SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Field Study
Supporting a balance between work schedules and treatment regimens among cancer patients: A questionnaire survey focusing on company size in Wakayama Prefecture, Japan
Ikuharu Morioka Hiroaki TerashitaKazuhisa MiyashitaZentaro IkutaTatsuya TakeshitaKazushi Taoda
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2019 Volume 61 Issue 5 Pages 159-169

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抄録

目的:がんを抱える労働者の治療と仕事の両立支援は十分とはいえない.そのため,本研究では,事業場におけるがんを抱える労働者の治療と仕事の両立支援の取り組み状況を事業場の規模別に明らかにし,がんを抱える労働者に対する職場改善を検討することを目的とする.対象と方法:和歌山産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターがこれまでに支援した県内の事業場リストから無作為に抽出した770の事業場を対象に,無記名の質問票を郵送により配布した.質問票は,事業場,支援制度,就労中のがん経験者やがん治療中の労働者(以下,がんを抱える労働者),がんを抱える労働者の復職,がんを抱える労働者の復職や雇用の推進,回答者の職種について尋ねる内容とした.結果:質問票は188事業場から回収された(回収率:24.4%).小規模事業場(労働者数50人未満)のうちがん検診を実施または受診勧奨している事業場は55%であり,この割合は中規模(労働者数50–99人)や大規模(労働者数100人以上)の事業場と比較して高かった.治療しながら働くための支援制度がある事業場は約20%で,「時間単位の有給休暇制度」がある事業場は,中規模や大規模事業場より小規模事業場で多かった.正規労働者に対し病気休職制度がある事業場は,小規模事業場が51%であり,この割合は有意に少なかった.正規労働者に対し病気休職期間中に賃金の支給がある事業場は20%台であった.がんを抱える労働者が職場復帰を希望したら可能な事業場は80%以上であった.復帰が可能な条件は「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」が最も多かったが,小規模事業場では「職場の同僚に受け入れ意思がある場合」が多かった.結論:がんを抱える労働者に対する職場改善として,がん検診の受診勧奨,時間単位の有給休暇や病気休職の制度化が重要となることが示された.

1. 背景

がんは,日本人の2人に1人が生涯のうちに罹る病気であるが1,治療技術の進歩により,5年相対生存率は6割を超えるようになり2,がんは不治の病ではなく,長く付き合う病気という捉え方に変化してきた.

新たにがんと診断される患者の3割が就労世代で,仕事をもちながらがんで通院している者は30万人を超えている3.しかし,治療と仕事の両立に悩む労働者も少なくなく,がん罹患後に約3割が退職し4,約7割が治療と仕事の両立が困難だという認識をもっている5

このような背景に対応し,がんなどの疾患を抱える労働者がその能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として,2016年に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」が公表された6.このガイドラインは,事業場が,がん,脳卒中,心疾患,糖尿病,肝炎などの疾病を抱える労働者に対して,適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い,治療と仕事が両立できるようにするため,特に「がん」について留意すべき環境整備,治療と仕事の両立支援の進め方を示している.

がん罹患者の増加に伴い7,生産年齢人口においても罹患者は増えていることから8,今後もがんを抱える労働者への対策としての職場改善がますます重要となると考える.しかし,がんを抱える労働者の治療と仕事の両立支援は十分ではなく9,がんを抱える労働者に配慮した職場改善に向けた取り組み状況は明らかになっていない.

そこで,本研究では,事業場におけるがんを抱える労働者の治療と仕事の両立支援の取り組み状況を事業場の規模別に明らかにし,がんを抱える労働者に対する職場改善を検討することを目的とする.

2. 研究方法

1) 対象

本研究では,和歌山産業保健総合支援センター及び地域産業保健センターがこれまでに入手した県内の事業場リスト1,893事業場から50%の抽出率で抽出した.いずれかのセンターを利用したことのある事業場の方が研究への協力が得られやすいと推察し,抽出された事業場のうちいずれのセンターも利用したことがない177事業場を除いた770の事業場を対象とした.なお,事業場リストは,同一企業の事業場が県内に複数ある場合,それらをまとめて1企業として記載しているので,その企業が抽出された場合は安全衛生の管理部門があると思われる事業場を選定した.

2) 調査方法

質問票の内容に関して最も把握している者は事業場によって異なることが考えられたため,宛先は担当者として,郵送により配布した.回答後の質問票は封筒に入れ密封した状態で,返送してもらった.調査は,2017年10月に行った.

質問票は,事業場,支援制度,就労中のがん経験者やがん治療中の労働者(以下,がんを抱える労働者),がんを抱える労働者の復職,がんを抱える労働者の復職や雇用の推進について必要なこと,回答者の職種について尋ねる内容とした.なお,本研究は,和歌山県産業保健総合支援センターにおける産業保健調査研究「和歌山県におけるがん患者の療養と職業生活の両立支援のための実態調査」として実施した.

3) 質問項目

滋賀県で行われた調査10,11をもとに,研究者の経験を加味して質問項目を選定した.

(1)事業場について

業種を「製造業」「建設業」「医療・福祉」などの9項目から選択してもらった.

事業場の規模の判断根拠となった労働者数は「労働者数(非正規雇用を含む)」で尋ね,計と男女別の人数で回答を求めた.

がん検診(事業場が制度として,または受診勧奨しているもの)の実施状況を「実施していない」「計画中」「実施している」から選択してもらい,「実施している」を選択した場合は,がん検診の種類を「胃がん」「大腸がん」「乳がん」「子宮がん」などの6項目から選択してもらった.

(2)支援制度について

治療しながら働く労働者のための何らかの支援制度の有無を「ある」「ない」で尋ね,「ある」を選択した場合は,既に行われている復職支援制度の種類を「がんを抱える労働者の復職支援」「メンタルヘルス不調者の復職支援(復職プログラム)」などの4項目から選択してもらった.

既に行われている勤務支援制度を「時間単位の有給休暇制度」「有給休暇以外の休職制度」「通院等のための時差出勤・退社制度」などの5項目から選択してもらい,「通院等のための時差出勤・退社制度」を選択した場合は,賃金を「有給」「無給」から選択してもらった.正規労働者と非正規労働者の両者で,病気休職制度と病気休職期間中の賃金(傷病手当金や企業が加入している保険による給付金を含む)の有無を「ある」「ない」から選択してもらった.なお,病気休職制度とは,「私傷病により連続して出勤できない状況でも,一定の期間は雇用関係が継続されており,解雇や退職にならない制度を指し,傷病休暇制度,病気休暇制度,病気休職制度,療養休暇制度とも呼ばれている」ことを,質問票に記載した.

(3)がんを抱える労働者について

がんを抱える労働者の有無を「いる」「以前いた」「いない」「不明」から選択してもらった.

がんを抱える労働者の就労について相談できるひとを「主治医」「社内のひと(健康管理担当者を除く)」「産業医または保健師・看護師」などの9項目から選択してもらった.

がんを抱える労働者を復職させたり,雇用したりする際に配慮していることは「業務内容(配置転換等)」「残業などの労働時間」「治療のために休むこと」「体調不良時に休むこと」「体調など健康管理」「病名など個人情報の管理」などの14項目から選択してもらった.

がんを抱える労働者が職場にいることによる困難を「特に困難なことはない」「働き手が不足」「体調不良による休暇で,仕事の見通しが困難」などの9項目から選択してもらった.

がんを抱える労働者の復職については,がんを抱える労働者が希望した際の職場復帰の可否を「可能」「条件によって可能」「不可能」「不明」から選択してもらった.

職場復帰が可能な条件は「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」「労働時間や仕事内容に特別な制限がなく,発病前と同じように就労可能な場合」「職場の同僚に受け入れ意思がある場合」などの7項目から選択してもらった.

職場復帰の判断のために必要な主治医等からの情報は「病名」「現在の健康状態や体力」などの8項目から選択してもらった.

がんを抱える労働者の復職や雇用の推進について必要なことは,「就労支援に関する法整備」「就労に関する助成金制度(休業中の給与,補助職員の採用経費など)」「就労に関しての事業者向け研修会の開催」などの13項目から選択してもらった.

(4)回答者について

職種を「担当職員(総務・人事など)」「衛生管理者・衛生推進者」「経営責任者」から選択してもらった.

4) 分析方法

対象事業場を労働者数が50人未満の事業場(以下,小規模)(53事業場),50人以上99人までの事業場(以下,中規模)(52事業場),100人以上の事業場(以下,大規模)(72事業場)の3群に分け,質問項目の回答状況を比較した.なお,労働者数が無回答の11事業場は解析から除外した.

3群間は記述統計学的に比較した.比較にはχ2検定を用いた.また,3群以上の検定でどのセルが有意な差に寄与しているのか確認するために,調整済み残差を算出しHarbermanの残差分析を行った.分析には,SPSS Statistics 24を用い,統計学的有意水準は5%とした.

5) 倫理的配慮

対象者には,研究の目的と方法,本調査への参加は自発的意思で行われること,質問票は無記名で,事業場の名称などは記載しないこと,返送の際にも無記名の返送用封筒を用いることなどにより,プライバシーは完全に保護されていること,個々の事業場ごとの分析は一切せず全体集計を行うこと,研究に参加しない場合やがんを抱える労働者に配慮した職場改善の取り組みを行っていない事業場であっても不利益はないこと,質問票の提出をもって同意したとみなすことを文書で説明した.また,本研究は労働者健康安全機構の産業保健調査研究倫理審査委員会(平成29年度通知番号15)の承認後に実施した.

3. 結果

質問票は188事業場から回収された(回収率:24.4%).回答者の職種は,いずれの規模であっても,担当職員(小規模57%,中規模73%,大規模78%)が多かった.経営責任者は,小規模26%,中規模6%,大規模8%であった.

1) 事業場について(表1

事業場の業種は,いずれの規模であっても製造業が30%台で最も多く,次いで医療・福祉が約20%であったが,規模に有意な差は認めなかった.

がん検診を実施あるいは受診勧奨している小規模は55%であったが,中規模と大規模は40%であった.実施あるいは受診勧奨しているがん検診の種類は,小規模では胃がん(43%),大腸がん(42%)が,中規模では胃がん(29%),大腸がん(23%),乳がん(23%)が,大規模では胃がん(25%),乳がん(24%),子宮がん(24%)が多かった.いずれのがん検診においても,小規模での実施率あるいは受診勧奨率が高かった.

表1. 事業場規模別の業種およびがん検診の実施状況
n(%)
回答項目小規模
(n=53)
中規模
(n=52)
大規模
(n=72)
業種製造業16(30.2)17(32.7)27(37.5)
医療・福祉9(17.0)11(21.2)15(20.8)
サービス業8(15.1)6(11.5)10(13.9)
卸売り・小売業・飲食店5(9.4)7(13.5)8(11.1)
建設業3(5.7)4(7.7)3(4.2)
運輸(貨物を含む)・通信業1(1.9)3(5.8)3(4.2)
金融保険業01(1.9)1(1.4)
電気・ガス・水道000
その他10(18.9)1(1.9)5(6.9)
がん検診
(事業場が制度として,または受診勧奨しているもの)
実施している29(54.7)21(40.4)29(40.3)
がん検診の内容胃がん23(79.3)15(71.4)18(62.1)
大腸がん22(75.9)12(57.1)15(51.7)
肺がん18(62.1)9(42.9)10(34.5)
乳がん18(62.1)12(57.1)17(58.6)
子宮がん16(55.2)10(47.6)17(58.6)
その他02(9.5)5(17.2)
計画中4(7.5)4(7.7)2(2.8)
実施していない18(34.0)25(48.1)39(54.2)
欠損値は除く

2) 支援制度について(表2

支援制度がある小規模は19%,中規模は25%,大規模は17%であった.既に行われている復職支援制度の種類は,小規模では「がんを抱える労働者の復職支援」と「メンタルヘルス不調者の復職支援」が,中規模と大規模では「メンタルヘルス不調者の復職支援」が最も多く,「がんを抱える労働者の復職支援」については,小規模が有意に多く,大規模は有意に少なかった.既に行われている勤務支援制度の種類は,小規模では「時間単位の有給休暇制度」が最も多く,次いで「有給休暇以外の休職制度」「通院等のための時差出勤・退社制度」であり,中規模と大規模では「有給休暇以外の休職制度」に次いで「通院等のための時差出勤・退社制度」が多かった.

正規労働者に対して,がんなどの長期の治療を要する疾患のための病気休職制度がある小規模は51%,中規模は67%,大規模は75%であり,小規模は有意に少なく,大規模は有意に多かった.非正規労働者に対してでは,小規模は25%,中規模は29%,大規模は49%であり,小規模は有意に少なく,大規模は有意に多かった.

正規労働者に対して,病気休職期間中に賃金の支給がある小規模は26%,中規模は27%,大規模は21%であった.非正規労働者に対してでは,小規模は8%,中規模は10%,大規模は8%であった.

表2. 事業場規模別のがん治療と就労に関する両立支援制度の状況
n(%)
回答項目小規模
(n=53)
中規模
(n=52)
大規模
(n=72)
治療しながら働くための何らかの支援制度ある10(18.9)13(25.0)12(16.7)
復職
支援
制度
がんを抱える労働者の復職支援7(70.0)6(46.2)2(16.7)
メンタルヘルス不調者の復職支援(復職プログラム)7(70.0)9(69.2)8(66.7)
脳・心臓疾患の患者の復職支援2(20.0)2(15.4)1(8.3)
その他の疾患の患者の復職支援02(15.4)4(33.3)
勤務
支援
制度
時間単位の有給休暇制度6(60.0)3(23.1)4(33.3)
有給休暇以外の休暇制度5(50.0)11(84.6)7(58.3)
通院等のための時差出勤・退社制度5(50.0)6(46.2)5(41.7)
賃金は有給3(60.0)3(23.1)0
無給1(20.0)1(7.7)3(25.0)
テレワーク(在宅勤務等)制度1(10.0)00
その他04(30.8)1(8.3)
ない42(79.2)37(71.2)59(81.9)
欠損値は除く

χ2検定,残差分析で>1.96,<-1.96

3) がんを抱える労働者について(表3

がんを抱える労働者がいる小規模は17%,中規模37%,大規模40%であり,小規模は有意に少なく,大規模は有意に多かった.

がんを抱える労働者の就労について相談できるひとは,いずれの規模でも産業医または保健師・看護師,主治医が多かった.

がんを抱える労働者の復職・雇用における配慮は,いずれの規模でも「治療のために休むこと」と「体調不良時に休むこと」が多く,次に「残業などの労働時間」「業務内容(配置転換等)」「体調など健康管理」であった.病名など個人情報の管理に配慮している事業場は,小規模17%,中規模24%,大規模40%であった.

がんを抱える労働者が職場にいることによる困難は,小規模では「働き手が不足」が,中規模では「働き手が不足」と「特に困難なことはない」が,大規模では「働き手が不足」が最も多かった.

表3. 事業場規模別のがんを抱える労働者の状況(事業場にがんを抱える労働者がいるあるいは以前いたと回答した事業場のうち)
n(%)
回答項目小規模
(n=18)
中規模
(n=29)
大規模
(n=45)
就労について相談できるひと産業医または保健師・看護師7(38.9)13(44.8)28(62.2)
主治医5(27.8)12(41.4)14(31.1)
社内のひと(健康管理担当者を除く)5(27.8)11(37.9)14(31.1)
社会保険労務士4(22.2)5(17.2)6(13.3)
和歌山産業保健総合支援センター・地域産業保健センター・医師会の職員・専門員2(11.1)2(6.9)1(2.2)
商工会議所,商工会,中小企業団体中央会のひと1(5.6)01(2.2)
労働基準監督署のひと002(4.4)
その他02(6.9)0
いない4(22.2)4(13.8)5(11.1)
復職・雇用における配慮治療のための休暇14(77.8)18(62.1)35(77.8)
体調不良時の休暇14(77.8)18(62.1)28(62.2)
残業などの労働時間11(61.1)15(51.7)27(60.0)
業務内容(配置転換等)10(55.6)16(55.2)24(53.3)
体調など健康管理9(50.0)13(44.8)23(51.1)
出退勤時間や通勤方法7(38.9)11(37.9)13(28.9)
病名など個人情報の管理3(16.7)7(24.1)18(40.0)
本人が相談できる体制3(16.7)7(24.1)10(22.2)
主治医との連絡3(16.7)3(10.3)4(8.9)
産業医の指示1(5.6)4(13.8)9(20.0)
メンタルヘルス支援1(5.6)3(10.3)6(13.3)
看護職との連絡指示1(5.6)1(3.4)1(2.2)
その他02(6.9)0
特に配慮なし3(16.7)3(10.3)5(11.1)
がんを抱える労働者がいることで職場に生じる困難働き手が不足11(61.1)12(41.4)19(42.2)
体調不良による休暇で,仕事の見通しが困難6(33.3)4(13.8)11(24.4)
治療のための休暇で,仕事の見通しが困難5(27.8)6(20.7)10(22.2)
本人が何に困っているのか不明2(11.1)1(3.4)3(6.7)
病名を公表できず,職場の同僚に協力を得るのが困難1(5.6)4(13.8)4(8.9)
主治医との連携が困難1(5.6)01(2.2)
産業医や保健師・看護師が職場に不在で,対応方法が不明1(5.6)1(3.4)0
その他01(3.4)0
特に困難なことはない6(33.3)12(41.4)16(35.6)
欠損値は除く

4) がんを抱える労働者の復職について(表4

がんを抱える労働者が職場復帰を希望したら可能である小規模は43%,中規模は48%,大規模は36%で,条件によって可能(小規模38%,中規模52%,大規模53%)を合わせると,80%以上の事業場で可能であった.職場復帰が可能な条件は,小規模で「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」と「労働時間や賃金などで会社と本人が合意できる」が,中規模と大規模で「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」が最も多かった.また,「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」は,小規模が中規模,大規模より有意に少なく,「職場の同僚に受け入れ意思がある場合」は,小規模が有意に多かった.

職場復帰の判断をするために主治医等からの情報として必要なものは,いずれの規模でも,「現在の健康状態や体力」が最も多かった.

表4. 事業場規模別のがんを抱える労働者の復職の状況(がんを抱える労働者が職場復帰を希望したら可能あるいは条件によって可能と回答した事業場のうち)
n(%)
回答項目小規模中規模大規模
がんを抱える労働者が職場復帰を希望したら条件によって可能(n=20)(n=27)(n=38)
復職可能な条件主治医による復職可能の診断書が提出された場合11(55.0)22(81.5)34(89.5)
労働時間や賃金などの会社と本人による合意がある場合11(55.0)11(40.7)18(47.4)
主治医から具体的な配慮事項の指示のより,職場でも実施(受け入れ)が可能な場合10(50.0)16(59.3)22(57.9)
労働時間や仕事内容に特別な制限がなく,発病前と同じように就労可能な場合8(40.0)5(18.5)11(28.9)
職場の同僚に受け入れ意思がある場合7(35.0)4(14.8)4(10.5)
産業医が復職可能と判断し,具体的な配慮事項の指示がある場合3(15.0)9(33.3)12(31.6)
その他1(5.0)1(3.7)0
がんを抱える労働者が職場復帰を希望したら可能あるいは条件によって可能(n=43)(n=52)(n=64)
職場復帰を判断するために主治医等からの情報として必要なもの現在の健康状態や体力29(67.4)41(78.8)48(75.0)
事業場として配慮すべき具体的な事項(労働時間,夜勤・交替勤の可否,立作業の可否,車の運転の可否,重筋労働の可否,上肢作業(手や腕に負担のかかる作業)の可否など)22(51.2)36(69.2)40(62.5)
治療のために必要な通院頻度22(51.2)30(57.7)38(59.4)
今後の見通し(再発や完治の可能性について)18(41.9)27(51.9)31(48.4)
治療によって生じる体調の変化15(34.9)26(50.0)27(42.2)
病名12(27.9)22(42.3)22(34.4)
その他002(3.1)
特にない3(7.0)4(7.7)6(9.4)
欠損値は除く

χ2検定,残差分析で>1.96,<-1.96

5) がんを抱える労働者の復職や雇用の推進について必要なこと(表5

がんを抱える労働者の復職や雇用を進めるために必要なことは,いずれの規模であっても「就労に関する助成金制度」が多かった.

表5. 事業場規模別のがんを抱える労働者の復職や雇用を進めるために必要なこと
n(%)
小規模
(n=53)
中規模
(n=52)
大規模
(n=72)
がんを抱える労働者の就労に関する助成金制度
(休業中の給与,補助職員の採用経費,など)
32(60.4)34(65.4)34(47.2)
がんを抱える労働者の就労支援に関する法整備25(47.2)23(44.2)22(30.6)
「がんを抱える労働者が働くこと」の大切さが社会的に認識されること23(43.4)21(40.4)27(37.5)
がんを抱える労働者の働き方やがんを抱える労働者へ配慮すべき事項についての具体的な助言・指導18(34.0)15(28.8)25(34.7)
がんを抱える労働者の働き方やがんを抱える労働者へ配慮すべき事項についてのマニュアルの整備・公表14(26.4)18(34.6)26(36.1)
医療機関との連携13(24.5)22(42.3)21(29.2)
がんを抱える労働者の就労に関しての事業者(会社)向け相談窓口の設置8(15.1)10(19.2)13(18.1)
がんを抱える労働者の就労に関しての事業者(会社)向け研修会の開催7(13.2)12(23.1)7(9.7)
産業医の助言・指導7(13.2)11(21.2)16(22.2)
保健師・看護師の助言・指導2(3.8)6(11.5)4(5.6)
カウンセラーの助言・指導2(3.8)3(5.8)4(5.6)
がん相談支援センターとの連携2(3.8)5(9.6)5(6.9)
その他03(5.8)1(1.4)
欠損値は除く

4. 考察

1) 事業場について

今回質問票が回収できた事業場数は188であった.これを和歌山県の事業場数を基準に把握率を算出してみると12,大規模(和歌山県の事業場数344)は20.9%,中規模(事業場数737)は7.1%であった.小規模は50人未満(事業場数52,991)とすると0.1%であり,地域産業保健センターの利用が多いと考えられる30人以上50人未満(事業場数1,206)とすると4.4%であり,小規模の結果を読み取る際には注意が必要である.

がん検診を実施あるいは受診勧奨している事業場は,小規模が中規模,大規模に比べ多かった.小規模において実施あるいは受診勧奨しているがん検診は,胃がん,大腸がんが多かった.これらのがんは本国における罹患率の高い種類であり10,事業場としても積極的に検診を行っている,あるいは勧めていると考えられた.いずれのがん検診においても,実施・受診勧奨している割合は小規模が中規模,大規模に比べ高かった.職場の支援制度は大規模の方が整っていることが多いが,がん検診においては小規模の方が実施・受診勧奨していたことから,本研究で対象となった和歌山県内の事業場では,小規模においても積極的に取り組まれていることが窺えた.

2) 支援制度について

支援制度が設けられている事業場は約20%であった.約7割で就労とがん治療を両立させるために勤務先から支援が得られたという報告13もみられるが,実際に活用することを想定すると制度化が重要であると考える.

既に行われている復職支援制度の種類は,メンタルヘルス不調者の復職支援が多かった.がんを抱える労働者の復職支援を行っている割合は小規模が大規模より有意に高かったことから,小規模で既に積極的に取り組まれていることが窺える.また,既に行われている勤務支援制度の種類は,有給休暇以外の休職制度と通院等のための時差出勤・退社制度が多かった.小規模ではそれらに加え,時間単位の有給休暇制度が行われている事業場が多かった.2010年の労働基準法改正により,時間単位取得制度が取得できるようになり,この制度がある事業場は30~99人で18.4%であるという報告14と比較しても,対象となった小規模は高率であり,制度化に取り組んでいたことが窺える.

先行研究によると,がん患者が働きながら治療するために望んでいるのは休暇取得できる環境である15.しかし,病気休職制度を設けている事業場は,労働者が30~99人で30.0%,100~299人で34.5%である14.本研究の結果をみると,正規労働者では小規模51%,中規模67%,大規模75%であり,いずれも上回っていた.一方,非正規労働者ではいずれの規模でも正規労働者の半数となるため,約半数の事業場で非正規労働者には病気休職が適応されないという報告16に符合していた.近年,非正規労働者は増加しており,特に65歳以上の割合が高まっている17.がんなどの長期の治療を要する疾患のための病気休職制度が十分でないと失職する可能性が高くなる.また,病気休職制度があっても実際には利用できていない者もいることが報告されており18,19,治療や回復が不十分な状態で復職することが懸念される.

正規労働者は,病気休職期間中に賃金の支給が設けられていたが,その割合はいずれの規模でも20%台であり,非正規労働者の場合は更に低かった.同じ近畿圏の滋賀県の場合,小規模は,正規雇用労働者で約37.2%,非正規労働者で7.3%であったことから10,和歌山県の小規模事業場における正規労働者は低率で,非正規労働者はほぼ同率であった.病気休職期間中の賃金支給は,患者労働者やその家族の生活の維持に係わる.がん罹患後に個人収入が減った人は過半数を超え,治療費が困難であったという結果19と考え合わせると,病気休職制度の実施状況に加え,その期間中の賃金も配慮した就労支援が必要であると考えられた.

3) がんを抱える労働者について

がんを抱える労働者がいる事業場は,小規模で17%,中規模で37%,大規模で40%であった.滋賀県で,小規模は16.4%であることから10,和歌山県の小規模は滋賀県とほほ同じ割合であったが,滋賀県の50人以上の事業場は54.6%であることから11,和歌山県の中規模,大規模は滋賀県より低率であり,和歌山県では,がん経験者やがん治療中の労働者の就労支援の経験が少ないことが示唆された.

がんを抱える労働者の就労について相談できるひとは,いずれの規模であっても,産業医または保健師・看護師,主治医であった.一方で,約15%の労働者が治療しながら仕事をすることで人事評価が下がる,約14%の労働者が職場内に相談相手がいないという不安をもっているという報告19を考え合わせると,産業保健の専門職だけでなく,上司などのラインによる相談事業の充実化とともに,本研究ではいずれの規模でも低率であった個人情報の管理が重要となることが示唆された.

がんを抱える労働者の復職・雇用における配慮は,いずれの規模であっても,治療のために休むことと体調不良時に休むことが多く,休むことに対応して,残業などの労働時間と業務内容への配慮が行われ,体調などの健康管理も配慮されていた.一方,がんを抱える労働者が職場にいることで,職場に生じる困難は,事業場の規模に拘わらず「働き手が不足」が多く,代替要員の確保が困難であるという報告19と符合していた.

4) がんを抱える労働者の復職について

がんを抱える労働者が職場復帰を希望したら可能および条件によって可能であった事業場は80%以上であったことは,国立がん研究センターの報告13と符合していた.

職場復帰が可能な条件は,いずれの規模でも「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」が多く,治療医の産業医への健康情報の提供や文書の発行などが就業支援に影響したという報告20と符合していた.また,「職場の同僚に受け入れ意思がある場合」は,小規模が有意に高かった.職場の理解が高まることが,復職に有利に働くとされており21,とりわけ小規模では復職可能の診断書より同僚の受け入れ体制が大切であることが明らかになった.

5) がんを抱える労働者の復職や雇用の推進について

がんを抱える労働者の復職や雇用を進めるために必要なことは,いずれの規模であっても,がんを抱える労働者の就労に関する助成金制度が多かった.がん診療連携拠点病院相談支援センターへの相談内容としても社会保障や経済面が最も多かったこと3を踏まえると,助成金制度に対するニーズは高く,その充実化は必要であると推察された.

しかし,がんを抱える労働者の就労に関しての事業者向け研修会の開催が約20%に留まったことから,事業者の関心が低いことが考えられる.一方,治療しながら仕事することに職場の理解がないことを困難と感じていた労働者は約12%に留まっていること19や,職場の支援や配慮を受けることができたという労働者が過半数を超えていたこと22から,がんを抱える労働者の労働に関する関心が高く,復職や雇用に対する理解が得られている職場も多いことが窺えた.

6) がんを抱える労働者に対する職場改善

本研究では,特に小規模において,がん検診の実施・受診勧奨が進んでいることが分かった.新たにがんと診断される患者の3割が就労世代であることを考慮すると2,早期発見,早期治療へと向かうためにがん検診の受診を推奨していく必要があると考える.

がんなどの長期の治療を要する疾患のための病気休職制度が十分ではなく,正規労働者のみならず,非正規労働者においても病気休職が取得できるよう制度化を進めていく必要がある.しかし,制度が十分に利用できていない者もいるため18,19,併せて時間単位取得制度等を推進し,がんを抱える労働者が治療しながらも就労しやすいよう,個々の生活に合った選択ができるような配慮が必要であると考える.一方,病気休職期間中の賃金の支給が困難な現状があるため,労働者の生活を保障するために事業場への助成金制度の充実化を望んでいることが窺えた.

がんを抱える労働者は,治療しながら仕事をすることを相談した相手として社内のひとが最も多いという報告10があり,産業保健の専門職だけではなく,上司などのラインによる相談事業の充実化とともに個人情報の管理が重要となることが示唆された.また,特に小規模においては,職場への復帰には同僚の受け入れ意思が重要であった.職場内のコミュニケーションの充実化はがんを抱える患者だけではなく,職場環境の改善にも重要なことであり23,がんを抱える労働者を対象とした特別な支援に限らず,全体的な職場環境の改善が,がんを抱える労働者の労働を支援することにもつながる可能性がある.

5. 本研究の限界

本研究は,がんを抱える労働者の治療と仕事の両立支援についての和歌山県の実態調査であるため,結果は限局的であり,地域特性が影響している可能性がある.

回収率は24.4%と低かった.回収期間を延長したり,催促をしたりしなかったことが要因とも考えられる.そのため,研究への同意が得られた事業場は,がんを抱える労働者への支援に関心があったり,積極的な職場改善を推進したりしている事業場が多い可能性がある.そのため,本研究において小規模事業場でがん検診を実施あるいは受診勧奨,復職支援が高率となっていたことについては,実施あるいは勧奨,支援が十分でない小規模事業場が分析対象とならなかった可能性を留意しておく必要がある.

また,本研究では,事業場におけるがん検診の実施を,所属する健康保険組合のがん検診受診の勧奨と区別して確認していなかったため,回答を担当した方の認識によって「健康保険組合などが積極的にがん検診事業を周知していても会社として勧奨していない」と判断してしまい,本研究の結果に影響をしている可能性もある.したがって,一般化する際は慎重に行い,結果を応用する際は注意を要する.しかし,このような調査は無く,今後の調査の参考になると考える.

2016年に事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドラインが発刊され,ガイドラインの周知とともに,がんを抱える労働者に対する支援が充実していく可能性があり,追跡調査など今後のさらなる調査が必要である.

6. 結論

和歌山県における,がんを抱える労働者の治療と仕事の両立支援の実態について以下のことが明らかとなった.

1) 小規模のうち,がん検診を実施または受診勧奨している事業場は55%であり,この割合は中規模や大規模と比較して高かった.

2) 治療しながら働くための支援制度がある事業場は約20%で,「時間単位の有給休暇制度」がある事業場は中規模,大規模より小規模で多かった.

3) 正規労働者に対し病気休職制度がある事業場は,小規模が51%であり,この割合は有意に少なかった.正規労働者に対し病気休職期間中に賃金の支給がある事業場は20%台であった.

4) 労働者が職場復帰を希望したら可能な事業場は80%以上であった.復帰が可能な条件は「主治医による復職可能の診断書が提出された場合」が最も多かったが,小規模では「職場の同僚に受け入れ意思がある場合」が多かった.

5) がんを抱える労働者に対する職場改善として,がん検診の受診勧奨,時間単位の有給休暇や病気休職の制度化が重要となることが示された.

謝辞

本研究にご協力くださった皆様に感謝申し上げます.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
© 2019 by the Japan Society for Occupational Health
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