2019 年 61 巻 2 号 p. 43-58
目的:従業員参加型職場環境改善(以下,参加型職場環境改善)はメンタルヘルス不調の一次予防として有効性が示された手法であり,ストレスチェック制度の施行に伴い関心が高まっている.しかし,従業員の関与,上司の姿勢,職場の風土などにより活動の効果が一貫しないことが指摘されており,運用上の課題解決が求められる.本研究では,職場環境改善の実施手法の検討に際して職場の準備状態を見立てる観点,および組織を発達させるという組織開発の観点が有効と考え,参加型職場環境改善が有効に機能するまでに発達した職場の定義およびその獲得に必要な要因の検討と,機能する状態に向けた準備状態を段階別に把握するためのチェックリストを開発することを目的とした.対象と方法:専門家間の議論,および実務者からの意見にもとづき,参加型職場環境改善の機能する職場の状態(理想的な状態)の定義を行った.そしてその状態の獲得に必要な要因に関するアイテムプールを作成し,日本人労働者300名(男女比1:1)を対象にインターネット調査を行い,探索的因子分析にて因子構造を確認した.さらに,職場の状態のチェックリストを作成するため,理想的な状態を外生変数,その獲得に必要な要因に関する項目を内生変数としたロバスト最尤法推定によるカテゴリカルパス解析を実施し,項目ごとに閾値(threshold, θ),およびパス係数(γ)を推定した.項目ごとの閾値にもとづいて項目のレベル(その項目を達成することの難易度)を設定し,そのレベルごとに最もパス係数が高く,かつパス係数が0.60以上の項目をチェックリストに採用した.最後に各レベルと理想的な状態,および関連項目(職場の心理社会的要因,ワーク・エンゲイジメント,心理的ストレス反応)との関連を分散分析にて確認した.結果:収集された77項目のアイテムプールにおける探索的因子分析の結果,71項目3因子構造が妥当であった(第1因子「職場の受容度」,第2因子「上司のリーダーシップ」,第3因子「職場での議論の熟達」).チェックリスト作成のためのカテゴリカルパス解析の結果,第1因子から3項目,第2因子から2項目が抽出された.第3因子では理想的な状態との関連が十分でなかったため該当項目はなしと判断した.最終的に,肯定的回答率をもとに設定された4段階のレベルを5項目から判断するBODYチェックリストが作成され,各レベルと理想的な状態,および関連項目とで分散分析を行った結果,すべての指標において有意な差が認められた.考察と結論:参加型職場環境改善が有効に機能する状態の獲得に必要な要因は,職場の受容度,上司のリーダーシップ,職場での議論の熟達に整理され,これらを日常的に高めることでより有意義な改善活動につながることが示唆された.また,BODYチェックリストを用いて職場の準備状態を測定することにより,職場環境改善活動を企画する際に各職場にあった目標を設定することが可能になった.今後は,BODYチェックリストの職場単位の分布の確認および参加型職場環境改善の実施効果との関連を確認していく必要がある.
職場の心理社会的要因や物理化学的要因の健康リスクを評価し,改善する手法である職場環境改善は,メンタルヘルス不調の一次予防に有効な手法としてその実施が勧められてきた1).職場環境改善の効果については,実証研究の系統的レビューから労働者の健康状態の改善や職業性ストレスの低減に対して有効であること2,3)が示されている.職場環境改善は,2015年より施行されたストレスチェック制度4)においても努力義務として位置づけられ,関心が益々高まっている.実際に,ストレスチェック制度施行前の職場環境改善の実施割合は2007年に6.9%,2012年に12.2%であったが5),制度施行の翌年に実施された調査では37.0%6)にのぼり,職場環境改善に取り組む事業場は大きく増えている.
職場環境改善には,管理職主導型と従業員参加型の大きく二つの手法がある7).いくつかの研究では従業員参加型の職場環境改善の方が望ましいことが示されている8,9,10).従業員参加型の職場環境改善(以下,参加型職場環境改善)では,現場の労働者が自職場の現状認識や課題を話し合い,対策を計画し,実行に移す.このプロセスにより,職場の課題の抽出と改善に対する動機づけ11),労働者間のサポート向上10,12)などに対する効果が期待される.
しかし,現場レベルで参加型職場環境改善を実施する,あるいは効果的に運用するためには,いくつかの課題がある13).例えば,従業員の積極的な関与や組織を変化させるための動機の不足,経営層や上司からのサポートの不足,あるいは組織再編や従業員の離職による活動の中断などの制御できない外部の出来事によって8,14,15),参加型職場環境改善の試みはしばしば奏功しないことが報告されている5).また,実施上の問題についての産業保健の実務者へのヒアリング結果報告7)によると,取り組みの導入にあたっての現場の抵抗や負担感,各職場にとって効果的で簡易な手法のわかりにくさ,取り組み継続が形骸化することへの危惧,適切な評価指標の不在が挙げられている.このように参加型職場環境改善には複数の実施上の困難があるが,制御できない外的要因や,手法・指標などの要因を除けば,従業員の関与や動機,上司の姿勢および職場の風土が解決すべき課題となっている.
従業員の関与,上司の姿勢,職場の風土にかかる課題に関連して,「職場環境改善準備状態」という考え方が吉川らによって提案されている16).吉川らは,職場の人間関係とストレス状態,および上司の関心によって職場環境改善活動の成否が異なるとして,これらをもとに職場環境改善の方法を選択することを提唱した.職場環境改善準備状態は,人間関係や職務遂行における「問題の有無」,ストレスチェックから把握される疲労感やイライラ感などの「ストレス反応」,トラブル解決能力や職務配分の適正さおよび上司支援から推測される「マネジメント機能」を手掛かりにして判断され,これを準備状態の低い順から①問題顕在化の状態,②不満鬱積状態,③組織の疲弊状態,④個別の改善準備良好の状態,⑤組織の改善準備良好の状態,に段階分けされる.この中で参加型職場環境改善が推奨されるのは③以上とされている.①や②の状態の職場が参加型職場環境改善を実施しようとしても,従業員が検討の場に参加しない,意見が出ない,批判ばかり出て誰も対策を考えようとしない,特定の人への攻撃で終わってしまう,あるいは提案しても実行に移らない,といった結果になってしまうおそれがある.職場環境改善準備状態という考え方を採用して,すべての職場に対して一律に参加型職場環境改善を勧めるのではなく,その準備状態に合わせて実施を判断することは,参加型職場環境改善を普及し,また効果的に実施する方法の一つであると考えられる.
職場の人間関係や組織風土の課題に対する働きかけについては,組織開発(Organizational Development)の実践が蓄積されている.組織開発とは,組織の効果性(effectiveness;組織が意図する目標に到達する力)と健全さ(health;失敗してもオープンにし,挑戦できる関係性)を高めることを目的とした取り組みであり17),主に経営学の領域で研究が進められてきた.組織開発では,相互作用する諸要素の複合体(「システム」)を対象とし,組織全体,部署間,部署内,対人間,といった多層なシステムにおける相互作用(「プロセス」)に働きかけ,組織の成長,発達を促す18).ここでいうプロセスとは,例えばどのようにコミュニケーションがとられているか,どのように意思決定がなされているか,どのようにお互いが関与しているか,等の側面をさす.そして,組織開発の進んだ組織では,当事者が自らこのプロセスに気づき,その変革に取り組むことになる.このように,組織を開発・発達させるという観点は,参加型職場環境改善を行う際の従業員の関与,上司の姿勢,職場の風土の課題の解決に役立つ可能性がある.
ここまでにみたように,職場の人間関係等から職場の準備状態を判断すること,さらに職場で生じるプロセスの発達を促して職場の準備状態を高めることは,参加型職場環境改善を普及させるために有効な手立ての一つになると考えられる.しかし,吉川ら16)の職場環境改善準備状態には具体的な定義や判断基準が規定されていない.また,本格的な組織開発を行うことは,それ自体が労力を要する介入であり,多くの職場で簡便に導入できるとはいえないため,普段から簡単に行える「基礎的な組織開発」の開発が必要である.そこで,本研究では参加型職場環境改善の準備状態を高めるための基礎的な組織開発(Basic Organizational Development for Your workplace; BODY)を考案することを最終的な目標とし,参加型職場環境改善が有効に機能する状態の定義およびその獲得に必要な要因の検討と,参加型職場環境改善準備状態を把握するためのチェックリスト(BODYチェックリスト)を開発することを目的とした.
本研究は,以下のステップによって進められた.まず,組織向けアプローチ技法とリーダーシップ論のレビューを行い,参加型職場環境改善の実施上の課題を解決するための考え方の整理を行った.そして参加型職場環境改善が機能しやすい職場の状態(以降,「理想的な状態」)を目標として,その状態の獲得に必要な要因を専門職間で議論した.さらに実務家からの意見を加えて,理想的な状態の獲得に必要な要因のアイテムプールを作成した.次に,日本人労働者を対象としたインターネット調査によってアイテムプールの因子構造を確認した.最後に,このアイテムプールから理想的な状態に向けた職場の現状を推測するためのBODYチェックリストを作成した.
2. 概念整理とアイテムプールの作成本研究では,精神的健康やワーク・エンゲイジメント,職場の一体感の向上に寄与するアプローチ法の検討をする中で,参加型職場環境改善に着目し,その課題を解決するために組織向けアプローチと望ましい上司の姿勢を整理することから始められた.2016年6月~9月にかけて共同研究者間で組織向けアプローチとして組織開発技法(アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI),フューチャー・サーチ,ワールド・カフェ,オープン・スペース・テクノロジー)17,18,19)および上司の姿勢としてリーダーシップ論(変革型リーダーシップ,サーバント・リーダーシップ,オーセンティック・リーダーシップ,スピリチュアル・リーダーシップ)20,21,22)を取り上げ,レビューを行った.その結果,組織を発達させるという組織開発論の観点から,参加型職場環境改善の実施のしやすさは一連の発達段階で捉えることができるのではないかという発想が得られた.また,上司のリーダーシップスタイルが,労働者のモチベーションや職場の風土に影響することが確認された.
こうした概念整理の上で,参加型職場環境改善が有効に機能する理想的な状態の定義とその状態の獲得に必要な要因について,2016年9月と12月に産業保健の専門家12名(心理職6名,産業医3名,看護職1名,左記以外の研究職2名)による議論を行った.議論では,理想的な状態を「メンバーが職場をよりよくすることに前向きで,お互いに意見を言い合える状態」と定義し,それを目標としたときの職場の現状を「参加型職場環境改善準備状態」と位置づけた.そして,理想的な状態に至るために必要な要因について自由に意見を挙げた.出された具体的な意見は「上司に部下の成長を促す視点があること」,「ビジョン(先の見通しと向かう方向性)とバリュー(大事にする価値観)が明確であること」,「リーダーが責任をとること」,「話をしてみようという気持ちが部下に起こること」,「職場のために時間をつくって何かをしようと思うこと」などであり,これらは最終的に,以下の2領域5観点に集約することで合意が得られた;上司のリーダーシップ領域(上司が対話を受け入れるリーダーシップスタイルと行動をとっていること:観点として,①上司による部下への思いやり,②上司によるビジョンの明確化とその浸透,③上司の決断と責任),職場の雰囲気領域(④職場の一体感,⑤部下による組織へのコミットメント).共同研究者は,この5つの観点に近いアイテムを先行研究から収集し,49項目を作成した.
次に,産業精神保健の実務者の意見を収集した.産業精神保健の社会人講座を受講した実務家400名に対して「参加型職場環境改善などのワークショップや働きかけが成功する職場とそうでない職場では,何が違うか」という教示にてインターネット上の教示版で意見を募ったところ,5名から計28件の意見が収集された.これらを項目として追加し,全77項目をアイテムプールとした(表1).
No. | 項目 | 領域 | 引用元(参考元) |
---|---|---|---|
1 | 私たちの職場では,お互いに理解し認め合っている | 職場の雰囲気 | 新職業性ストレス簡易調査票 |
2 | 私たちの職場では,仕事に関連した情報の共有ができている | 職場の雰囲気 | 新職業性ストレス簡易調査票 |
3 | 私は自分の職場に関心がある | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
4 | 私はこの職場のメンバーであることを強く意識している | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
5 | 前向きな失敗を許容する雰囲気がある | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
6 | 問題を抱えながら行動している人を喜んで助ける | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
7 | 自分の周りにいる人に手を貸せるようにいつも準備している | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
8 | 他の部署にいる人の仕事を助けてあげる | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
9 | 私たちの職場では自然とあいさつを交わす雰囲気がある | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
10 | 決まったことや提案が,話し合いだけで終わるのではなく,とりあえず実行されるという期待を持てる | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
11 | 少数意見や反対意見でも尊重される | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
12 | 組織が変わっていくことが不安だ,などという後ろ向きな意見も尊重される | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
13 | 理想と現実のギャップなどについて,誰かの批判にならずに建設的な意見が出る | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
14 | 自分が困っていることややりづらいと思っていることについて,誰かの批判にならずに建設的な意見が出る | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
15 | メンバー同士で話し合いを行うことに対して,不信・不満・疑問を感じている人や,消極的だったり不安を感じたりしている人も安心して話し合いに参加できる | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
16 | 発言する人が偏らずに意見交換できている | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
17 | どんな意見でも意見として尊重される | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
18 | 話し合いの場面では反対意見を闘わせていても,話し合いが終わったときの人間関係には影響を与えない | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
19 | メンバーの一人一人がチームに所属できているという安心感がある | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
20 | チーム内の居場所や役割があると感じられる | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
21 | 上司は,職場をもっとよくしていきたいという気持ちを,繰り返しメンバーに説明している | 上司のリーダーシップ | 実務家の意見 |
22 | 上司は,組織と組織の目標を十分に理解している | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
23 | 私は自分自身のパフォーマンスに対して,上司から責任を持たされている | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
24 | 上司は,私が行った仕事に対して責任を持ち続ける | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
25 | 上司は,私と同僚の仕事の進めかたに対して責任を持っている | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
26 | 上司は,リスクをとり,自身の判断でなされるべきことを行う | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
27 | 上司は,自らの限界と弱さに対してオープンだ | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
28 | 上司は,部下に対して本当に感じたことを示している | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
29 | 上司は,部下を信頼して任せ,表に出ないようにしている | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
30 | 上司は,自分が部下のためにおこなったことへの承認や報酬を求めない | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
31 | 上司は,自分自身の成功よりも同僚の成功を楽しんでいるように見える | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
32 | 上司は,自分の成功よりも,部下の成功を大事にしている | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
33 | 上司は,自分の利益よりも,部下の利益が最大になるよう配慮している | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
34 | 上司は,部下が最も活躍できるよう一生懸命支援している | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
35 | 上司は,長期的ビジョンを持っている | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
36 | 上司は,全体の良い点に焦点を当てる | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
37 | 仕事の出来ばえについて,上司からフィードバックをもらっている | 上司のリーダーシップ | 新職業性ストレス簡易調査票 |
38 | 上司は,部下が能力をのばす機会を持てるように,取り計らってくれる | 上司のリーダーシップ | 新職業性ストレス簡易調査票 |
39 | 上司は,私が自分で問題解決できるように励ましてくれる | 上司のリーダーシップ | 新職業性ストレス簡易調査票 |
40 | 上司は,独りよがりなものの見方をしないようにすることができる | 上司のリーダーシップ | 新職業性ストレス簡易調査票 |
41 | 上司は,親切心と思いやりをもって接してくれる | 上司のリーダーシップ | 新職業性ストレス簡易調査票 |
42 | 上司は,誠実な態度で対応してくれる | 上司のリーダーシップ | 新職業性ストレス簡易調査票 |
43 | 上司は,部下の気持ちを理解しようとしている | 上司のリーダーシップ | 実務家の意見 |
44 | 上司は,私がさらに自分自身を伸ばすことを積極的に支援してくれる | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
45 | 上司は,部下が新しい考えを提案することを奨励している | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
46 | 上司は,私が仕事をうまく進めるのに必要な情報を与えてくれる | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
47 | 上司は,私が仕事をやりやすくなるような意思決定の権限を与えてくれる | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
48 | 上司は,私が新しいスキルを学ぶ機会を豊富に与えてくれる | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
49 | 上司は,仕事でミスをおかした人を批判し続ける | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
50 | 上司は,仕事で攻撃してきた人に対する強硬姿勢を持ち続ける | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
51 | 上司は,過去の過ちを忘れることが難しい | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
52 | 上司は,批判から学ぶ | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
53 | 上司は,他者の異なる観点や意見から学ぶ | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
54 | 上司は,自分の上位者に対し,自らのミスを認めることができる | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
55 | もし人が批判をしたら,上司はそこから学ぼうとする | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
56 | 上司は,私たちの仕事の社会的責任を強調する | 上司のリーダーシップ | Dierendonck & Nuijten(2011) |
57 | 上司は,職場の部下の健康や幸せを気遣っている | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
58 | 上司は,職場の部下が抱えている問題について個別に話す時間を確保している | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
59 | 上司は,職場の部下の元気がないと,すぐにそれに気づくことができる | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
60 | もし,仕事でうまくいかないことが発生すると,上司は何が問題なのかを理解することができる | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
61 | 上司は,複雑な問題に直面したとしても,その原因を突き止めることができる | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
62 | 上司は,仕事上の問題を,新しく創造的なアイディアで解決することができる | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
63 | 上司は,部下が最も良いと思う方法で困難な状況を乗り切るための自由を与えている | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
64 | 上司は,部下がキャリア目標に到達することに気を配っている | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
65 | 上司は,部下が新しいスキルを身につけることができるような職務経験を持たせている | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
66 | 上司は,高い倫理観を持っている | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
67 | 上司は,常に誠実である | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
68 | 上司は,成功するために,倫理原則を曲げることは決してない | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
69 | 上司は,儲けを出すことよりも,誠実であることを重要視している | 上司のリーダーシップ | Liden, et.al.(2008) |
70 | 安心して意見を言える場が設定されている | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
71 | 職場をよくするための話し合いに時間を確保している | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
72 | 職場をよくするための話し合いのための時間をとること,意見を言い合うことの重要性をリーダーがメンバーに積極的に説明している | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
73 | メンバー同士で,あるいは職場内で,話し合いがうまく進まないいつものパターンや特定の問題があることにメンバーが気づいている | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
74 | リーダーがチーム内の人間関係の問題を把握しており,議論がぶちこわしにならないように配慮できる | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
75 | 中堅層にもリーダーシップの研修が行われている | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
76 | 私たちの職場はグループで検討することに慣れている | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
77 | 私たちの職場は残業が多くなり過ぎないように配慮されている | 職場の雰囲気 | 実務家の意見 |
インターネット調査は2017年1月に実施した.インターネット調査会社23)に登録している労働者のうち300名を募集し,調査票への回答を依頼した.募集は男女別に均等に行われた(男性150名,女性150名).対象となる労働者の適格基準は,(1)20歳以上であること,(2)会社員もしくは公務員であること,(3)被雇用労働者であること,であった.調査項目に上司に関するものが含まれるため,上司がいない者は対象から除外した.インターネット調査会社は上記の適格基準に合致する労働者にメールにより調査票への回答を依頼し,回答した労働者が300名に達した時点で調査を終了した.そのため,調査の回答率は算出できなかった.
インフォームド・コンセントはすべての対象者から取得した.対象者は調査票へ回答する前に本研究の目的と個人情報の保護に関する説明文書を読み,承諾した場合のみ調査の回答へ進んだ.本研究のプロトコルは東京大学医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を受けている(No. 11242-(1)).
4. 測定項目本研究における全ての測定は対象者が自記式の調査票に回答することよって行われた.参加型職場環境改善準備状態を測るためのアイテムプール77項目の内訳は,先行研究から収集された49項目と実務家の意見から作成された28項目であった.概念整理の分類にそってこれらの項目は「リーダーシップ領域」「職場の雰囲気領域」にわけられた.リーダーシップ領域の項目は,先行研究からLiden, et.al.(2008)24)とvan Dierendonck & Nuijten(2011)25)を参考に作成した41項目,新職業性ストレス簡易調査票26)の上司のリーダーシップ3項目,上司の公正な態度3項目,および実務家の意見から2項目(すべて6件法,1=全く当てはまらない~6=非常に当てはまる)であった.職場の雰囲気に関する項目は,新職業性ストレス簡易調査票の職場の一体感2項目,および実務家の意見26項目(うち18項目は4件法,1=ちがう~4=そうだ;8項目は4件法,1=全くない~4=非常に)であった.調査票への回答の際,対象者には,各対象者の職場,および上司を想起して回答してもらった.ここでは,職場を「あなたが普段一緒に働いているグループ(基本的には5~20名程度を想定)」,上司を「あなたが普段一緒に働いているグループで,メインとなって指揮をする人」と教示した.
参加型職場環境改善が有効に機能する状態の定義は,「私たちの職場はメンバーが職場をよりよくすることに前向きである」「私たちの職場はお互いに意見を言い合える状態にある」の2項目に分けて測定された(10件法;1=ちがう~10=そうだ).
参加型職場環境改善準備状態の高まりに応じて良好になる要因と仮定して,職場の心理社会的要因とワーク・エンゲイジメントおよび心理的ストレス反応が測定された.職場の心理社会的要因は,新職業性ストレス簡易調査票の仕事のコントロール3項目,仕事の意義3項目,仕事の適性度1項目,成長の機会3項目,経営陣との信頼関係3項目(すべて4件法,1=ちがう~4=そうだ)が測定された.新職業性ストレス簡易調査票の信頼性および妥当性は,先行研究によっていずれも確認されている27).本研究では,各要因の合計得点を項目数で除したものを解析に使用した.
ワーク・エンゲイジメントは,日本語版ユトレヒト・ワークエンゲイジメント尺度28)によって測定された.ワーク・エンゲイジメントとは,活力(例:「仕事をしていると,活力がみなぎるように感じる」),熱意(例:「仕事に熱心である」),および没頭(例:「仕事に没頭しているとき,幸せだと感じる」)の3因子によって構成される概念で,仕事におけるポジティブメンタルヘルスのアウトカムの一つとして知られている29).日本語版ユトレヒト・ワークエンゲイジメント尺度は,9項目(7件法,0=全くない~6=いつも感じる)からなり,信頼性と妥当性が先行研究で確認されている29).本研究では,全9項目の合計得点を項目数で除したものを解析に使用した.
心理的ストレス反応は,日本語版K630)によって測定された.この尺度は,回答者が過去30日間で心理的ストレス反応に関する症状をどのくらいの頻度で経験したかを6項目で尋ねるものである(例:「神経過敏に感じましたか」).項目はいずれも5件法(0=全くない~4=いつも)であり,信頼性と妥当性は先行研究で確認されている30).本研究では,6項目の合計得点を解析に使用した.
対象者の基本属性として,年齢,性別,職種(管理職,専門職,技術者,事務職,サービス,生産技能職),雇用形態(正社員,契約社員,派遣労働者),業務内容(営業,販売・サービス,企画,事務,ITエンジニア,研究・開発,製造,その他),職場規模(4名以下,5~9名,10~14名,15~19名,20~24名,25~29名,30~34名,35~39名,40名以上)および会社の業種(営利企業・団体,非営利組織,官公庁・公的機関)が測定された.また,対象者の上司の属性として,年代(20代以下,30代,40代,50代,60代以上),性別,および職位(一般社員相当,係長・主任相当,課長相当,部長・次長相当,社長・役員・経営者相当)が測定された.
5. 統計解析とBODYチェックリストの作成参加型職場環境改善が有効に機能すると定義された状態の獲得に必要な要因のアイテムプール(77項目)の因子構造を確認するため,探索的因子分析を実施した.アイテムプールのリッカートが領域によって異なっていたことから(上司のリーダーシップに関する領域6件法;職場の雰囲気に関する領域4件法),回答をそれぞれ肯定的,および否定的回答の2値(0, 1)に変換し,カテゴリカル因子分析(ロバスト最尤法,ジェオミン回転)を行った(解析1).因子数の決定は,固有値,スクリープロット,およびモデルの適合度(Akaike Information Criteria, Bayesian Information Criteria)にもとづいて判断された.分析の結果,回転後に0.40以上の因子負荷量が複数の因子に対して認められる項目(多重負荷),いずれの因子に対しても因子負荷量が0.40未満である項目,および因子負荷量が1.00を超える項目はその後の解析から除外した.
次に,上記のアイテムプールが,定義された理想的な状態(2項目)の達成とどの程度強く関連するか,また理想的な状態(2項目)の達成に向けて,各アイテムプールの表す内容を実現することがどの程度困難であるかを検討するため,ロバスト最尤法推定によるカテゴリカルパス解析を実施した(解析2).カテゴリカルパス解析は,理想的な状態(2項目)を主成分分析によって合成した主成分得点を外生変数,上記のアイテムプール(0, 1の2値)を内生変数として実施し(図1),項目ごとに閾値(threshold, θ),およびパス係数(γ)を推定した.
カテゴリカルパス解析(解析2)のモデル図
次に,カテゴリカルパス解析(解析2)の結果にもとづいて,参加型職場環境改善準備状態を把握するためのチェックリスト(BODYチェックリスト)に適する項目を選定した(解析3).まず,項目ごとの閾値にもとづき,項目のレベル(その項目を達成することの難易度)を設定した.参加型職場環境改善を実施する上での準備状態を把握するという趣旨から,本研究では最も低いレベル(BODYレベル1)を,労働者の7割以上がその項目に対して肯定的に回答すると推測される項目として推定した閾値(本研究においては-0.53以下)とした.そこから,項目に対して労働者が肯定的に回答する割合が6割以上7割未満のものをBODYレベル2(-0.53<閾値 ≤ -0.26),労働者が肯定的に回答する割合が6割未満のものをBODYレベル3(閾値>-0.26)と設定した.次に,BODYレベル1~3に該当する項目のうち,カテゴリカルパス解析(解析2)において最もパス係数が高く,かつパス係数が0.60以上の項目を,カテゴリカル因子分析(解析1)で確認された因子ごとに選定した.
最後に,解析3で選定された項目に各対象者が肯定的に回答していたかどうかを確認し,対象者ごとのBODYレベルを算出した.各対象者が,同じBODYレベルの項目全てにおいて肯定的に回答していた場合にそのレベルに達したと判断し,個人のBODYレベルは達したレベルの最大値を採用した.BODYレベル1に達していない対象者はBODYレベル0とみなした.そして,BODYレベルと理想的な状態(2項目)との関連,およびBODYレベルと準備状態の関連項目(職場の心理社会的要因,ワーク・エンゲイジメント,心理的ストレス反応)との関連を検討するため,1要因4水準(レベル0, 1, 2, 3)の分散分析を実施した(解析4).統計解析ソフトはSPSS version 22(分散分析),およびMplus version 7.4(カテゴリカル因子分析,カテゴリカルパス解析)を使用した.
対象者(300名),およびその上司の基本属性は表2のとおりであった.主な回答者属性としては平均年齢41.4歳(SD10.3, 範囲23–75),管理職以外が9割であった.職場規模は20名未満が6割を占め,5~14名の職場が最多であった.上司の属性としては男性(8割),50代(4割)が最多であった.
n | % | ||
---|---|---|---|
年齢 | M=41.4 | SD=10.3 | |
性別 | |||
男性 | 150 | 50.0 | |
女性 | 150 | 50.0 | |
職種 | |||
管理職(課長職以上) | 28 | 9.3 | |
専門職(研究職,技師,コンピューターエンジニア,医師,看護師,教員など) | 45 | 15.0 | |
技術者(電気技術者,コンピューター技術者,栄養士など) | 29 | 9.7 | |
事務職(一般事務員,経理,秘書,パンチャーなど) | 106 | 35.3 | |
サービス(販売員,保安員,ウェイトレス,保育,介護者など) | 46 | 15.3 | |
技術を必要とする生産技能職(建築,機会修理,整備,手工芸など) | 10 | 3.3 | |
機械を操作する生産技能職(機械の運転・操作,自動車の運転など) | 12 | 4.0 | |
身体を使う作業の多い生産技能職(包装,出荷,清掃など) | 12 | 4.0 | |
その他 | 12 | 4.0 | |
雇用形態 | |||
正社員 | 247 | 82.3 | |
契約社員 | 38 | 12.7 | |
派遣労働者 | 15 | 5.0 | |
業務内容 | |||
営業 | 29 | 9.7 | |
販売・サービス | 37 | 12.3 | |
企画 | 5 | 1.7 | |
事務 | 100 | 33.3 | |
ITエンジニア | 18 | 6.0 | |
研究・開発 | 19 | 6.3 | |
製造 | 27 | 9.0 | |
その他 | 65 | 21.7 | |
職場規模† | |||
4名以下 | 21 | 7.0 | |
5~9名 | 64 | 21.3 | |
10~14名 | 64 | 21.3 | |
15~19名 | 34 | 11.3 | |
20~24名 | 29 | 9.7 | |
25~29名 | 16 | 5.3 | |
30~34名 | 11 | 3.7 | |
35~39名 | 9 | 3.0 | |
40名以上 | 52 | 17.3 | |
会社の業種 | |||
営利企業・団体 | 242 | 80.7 | |
非営利組織 | 20 | 6.7 | |
官公庁・公的機関 | 38 | 12.7 | |
上司属性(年代) | |||
20代以下 | 4 | 1.3 | |
30代 | 43 | 14.3 | |
40代 | 108 | 36.0 | |
50代 | 119 | 39.7 | |
60代以上 | 26 | 8.7 | |
上司属性(性別) | |||
男性 | 239 | 79.7 | |
女性 | 61 | 20.3 | |
上司属性(職位) | |||
一般社員相当 | 42 | 14.0 | |
係長・主任相当 | 82 | 27.3 | |
課長相当 | 101 | 33.7 | |
部長・次長相当 | 50 | 16.7 | |
社長・役員・経営者相当 | 25 | 8.3 |
注.†ここでの職場は「あなたが普段一緒に働いているグループ(基本的には5~20名程度を想定)」と教示した.
職種の「その他」:生産管理,フォークリフトでの運搬,営業,生産管理,品質管理,公務,ドライバー,営業職(2),人材ビジネス,編集
表3,および図2は,理想の状態を獲得するためのアイテムプール(77項目)に対してカテゴリカル因子分析(解析1)を実施した際の固有値,モデルの適合度,および固有値のスクリープロットを示している.第10因子までが固有値1.00以上を示したが,推定するパラメータに対して因子数が多いため,第4因子以降の因子を仮定した場合はBICが低下した.また,サンプル数が少ないこともあり6因子モデル以降の推定には大幅な時間を要した.以上から,このアイテムプールには3因子構造が妥当であると判断した.表4は,3因子構造にて因子分析を実施した際の各項目の因子負荷量を示している.多重負荷,低負荷,および不適解の認められた6項目を除き,71項目3因子構造が確認された.内容から第1因子を職場の受容度(20項目),第2因子を上司のリーダーシップ(46項目),第3因子を職場での議論の熟達(5項目)とした.
因子 | 固有値 | AIC | BIC |
---|---|---|---|
1 | 44.967 | 20998.47 | 21568.85 |
2 | 5.838 | 20008.33 | 20860.20 |
3 | 3.264 | 19600.39 | 20730.05 |
4 | 2.215 | 19510.87 | 20914.61 |
5 | 1.572 | 19467.30 | 21141.41 |
6 | 1.321 | ||
7 | 1.301 | ||
8 | 1.176 | ||
9 | 1.129 | ||
10 | 1.057 | ||
11 | 0.998 | ||
12 | 0.900 | ||
13 | 0.883 | ||
14 | 0.792 | ||
15 | 0.782 | ||
16 | 0.771 | ||
17 | 0.689 | ||
18 | 0.678 | ||
19 | 0.642 | ||
20 | 0.595 |
注.†因子の固有値は77因子のうち上位20因子までを記載した.
適合度は上位5因子までのモデルで算出した.
アイテムプール77項目を対象としたカテゴリカル因子分析におけるスクリープロット
![]() |
注.ロバスト最尤法推定,ジェオミン回転.Mplus version 7.4による解析
表5は,上記の結果にもとづき,カテゴリカルパス解析(解析2)を行った結果を示している.71項目を対象に図1のモデルにて解析を実施した結果,項目内容を達成することの難易度を意味する閾値(θ)は,第1因子(職場の受容度)では-0.703~0.109,第2因子(上司のリーダーシップ)では-0.491~0.093,第3因子(職場での議論の熟達)では0.258~0.442であった.これらの閾値をもとに設定したBODYレベルにもとづき,各因子,および各レベルの項目の中から,BODYチェックリストに適する項目を採用した.理想的な状態(2項目)の主成分と最も関連が強く,かつ十分な関連(0.6以上)を示した項目をチェックリストにふさわしい項目として設定した.その結果,第1因子(職場の受容度)では3項目(項目No. 20, 1, 11),第2因子(上司のリーダーシップ)では2項目(項目No. 45, 33)が抽出された.第3因子(職場での議論の熟達)の項目は,いずれも理想的な状態の主成分との関連が十分でなかった(パス係数0.352~0.540)ため,チェックリストにふさわしい項目はないと判断した.
No | 項目内容 | 肯定的に回答した対象者の割合(%) | 閾値 | パス 係数‡ | BODY レベル† | 採用 |
---|---|---|---|---|---|---|
因子1:職場の受容度 | ||||||
9 | 私たちの職場では自然とあいさつを交わす雰囲気がある | 77.0 | -0.703 | 0.574 | 1 | |
20 | チーム内の居場所や役割があると感じられる | 73.7 | -0.601 | 0.658 | 1 | ✓ |
7 | 自分の周りにいる人に手を貸せるようにいつも準備している | 68.3 | -0.443 | 0.519 | 2 | |
2 | 私たちの職場では,仕事に関連した情報の共有ができている | 66.3 | -0.391 | 0.606 | 2 | |
3 | 私は自分の職場に関心がある | 66.0 | -0.381 | 0.559 | 2 | |
4 | 私はこの職場のメンバーであることを強く意識している | 65.0 | -0.355 | 0.567 | 2 | |
1 | 私たちの職場では,お互いに理解し認め合っている | 64.0 | -0.328 | 0.672 | 2 | ✓ |
5 | 前向きな失敗を許容する雰囲気がある | 62.3 | -0.286 | 0.606 | 2 | |
18 | 話し合いの場面では反対意見を闘わせていても,話し合いが終わったときの人間関係には影響を与えない | 62.0 | -0.278 | 0.586 | 2 | |
19 | メンバーの一人一人がチームに所属できているという安心感がある | 61.7 | -0.269 | 0.633 | 2 | |
8 | 他の部署にいる人の仕事を助けてあげる | 59.3 | -0.213 | 0.383 | 3 | |
6 | 問題を抱えながら行動している人を喜んで助ける | 59.0 | -0.204 | 0.503 | 3 | |
10 | 決まったことや提案が,話し合いだけで終わるのではなく,とりあえず実行されるという期待を持てる | 58.3 | -0.187 | 0.547 | 3 | |
14 | 自分が困っていることややりづらいと思っていることについて,誰かの批判にならずに建設的な意見が出る | 55.7 | -0.122 | 0.567 | 3 | |
13 | 理想と現実のギャップなどについて,誰かの批判にならずに建設的な意見が出る | 54.7 | -0.098 | 0.579 | 3 | |
17 | どんな意見でも意見として尊重される | 54.3 | -0.092 | 0.521 | 3 | |
15 | メンバー同士で話し合いを行うことに対して,不信・不満・疑問を感じている人や,消極的だったり不安を感じたりしている人も安心して話し合いに参加できる | 53.3 | -0.064 | 0.607 | 3 | |
11 | 少数意見や反対意見でも尊重される | 48.7 | 0.048 | 0.617 | 3 | ✓ |
12 | 組織が変わっていくことが不安だ,などという後ろ向きな意見も尊重される | 47.7 | 0.061 | 0.438 | 3 | |
16 | 発言する人が偏らずに意見交換できている | 46.0 | 0.109 | 0.586 | 3 | |
因子2:上司のリーダーシップ | ||||||
42 | 上司は,誠実な態度で対応してくれる | 70.0 | -0.491 | 0.570 | 2 | |
30 | 上司は,自分が部下のためにおこなったことへの承認や報酬を求めない | 69.7 | -0.479 | 0.523 | 2 | |
23 | 私は自分自身のパフォーマンスに対して,上司から責任を持たされている | 69.7 | -0.477 | 0.463 | 2 | |
41 | 上司は,親切心と思いやりをもって接してくれる | 67.0 | -0.408 | 0.578 | 2 | |
57 | 上司は,職場の部下の健康や幸せを気遣っている | 66.7 | -0.399 | 0.541 | 2 | |
25 | 上司は,私と同僚の仕事の進めかたに対して責任を持っている | 66.3 | -0.391 | 0.615 | 2 | |
45 | 上司は,部下が新しい考えを提案することを奨励している | 66.0 | -0.382 | 0.644 | 2 | ✓ |
67 | 上司は,常に誠実である | 66.0 | -0.381 | 0.539 | 2 | |
24 | 上司は,私が行った仕事に対して責任を持ち続ける | 66.0 | -0.380 | 0.507 | 2 | |
54 | 上司は,自分の上位者に対し,自らのミスを認めることができる | 66.0 | -0.380 | 0.496 | 2 | |
60 | もし,仕事でうまくいかないことが発生すると,上司は何が問題なのかを理解することができる | 66.0 | -0.378 | 0.444 | 2 | |
46 | 上司は,私が仕事をうまく進めるのに必要な情報を与えてくれる | 63.7 | -0.321 | 0.559 | 2 | |
39 | 上司は,私が自分で問題解決できるように励ましてくれる | 62.0 | -0.278 | 0.598 | 2 | |
69 | 上司は,儲けを出すことよりも,誠実であることを重要視している | 62.0 | -0.278 | 0.452 | 2 | |
26 | 上司は,リスクをとり,自身の判断でなされるべきことを行う | 61.7 | -0.270 | 0.535 | 2 | |
47 | 上司は,私が仕事をやりやすくなるような意思決定の権限を与えてくれる | 61.3 | -0.261 | 0.563 | 2 | |
28 | 上司は,部下に対して本当に感じたことを示している | 61.0 | -0.253 | 0.493 | 3 | |
43 | 上司は,部下の気持ちを理解しようとしている | 60.7 | -0.244 | 0.582 | 3 | |
65 | 上司は,部下が新しいスキルを身につけることができるような職務経験を持たせている | 60.0 | -0.229 | 0.485 | 3 | |
38 | 上司は,部下が能力をのばす機会を持てるように,取り計らってくれる | 60.0 | -0.228 | 0.555 | 3 | |
44 | 上司は,私がさらに自分自身を伸ばすことを積極的に支援してくれる | 59.3 | -0.212 | 0.537 | 3 | |
61 | 上司は,複雑な問題に直面したとしても,その原因を突き止めることができる | 59.0 | -0.205 | 0.433 | 3 | |
36 | 上司は,全体の良い点に焦点を当てる | 59.0 | -0.202 | 0.603 | 3 | |
40 | 上司は,独りよがりなものの見方をしないようにすることができる | 59.0 | -0.202 | 0.617 | 3 | |
21 | 上司は,職場をもっとよくしていきたいという気持ちを,繰り返しメンバーに説明している | 58.7 | -0.196 | 0.489 | 3 | |
66 | 上司は,高い倫理観を持っている | 58.3 | -0.189 | 0.478 | 3 | |
35 | 上司は,長期的ビジョンを持っている | 58.3 | -0.187 | 0.560 | 3 | |
63 | 上司は,部下が最も良いと思う方法で困難な状況を乗り切るための自由を与えている | 58.0 | -0.179 | 0.568 | 3 | |
34 | 上司は,部下が最も活躍できるよう一生懸命支援している | 58.0 | -0.177 | 0.616 | 3 | |
68 | 上司は,成功するために,倫理原則を曲げることは決してない | 57.7 | -0.173 | 0.367 | 3 | |
37 | 仕事の出来ばえについて,上司からフィードバックをもらっている | 57.0 | -0.157 | 0.470 | 3 | |
48 | 上司は,私が新しいスキルを学ぶ機会を豊富に与えてくれる | 57.0 | -0.157 | 0.479 | 3 | |
53 | 上司は,他者の異なる観点や意見から学ぶ | 56.7 | -0.146 | 0.583 | 3 | |
58 | 上司は,職場の部下が抱えている問題について個別に話す時間を確保している | 56.3 | -0.139 | 0.538 | 3 | |
62 | 上司は,仕事上の問題を,新しく創造的なアイディアで解決することができる | 56.0 | -0.132 | 0.494 | 3 | |
56 | 上司は,私たちの仕事の社会的責任を強調する | 55.3 | -0.118 | 0.419 | 3 | |
29 | 上司は,部下を信頼して任せ,表に出ないようにしている | 54.0 | -0.083 | 0.543 | 3 | |
32 | 上司は,自分の成功よりも,部下の成功を大事にしている | 54.0 | -0.080 | 0.623 | 3 | |
64 | 上司は,部下がキャリア目標に到達することに気を配っている | 53.7 | -0.078 | 0.465 | 3 | |
50 | 上司は,仕事で攻撃してきた人に対する強硬姿勢を持ち続ける | 53.3 | -0.074 | 0.220 | 3 | |
33 | 上司は,自分の利益よりも,部下の利益が最大になるよう配慮している | 53.0 | -0.055 | 0.625 | 3 | ✓ |
59 | 上司は,職場の部下の元気がないと,すぐにそれに気づくことができる | 52.7 | -0.055 | 0.437 | 3 | |
55 | もし人が批判をしたら,上司はそこから学ぼうとする | 52.0 | -0.038 | 0.498 | 3 | |
27 | 上司は,自らの限界と弱さに対してオープンだ | 51.7 | -0.032 | 0.439 | 3 | |
31 | 上司は,自分自身の成功よりも同僚の成功を楽しんでいるように見える | 50.7 | -0.002 | 0.577 | 3 | |
52 | 上司は,批判から学ぶ | 46.3 | 0.093 | 0.462 | 3 | |
因子3:職場での議論の熟達 | ||||||
73 | メンバー同士で,あるいは職場内で,話し合いがうまく進まないいつものパターンや特定の問題があることにメンバーが気づいている | 39.0 | 0.258 | 0.352 | 3 | |
74 | リーダーがチーム内の人間関係の問題を把握しており,議論がぶちこわしにならないように配慮できる | 37.0 | 0.326 | 0.562 | 3 | |
76 | 私たちの職場はグループで検討することに慣れている | 35.3 | 0.367 | 0.555 | 3 | |
75 | 中堅層にもリーダーシップの研修が行われている | 32.7 | 0.422 | 0.438 | 3 | |
72 | 職場をよくするための話し合いのための時間をとること,意見を言い合うことの重要性をリーダーがメンバーに積極的に説明している | 32.3 | 0.442 | 0.540 | 3 |
注.カテゴリカル因子分析の結果,多重負荷,低負荷,および不適解が認められた6項目は解析対象から除外した.Mplus version 7.4による解析
‡参加型職場環境改善が機能する状態の基準項目として測定した2項目の主成分から各項目にひかれたパス係数(図1参照)
†BODYレベル1:閾値 ≤ -0.53,BODYレベル2:-0.53<閾値 ≤ -0.26,BODYレベル3:閾値>-0.26
以上の手続きを経て,BODYチェックリストが作成された(表6).チェックリストの難易レベル(4段階)と理想的な状態(2項目)および関連項目とで分散分析を行った結果,すべての指標において有意な差が認められた.多重比較の結果,理想的な状態の2項目においてはチェックリストのすべてのレベル間で有意水準0.05以上の有意差が認められた.仕事の意義と,経営陣との信頼関係においては,レベル0とレベル1以上,およびレベル2と3の間に有意差が認められた.成長の機会においては,レベル0とレベル2以上の間およびレベル2とレベル3の間で有意差が認められた.仕事の適性度と,ワーク・エンゲイジメント,心理ストレス反応においては,レベル0とレベル1以上の間で有意差が認められた.仕事のコントロールにおいては,レベル0とレベル3の間に有意差が認められた(表7).
BODYレベル | 因子1: 職場の受容度 | 因子2: 上司のリーダーシップ | 因子3: 職場での議論の熟達 |
---|---|---|---|
レベル3 (労働者の肯定的回答割合が6割未満) | 少数意見や反対意見でも尊重される | 上司は,自分の利益よりも,部下の利益が最大になるよう配慮している | 該当項目なし |
レベル2 (労働者の肯定的回答割合が6割以上7割未満) | 私たちの職場では,お互いに理解し認め合っている | 上司は,部下が新しい考えを提案することを奨励している | |
レベル1 (労働者の肯定的回答割合が7割以上) | チーム内の居場所や役割があると感じられる |
注.BODYチェックリストの使い方:
レベル1から順に「はい・いいえ」で回答し,項目全てに肯定的に回答したレベルの最大のものを,その個人のBODYレベルと判断する.
BODYレベル1が「いいえ」の場合はBODYレベル0とみなす.
職場単位で活用する際は,職場構成員の回答から各項目の肯定的回答率を割り出し,9割等の任意の回答率基準からレベル判定を行うことを想定した.
BODYレベル | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
レベル0 (n=79) | レベル1 (n=78) | レベル2 (n=53) | レベル3 (n=90) | |||||||||
M | SD | M | SD | M | SD | M | SD | F | 多重比較‡ | |||
理想的な状態 | ||||||||||||
基準項目1 | 4.35 | 1.9 | 5.55 | 1.8 | 6.81 | 1.3 | 7.59 | 1.4 | 60.980 | ** | 0<1<2<3 | |
基準項目2 | 4.01 | 1.8 | 5.38 | 1.7 | 6.55 | 1.7 | 7.41 | 1.4 | 65.990 | ** | 0<1<2<3 | |
関連指標 | ||||||||||||
仕事のコントロール | 2.49 | 0.8 | 2.68 | 0.6 | 2.67 | 0.6 | 2.78 | 0.6 | 2.680 | * | 0<3 | |
仕事の意義 | 2.35 | 0.7 | 2.78 | 0.6 | 2.86 | 0.4 | 3.11 | 0.5 | 25.220 | ** | 0<1, 2<3 | |
仕事の適正度 | 2.33 | 0.9 | 2.67 | 0.8 | 2.91 | 0.6 | 3.03 | 0.6 | 14.120 | ** | 0<1, 2, 3 | |
成長の機会 | 2.24 | 0.7 | 2.44 | 0.6 | 2.66 | 0.6 | 3.00 | 0.5 | 24.820 | ** | 0<2, 2<3 | |
経営陣との信頼関係 | 2.08 | 0.8 | 2.41 | 0.6 | 2.46 | 0.5 | 2.85 | 0.5 | 22.280 | ** | 0<1, 2<3 | |
ワーク・エンゲイジメント | 1.83 | 1.4 | 2.50 | 1.3 | 2.75 | 1.0 | 3.29 | 1.1 | 19.600 | ** | 0<1, 2, 3 | |
心理的ストレス反応 | 10.09 | 6.0 | 6.78 | 5.2 | 6.42 | 5.6 | 6.00 | 5.8 | 8.420 | ** | 1, 2, 3<0 |
**p<.01, *p<.05, 自由度(3,296)
‡Tukey’s HSD検定
本研究では,参加型職場環境改善が有効に機能する状態の定義およびその獲得のために必要な要因の検討と,職場の現状を把握するためのチェックリスト(BODYチェックリスト)の開発を行った.前者の結果,「メンバーが職場をよりよくすることに前向きで,お互いに意見を言い合える状態」が理想的な状態と定義され,その獲得に必要な要因は「職場の受容度」,「上司のリーダーシップスタイル」および「職場での議論の熟達」であることが示された.この結果は,専門家間で整理された2領域の概念枠組みに「職場での議論の熟達」を加えるものであった.しかしBODYチェックリストの作成過程において,この「職場での議論の熟達」は,いずれの項目も定義された理想的な状態との関連が十分ではなく,チェックリスト項目には含まれなかった.BODYチェックリストについては難易レベル毎に合計5項目が抽出され,これらの肯定的回答の組み合わせによって参加型職場環境改善状態のレベルを推定できることが確認された.
理想的な状態の獲得に必要な要因のうち,職場の受容度においては,職場への関心や一体感,対人上の相互理解,少数・反対意見の受容に関する項目が集約された.この要因は専門家間で整理された概念枠組みの中の「職場の一体感とコミットメントがあること」と符合していた.職場をよりよくする意見を出し合うためのこれらの観点の重要性は,職場内の信頼関係や心理的安全性がメンバーの積極的な関与を促すことを示した先行研究の示唆から視点を広げることができる31,32,33,34,35).心理的安全性は,フィードバック希求や自身の失敗の容認,自身の関心の表出といった個人的な発言をすることが,職場において罰や拒否といったリスクを伴わないと信じることを表す概念であり32),心理的安全性が高い職場では,否定的意見の受け入れが促され,チーム内の積極的な発言が増えること33,34),仕事の質の改善へのエンゲージメントが促されること35)が報告されている.職場の受容度のカテゴリに心理的安全性を直接測る項目は含まれていないが,「前向きな失敗を許容する雰囲気がある(No. 5)」「少数意見や反対意見でも尊重される(11)」「話し合いの場面では反対意見を闘わせていても,話し合いが終わったときの人間関係には影響を与えない(18)」など,心理的安全性と近い概念を測定している可能性がある.
上司のリーダーシップも,理想的な状態の獲得のために重要な要因であることが示された.この要因には,上司の誠実さや部下による提案の奨励などに関する項目が集約されており,専門家間で整理された概念枠組みの中では「上司が対話を受け入れるリーダーシップスタイルと行動をとっていること」と一致する内容であった.上司は一般的に労働者の評価者,指揮命令・意思決定者であり,その上司が職場での対話を重視することが,対話しやすい雰囲気の醸成と実行の動機づけに関連することが推測される.実証研究においても,上司との関係性が部下による意見の言いやすさ,およびパフォーマンスと関連すること36),対話を重視する上司のリーダーシップ行動が部下へのモデリングを通して部下の行動と職場の文化に影響することが示されている37).本研究では,このリーダーシップを測るために既存のリーダーシップに関する項目に加えてサーバント・リーダーシップ38)の尺度24,25)を参考に作成した項目を加えて検証した.このリーダーシップスタイルは,リーダー自身の興味よりも部下のニーズに焦点づけるところが特徴であり22),部下の成長やウェルビーイング,組織の生産性のほか,心理的安全性を高めることも示されている39,40).今回の研究では,参加型職場環境改善準備状態と関連するリーダーシップという点から,上司のとるべき行動が明確になったといえる.
職場での議論の熟達は,「リーダーがチーム内の人間関係の問題を把握しており,議論がぶち壊しにならないよう配慮できる(74)」「私たちの職場はグループで検討することに慣れている(76)」など,職場で議論することへのリーダーやメンバーの慣れや,そのための教育や発信について問うものが集約された.この因子は職場内での議論に関してリーダーとメンバー双方がその必要性を理解し,高い技術を持って実践することにより,意思表示がしやすい職場環境の形成に貢献するものといえる.しかし,肯定的回答者の割合が低く(4割未満),基準項目への関連も比較的低い(パス係数0.6未満)ことから,項目内容はやや高度であると考えられた.
本研究では,参加型職場環境改善準備状態を簡便に推測するためのBODYチェックリストを開発することを二つめの目的とした.職場の受容度と上司のリーダーシップの2領域からの5項目による4段階を設定したところ,理想的な状態に対して各段階の有意差が確認され,BODYレベルの段階が上がるにつれて参加型職場環境改善が機能しやすい可能性が示された.BODYレベルは4段階からなり,レベル0が「チーム内の居場所や役割を感じにくい状態」,レベル1が「相互認識のある状態」,レベル2が「相互理解と期待のある状態」,レベル3が「少数意見や反対意見の尊重と成長のできる状態」と特徴づけられた.このように,BODYチェックリストによる段階化を通して,職場内での相互認識や相互理解,意見の尊重といった職場の関係性と参加型職場環境改善活動の展開しやすさとの関連が整理されたといえる.また,BODYレベルは関連指標として設定された職場の心理社会的要因,ワーク・エンゲイジメント,心理的ストレス反応の全てとも有意な関連を示し,BODYレベルが高いと関連指標の値も良好であることが示された.このことより,参加型職場環境改善準備状態の高い職場は,職場の資源や健康度とも関わりを持つことが示唆された.
第3因子である「職場での議論の熟達」については,理想的な状態との関連が十分に確認されなかったためBODYチェックリストには含まれなかった.関連が十分に確認されなかった理由としては,項目で想定される状況が具体的であるため(例:「職場をよくするための話し合いのための時間をとること,意見を言い合うことの重要性をリーダーがメンバーに積極的に説明している(72)」「中堅層にもリーダーシップの研修が行われている(75)」「メンバー同士で,あるいは職場内で,話し合いがうまく進まないいつものパターンや特定の問題があることにメンバーが気づいている(73)」),事業所規模や職種などのために該当しなかった回答者が多くいた可能性が考えられる.
BODYチェックリストを現場で活用する際は,職場構成員の回答から各項目の肯定的回答率を割り出し,9割等の任意の回答率基準からレベル判定を行うことが想定される.ストレスチェックに追加して実施することで,各職場の参加型職場環境準備状態を推定し,段階に応じた対応を検討することが可能となる.例えば,レベル3の職場では参加型職場環境改善の実施によって良い議論が期待できると考えられるが,レベル0や1の職場では,一律に参加型職場環境改善を進めるのではなく,まずは認識されている問題解決に着手したり,短時間で複数回の議論の場を設けたり,議論するメンバー構成を工夫したりする等の配慮をして実施することが,参加型職場環境改善の実施上の困難を解決する一助となると考えられる.
本研究の限界として,アイテムプール収集のための実務家への教示が当初の意図と異なって受け止められた可能性が挙げられる.本研究では,参加型職場環境改善が有効に機能する状態の獲得に必要な要因をアイテムプールとして収集した.しかし,実務家への意見収集の教示ではわかりやすくするために「参加型職場環境改善が成功する職場とそうでない職場では,何が違うか」と表現したために,理想とする状態の獲得に必要な要因と,理想とする状態を構成する因子がアイテムプールに混在した可能性がある.
また,調査における限界としては対象者の偏りが挙げられる.対象者はインターネット調査会社に登録した者から募集したため,一般的な労働者と母集団が異なる可能性がある.また,本研究では個人単位の回答結果によってBODYレベルの算定しており,職場単位での算定を行っていない.また,職場単位での算定基準と分布は明らかになっていない.そのため,今後は職場単位で調査を行い,算定基準の確定および参加型職場環境改善の実施効果との関連の確認を行う必要がある.さらに,参加型職場環境改善準備状態を高める基礎的な組織開発プログラムの開発と,各BODYレベルに対するその有効性についても,今後の検証が期待される.
本研究では,参加型職場環境改善が有効に機能する職場の状態の定義,その獲得に必要な要因の検討,および準備状態を把握するためのチェックリストの開発を行った.その結果,参加型職場環境改善が機能する状態の獲得に必要な要因は,職場の受容度と上司のリーダーシップスタイルおよび職場での議論の熟達であることが示された.さらに4段階からなるBODYチェックリストが作成され,参加型職場環境改善が有効に機能すると定義された状態および関連指標との関連が確認された.BODYチェックリストにより,参加型職場環境改善に適した職場の状態の推定と目標設定の示唆が可能となった.
本研究は,東京大学大学院医学系研究科職場のメンタルヘルス研究会(TOMH研究会)の参加者の協力のもと実施された.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
研究分担:本研究における全体のデザイン,調査実施はYKが主導して行い,解析手法の計画と実施はKWとYOが主導して行った.調査項目の情報収集,原案作成,結果の解釈は共同研究者全員で行った.
論文執筆についてはYKが中心となって行い,統計解析と結果の記載はKWが行った.共同研究者全員が論文についてチェックと助言を行った.