産業衛生学雑誌
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総説
休業者に対する復職支援プログラムの有用性:システマティックレビュー
道喜 将太郎原野 悟品田 佳世子大山 篤小島原 典子
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2018 年 60 巻 6 号 p. 169-179

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抄録

目的:日本産業衛生学会関東地方会により2017年5月に公開された『科学的根拠に基づく「産業保健における復職ガイダンス2017」』のレビュークエスチョンの一つである「休業者に対して職場の復職支援プログラムは,復職に関する就業アウトカムを向上させるか.」について,システマティックレビューにより知見を集積することを目的とした.対象と方法:Pubmed,Cochrane Library,医中誌の3つのデータベースを用いて検索を行った.ガイダンス作成グループは,システマティックレビューの結果に基づき,Evidence to Decision frameworkを用いて推奨案を作成し,投票で推奨を決定した.システマティックレビューとメタアナリシスを疾患横断的に行い,これまで明らかになっているエビデンスを統合した.本システマティックレビューの研究計画はPROSPEROに登録されている(CRD42016048937).結果:筋骨格系障害に関しては5編,メンタルヘルス不調は6編の統合を行った.心臓疾患やがんについては適格基準に当てはまる文献はなかった.筋骨格系障害では,通常のケア群より作業療法群で早く復職する結果が得られた(HR 1.58[95%CI 1.26―1.97],-40.71日[95%CI -60.69―-20.72]).メンタルヘルス不調では,心理療法的介入による復職支援プログラム群は通常のケア群に比べて休業期間が有意に短かった(-18.64日[95%CI -27.98―-9.30日]).考察と結論:筋骨格系障害による休業に対する復職支援プログラムの介入では,リハビリテーションという腰痛への直接的なアプローチに加えて,職場の上司や産業保健スタッフとの複数回のミーティングを行い,作業環境管理,作業管理,心理的問題への取り組みや認知行動療法的手法を用いることで早期の職場復帰に役立つ可能性がある.メンタルヘルス不調においては,精神科医や心理職への相談が有効である可能性や,心理療法的アプローチで面談を行うことで休業日数の短縮の可能性が示唆された.また,職場復帰におけるリワーク・プログラムの重要性が明らかになった.ただし,日本で実施された研究はないため,これらの介入方法については,国ごとの産業保健の仕組みや文化の違いから単純に導入することが出来ない点で慎重な検討が必要である.今後,日本においてエビデンスレベルの高い研究が実施される必要がある.

I. 緒言

病気休業からの職場復帰に際して,どのようなケアが必要となるのかについては,世界各国でエビデンスの集約が行われており,2015年には復職に関する総括的レビューも報告されている1).その中で,病気休業中の職員への職場での介入は職場復帰までの期間を縮めることが報告されているが,特にメンタルヘルスとがんについては介入効果のエビデンスは十分ではなく,より広い範囲の健康状態を評価する必要があると報告されている.本邦ではがん,脳卒中,難病などの反復・継続した治療を必要とする疾患を対象とした「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」2)や,メンタルヘルス不調に対する「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」3)等が行政から示されているが,疾患横断的にエビデンスを集約したものはない.日本産業衛生学会関東地方会の産業保健における復職ガイダンス策定委員会により作成され2017年5月に日本産業衛生学会関東地方会のホームページで公開した「産業保健における復職ガイダンス2017(以下,「復職ガイダンス2017」と略す)」4)では,心臓疾患,がん,筋骨格系障害,メンタルヘルス不調などで休業している職員が職場復帰を希望する際に,労働者の健康状態や支援の環境から,職場復帰が可能であるか否かの情報を産業保健スタッフに提供することを目的として,各疾患における一般的な休業期間について,復職における判断指標,主治医との連携,家族の支援,復職時の就業上の配慮等のエビデンスを示している.本総説は復職ガイダンス2017の解決すべき研究課題の一つとして挙げられている,「休業者に対して復職支援プログラムは,復職に関する就業アウトカム(休業期間,復職率,再休業率,パフォーマンス低下)を向上させるか.」という課題に対して行われた研究である.海外で行われている取り組みと同様に,本邦でも復職支援プログラムが普及しつつあるが,質の高いエビデンスに基づいていないか,もしくは探索的な研究によりその効果が評価されているかにとどまっている5-7).産業保健上解決すべき本課題について,システマティックレビューにより現時点で明らかになっている知見を集積しガイダンスのための推奨を作成,広く周知することを目的とした.

II. 方法

1. エビデンスの収集

システマティックレビューを行う際にPRISMAステートメント8)に沿うことが推奨されている.PRISMAステートメントは研究計画の登録や適格基準,検索式,データの抽出過程,結果の統合等の方法について示している.PROSPERO(International prospective register of systematic reviews)へ登録し(登録番号:CRD42016048937),Pubmed,Cochrane Library,医中誌の3つのデータベースを用いて医学図書館員と産業保健専門家が協働して検索を行った.検索は,表1に示す検索語を用いて2016年1月21日および2016年1月26日に検索を行った.データベースから得られた文献の中で重複した論文を除外し,適格基準に照らし合わせて論文の選択を行った.

表1. 検索データベースと検索語
検索データベース 検索式 検索実行日
PubMed Search (((((vocational rehabilitation) OR work site visit)OR "work trial"))) AND ((((((sick leave) OR sick absence)OR sickness absence)) OR employee)) 2016/01/21
医中誌 ((((疾患/TH or 障害/AL)) or ((疾患/TH or 疾病/AL)) or((従業員/AL) or ((労働者/TH or 労働者/AL)) or ((労働者/TH or 勤労者/AL)) or (社員/AL) or (職員/AL)))) and ((試し出勤/AL) or (リハビリ出勤/AL)) 2016/01/26
Cochrane ((sick leave OR employee)) AND (work trial OR work site visit) 2016/01/26

2. 適格基準

選択・除外基準に沿って,独立した2名(SD,SH)がタイトルと抄録を評価した.選択の可能性がある論文については全文を取り寄せ,基準を満たす論文を選択した.

選択基準

「休業期間,復職率,スコア化されたQOLなどの記載があるもの」,「職域における研究」,「悪性疾患,循環器疾患,整形外科疾患,精神科疾患,その他の疾患に関する研究」,「Randomised Controlled Trial(RCT)であること」

除外基準

「労災,産業中毒,薬剤・アルコール・タバコ中毒,遺伝性疾患に関する研究」,「地震や津波などの自然災害,刑務所など特殊な環境,警察,軍隊などハイリスク職場に関する研究」,「学童,大学生など教育機関を対象とした研究や,高齢者施設の入所者を対象とした研究」,「プロトコール,方法に関する論文,または取組の紹介で,結果の記載がないもの」,「動物実験,ヒトを対象とした試料を用いた実験」,「精神科疾患のうちAlzheimer病,慢性疼痛,外傷などからの2次性の抑うつ状態,治療薬の副作用,精神遅滞」,「実データに基づかない,エキスパートの意見のみの総説」,「正規雇用を含まず,不就労者,非正規雇用者のみに焦点を当てた研究」,「小規模の個人事業主のみを対象とした研究」,「医療介入,個人的な生活介入が主体で,職場との関わりが検討されていない復職に関する研究」,「休職期間,復職率の記載がなく,Self-efficacy(スコア),痛みなどの疾患に関する指標のみをアウトカムとした研究」

3. エビデンスの評価と統合

RCTは,RevMan 5.3のCochrane risk of bias tool to assess the methodological quality of the trial(Cochrane Collaboration)9)を用いてバイアスリスクを評価した.独立した2名のレビュワー(SD,SH)が評価を行い,意見の相違があった場合は,第三者のレビュワー(NK)を加えて判定を決定した.アウトカムごとに研究の限界,非一貫性,非直接性,不精確さ,出版バイアスを評価し,GRADEpro GDTを用いて,エビデンス総体(body of evidence)の確実性を「高」,「中」,「低」,「非常に低」の4段階にまとめた.メタアナリシスとして統合可能なアウトカムがある場合は,RevMan5.3を用いて統合値を推定した.そして,統合の際に介入方法によりグループ化ができる場合,サブ解析を行った.

4. 推奨作成

推奨作成の基本方針は,GRADEのDECIDE(Developing and Evaluating Communication Strategies to Support Informed Decisions and Practices Based on Evidence)のEtD(Evidence to Decision)10)を採用した.システマティックレビューの結果に基づき,ガイダンス作成グループ4)は,推奨作成の手法を示したEtD framework10)を用いて推奨案を作成し,日本産業衛生学会関東地方会の理事や幹事,会員で構成される復職ガイダンス策定委員会委員4)の12名の無記名投票によるデルファイ法で推奨を決定,表現方法について意見を集約し推奨を確定した.EtD framework10)とは,優先課題,選択肢の益と害,資源の利用,公平性,受容可能性,実行可能性の6つの領域でエビデンスと検討事項をまとめ,推奨の向きと強さを決定する手法を示している.賛成もしくは反対の評価を0を賛成として,-2(より弱くする)から2(より強くする)で評価を行った.50%以上が不一致の場合は再投票,70%以上が不同意の場合は推奨の変更を考慮することとした.

III. 結果

文献検索データベースからは639編,ハンドサーチからは101編論文を検索し,最終的に11編の論文を抽出した(図1).筋骨格系障害に関しては5編11-15),メンタルヘルス不調は6編16-21),心臓疾患とがんについてはRCTの報告がなかった.バイアスリスクの評価では,盲検化が8件の研究で行われていなかった.研究の質が低いという理由で,本レビューから除外したRCT論文はなかった(図2).

図1.

PRISMAステートメントに沿ったフローダイアグラム

図2.

Risk of bias

①筋骨格系障害

筋骨格系障害による休業者に対する介入の効果の検討では,5件のRCTを統合した.介入方法を休業者に対するリハビリテーションのトレーニング11-14)と,産業医に対する腰痛対策の訓練15)の2つに分けた各研究の概要を表2に示す.休業者に対する介入は,リハビリテーションを含む通常の医療措置に加えて作業内容や環境の改善,対面面接などであり,日本での作業療法に近い手法であった.産業医に対する腰痛対策の訓練は,ガイドライン22)に沿って10回行われた.Anemaら11)とLoiselら12)の研究では認知行動療法の手法を用いた介入を行っていた.

それぞれの該当研究の異質性は認めず(I2=0%),メタアナリシスを行った.休業期間がHazard Ratio(HR)を用いて検討されている3研究11,12,15)では,通常のケア群より作業療法群で早く復職する結果が得られた(HR1.58[95%CI 1.26―1.97])(図3).観察期間中の累積休業日数が報告されている3件13-15)では,介入群で40.71日短かった(-40.71日[95%CI -60.69―-20.72])(図3).Verbeek以外の4件のRCT11-14)では,介入として労働者と雇用主との話し合いのうえ就業上の配慮を行い,労働環境・設備の変更を行っているが,これらは有意に休業期間を短縮した.Verbeekらの研究15)は,産業医の腰痛マネージメントの能力向上の効果の検討で,HR 1.3[95%CI 0.9―1.88],累積休業日数-20.0日[95%CI -61.99―21.99]と有意ではなかった.筋骨格障害における休業期間をアウトカムとしたとき,エビデンス総体の確実性は中等度であった.

表2. 筋骨格系障害選択論文(5文献)
Anema/ Steenstra 200711) Loisel 199712) Arnetz 200313) Bultmann 200914) Verbeek 200215)
FK:国立健康保険部局(Försäkringskassan),OP:産業医(occupational physician),CTWR:オーダーメード作業リハビリテーション(coordinated and tailored work rehabilitation),UC:通常対応(usual care).
対象(P) オランダ カナダ スウェーデン デンマーク オランダ
対象疾患 非特異的腰痛 腰痛 筋骨格系障害 筋骨格系障害 腰痛
休業期間 2-6週間 4週間-3か月 4週間以上 4-12週間 10日以上
年齢 18-65歳 18-65歳 42.7±10.1歳(介入群) 42.1±10.4歳(対照群) 18-65歳 39±8.7歳
人数 196人(UC 100人,I 96人) 130人(UC 26人,CI 31人, OI 22人,CI+OI 25人) 137人(UC 72人,I 65人) 113人(UC 47人,I 66人) 120人(UC 59人,I 61人)
選抜対象群 Amsterdam拠点の4病院およびHoofddorp拠点の1病院に外来で訪れた患者から選出 労働者数175人以上,試験地(Sherbrook,Quebec,Canada)から30km以内の企業から選出 Stockholmから南に約20kmに位置するSkogås および Handen市のFK地方支店における病欠事案から選出 Vejle,Kolding,Egtved,およびGive市(総人口約15万)から選出 8つの教育研究および周辺病院の産業保健機構から推薦
介入(I) 概要 職場介入:
利害関係者全員によるケースマネージメント
人間工学的職場分析と適応
ケースマネージメント
産業介入(OI):産業医による調査や治療法の提案,人間工学専門家による職場の評価と改変
臨床介入(CI):腰痛専門医の診察,腰痛学校への参加,職業リハビリテーション
完全介入(Full I):上記すべて
現状把握のためのFKケースマネージャーとの面談
人間工学的視点による職場分析と改善のためのFKケースマネージャー,産業セラピスト/人間工学専門家および労働者,雇用主を加えた話し合いと労働環境改善
必要とされる場合,職業訓練,心理社会的問題への対応
CTWR;制度化された,多専門家による業務障害分析および復職計画の立案医学的,生体力学的,職業的,心理的分析および職場の軽減措置を含む復職計画の立案 腰痛対策の訓練を受けたOPによる早期の産業保健対応:
診断,問題分析,分析に基づく介入,評価
介入場所 職場 職場 国立健康保険部局(FK)および職場 職場 産業保健センター
利害関係者の参加*主な介入担当者 労働者 雇用主/管理者
産業医
人間工学専門家*,理学療法士,一般開業医
産業医
管理部門および組合の代表者
人間工学専門家,専門医,一般開業医
産業セラピスト
FKケースマネージャー*,人間工学専門家
産業医,産業理学療法士
社会福祉指導員*,市のケースマネージャー,カイロプラクター,精神科医,ケースワーカー,一般開業医
産業医*
教育 産業医,理学療法士,人間工学専門家に対する訓練講座,4時間を1回,2時間を2回 - - - 産業医を対象に腰痛管理のガイドラインを学ぶ月1回のセッションを10回
比較(C) UC UC
CI,OI,or CI+OI
UC 従来のケースマネージメント UC
就業アウトカム(O) 復職までの期間(中央値);77日(介入)vs 104日(UC)
HR=1.7(95% CI,1.2-2.3)
常勤までの休業期間(中央値)
60日(CI+OI)vs 120.5日(UC)
HR=2.23(95% CI,1.04-4.80)
総休業日数の平均;144.9日(介入)vs 197.9日(UC) 累積休業時間(中央値);476時間(CTWR)vs 892時間(UC) 復職までの期間(中央値);51日(介入)vs 64日(UC)
HR=1.3(95%CI,0.9-1.9)
図3.

筋骨格系障害の休職期間をHRで求めた研究のフォレストプロット(上段),筋骨格系障害の観察期間中の休職日数に関する研究のフォレストプロット(下段)

②メンタルヘルス不調

6件のRCTを統合した16-21).また,6件の研究の中で介入の性質の違いを認めたため,2件の精神科医や心理職へのコンサルテーションと16,17),4件の心理療法的介入による復職支援プログラム18-21)の2つのグループでサブ解析を行った.各研究の概要を表3に示す.

サブ解析1の研究での介入方法は,産業医から精神科医へのコンサルテーションを行う方法16)や,労働者,上司,産業医とコーディネーター(企業内のソーシャルワーカー等)で行う3回のミーティング(計7時間)を行う方法17)であった.サブ解析2では,認知行動療法や,認知行動療法をベースとした問題解決志向の戦略を用いた介入であった.

6件の研究のメタアナリシスの結果,心理療法的手法による復職支援プログラム介入群は通常のケア群に比べて休業期間が18.6日(-18.64日[95%CI -27.98―-9.30])有意に短かった(図4).該当研究の異質性は認めなかった(I2=0%).本介入は,我が国で実施されている精神疾患に罹患した休業者を対象とした職場復帰支援プログラムであるリワーク・プログラムに近いが,面談の時間,介入の期間は共に大幅に短いことが明らかとなった23).精神科医や心理職へのコンサルテーションによる介入の2件のサブ解析1では,エビデンス総体の確実性は「高」であった.平均休業期間は約14日短縮したが,有意な差は認めなかった(-14.13日[95%CI -45.80―17.54]).認知行動療法をはじめとする心理療法による介入の4件のサブ解析2では,バイアスリスクが高く,エビデンス総体の確実性は「中等度」であった.休業期間は約19日(-19.07日[95%CI -28.84―-9.29])介入群のほうが有意に短縮していた.メンタルヘルス不調における休業期間をアウトカムとしたとき,エビデンス総体の確実性は「中等度」と判定された.

表3. メンタルヘルス不調選択論文(6文献)
文献 発行年 van der Feltz-Cornelis 201016) van Oostrom 201017) Brouwers 200618) van der Klink 200319) Vlasveld 201320) Willert 201121)
OP:産業医(occupational physician),CM:ケアマネージャー(care manager),SW:社会福祉士(social worker),UC:通常対応(usual care),IQR:四分位範囲(interquartile range).
対象者(P) オランダ オランダ オランダ オランダ オランダ デンマーク
対象疾患 メンタル うつ病 メンタル 適応障害 大うつ病 メンタル
休業期間 6週間以上 2-8週間 3か月以下 2週間以上 4-12週間 -
年齢 24-59歳(平均42歳) 48.6±7.7歳(I)
49.2±8.6歳(C)
18-60歳 39±8.0歳(I)
42±8.8歳(C)
41.9±11.4歳(I)
43.4±11.4歳(C)
18-67歳
人数 60人(UC31人,I29人) 145人(UC72人,I73人) 194人(UC96人,I98人) 192人(UC83人,I109人) 126人(UC61人,I65人) 102人(WLC51人,I51人)
選抜対象群 様々な企業に準じる二つの産業保健機構に属する産業医から推薦を受けた患者 VU 大学,VU大学医学センター,およびCorus(鉄鋼企業)の従業員 Almere市の開業医70人による推薦 Royal KPN(労働者数10万の郵政企業)従業員 オランダの大きな産業保健機構からの14,595人の中から選出 4週間以上続く業務上ストレスおよび症状の悪化があり,Aarhus市内の開業医,SWの推薦,または直接推薦から選出
介入(I) 概要 訓練を受けたOPによる復職を目指す指導,精神科医による面談(対面,又は電話面接)
担当精神科医とOPの連携
労働者,上司,産業医と復職コーディネーター(会社のSW)で行う3回の会合(計7時間).
問題分析,解決策の提案,実践計画,および評価
SWによる50分の面接を5回.
①問題分析
②解決の戦略
③戦略の実行
訓練を受けたOPによる合せて90分以上になる対面面接を4,5回.
①問題分析
②解決の戦略
③戦略の実行
産業医とCMが協力し6-12回の問題解決療法のセッション
自習型の教材を用いた認知再構成や職場復帰に焦点をあてたプログラム
職場分析と改変,復職までの計画を含む職場介入
3か月間で精神科医・心理士による3時間/回のセッションによる介入を8回.CBTの紹介,ストレス教育,問題分析と解決戦略など
介入場所 職場 職場 職場 産業保健センター 病院(職業病医学科)
利害関係者の参加*主な介入担当者 労働者
雇用主/管理者
OP*
精神科医
労働者
雇用主/管理者
OP
復職コーディネーター・SW*
労働者

SW*,一般開業医
労働者
OP*
労働者
雇用主/管理者
OP*
CM(職場復帰支援担当職員)*
-
-
精神科医*
教育 OPおよび精神科医への診断,治療,復職教育 復職コーディネーターへの教育 3日間+フォローアップ2回 OPへの教育3日間 OPとCMに対して2日間の訓練 CBTの訓練コース受講者
比較(C) UC UC UC UC UC Wait-list control(WLC)3か月後に介入を実施
就業アウトカム(O) 復職までの期間:122日(95%CI, 77 - 166)(I)vs 190日(95%CI, 134 - 246)(UC)68日の短縮(p=0.078) 完全復職までの期間(中央値):96日(IQR 52 - 193)(I)vs 104日(IQR 52-195)(UC)
HR=0.99(95%CI, 0.70-1.39)
休業期間は短縮せず
完全復職までの期間(中央値):120日(I)vs 119日(UC)(95%CI, -34.5 to 42.3)休業期間の短縮は認めず 患者レベル解析による完全復職までの期間(中央値):47日(95%CI, 41-53)(I)vs 63日(95%CI, 43-83)(UC)
割合比=1.41(95%CI,1.04 - 1.92)
復職までの平均期間;190日(I)vs 210日(UC)
休業期間の短縮は認めず
16週後の自己報告による休業日数(中央値):32(7-66)日(I)vs 61.5(43-90)日(WLC)p=0.07
図4.

メンタルヘルス不調に関するフォレストプロット

③心臓疾患・がん

心臓疾患・がん疾患による休業については,選定基準を満たすような職場における復職支援プログラムによる介入の報告は見られなかった.

IV. 考察

システマティックレビューの結果から推奨は,「休業中の労働者に対してリハビリテーションを含む通常の医療措置に加えて,認知行動療法に基づく復職支援プログラムを条件付きで推奨する(中等度のエビデンスに基づく弱い推奨).」とした.評価テーブルと結論テーブルを表4, 5に示す.デルファイ法を実施する上で最適な構成員の人数のコンセンサスは得られていないが,10人から100人の規模が一般的とされるため24),今回行った12名の委員でのデルファイ法は,一般的な規模と大きく異なってはいない.投票での評価は全員0(賛成)の評価であり,1度の投票で推奨が決定された.条件として,筋骨格系障害では,休業者に対してリハビリテーションを含む通常の医療措置に加えて,作業内容や環境の改善などを行うリワーク・プログラムは,中等度のエビデンスに基づく強い推奨とした.メンタルヘルス不調で休業中の労働者に対しては,中等度のエビデンスに基づく弱い推奨としてリワーク・プログラムは有効とした.専門家へのコンサルテーションを行うことも有効である可能性があるが,研究の数が少なく統計学的な有効性は示されていないとした.

筋骨格系障害による休業に対する復職支援プログラムの介入方法は,リハビリテーションを含む通常の医療措置に加えて作業内容や環境の改善,対面面接などにより,休業期間や累積休業日数の減少を認めた.いずれの研究においても労働者本人,雇用主,管理者,産業医等の利害関係者による面接やミーティングが行われている.本研究では,多職種による様々な視点から総合的に労働者を支える介入をケースマネージメントと定義するが,Verbeekら以外の4件11-14)では労働者と雇用主とのケースマネージメントを行い,労働環境・設備の変更にも努めている一方,これを行わないVerbeekら15)の報告では有意な改善は認めなかった.つまり,他のすべての研究では著明に有意な改善を得られていることから,労働者と雇用主とのケースマネージメントの有用性は考慮されるべきである.筋骨格系障害後の復職についてのメタアナリシス25)では雇用主,同僚,産業保健スタッフすべての利害関係者間の善意と信頼が復職成功の鍵であると報告しており,休業中における利害関係者のアプローチによる良好なコミュニケーションが重要な役割を演じるものと考えられる.以上から,リハビリテーション・作業療法・理学療法という腰痛への直接的なアプローチに加えて,職場の上司や産業保健スタッフと複数回のミーティングを行い,作業環境管理,作業管理,心理的問題への取り組みや認知行動療法的手法を用いることで早期の職場復帰に役立つ可能性がある.

メンタルヘルスに関してのメタアナリシスのサブ解析の結果からは,精神科医や心理職にコンサルテーションを行うことで休業期間は短縮しなかったが,1つの研究で,産業医から精神科医へのコンサルテーションで68日間早く復職できることが示されている16)

心理療法を介入方法として行った研究では,研究間でのばらつきはあるものの,メタアナリシスによるデータの統合により一定程度の有効性が示されており,導入することでメンタルヘルス不調を抱える職員の休業期間が短縮される可能性が示された.本レビューで選出した研究とは異なり,日本では認知行動療法は,産業医や保健師が実施するよりもリワーク・プログラムで多く導入されているため,職場復帰におけるリワーク・プログラムの重要性が示唆された.他にも,認知行動療法は,医療機関における臨床心理士による心理カウンセリングが一般的であるが,費用の面で広く一般的に利用することは難しく,今後の課題となる.

がんや心臓疾患等についてのRCTは検索されず,エビデンスレベルの高い研究がないためにエビデンスの集約はできなかった.筋骨格系障害やメンタルヘルス不調と比較し,他の疾患は職場復帰に関して研究が少ないため,今後の取り組みが望まれる.

各研究の限界として,盲検化の困難さが挙げられる.職場での介入という性質上,研究参加者に割り付けを教えないということができなかったためであり,情報バイアスが発生する可能性がある.また,出版バイアスについては文献数が少ないため評価が困難であった.本研究で得られた結果の限界として,日本への導入については,慎重な検討が必要である.選出された研究は全て外国の研究であり,国ごとに産業保健の仕組みや文化が異なるため単純に真似ることが出来ない.特にメンタルヘルス不調に関して,産業医から主治医ではない精神科医へのコンサルテーションを行う介入方法は主治医患者間の信頼関係を損なうリスクが考えられる.研究数が少ないことや日本と外国との産業保健上の制度の違いがあるため,本研究を日本国内すべての事業場に当てはめることはできず,一般化するには妥当性や信憑性の点で制限がある.そのため,本研究をガイドラインとしてではなく,ガイダンスとして公表することとした.

表4. Evidence to Decision 評価テーブル
基準 判定 リサーチエビデンス
問題 1.その問題は,優先課題ですか? はい 職場において休職者が十分回復しないことは人的資源の損失であり,それを回避するために休職中にいかなる介入的プログラムが有効であるか明確でない.
価値 2.人々が主アウトカムに置く価値の大きさには,重要な不確実度やばらつきがあるか? おそらく不確実度やばらつきがない 1.関心のある主アウトカムの相対的な重要性や価値
復職を早めたり,復職後の欠勤を減少させることは雇用主にも労働者にとっても継続的雇用として価値があり重要である.
2.患者の価値観や希望
特に報告されてはいなかったが,復職を前提として休職していると考えられるのでアウトカムとしても価値がある.
望ましい効果 3.望ましいと期待された効果はどれほど十分か? 大きい 整形外科疾患では,介入群では対照群より1.58倍(95%CI:1.26-1.97)早く復職し,観察期間中の累積欠勤休職日数が40.71日(95%CI:60.69-20.72日)少ない.
メンタルヘルス不調では,就業アウトカムを復職までの休業日数とすれば介入群のほうが優れていた.ただし,復職後のパフォーマンスや再発については明らかにならなかった.
望ましくない効果 4.望ましくないと予想された効果はどれほど大きいか? 小さい
エビデンスの確実度 5.効果のエビデンスの総括的な確実度は何か?
効果のバランス 6.介入と比較対象とに関して,期待される効果と期待されない効果のバランスはどうか? 介入側を支持する
必要とされる資源 7.必要とされる資源(コスト)はどれほど大きいか? 中等度のコスト van Oostrom17)によるとメンタルヘルス不調に対する復職プログラムでは,費用対効果は介入群で悪かったと報告されている.
必要とされる資源に関するエビデンスの確実度 8.必要とされる資源(コスト)に関するエビデンスの確実度は何か? 非常に低 要する資源についての記載は十分ではなく,日本のエビデンスはない.
コスト効果 9.介入と比較対象とに関して,コスト効果はどうか? わからない 要する資源についての記載は十分ではない.
公平さ 10.医療上の不公平への影響はどうか? おそらく影響なし 事業主が全休職者を対象に費用を負担できれば公平性は担保される.(ただし,地域差によりプログラム提供機関の有無が問題となるかもしれないが,国内での研究がないため不明)
受け入れ可能性 11.その介入は,主要な関係者に受け入れられますか? はい
実現可能性 12.その介入活用することは,現実的に可能ですか? おそらくはい 整形外科疾患のプログラムでは,提供機関に地域差は憂慮されるが,おおむね利用可能と思われる.メンタルヘルス不調の復職プログラムでは,認知行動療法を用いているが,その技術の習得にある一定の期間がかかる.財源は企業となるが,コストがかかるため産業保健に力を入れている企業からしか受け入れられない可能性がある.
表5. Evidence to Decision 結論テーブル
推奨のタイプ 介入をすることに対する条件つき推奨
推奨文 休職中の労働者に対してリハビリテーションを含む通常の医療措置に加えて認知行動療法を加えた復職支援プログラムを提案する.(中等度のエビデンスに基づく弱い推奨)
正当性 累積欠勤日数については復職後のみで検討することで再度の休職への予防効果が推測されうる.メタアナリシスにおけるエビデンスは高ないし中のレベルである.
サブグループに関する検討事項 整形外科疾患では早期復職に有効だが,メンタルヘルス不調ではコストが利益を上回る可能性がある.
活用に関する検討事項 機能障害を残す整形外科疾患における場合と残さない場合で差があるのかは検討されていない.
モニタリングと評価 国内における認知行動療法を加えた復職支援プログラムの実施程度と早期復職の程度
研究の優先事項(将来的な研究課題) 再休職率の減少についての検討

VI. 結語

職場復帰に向けた対応に関して,エビデンスが確立された情報は少なかったが,本邦への適用の問題を抱えながらも,一定程度の信頼性を持って参考となる情報を提供できた.本邦への適用については,産業保健の仕組みや文化が異なるため十分に留意しなければならない.現状では,本邦でエビデンスレベルの高い研究がなかったため,本邦の復職支援プログラムに直接関連するデータは検討することが出来なかったが,今後もRCT等のエビデンスレベルが高い研究を推進していく必要がある.

謝辞

本研究は日本産業衛生学会関東地方会の産業保健における復職ガイダンス策定委員会により行われた.研究に協力してくださった皆様へ心よりお礼申し上げます.

利益相反

利益相反:申告すべきものなし

文献
 
© 2018 公益社団法人 日本産業衛生学会
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