SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Report
Development of support tools based on the caseness status of workers with a mental health problem
Masako NagataTomohisa NagataKoji MoriMahoko OguchiAyana Ogasawara
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2020 Volume 62 Issue 1 Pages 25-44

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背景

メンタルヘルス不調を抱える労働者に対応し適切な支援をすることは産業保健スタッフの重要な業務である.平成25年度の労働安全衛生調査では,メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業又は退職した労働者がいる事業所の割合は事業所規模1,000人以上の事業所は88.4%であり前年度と比べて上昇し1,精神障害等の労災補償の支給認定件数は平成24年度から400件台で推移し平成29年度初めて500件を超え増加傾向にある2

メンタルヘルス不調者の事例対応に要する業務は産業保健スタッフの業務のなかで大きなウェイトをしめている.またメンタルヘルス不調者の事例対応は,身体疾患に比べて1例の対応に多くの時間を要することが多いと指摘されており3,効率的かつ効果的な支援を行う必要があると考えられる.効率的かつ効果的な支援を行うために,医療分野ではクリニカルパスが導入されている4,5.クリニカルパスとは「患者状態と診療行為の目標,および評価・記録を含む標準診療計画であり,標準からの偏位を分析することで医療の質を改善する手法」とされ,医療を可視化し標準化することで,医療の質の向上と効率化という一見相反する目標を達成するためのツールとされている6.クリニカルパス導入の効果として実際に質の向上や情報共有に要する時間の効率化がなされたなどの報告がある7,8.産業保健スタッフが行う支援についても評価や記録を標準化し,標準からの偏位を分析し支援の質を改善すること,さらに情報共有に要する時間を効率化できる可能性がある.そこで我々は,支援の標準化と効率的な支援に寄与するツールの作成に取り組んだ.

職場で生じている課題や職務内容,本人のメンタルヘルスの状態などは様々であるため,メンタルヘルス不調者に対して必要な配慮を導き出すツールの作成は容易ではないが,配慮を検討するために欠かせない情報である職場での「事例性」の情報を整理することは可能と考え,ツールの作成に取り組んだ.「事例性」とは疾病の確定診断や重症度判定並びに治療法の選択という臨床場面で極めて重要となる事項を表す「疾病性」と対になる概念であり,当事者の心身の不調によって生じている日常活動の制限や周囲への影響を指す.そして産業保健スタッフは,事例性としての問題の大きさや核心を把握して対応することが求められている9,10

事例性に気づきやすいのは管理監督者である.その理由は部下である労働者の状況を日常的に把握しており,また個々の職場における具体的なストレス要因を把握しているためである.労働者の心の健康の保持増進のための指針11によれば,「日常的に,労働者からの自発的な相談に対応するよう努める」必要がある.特に,長時間労働等により疲労の蓄積が認められる労働者,強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した労働者,その他特に個別の配慮が必要と思われる労働者から,話を聞き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努めるものとする」とされ,労働者の事例性に気づいた場合相談対応を始めること,そのために管理者に事例性に気づく視点を求めているといえる.さらに事業場内で支援するためには,その情報を産業保健スタッフに情報提供する必要があり,事例性を適切に簡便に情報提供するツールは有用と考えられる.事例性を評価し対応につなげるツールとして,産業保健スタッフがいない事業所向けのツールは開発されている12ものの,産業保健スタッフに情報を伝えるツールは見当たらない.そこで管理監督者が事例性に気づき産業保健スタッフに情報提供するためのツールを作成することとした.

次に,メンタルヘルス不調者の事例対応をする際に,事例性を整理・評価し,適切な支援を検討する際に産業保健スタッフが使用する本人・管理監督者・産業保健スタッフのコミュニケーションツールを作成した.このツールは2つのコンセプトを盛り込み作成した.ひとつのコンセプトは,メンタルヘルス不調者の支援の際に現在生じている事例性を共有し,必要な解決策について労働者と管理監督者と産業保健スタッフが話し合い,労働者と管理監督者の合意に基づいた支援の実施が有効であるというものである.復職支援の場面で上司と労働者と復職コーディネーターが復職の障害について話し合い,労働者と管理監督者の合意に基づいた復職プランを作成するプログラムが開発され13,このプログラムは復職の意思がある場合休業日数が短くなるなどの効果がある14という先行研究に基づくコンセプトである.ストレス要因を特定出来るのは労働者であり,職場で生じている問題を解決できる人は主に管理監督者であるが,管理監督者と部下という立場の違いがあり,例えば,管理監督者は部下が聞きたくないことも言わなければいけない役割を持つ15とされ,部下は管理監督者と復職の計画について話し合うのが困難と感じている13ため,安全と平等を保つには独立した仲介者として産業保健スタッフなどの復職支援コーディネーターが同席し,話合いを進めることが必要と指摘されている13

ふたつめのコンセプトは,メンタルヘルス不調者への必要な支援の検討の際に,上司がどのような支援をしているかを産業保健スタッフが理解しておくことが必要であるというものである.復職支援においては上司の関りが重要であり,復職支援において上司に求められる必要な態度,コンピテンシーが検討されている15.管理監督者は,疾病を持つ労働者以外に同僚や関係者,組織から求められる要求に目を配る必要があり,葛藤を抱えていることも指摘されている16.事例対応の際には産業保健スタッフは管理監督者がどのような支援を実施しているかを知ることで,さらなる支援を管理監督者から引き出す必要性の有無を評価すること,また管理監督者が置かれている立場を理解し,事業所として考えるべき課題があれば人事担当者に伝えるなどの必要性があるといえる.これらの考え方は,休業に至らないメンタルヘルス不調者の支援の場面においても重要な視点である.本人と上司が職場で発生している問題について話し合い,その問題の解決策を考え,解決する優先順位を決め,取り組むことは,休業前の段階においても有用であると考えられる.

今回我々はメンタルヘルス不調者の事例対応時に使用するツールとして,上司が産業保健スタッフに情報提供する際に使用する「上司からの情報整理シート」と産業保健スタッフが適切な支援を検討する際に使用する本人・管理監督者・産業保健スタッフのコミュニケーションツール「職場における困りごと整理シート」を作成したので報告する.

方法

事例性を整理するリストとして障害者雇用分野で開発されていた「在職者のための情報整理シート」17などを参考にツールの原案を作成し,産業医を対象としたグループディスカッションを経て修正版を作成し,人事担当者及び産業看護職からの意見収集を経て最終版を作成した.

ツールが利用できる場は,産業医もしくは産業看護職がいる事業所とした.「職場における困りごと情報整理シート」については,産業医もしくは産業看護職がメンタルヘルス不調者本人や管理監督者に説明した上で使用することとした.管理監督者は直属の上司とした.

原案の項目は廣らが作成した職場におけるメンタルヘルス不調者の対応のパターン化表12と永田らの調査結果18を参考にし,研究者3人(N,O,O)が作成し,数回修正を行った.また,それぞれのシートの使用方法の説明書きを加え「職場における困りごと情報整理シート」α版,「上司からの情報整理シート」α版を作成した.産業保健の現場において事例性のより適切な評価につながるツール,業種や職種において汎用性が高いツールとすることを目的に,利用者である産業医の意見を収集するためにグループインタビューを2回実施した.インタビュー対象者は産業医経験が豊富な医師6名と産業医実務研修センターと産業医科大学産業生態科学研究所に在籍している医師9名である.産業医経験が豊富な医師6名は,労災疾病臨床研究事業「職場におけるメンタルヘルス不調者の事例性に着目した支援方策に関する研究」の研究協力者に依頼し協力が得られた医師である.産業医経験が豊富な医師の年代は50代5名,40代1名,性別は男性5名女性1名,全員労働衛生コンサルタントの資格を有し,うち3名は都道府県産業保健総合支援センターの相談員を務めていた.産業医実務研修センターと産業医科大学産業生態科学研究所に在籍している医師は,40代2名,20代7名,男性6名,女性3名うち2名は労働衛生コンサルタントの資格を有していた.15名の医師が経験したことのある業種は,鉱業,運輸業,製造業,電気業,ガス業,情報通信業,官公署,医療,サービス業,金融等であった.期間は2016年12月から2017年2月である.グループインタビューに先立ち,研究の趣旨と「職場における困りごと情報整理シート」α版,「上司からの情報整理シート」α版の説明を行った.各自で内容を確認する時間を5分程度とり,続けてインタビューする項目を説明した.インタビューする項目は,各シートについて以下の3点とした.1)シートの考え方やシートの使用法の説明書きに関して必要な事項について,2)シートの項目の中で,不適切もしくは不必要と考える項目,シートの項目に追加した方がよいと考える項目,3)評価の方法についてである.インタビューに要した時間は40分程度であった.インタビューはICレコーダーで録音し逐語録を作成した.研究者ら(N,O,O)で逐語録を確認し修正が必要な項目と語句を抽出し,α版を修正しβ版を作成した.

次に,ツールを利用する立場となりうる人事担当者及び産業看護職から意見を聴取した.対象者の募集は機縁法により産業医実務研修センターと産業生態学研究所産業保健経営学研究室に在籍している医師を起点に研究協力者を募り,協力の得られた計17施設の人事担当者17名と産業看護職5名から意見を聴取した.業種は製造業,運送業,自動車部品工場,製紙会社,接客業,報道機関,教育機関であった.期間は2017年10月から2018年1月にかけてのおよそ3ヶ月間であり意見聴取の方法はメールあるいは対面によるインタビュー調査を実施した.産業医から得られた意見と人事担当者及び産業看護職からいただいた意見について,意見の反映の可否を研究者ら(N,O,M,N)で「ツール作成の目的に沿うか」,「汎用性の高いものになるか」について項目の表現と選択肢について検討を行い,最後に語尾等の修正を行い完成させた.

研究方法は産業医科大学倫理委員会にて審査(H28-169)を受け,倫理的な配慮として意見の集計分析において意見を述べた人が特定できないよう配慮した.

結果

A)上司からの情報提供シート

産業医を対象としたグループインタビューでは意見として「上司からの情報は大変有用である」や「今回のツールは休職等の経過を予測することが出来るのではないか」などがあり,また修正や追記の検討を要する意見は18件得られた(表1).18件中12件を採用しα版に修正を加えβ版を作成した.採用しなかった6件のうち3件は,「部下を持っている不調者の場合,部下のマネジメントについての項目があってもよいのではないか」,「経験年数相応の業務の評価は数値などで評価した方がよいのではないか」,「自由記載欄に日付欄を設け,時系列に具体的なエピソードを記入してもらったらよい」である.残りの3件は,産業看護職と人事担当者からも同様の意見が得られ,研究者らで協議し,最終版で採用された.

表1. 上司からの情報提供シートについてα版について グループディスカッションの意見のうち修正・追記の検討を要する意見一覧(産業医)
項目β版への採否最終版の採否修正の内容もしくは
採用しなかった理由
①使用方法の説明について
・記載に要する時間の目安を記載する方がよい.追加
②評価項目について
I-4長時間離席は理由が分からないこともあるので「体調不良で」という記載は不要である.修正
I-7身の回りの整理整頓ではなく,職場の整理整頓の方が適切ではないか.修正
IIコミュニケーションは近い対象から遠い対象に並べたほうがよい.修正
II-13「立場の違う相手」は漠然とした表現ではないか.例を追加
III-20「経験年数相応の業務」とはわかりにくい.「職位及び」を追加
III(追)責任のある仕事が出来るかどうかという項目があってもよい.II-19を追加
III(追)部下を持っている不調者の場合,部下のマネジメントについての項目があってもよいのではないか.部下のマネジメントは職位に応じた業務に含まれると考えた
III(追)メンタルヘルス不調者全体が対象であれば足りない項目があるのではないか.「仕事ぶりにムラなどなく業務を遂行している」を追加
自由
記載欄
自由記載欄に日付欄を設け,時系列に具体的なエピソードを記入してもらったらよい.記載する負担が大きくなると考えた
自由
記載欄
自由記載欄に業務内容を聞いても良い.枠外に追加
その他文末を統一するべきである.各項目修正
その他1枚で情報が完結するようにすると使いやすいので,職位など他の情報を書く欄もあるといい.修正
③評価の方法について
・評価期間があった方がいい(同2件).直近 月・週
・変化を評価してもらったらよい.病前と比べたほうが良い(同3件).6つの選択肢を提示
・上司が1番困っている項目を選ぶ欄があると良い.追加
・わからないという選択肢も必要である.追加
・経験年数相応の業務の評価は数値などで評価した方がよいのではないか.記載する負担を考え選択式とした

産業看護職と人事担当者から聴取した意見は肯定的意見が6件あり,「このようなシートがあると産業医や産業保健スタッフに伝わりやすく連携が取りやすい」,「メンタルヘルスの事例対応をする際に状況の記録や報告書の作成は実務上非常に時間がかかるもので,このシートを報告する際の運用フローに入れえることが出来るとよりスムーズな対応が可能ではないか」,「仕事の内容と本人の能力が適合しているかを問う項目で話し合う良い機会となる」などの意見が得られた.修正や追記の検討を要する意見は15件得られ,うち10件採用し最終版を作成した(表2).採用した意見は評価の選択肢として,「メンタルヘルス不調前と比較できるようにすべきである」や「本人の見た目などの評価の項目をもう少し詳細にしてもよい」との意見であり,採用しなかった意見は「【挨拶やお礼,お詫びを適切にしている】は,誰に対してできているかが明確ではなく分かりにくい」,「【不注意によるミスが目立つことなく業務をこなしている】は受け止め方によって,ミスの内容が目立たない(または少ない)とも捉えられる言い回しである.不注意によるミスは基本あってはならないため,ミスがなくに変更してはどうか」,「【組織目標達成のために自ら目標を立てて業務に取り組んでいる】は上司が求めている内容であると考えると,評価の指標が高いと言えるのではないか」などであった.

表2. 上司からの情報提供シートについてβ版について 産業看護職,人事担当者から聴取した意見のうち修正・追記の検討を要する意見一覧
項目
①使用方法の説明について
・産業医や産業保健スタッフが対応し,どの程度状態が良くなったら解決するかということを上司と産業保健スタッフの間で共通認識を持っておくと,対応にずれが少なくなるのではないか.採/説明文に「ご本人に期待していることを産業保健スタッフと共有するためのツールです」とした.
②評価項目について
I(追)精神的に負担を感じている人は遅刻の傾向もあるが早く出社しすぎている傾向もある.「出勤時間と所定の始業時間との乖離はあるか,ある場合は常識の範疇か」等の設問がいいと思う.採/I-2を追加
I-3「体調が悪いときは適切な方法で連絡や相談をしている」は上司が判断できない.採/「適切な方法で連絡がある」に修正
I-5「職場での適切な服装や身だしなみを保っている」という本人の見た目に関する項目があるが,もう少し細くても良いのではないか.例えば顔色,髪型,挙動,声の大きさ,アイコンタクトなどがあってもいいのではないか(2件).採/変化の時期も重要な情報となるのでIV-23に項目を追加
I-6「職場で決められたルールを守っている」は「会社や職場で決められたルールを守っている」がいいのではないか.否/職場で決められたルールに包括していると考えた
II-8「挨拶やお礼,お詫びを適切にしている」は,誰に対してできているかが明確ではなく分かりにくい.否/対象が分かりにくい面もあるが,対象の特定は難しいと考えた
II-10「場面に応じて適切な振る舞いをしている」の振る舞いという表現が分かりにくい.採/振る舞い→言動に修正
「立場の違う相手(顧客・他部署など)と交渉し,意見を調整する」は意見を調整する力量があるかを追記してはどうか.採/シートの評価の選択肢を変更したことで対応した
II-13「不注意によるミスが目立つことなく業務をこなしている」は受け止め方によって,ミスの内容が目立たない(または少ない)とも捉えられる言い回しである.不注意によるミスは基本あってはならないため,ミスがなくに変更してはどうか.否/指摘通り捉え方には幅があるが,ミスは生じることがあるため,現在の表現とした
III-18「組織目標達成のために自ら目標を立てて業務に取り組んでいる」は,上司が求めている内容であると考えると,評価の指標が高いと言えるのではないか.否/この項目は,上司の期待を把握する質問と考えた
III-22本人の状態を上司が確認するアンケートとして,IVは意味合いが異なるのではないか.自分が評価されているように感じるため,なくても良いのではないかと思う.否/本人との関係性を把握する質問と考えた
IV-24「本人が困っていそうな時に相談に乗ることができる」という表現が抽象的なので具体的な表現とした方が良い.採/「相談にのったことがある」に修正
IV-24その他の困りごとの前に「上司が考える解決のポイント」というような内容を追加することができると,“上司が求める受け入れスタンス”が産業医や産業保健スタッフにも理解できるのではないか.採/その他の困りごとに追加し,「解決のポイントと考えることがあれば記載してください」を追加
その他
③評価の方法について
・メンタルヘルス不調者が対象で直近の状況の情報提供となっているが,メンタルヘルス不調(不調でなかった時期)との比較でないと不調の度合いが推測できないことも多いのではないか.また上司も答えにくいのではないかと思う.採/シートの評価の選択肢として,β版は4つ「出来ている」「出来ていない」「分からない」「該当場面なし」であったが,現時点では出来ていないが以前の状況を選択できるようにして,7つとした
・コミュニケーション能力に対して適切という判断基準は難しいように思う.「メンタへルス不調前と同様に」等の情報を入手した方が良いのではないか.その他,「業務遂行能力」の項目に関しても,同様に対象者のメンタル不調になる前の能力が影響するので以前との比較が必要だと思う.採/同上

B)職場における困りごと情報整理シート

産業医を対象としたグループインタビューでは,「リハビリ勤務の評価に大変有用である」や「上司からの情報は有用である」との肯定的な意見と慎重な意見が3件得られ,具体的には「上司と部下の意見が違う場合は本人に課題をつきつける可能性があるので使用はデリケートである」や「本人と産業医,本人と上司の信頼関係が必須であり,慎重に使用するべきである」,「情報の取り扱いは細心の注意が必要である」であった.修正や追記の検討を要する意見は26件得られ,うち17件を採用しα版に修正を加えβ版を作成した(表3).採用しなかった9件の意見は「1回限りで使うか,継続して使うかでVisual analog scale(VAS)のような評価方法がよいのか,決まるかもしれない」,「パフォーマンスや上司とのコミュニケーションや出勤状況などは包括的にVASのような形で記載してもらってもよいかもしれない」などの意見があった.β版を作成した時点で採用しなかった9件のうち2件は研究者らで協議し最終版で採用された.

表3. 職場における困りごと情報整理シートα版について グループディスカッションの意見のうち修正・追記の検討を要する意見一覧
項目β版への採否最終版の採否採否の結果/修正の内容もしくは
採用しなかった理由
①使用方法の説明について
・このシートを用いる理由や背景,出来れば文献などを引用した説明があったほうが良い.シートを使用しないで困るケースがあると良い.背景の説明を説明した
・困りごととあるが,その用語をずっと用いるのか,例えば説明文で日本語的に「困っていること」を「感じていること」にするか.事例性を上司と本人の困りごとと捉えることを説明文に追記した
・使用する適切な状況について適用範囲,必要条件,禁忌が記載されているが,タイトルがあると良い.適用範囲,必要条件,禁忌をタイトルとした
・使用方法のステップについて,使用の可否の指標は産業医の経験医よるのか.同上
・使用の可否を決めるチェック欄があると良い.産業保健スタッフ向けの使用法にチェック欄を設けた.
・説明について,全て四角で囲まれているので,流れがわかりにくい.レイアウトを修正した
②評価項目について
II-2出勤状況の項目は勤怠表がより正確な情報であり本人は記入不要では.面談時に勤怠表が手元にないことはあるため削除しなかった
II-3保護具の着用という項目はオフィスには合わない.削除した
III-4職場のルールの捉え方が違うかもしれない.回答のずれは,捉え方が違うことが明らかにする質問と考えられた
追加コミュニケーションの項目に挨拶を入れても良いのではないか.追加した
追加コミュニケーションの項目中に,社外の人とのコミュケーションを含めるか.(顧客や他部署など)追加した
IIIこれができているからコミュニケーションができているとは言えない.必要なコミュニケーションは業務によって異なるため話合いで検討する事項とする
IV-15役職がある場合部下のマネジメントも必要である.項目に追加してはどうか.20番の項目に「職位を及び」を追加し,部下のマネジメントは業務に含まれると考えられた
IV-16業務遂行能力をプロセスのみで聞いていて,アウトプットを聞く質問もあっても良いか.最低限の業務のレベルによるが,求められている業務がどれくらいできているかを聞く質問があっても良いかと思う.数字で聞くのも一つかと思うが,直接的な内容になるので,事例によって変わるか.求められている業務の項目の評価項目を追加
IV-16パフォーマンスは上司とのコミュニケーションや出勤状況など包括的にVASのような形で記載してもらっても良いかもしれない.記載の負担を考え選択式とした
V苦手な業務についての項目がV資源・支援に入っているが,仕事ぶりの項目に近いかもしれない.Vをなくし項目の場所を移動した
IV-13「優先順位を考えるなど,,」の表現は意味合いが十分に理解出来ない人もいるのではないか.理解が不十分で回答がずれた場合,意味あいの理解の程度が明らかになると考えられた
追加躁うつ病について評価する項目が足りない.「仕事ぶりにムラがない」を追加した
③評価の方法について
・睡眠や食事など生活に関する質問は職場ごとに変わるわけではないので,「該当なし」の欄には斜線などをつけてはどうか.斜線を追記
・日付を書く欄があると良い.追加
・評価の期間についての記載があると良い.1ヶ月程度が適切か.追加
・評価項目にABCを頭につける.追加
・チェックシートを記入後,具体的な聞き取りは個別でするというところをもう少し書いてあると良い.追加
・1回限りで使うか,継続して使うかで,VASがいいのか選択肢がよいのか決まるかもしれない.記載の負担を考え選択式とした
・「分からない」という選択肢が必要である上司用のみに「分からない」を追加
・産業医が上司と本人の結果を比較する際にしやすいよう対応表に転記できるようにすると良いのではないか.対応表作成

産業看護職と人事担当者から聴取した意見は肯定的意見が6件得られ,具体的なコメントとして「記入するにあたって負担にならない分量である」などがあった.修正や追記の検討を要する意見は6件得られ,2件採用し最終版を作成した(表4).採用した意見は「【疲労感を感じずに業務ができるか】を追加してはどうか」,「【本人に改善意欲があるか】を追加してはどうか」である.採用しなかった4件は,「【部下/上司の人物像を把握している】を追加してはどうか」などがあった.

表4. 職場における困りごと情報整理シートβ版について 産業看護職,人事担当者から聴取した意見のうち修正・追記の検討を要する意見一覧
項目採否の結果/修正の内容もしくは採用しなかった理由
①使用方法の説明について
なし
②評価項目について
追加業務遂行能力の中に,「疲労感を感じずに業務ができるか」を追加してはどうか.採/「過度に疲労感を感じずに業務をすることができている」を追加
追加業務遂行能力の中に,「本人に改善意欲があるか」を追加してはどうか.採/「意欲の有無」は本来評価しにくいものと考え,現在の項目で行動を評価することとし,従業員側のシートに自由記述の欄を設けた
追加業務遂行能力の中に,「頭は回っているか」を追加してはどうか.・「本人」という表現の代わりに「部下」を使用してはどうか.否/優先順位,段取り,集中力を尋ねる項目があるため不要とした.
追加否/「部下」は部下全員と理解される可能性あり,変更しないこととした
追加「部下/上司の人物像を把握している」を追加してはどうか.否/結果を共有しにくい質問であると考えた
追加生活習慣(睡眠や食事)に関して量や質も含めて詳細な情報を聞いてはどうか(3件).否/面談時に確認する情報と考えた
③評価の方法について
なし

考察

事例性の把握から適切な支援につなげるツールとして「上司からの情報提供シート」,「職場における困りごと情報整理シート」を作成した.産業医と人事,産業看護職の複数名から聴取し,また聴取した人が所属する企業は業種や規模は異なるため,一定程度汎用性があり,利用する立場に配慮が出来たと考える.「上司からの情報提供シート」について,産業医や看護職・人事担当者からも有用であるとの肯定的意見があり,「メンタルヘルスの事例対応をする際に,状況の記録や報告書の作成は実務上非常に時間がかかるものである.このシートを報告する際の運用フローに入れることができるとよりスムーズな対応が可能ではないか」などの意見があったことより,メンタルヘルス不調者の事例対応の効率化に寄与する可能性がある.また「今回のツールは休職等の経過を予測することが出来るのではないか」という意見もあったが,経過の予測に寄与するかどうかは現時点では不明でありさらなる研究が必要である.

「職場における困りごと情報整理シート」に関するグループディスカッションで産業医から得られた意見の中で特記すべき事項は,「上司と部下の意見が違う場合は本人に課題をつきつける可能性があるので使用はデリケートである」や「本人と産業医,本人と上司の信頼関係が必須であり,慎重に使用するべきである」である.本ツールを使用する必要条件として,本人と産業保健スタッフの信頼関係が構築されているケースで,かつ精神状態がほぼ安定しているケースとしているが,産業保健スタッフはツールの利用が適切かどうか事例ごとに慎重に検討してから利用すべきであるといえる.しかし,職場で本人もしくは上司が課題を有していながらも,それを本人と上司及び産業保健スタッフ間で共有できない場合は共有出来る場合と比べて,本人が困難に直面していたり,もしくは本人や上司,同僚が不公平や不満を感じている可能性が高いかもしれない.このような場合は中期的に,本人が事例性を生じずにその職場で働いていくことは難しくなることが予想され,産業医は人事担当者らを巻き込むなどより積極的な働きかけを行う必要があるといえる.また今回評価の方法は,記載が簡便であることを重視し,本人用は三択「現状のままでよい」,「改善が望ましい」,「当てはまらない」,上司用はそれに加えて「分からない」を追加し4択にしているが,継続的に使用する場合などはVASなど評価の水準を細かくしてもよいと考えられた.

今回作成したツールは,事例性の把握から適切な支援につなげる情報整理とコミュニケーションツールであり,シートを埋めれば,自動的に適切な支援が導かれるツールではない.シートの情報だけでなく,個人の疾病性や治療状況,企業,職種,役職,職場環境など様々な多因子を考慮し,適切な支援は検討されるため,自動的に適切な支援が導かれることはなく,支援の質の標準化には必ずしもつながらない.しかしこのツールと面談で得た情報を組み合わせ,支援の適否を振り返るなどの活動をすることで支援の質の標準化につながる可能性がある.また情報の把握と共有のための時間が短縮され効率化に貢献できる可能性は高いと考えられた.しかし今回の調査では開発したツールを利用することで標準化や効率化に真に寄与しているかどうかの調査は出来ていない.支援の質の標準化や効率化につながる調査研究が必要と考えられた.

謝辞

本研究は,労災疾病臨床研究事業「職場におけるメンタルヘルス不調者の事例性に着目した支援方策に関する研究」研究代表者 廣尚典(平成27–29年度)より実施された.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
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