも着目して検討する必要がある.

さらに,プレゼンティーズムに関連する要因の検討にあたっては,仕事のストレッサーのみならず,個人の行動特性も関連するものと考えられる.

ワーカホリズムとは「強迫的かつ過度に一生懸命働く傾向17)」と定義され,働くことへの衝動性制御の困難,過度の完全主義,低い自尊心の補償,非就業時の罪悪感・不安の低減などによって特徴づけられる18).ワーカホリズムの傾向のある労働者は仕事に多くの時間を費やすことから17),様々なストレス反応や疾病による病気欠勤に関連する19,20)ことが報告されている.パフォーマンスに対しても短期的にはよいパフォーマンスをするかもしれないが,長期的には健康状態もあわせて悪い影響を及ぼすとされる21).対人援助職である看護師はワーカホリズムの働き方になりやすいことが考えられ,また,ワーカホリズムの傾向のある者ほど,プレゼンティーズムの状態で働く者の多いことが考えられるが,その点において検討された研究はない.

また,日常的に失敗しがちな人を「おっちょこちょい」「うっかりもの」などと形容することがあるが,このような失敗行動の生じやすさを失敗傾向という22).例えば,言い間違いや物忘れといった,ある行動中に必要な注意が配分されないことによって起こる失敗,いわゆる「アクションスリップ」を起こしやすい者がいる.また,異常時や突発的な事態など,高負荷状態においては処理できる情報の範囲が狭くなる23,24),いわゆる「認知の狭窄」による失敗を起こしやすい者もいる.さらに,一般に衝動性の高い者は問題解決の際には反応が早いが失敗が多いと言われている.「衝動的失敗」は慎重に行動しなければならない状況ですばやく行動してしまう傾向であり,状況に対する見通しの悪さや23),行動のコントロールが弱いこととの関連がある22).このような失敗傾向の高い者ほど失敗行動を生じやすく,プレゼンティーズムとして高く認識することが考えられるが,失敗傾向とプレゼンティーズムとの関連について検討はされていない.

以上より,本研究では,若年看護師と中高年看護師それぞれにおいて,プレゼンティーズムに関連する要因を明らかにすることを目的とした.関連する要因として,本研究では仕事のストレッサー,ならびに,個人の行動特性としてワーカホリズムや失敗傾向との関連について明らかにする.

II. 対象と方法

1. 対象

2016年7~8月,A地方の設置主体が同じである全病院(10病院)に勤務する全看護師2,006名を対象とした.

2. 調査方法

無記名自記式質問紙調査を実施した.調査票は病院の担当者を通じて対象者に配布し,回収箱へ任意提出するよう依頼した.留め置き期間は2週間とした.

3. 調査内容

1) プレゼンティーズム

Koopmanら25)のStanford Presenteeism Scale(SPS)を元に,Turpinらは13項目版を開発した9).本研究では和田ら26)によって作成されたSPS13項目版の日本語版SPSを用いた.これは,4つの大項目と13の小項目から構成される自記式の質問票である.質問1は,この4週間に影響を受けた健康上の問題について該当するもの全てとその中で1番の健康上の問題を1つ選択する.質問2~11は,1番の健康上の問題による仕事の生産性の低下を示す労働障害指数(Work Impairement Score;WIS)を測定する質問項目である.「仕事を仕上げるのに十分な気力がありましたか?」「仕事の目標を達成することに集中できましたか?」など,反転項目を含む10項目からなり,これら質問に対して「いつも」から「全くない」の5件法で評価し,質問項目の総計をさらに換算式に基づいて0~100点に得点化する.得点が高いほどプレゼンティーズムの程度が高く,労働能力が低下していることを示す.質問12は自覚的な労働生産性の程度を表す労働生産性指数(Work Output Score;WOS)を測定する質問で,この4週間について1番の健康上の問題を考慮した際の仕事中に通常発揮できた生産性についてVisual Analogue Scale(VAS)で評価する.労働生産性指数は得点が高いほどプレゼンティーズムによる労働への影響が小さいことを示す.質問13は損失労働時間を測定するものであり,1番の健康上の問題により過去4週間に失われた労働時間について,0~40時間以上の間で回答を求める.

本研究においては,日本語版SPSで示される指標のうち,健康上の問題の有無と労働障害指数を用い,労働障害指数をプレゼンティーズムの指標とした.労働障害指数は信頼性・妥当性の検討がなされており9),和田らによる日本語版の労働障害指数の信頼性係数はα=0.8926),Yamashitaらによる日本人の女性労働者を対象とした調査における信頼性係数はα=0.87であった27)

2) 看護師の仕事のストレッサー

看護師特有の仕事のストレッサーについて測定するため,三木ら16)の看護師ストレッサー尺度を用いた.この尺度は,「仕事の困難さ」「人命にかかわる仕事内容」「患者・家族との関係」「働きがいの欠如」「患者の死との直面」「医師との関係」「連絡・コミュニケーション不足」「技術革新」の8下位尺度からなる.本研究では,看護師のどの職場においても繰り返し受ける可能性のあるストレッサーである,「仕事の困難さ(例:慣れない仕事,知らない仕事を任される)」6項目,「人命にかかわる仕事内容(例:常に注意を払わなければ事故が起こる可能性がある)」5項目,「患者・家族との関係(例:威圧感を与えるような患者と接する)」5項目,「医師との関係(例:威圧感を与えるような医師と接する)」4項目,「連絡・コミュニケーション不足(例:他の看護の仕事に追われて,要望を言ってきた患者に満足に応えられない)」3項目,「技術革新(例:どんどん新しいことをたくさん覚えなければならない)」3項目の6下位尺度26項目について検討した.なお,「連絡・コミュニケーション不足」の質問項目の1つである「同じ患者が頻回にナースコールを押してくる」は,外来や手術室など,ナースコールを使用しない職場においては有効な質問ではないと考えられ,質問項目から除外した.

ここ数ヶ月のことについて,「全く違う」から「大いにあてはまる」の4件法で尋ね,得点が高いほどストレッサーが高いことを示す.信頼性係数は「技術革新」のみα=0.65と低めであったが,その他の因子についてはα=0.75以上で内的整合性による信頼性は高く,本尺度を用いて看護師のストレッサーと業務上の事故や病気欠勤との関連が報告されている16)

3) ワーカホリズム

Schaufeliら17)のthe Dutch Workaholism Scale(DUWAS)の日本語版を用いた.この尺度は,「働き過ぎ(例:常に忙しく,一度に多くの仕事に手を出している)」5項目,「強迫的な働き方(例:仕事を休んでいる時間は,罪悪感を覚える)」5項目の2下位尺度10項目で構成されており,各項目に該当する頻度を,「感じない」から「いつも感じる」の4件法で回答を求めた.信頼性・妥当性の検討がなされており,日本語版DUWASの信頼性係数は「働き過ぎ」についてはα=0.73,「強迫的な働き方」についてはα=0.68で,「強迫的な働き方」についてはややαは低いものの内的整合性は確保されている17)

4) 失敗傾向

山田の失敗傾向質問紙23)を用いた.日常的に起こりうる失敗傾向について測定する尺度で,Broadbentら28)が開発したCognitive Failures Questionnaire(CFQ)を元に作成されている.CFQはエラーの分類の中でもスリップを測定する尺度と考えられており23),失敗傾向質問紙はスリップだけでなく,より広範囲の失敗傾向を捉えるために新たに項目を追加した尺度である.もの忘れや不注意による失敗である「アクションスリップ(例:手に持っていたものをなにげなくそこに置き,後になってどこに置いたか思い出せなくなることがある)」10項目,処理できる情報の範囲が狭まる「認知の狭窄(例:早く決めるように急がされると,よく考えずに決めてしまい,後で後悔することがある)」9項目,状況の見通しが悪く行動のプランが不十分なために起こる「衝動的失敗(例:その日の予定が空いているかどうか,確かめないで約束してしまうことがある)」6項目の下位尺度25項目で構成されており,各項目に該当する頻度を「非常によくある」から「まったくない」の5件法で回答を求めた.信頼性・妥当性の検討がなされており,大学生を対象とした失敗傾向の信頼性係数は「アクションスリップ」についてはα=0.79,「認知の狭窄」についてはα=0.81,「衝動的失敗」についてはα=0.70で内的整合性は高く,再テスト法においても安定した結果が得られている23)

5) 基本属性

性別,年齢,雇用形態,職位,勤務形態,看護実務経験年数,現在の部署での経験年数について回答を求めた.

4. データの分析方法

本研究においては,40歳以上を中高年看護師(以下,中高年)と定義し,それより若い40歳未満を若年看護師(以下,若年)と定義した.

健康上の問題の有無について若年と中高年の比較のためχ2検定を行った.健康上の問題別の有訴率ならびに1番の健康上の問題別の労働障害指数を若年,中高年に分けて算出した.そして,該当者数の多かった上位3つの健康上の問題における労働障害指数の比較のため,Kruskal-Wallis検定を行った.次に,労働障害指数について若年と中高年での比較および年代別比較のため,Mann-Whitney検定およびKruskal-Wallis検定を行った.そして,各変数についてSpearmanの順位相関分析後,労働障害指数を従属変数とし,仕事のストレッサーとワーカホリズム,失敗傾向を独立変数とする重回帰分析(ステップワイズ変数選択法)を,若年と中高年それぞれにおいて行った.

データの分析には,IBM SPSS Statistics Version24を用い,統計的有意水準は5%とした.

5. 倫理的配慮

筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認(第1082号)を得て,研究を実施した.

III. 結果

1. 対象者背景

1,693名から回答が得られ(回収率84.4%),年齢や健康上の問題及び労働障害指数,仕事のストレッサー,ワーカホリズム,失敗傾向について全回答の者,1,297名を分析対象とした.対象者のうち,若年は761名,中高年は536名で,平均年齢は若年が29.4歳,中高年が47.3歳であった(Table 1).若年89.1%,中高年97.4%を女性が占め,勤務形態については若年82.6%,中高年59.7%が交替勤務であった.若年と中高年で比較した結果,性別,雇用形態,職位,勤務形態において有意差をみとめた.

Table 1. Characteristics of young and middle-aged participants
Item Under 40 years n=761 40 years and over n=536 χ2 p
n % n %
Gender
Male 83 10.9 14 2.6 31.27 <0.001
Female 678 89.1 522 97.4
Employment arrangements
Full Time 735 96.8 497 92.7 11.49 <0.001
Part-time 24 3.2 39 7.3
Employment position
Head Nurse 0 0.0 56 10.5 175.56 <0.001
Section Head 19 2.5 88 16.5
Staff 742 97.5 390 73.0
Working arrangements
Shift Work 628 82.6 317 59.7 84.96 <0.001
Day Shift 116 15.3 184 34.5
Other 16 2.1 31 5.8
Item Under 40 years 40 years and over
n M SD n M SD
Age 761 29.4 5.8 536 47.3 5.5
Years of work experience 760 7.6 5.4 532 23.7 6.9
Work experience at current section 759 3.6 2.9 535 5.8 5.0

2. 健康上の問題別の有訴率と労働障害指数

過去4週間の健康上の問題について「あり」と回答した者は全体で981名(75.6%),若年で539名(70.8%),中高年で442名(82.5%)であり,中高年に健康上の問題ありと回答した者が有意に多かった(p < 0.001)(Table 2).

健康上の問題があると回答したもののうち,各健康上の問題の有訴率について,若年で最も多かったのは「腰痛または首の不調や肩のこり」で62.5%,次いで「胃腸の不調」が38.6%,「偏頭痛・慢性頭痛」が32.1%であった(Table 3).一方,中高年で最も多かったのは「腰痛または首の不調や肩のこり」が76.5%であり,次いで「視力低下・眼の病気」が33.5%,「胃腸の不調」が31.7%,「偏頭痛・慢性頭痛」が30.5%,「関節炎・関節の痛み」が19.2%であった(Table 3).

労働障害指数の平均値が最も高かった健康上の問題は,「うつ・不安または情緒不安定」で若年は59.7点,中高年は55.0点であった(Table 4).健康上の問題別にプレゼンティーズムの程度は異なるか検討するため,該当者数の多かった上位3つの健康上の問題,すなわち「腰痛または首の不調や肩のこり」,「胃腸の不調」,「偏頭痛・慢性頭痛」の労働障害指数を比較した結果,有意差をみとめ(H = 8.23,p = 0.016),「胃腸の不調」は「腰痛または首の不調は肩のこり」と比較して,有意に労働障害指数が高かった.

Table 2. Health problems among young and middle-age
Item Under 40 years n=761 40 years and over n=536 χ2 p
n % n %
Having health problems
Yes 539 70.8 442 82.5 23.10 <0.001
No 222 29.2 94 17.5
Table 3. Prevalence rates of health conditions in the last 4 weeks.
Item Under 40 years n=539 40 years and over n=442
n % n %
Allergies 157 29.1 104 23.5
Stomach or bowel disorder 208 38.6 140 31.7
Asthma 40 7.4 27 6.1
Breathing disorder 12 2.2 14 3.2
Back or neck disorder 337 62.5 338 76.5
Heart or circulatory 9 1.7 20 4.5
Depression, anxiety or emotional disorder 46 8.5 44 10.0
Diabetes 2 0.4 9 2.0
Arthritis or joint pain/stiffness 33 6.1 85 19.2
Migraines/chronic headaches 173 32.1 135 30.5
Hearing impairement 11 2.0 34 7.7
Optical impairement 113 21.0 148 33.5
Skin diseases 112 20.8 43 9.7
Other 35 6.5 35 7.9
Table 4. Mean Work Impairment Score by each primary health condition
Item Under 40 years 40 years and over
n M SD n M SD
Allergies 56 36.5 16.0 14 42.1 18.9
Stomach or bowel disorder 76 46.6 12.2 36 46.5 11.5
Asthma 12 44.8 14.8 9 36.7 10.4
Breathing disorder 4 37.5 18.1 6 40.4 10.9
Back or neck disorder 165 43.4 14.3 184 41.7 15.2
Heart or circulatory 2 43.8 8 43.4 12.0
Depression, anxiety or emotional disorder 18 59.7 13.1 17 55.0 15.2
Diabetes 1 42.5 3 37.5 6.6
Arthritis or joint pain/stiffness 5 54.0 15.1 24 36.0 12.9
Migraines/chronic headaches 78 48.2 12.7 43 40.1 15.3
Hearing impairement 3 43.3 18.8 9 38.1 11.5
Optical impairement 22 43.9 10.7 24 42.0 16.0
Skin diseases 39 47.7 13.5 13 41.2 8.5
Other 29 49.2 17.5 22 48.9 18.8

3. 若年と中高年におけるプレゼンティーズムに関連する要因

労働障害指数について若年と中高年で比較した結果,若年(Mdn = 45.0)が中高年(Mdn = 42.5)に比べて有意に高かった(U = 104,717.00,p < 0.001).年代別に比較した結果,有意差をみとめ(H = 20.68,p < 0.001),20代の労働障害指数は,40代および50代以上と比較して有意に高い結果となった.

各変数についてSpearmanの順位相関分析を行った結果,労働障害指数と最も相関の高かったものは「仕事の困難さ」のストレッサーでr = 0.379,次いで「認知の狭窄」がr = 0.363,「働き過ぎ」がr = 0.325であった.

プレゼンティーズムに関連する要因について,若年と中高年それぞれにおいて検討した(Table 5).若年は,「仕事の困難さ(β = 0.28,p < 0.001)」のストレッサーの高さや「働き過ぎ(β = 0.18,p < 0.001)」のワーカホリズムの傾向,「アクションスリップ(β = 0.14,p < 0.01)」および「認知の狭窄(β = 0.11,p < 0.05)」の失敗傾向と有意な関連をみとめた.一方,中高年は,「認知の狭窄(β = 0.29,p < 0.001)」の失敗傾向や「働き過ぎ(β = 0.17,p < 0.001)」のワーカホリズムの傾向,「仕事の困難さ(β = 0.12,p < 0.05)」および「連絡・コミュニケーション不足(β = 0.13,p < 0.01)」のストレッサーの高さと有意な関連をみとめた.

Table 5. Multiple regression analysis by setting Work Impairement Score of groups of young and middle-age
Variable B SE B β t VIF
Under 40 years (n=539)
Job Stressor Difficulty of work 1.12 0.18 .28*** 6.43 1.44
Workaholism Working Excessively 0.81 0.19 .18*** 4.35 1.26
Error Proneness Action Slips 0.39 0.13 .14** 2.89 1.73
Cognitive Narrowing 0.29 0.14 .11 2.05 1.99
R value .53
R2 value .28
Adjusted R2 value .28
Variable B SE B β t VIF
40 years and over (n=442)
Job Stressor Difficulty of work 0.52 0.20 .12 2.56 1.36
Lack of communication 0.90 0.34 .13** 2.68 1.26
Workaholism Working Excessively 0.80 0.21 .17*** 3.82 1.16
Error Proneness Cognitive Narrowing 1.01 0.15 .29*** 6.57 1.14
R value .49
R2 value .24
Adjusted R2 value .23
p<0.05. **p<0.01. ***p<0.001.

IV. 考察

1. 若年看護師と中高年看護師における健康上の問題と有訴率

過去4週間に健康上の問題があったと回答した者は75.6%(若年73.1%,中高年82.9%)であり,若年と中高年で比較すると健康上の問題がある者は中高年に有意に多かった.国内の女性病院看護師8,328人を対象とした調査によると,現在治療中の疾患がある者は3,614人(43.4%)であったことが報告されているが29),本研究結果から,治療の有無にかかわらず自己対処をしている者も含め,健康上の問題を抱えながら勤務をしている看護師は多いことが示された.

健康上の問題があると回答した者のうち,最も有訴率の高かった健康上の問題は「腰痛または首の不調や肩のこり」で68.8%であり,若年が62.5%,中高年は76.5%と,若年のうちから高い有訴率にある実態が明らかとなった.看護師の労働環境は人力での患者の移乗や日常生活援助などを通してストレスのかかる体勢を伴う身体的労働負荷が高く,腰痛は看護師の作業関連疾患の一つとされており,腰痛予防や対処方法について積極的な介入が必要とされる.

また,「視力低下・眼の病気」は若年が21.0%に対し中高年は33.5%,「関節炎・関節の痛み」は若年が6.1%に対し中高年は19.2%であり,中高年に多い傾向がみられた.加齢変化に伴う感覚機能の低下や,骨関節の結合組織の損傷や弾性低下などにより中高年で増加する傾向にあるためと考えられる.一方,「聴力低下・耳の病気」は若年が2.0%であったのに対し中高年は7.7%であり,中高年の方が増加する傾向はみられたが有訴率としては低い結果であった.加齢変化として聴力低下も懸念されるが,本研究対象における中高年看護師の年齢層においてはその変化が顕著に現れる年代にはないことが考えられる.中高年においては「腰痛または首の不調や肩のこり」「関節炎・関節の痛み」といった筋骨格系に関連する健康上の問題や,「聴力低下・耳の病気」「視力低下・眼の病気」といった感覚器系に関連する健康上の問題,「循環器系疾患」「糖尿病」といった疾患の増加が特徴的であり,年代に合わせた疾病予防の取り組みやこれら健康上の問題に配慮した作業環境の調整が必要となることが示唆される.

2. 健康上の問題別のプレゼンティーズム

1番の健康上の問題と回答した人数の多い上位3つの健康上の問題であった「腰痛または首の不調や肩のこり」,「胃腸の不調」,「偏頭痛・慢性頭痛」の労働障害指数を比較すると有意差をみとめ,原因となる健康上の問題によってプレゼンティーズムに差があることが示唆された.

労働障害指数の平均値の最も高い健康上の問題は,「うつ・不安または情緒不安定」であった.先行研究においても,「うつ・不安または情緒不安定」の労働障害指数は他疾患と比較して高く30),メンタルヘルスの問題の労働遂行能力への影響の高さが明らかとなった.一方,看護師は一般職と比べて精神健康度が低いことが先行研究より報告されているが31),本研究において健康上の問題があると回答した者のうち,「うつ・不安または情緒不安定」と回答した者は若年8.5%,中高年10.0%と,他の健康上の問題と比較すると少なかった.この結果については,メンタルヘルス不調に関連した症状を抱えていても健康上の問題として「うつ・不安または情緒不安定」とは認識していない可能性や,回答への抵抗感のため,有訴率が低くなったことが考えられる.看護師の精神健康度の低さは以前よりいわれていることから,うつや適応障害など精神的な問題が顕在化している看護師に対する支援のみならず,セルフケアやラインケアを通したストレスマネジメントの必要性が示唆される.

3. 若年看護師と中高年看護師におけるプレゼンティーズムに関連する要因

看護師は身体的な労働負荷が高く,加齢により身体機能の低下する中高年看護師の労働遂行能力の低下が懸念されたが,若年の方が中高年に比べてプレゼンティーズムの得点は高い結果であった.年代別に比較しても同様のことがいえ,20代は40代,50代以上と比較して有意に高い結果となった.様々な職種の労働者を対象とした先行研究においても,年齢が若いほどプレゼンティーズムの得点が高い結果が報告されており9),Yamashitaらによる国内の女性労働者を対象とした調査においても,50代以上の労働障害指数は他の年代と比較して有意に低い結果を示していた27).高齢労働者は深刻な健康問題がなければ若い労働者と比べてより労働能力は高く,より高い対人能力をもつ32)といわれている.中高年の健康上の問題は加齢に伴い慢性的に経過してきた疾患や症状が多く,それら健康上の問題を抱えながら仕事をしていくことに適応している者が多いことや,コミュニケーション能力や判断力の高さなど,経験的側面から補うことができるために,若年が中高年と比べてプレゼンティーズムの得点が高い結果が示されたと考えられる.また,40代以上の看護師の離・転職願望の1番の理由が健康上の問題である33)といわれていることから,深刻な健康問題を抱えている者は既に退職している可能性が考えられる.本研究対象においては,若年と比較して中高年の方が交替勤務に就いておらず,日勤業務や管理業務に就く者が有意に多い特徴があったが,看護師としての働き方の違いもまた,中高年のプレゼンティーズムが高い状況にはない結果と関連している可能性も考えられる.

プレゼンティーズムに関連する要因については,若年と中高年において共通した因子の関連をみとめた.

仕事の要求度の高さや仕事のコントロール度の低さとプレゼンティーズムとの関連は先行研究にて報告されているが34),本研究対象の看護師においても,「慣れない仕事,知らない仕事を任される」「自分の能力を越えた要求をされる」「重荷だと思う仕事を任される」といった仕事の困難さのストレッサーの高さはプレゼンティーズムと有意な関連をみとめた.個々の技量や仕事量に応じた業務配分を行うなどして仕事の困難性を低減することがまず求められる.

また,ワーカホリズムは長い時間を仕事に費やすことで,休息の機会を失い,長い目でみると健康問題へ影響することが考えられている35).過度に働き過ぎてしまう,このような働き方の傾向のある者に対しては,休憩時間や終業時間に際してタイムアウトするなどのマネジメントの工夫が必要と考える.

そして,失敗傾向の高い者は,健康上の問題を有することで,より注意力が散漫あるいは狭小化することにより失敗行動を生じやすく,プレゼンティーズムに影響することが考えられる.このことから,失敗傾向に配慮した個人への支援や,ミスの起こりにくい作業環境の調整の必要性が示唆される.

若年は「仕事の困難さ」のストレッサーの高さの影響が最も大きいことが示唆された一方,中高年は「認知の狭窄」の失敗傾向の高さの影響が大きく,仕事のストレッサーよりも個人の行動特性の関与が大きいことが示唆された.これは,中高年は健康上の問題を抱えていたとしても経験的側面から仕事への影響をある程度,補うことができるためと考えられる.注意の狭小化により適切な行動がとれない経験は,自身の労働能力低下を自覚しやすいものと考えられる.健康問題が就業継続に関連している8)ことが先行研究よりいわれているが,健康問題に伴う労働能力低下の自覚が就業継続意向に関連しているものとも考えられ,このような失敗傾向のある者については特に配慮を必要とするとともに,疲労や緊張状態などは注意の狭小化を起こしやすくすることから,これらリスクの低減が求められる.

また,中高年においては,仕事の困難さのストレッサーとともに,連絡・コミュニケーション不足のストレッサーも有意な関連をみとめていた.医師や看護師同士の連携不足により患者のニーズに応えられない,このような風通しの悪い職場環境は健康問題を抱える看護師に対しても配慮が十分に行き届かないために,プレゼンティーズムと関連をみとめたと考えられる.オーストラリアの40~60歳の看護師を対象とした調査によると,身体的負荷や精神的な負荷の高さによりストレスを感じているが放任されているという思いを抱いていることが明らかにされている36).中高年は若年に比べて健康上の問題を抱えている者が多いにも関わらず,配慮がなされず,プレゼンティーズムにある者がいることが考えられる.このことから,患者のケアにあたって円滑なコミュニケーションがはかれ,中高年看護師に対しても健康問題や過重な労働負荷について配慮される職場環境形成が求められる.

4. 本研究の限界と今後の課題

本研究では40歳以上の看護師のプレゼンティーズムに着目したが,看護師の高齢化を見据える上では,今後は,定年延長制度や再雇用制度の対象となる定年後の看護師のプレゼンティーズムについても検討する必要がある.60歳以上の看護師は増加傾向にあるものの,平成26年衛生行政報告例によると,平成26年末で60歳以上の看護師(准看護師を除く)は全体の5.3%とたいへん少なく2),就業場所も病院とは限らないため,サンプリングなど工夫をする必要がある.

また,本研究でプレゼンティーズムの測定に用いている日本語版SPSでは,月経困難症や月経前症候群,更年期障害,女性生殖器疾患等,女性特有の疾患や症状については網羅されていない.90%以上を女性が占める看護師を調査する上では,女性特有の疾患や症状について検討する必要がある.

そして,本研究では,中高年を40歳以上として比較を行ったが,関連要因が異なるという点では重要な変数が含まれていない可能性や年齢区分について考慮する必要があり,さらに検討が必要であると考えられる.

V. 結論

本研究では,10病院に勤務する全看護師2,006名のうち1,297名を分析対象とし,若年看護師と中高年看護師それぞれにおいて,プレゼンティーズムに関連する要因を検討した.その結果,以下のことが明らかになった.

1.中高年看護師の方が若年看護師に比べて健康上の問題は多いものの,プレゼンティーズムの得点は若年看護師の方が中高年看護師に比べて有意に高かった.このことから,中高年看護師は加齢に伴い健康上の問題が増加したとしても,労働能力が低下するとは限らないことが示唆される.

2.プレゼンティーズムに関連する要因について,若年看護師は「仕事の困難さ」のストレッサーの高さの影響が最も大きいことが示唆された一方,中高年看護師は「認知の狭窄」の失敗傾向の高さの影響が大きく,仕事のストレッサーよりも個人の行動特性の関与が大きいことが示唆された.注意の狭小化により適切な行動がとれない経験は,自身の労働能力低下を自覚しやすいものと考えられる.このような失敗傾向のある者については特に配慮を必要とするとともに,疲労や緊張状態などは注意の狭小化を起こしやすくすることから,これらリスクの低減やミスの起こりにくい作業環境の調整の必要性が求められる.

謝辞

本研究実施にご承諾くださった対象施設の看護部長様,副看護部長様,調査にご協力くださった看護師の皆様に,心より感謝申し上げます.

本研究における利益相反はありません.

文献
 
© 2018 公益社団法人 日本産業衛生学会
feedback
Top