SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
Review
Historical changes in medical examinations for those engaged in specified work in Japan: Work covered and criteria
Naoto Ito Ayaka YoshidaKoji Mori
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 62 Issue 1 Pages 1-12

Details
抄録

目的:特定業務従事者健康診断は,業務内容に関わらず定期健康診断と同じ検査項目であり,特殊健康診断との役割も不明確である.このため,特定業務従事者健康診断の対象業務の妥当性について課題が提示されているが,法制度が複雑でありその解釈は容易ではない.そこで,特定業務従事者健康診断の実施対象となる業務とその基準に関する変遷を明らかにする.方法:特定業務従事者健康診断の歴史に関連する法令,通達,文献,書籍の内容を調査した.結果:特定業務従事者健康診断の対象業務は,差し当たり特別な衛生管理をしなければならない有害物を取り扱う業務として昭和22(1947)年に旧労働安全衛生規則第48条で定められ,対象業務の定量的基準は当面妥当と考えられる基準値として昭和23(1948)年の通達によって示され,その後大きく変更されていない.その結果,多くの特定業務従事者健康診断の実施基準の多くは,許容濃度を超えていた.結語:特定業務従事者健康診断の対象業務及びその基準は,約70年間ほとんど変更されていない.社会環境の変化や有害業務の管理手法の向上を鑑み,特殊健康診断と特定業務従事者健康診断の目的や役割を再整理し,特定業務従事者健康診断のあり方を改めて考える必要がある.

はじめに

特定業務従事者健康診断の対象業務は,労働安全衛生規則第13条第1項第2号に定められている13の業務である.対象業務は,暑熱業務,寒冷業務,粉じん業務,異常気圧下業務,振動業務,重量物取扱い業務,騒音業務,坑内業務,深夜業務,有害物取扱い業務,有害ガス等取扱い業務,病原体取扱い業務と多岐に渡るが,特定業務従事者健康診断の項目は,業務内容に関わらず一般定期健診と同じである.このため,健康診断の結果に基づき,対象業務に対する適切な措置を検討することは容易ではない.

また,特定業務従事者健康診断の対象業務のなかで,粉じん業務,異常気圧下業務,振動業務,重量物取扱い業務,騒音業務,有害物取扱い業務,有害ガス等取扱い業務では,特殊健康診断の実施が事業者の義務もしくは努力義務となっているが,これらの業務において,特定業務従事者健康診断と特殊健康診断との役割の差が明確になっていない.

そのため,労働安全衛生法に基づく定期健康診断のあり方検討会で,特定業務従事者健康診断の対象業務の妥当性について調査を行う必要があるという課題が提示された1.日本産業衛生学会の労働衛生関連政策法制度委員会では,特定業務従事者健康診断の対象業務となる「衛生上有害な業務」の解釈は,労働衛生行政上極めて重大な課題であるが,現行の法制度が大変複雑で,法令が適切に適用できなくなっている恐れがあると指摘されている2

特定業務従事者健康診断の対象業務を検討する際に,当該健康診断が開始された背景や,健康診断の実施対象となる業務や基準の変遷に関する情報は重要となる.そのため,特定業務従事者健康診断に関連する法令,通達,文献,書籍の内容を調査した.

工場法時代

1. 健康診断のはじまり

戦時の劣悪な生活環境で結核が増加し,大正8(1919)年に結核予防法による健康診断が開始された.職域においても,職場内の感染拡大の防止や,職場で罹患した労働者の帰郷療養先における結核蔓延に対する事業者責任の高まりを受けて3,昭和13(1938)年に,当時の省令である工場危害予防及衛生規則が改正された.「工場主は,工場医をして,毎年少なくとも1回職工の健康診断を為さしむべし」「健康診断に関する記録は3年間保存すべし」(工場危害予防及衛生規則第34条の3)と,定期健康診断の実施と健康診断の記録保存が工場主の義務となった.

昭和15(1940)年,化学工業その他各種の衛生上有害なる業務の種類の増加に鑑み4,工場危害予防及衛生規則が改正された.「工場主はガス,蒸気又は粉じんを発散し,その他衛生上有害なる業務に従事する職工については,工場医をして毎年少なくとも2回の健康診断を為さしむべし」と,衛生上有害な業務に従事する職工に対しては,年1回の定期健康診断と同様の健康診断を年2回実施することになった.これが現在の特定業務従事者健康診断の始まりである.当時はまだ,健康診断の項目は法令で規定されていなかった.

2. 健康診断の発展

戦時生産力の確保増強には労働力強化が重要であるが,工場従業者における結核罹患者の激増や,生活環境悪化に伴う体力の著しい低下が指摘され,労働者の健康確保がますます重要となった5.このような背景もあり,昭和17(1942)年の工場法施行規則の改正では健康診断に関して大きく4点強化された(工場法施行規則第8条).

1つ目は,年1回実施する定期健康診断の対象が,工場医の選任義務のある工場(当時,常時100人以上の職工を使用する工場)から工場法の適応となる全工場に拡大した.また,それらの工場の職工に対して,工場主は雇入後30日以内に健康診断(雇入時の健康診断)を実施することが義務づけられた.

2つ目は,健康診断の項目が初めて規定された6表1).「ツベルクリン」皮内検査の結果,陽性者又は偽陽性者又は医師が必要と認めるものについては「エックス」線間接撮影または「エックス」線透視を実施し,その結果,結核性活動病変又はその疑いのあるものについては「エックス」線直接撮影,赤血球沈降速度検査及び喀痰検査を実施しなければならないとされた.同時に,年2回以上の健康診断を実施する場合には,身長,体重及び胸囲の測定並びに視力,色覚,聴力の検査等を1回実施すればよいと定められた.

表1. 工場法施行規則で定められた健康診断の項目
・身長,体重,胸囲
・視力,色覚,聴力
・感覚器,呼吸器,消化器,神経系その他の臨床医学的検査
・「ツベルクリン」皮内反応検査

工場法で規定された最低入職年齢は12歳であり現在よりも若い年少労働者が多く,身長,体重,胸囲は栄養状態や体格の把握,および発育の良否を判定するため,視力,色覚,聴力は労働に必要な機能を確認するために実施され,感覚器等の臨床医学的検査では一般臨床診断法の原則に基づいて問診,視診,打診,聴診を実施がされていたようである7

また,業務の種類又は作業の状態により厚生大臣が必要と認めた場合は,健康診断で追加の検査を実施させられると定められ,その検査内容は通達(労発第206号)によって示された(表2).

表2. 厚生大臣が必要と認めた場合に実施される健康診断の項目(労発第206号)
業務又は作業の種類検査項目
・鉛又はその化合物,水銀又はその化合物,砒化水素,二硫化炭素,ベンゾール又はその誘導体,四塩化エタン,その他これに準ずべき衛生上有害なるガス,蒸気又は粉じんを発散する場所における業務,又は上記料品及び放射能物質を取扱う作業にして中毒の恐れのある場合血色素量の測定及び血液像の検査
・鉛又はその化合物,水銀又はその化合物,二硫化炭素,その他これに準ずべき衛生上有害なるガス,蒸気又は粉じんを発散する場所における業務,又は上記料品を取扱う作業にして中毒の恐れのある場合尿の検査
・鉛又はその化合物のガス,蒸気又は粉じんを発散する場所における業務,又は上記料品を取扱う作業にして中毒の恐れのある場合握力の検査

3つ目は「工場主は,職工の健康診断の結果注意を要すると認められたる者については,医師の意見を徴し療養の指示,就業場所又は業務の転換,就業時間の短縮,休憩時間の増加,健康状態の監視其の他健康保護上必要なる措置を執るべし」と,健康診断の事後措置が規定された.具体的には,「工場法施行規則中改正省令施行に関する件(昭和17年2月24日付け厚生次官より各地方長官宛)」の別添「労働者健康診断施行標準」で,健康診断の結果を3年間保存する様式「健康診断個人票」が定められ,「健康診断個人票」の概評欄には,健康診断の結果,労働者の健康状態を「可」「要注意」「要療養」のいずれかを判定基準(表3)に従って医師が記入し,その結果に応じて,工場主の執るべき措置が示された(表4).また,同通達により,年2回以上健康診断を実施しなければならない30業務が示された(表5).

表3. 健康診断個人票の概評欄の判定基準
「可」と判断すべき健康状態
A 健康者
1 臨床医学的検査で病的異常のないもの
2 エックス線検査で異常がないか石灰化巣のみのもの
B 微症罹患者
1 軽症の伝染性皮膚病または職業性皮膚病
2 疑似及び軽症のトラコーム
3 軽症の胃及び腸炎
4 潜伏性または慢性の花柳病
5 その他これに準ずる疾病
6 作業に支障のない形態異常
「要注意」と判定すべき健康状態
C 赤沈値促進者(1時間値,男 15 mm,女 20 mm)
D 要注意罹患者
1 エックス線検査で陳旧性病変があるもの
2 著しい伝染病のないトラコーム
3 軽症の職業性眼炎
4 陳旧性肋膜炎
5 対償機能良好な心臓病
6 慢性胃腸炎
7 軽症脚気
8 軽症職業性中毒
9 その他これに準ずる疾病
10 作業に支障のある形態異常
E ツベルクリン皮内反応陽性後1年以内
F エックス線検査で疑活動性病変を認めるもの
「要療養」と判定すべき健康状態
G 活動性結核罹患者
H 精神病,急性熱性病,伝染性皮膚病,伝染性眼病,職業性眼病,肋膜炎,心臓病,胃及び腸炎,腎臓病,花柳病,その他休養して療養の必要のあるもの

表4. 健康診断の結果に基づいて工場主のとるべき措置
健康診断個人票の概評欄工場主の執るべき措置
健康状態の監視就業上の配慮等など
A 健康者次回定期検査まで放任作業場特別の考慮不要
B 微症罹患者臨床医学的検査を必要の都度行う特別の考慮不要
C 赤沈値促進・体重測定(1ヶ月1回以上)作業場特別の考慮不要
・臨床医学的検査(必要の都度)
・赤沈検査(必要の都度)
・エックス線検査(必要の都度)
D 要注意罹患者臨床医学的検査(必要の都度)作業の転換を要する
E 陽性転化者・体重測定(1ヶ月1回以上)・作業転換
・臨床医学的検査(1ヶ月1回)・深夜業禁止
・赤沈検査(1ヶ月1回)
・エックス線検査(必要の都度)
F 疑活動性結核罹患者・体温測定(1日2回)・作業転換
・体重測定(1週1回)・残業
・臨床医学的検査(1ヶ月1回)・深夜業禁止
・赤沈検査(1ヶ月1回)・休憩時間
・エックス線検査(必要の都度)(午前1時間,午後1時間)
G 活動性結核罹患者休養療養
H 要療養罹患者休養療養

表5. 年2回の健康診断の実施対象となる業務(労発第206号)
1 水銀又はその化合物(朱の如き無害なものを除く)
2 鉛又はその化合物
3 酸化亜鉛(亜鉛又はその合金を溶解する場合の煙気を含む)
4 黄燐又は燐火水素
5 砒素化合物
6 チアン化合物
7 クロール化合物
8 マンガン化合物
9 クロール,臭素
10 フッ化水素,塩酸,蒸気
11 硫酸蒸気,亜硫酸ガス,硫化水素
12 硝気(酸化窒素類)
13 アンモニア
14 一酸化炭素
15 二硫化炭素
16 ホルムアルデヒド
17 アクロレイン
18 エーテル蒸気
19 酢酸エチル,酢酸アミル
20 四塩化エタン
21 テレビン油
22 タール蒸気,ベンゾール,アニリンその他の芳香族及びその誘導体
23 石油ガス及び蒸気
24 多量の炭酸ガス
25 多量の硅酸塵又はこれに類するもの
26 ラジウムその他の放射能物質
27 紫外線
28 「エックス」線
29 白熱光線
30 眩光

4つ目は,工場毎の健康診断の結果を地方長官へ報告することである.結果報告では,通達で定められた様式「健康診断結果報告」が用いられ,その内容は,現在のように健康診断項目の有所見者数ではなく,疾病ごとの「要注意」「要療養」「その他」の人数であった.

労働基準法時代

1. 特定業務従事者健康診断の対象業務

工場法の廃止に伴い,昭和22(1947)年に公布された労働基準法に,健康診断が規定された(労働基準法第52条).健康診断が省令から法律に格上げされ,健康診断の対象者も工場の職工から全業種の労働者へと拡大された6

また,毎年2回以上定期的に健康診断を行わなければならない業務も,通達から省令で定められるようになった(旧労働安全衛生規則第48条第1項第2号).これは,現在の労働安全衛生規則第13条第1項第2号で定められている,特定業務従事者健康診断の対象となる13の業務と同じである.

2. 特定業務従事者健康診断の実施基準

毎年2回以上健康診断を実施しなければならない衛生上有害な業務が省令により定められたが,各業務における具体的基準は示されていなかった.そのため,昭和23(1948)年に「労働基準規則第18条,女子年少者労働基準規則第13条及び労働安全衛生規則第48条の衛生上有害な業務の取扱い基準について(昭和23年8月12日付け基発第1178号)(以下,1178通達)」でその数値基準が示された(表6).深夜業を含む業務に関しては,業務の状態として,深夜業を1週1回以上または1月に4回以上行う業務と示された(昭和23年10月1日付け基発第1456号).

表6. 「労働基準則第18条,女子年少者労働基準規則第13条及び労働安全衛生規則第48条の衛生上有害な業務の取扱い基準について(昭和23年8月12日付け基発第1178号)」で定められた基準
イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
・「高熱物体を取り扱う業務」とは,溶解又は灼熱せる鉱物,煮沸されている液体等摂氏100度以上のものを取り扱う業務という.
・「著しく暑熱な場所」とは,労働者の作業する場所が,乾球温度摂氏40°C,湿球温度摂氏32.5°C,黒球寒暖計示摂氏温度50度,又は感覚温度32.5°C以上の場合をいう.
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
・「低温物体を取扱い業務」とは,液体空気,ドライアイスなどが皮膚にふれる又はふれる恐れのある業務をいう.
・「著しく寒冷な場所」とは,乾球温度摂氏-10°C以下の場所をいう.空気が流動する作業場では,気流 1 m/s当たり乾球温度摂氏-3°Cとして計算する.
・冷蔵倉庫業,製氷業,冷凍食品製造業における冷蔵庫,貯氷庫,冷凍庫等の内部における業務が本号にあたる.
ハ ラジウム放射線,エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
「その他の有害放射線」とは,紫外線,可視光線,赤外線等であり強烈なもの,及びラジウム以外の放射線物質,例えば,ウラニウム,トリニウム等によりの放射線という.従って本号にあたる業務は,ラジウム放射線,エックス線,紫外線等を用いる医療,検査の業務,可視光線を用いる映写室内の業務,金属土木溶解炉内の監視業務等である.
ニ 土石,獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
本号にあたる場所とは,植物性(線,糸,ぼろ,木炭等),動物性(毛,骨粉等),鉱物性(土石,金属等)の粉じんを,作業する場所の空気中 1 cm3 中に,粒子数1,000個以上又は 1 m3 中 15 mg以上含む場所である.特に遊離硅石50%以上含む粉じんについてはその作業する場所の空気1 cm3 中に,粒子数700個以上又は 1 m3 中 10 mg以上含む場所をいう.
ホ 異常気圧下における業務
・「異常気圧下における業務」とは,高気圧下又は低気圧下における業務をいう.高気圧下における業務とは,高圧室内の業務とか潜水服を着用してなす水中作業等をいい,海女の業務はこれにあたらない.
・低気圧下における業務とは,海抜 3,000 m以上の高山等における業務等をいう.
へ さく岩機,鋲打機等の使用によつて,身体に著しい振動を与える業務
衝程 70 mm以下及び重量 2 kg以下の鋲打機は本号にあたらない.それ以外のさく岩,鋲打機等を使用する業務はすべて本号にあたる.
ト 重量物の取扱い等重激な業務
30 kg以上の重量物を労働時間の30%以上取扱う業務及び 20 kg以上の重量物を労働時間の50%以上取扱う業務,並びにこれに準ずる労働負荷が労働者にかかる業務が本号にあたる.
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
「強烈な騒音を発する場所」とは,作業場に 100 dB以上の騒音がある場所をいう.
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀,砒素,黄りん,弗化水素酸,塩酸,硝酸,硫酸,青酸,か性アルカリ,石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
ヲ 鉛,水銀,クロム,砒素,黄りん,弗化水素,塩素,塩酸,硝酸,亜硫酸,硫酸,一酸化炭素,二硫化炭素,青酸,ベンゼン,アニリンその他これらに準ずる有害物のガス,蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
・本号の場所とは,作業場の空気が列挙の物質のガス,蒸気又は粉じんを下記の限度以上含有する場所である.鉛 0.5 mg/m3,水銀 0.1 mg/m3,クローム 0.5 mg/m3,砒素 1 ppm,黄燐 2 ppm,弗素 3 ppm,塩素 1 ppm,塩酸 10 ppm,硝酸 40 ppm,亜硫酸 10 ppm,硫酸 5 g/m3,一酸化炭素 100 ppm,二硫化炭素 20 ppm,青酸 20 ppm,ベンゼン 100 ppm,アニリン 7 ppm
・なお,本号のいう「その他これに準ずる有害物」とは,鉛の化合物,水銀の化合物(朱のような無害なものを除く),燐火水素,砒素化合物,シアン化合物,クローム化合物,臭素,弗化水素,硫化水素,硝気(酸化窒素類),アンモニア,ホルムアルデヒド,エーテル,塩酸アミル,四塩化エタン,テレビン油,芳香族及びその誘導体,高濃度の炭酸ガスをいう.但し分量軽少で衛生上有害でない場合はこれを含まない.
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務

※各対象業務は,現在の労働安全衛生規則第13条第1項第3号で定めれている業務と同じである

1178通達で示された基準は,労働衛生を推進するうえで客観性を有する科学的基準を設定することとして,差し当たり特別な衛生管理をしなければならない有害物を列挙し,当面妥当と考えられる基準値(恕限度)として設けられたが,その基準値の定義は,専門家の間でも確定しておらず,当時は,作業環境基準の適合の有無を判断するための作業環境測定技術も確立していなかった8.日本産業衛生学会が「恕限度」という表現を「許容濃度」という表現に置き換え,17の物質について勧告したのが,13年後となる1961年(昭和36年)である.

3. 特殊健康診断のはじまり

1178通達から3年後となる昭和26(1951)年に,四エチル鉛危害防止規則(現,四アルキル鉛中毒予防規則)が制定された.昭和31(1956)年に「特殊健康診断指導指針について(基発第308号)」で,差し当たり有害な又は有害なおそれのある主要業務23業務の特殊健康診断の自主的実施が指導勧奨されると,その後,昭和34(1959)年に電離放射線障害防止規則,昭和35(1960)年にじん肺法施行規則と有機溶剤中毒予防規則,昭和36(1961)年に高気圧障害防止規則(現,高気圧作業安全衛生規則),昭和42(1967)年に鉛中毒予防規則,昭和46(1971)年特定化学物質等障害予防規則(現,特定化学物質障害予防規則)と特別則が次々と制定された.

4. 労働時間延長の制限業務における基準の見直し

1178通達は,労働時間延長の制限業務,女子年少労働者の就業制限の対象となる業務,年2回の健康診断の実施対象となる有害業務の範囲を画一的に取り扱っていたため,その運用面において必ずしも円滑な実施が確保できなかった.そのため,昭和43(1968)年に「有害業務の範囲について(基発第472号)」が通達され,労働時間延長制限の対象となる「健康上特に有害な業務」の範囲が「業務列挙方式」へと大幅に変更された.その後の通達で,対象業務に関して若干の修正はあったものの,大きな変化はなく現在に至る(表7).

表7. 労働基準法施行規則第18条(労働時間延長の制限業務)で定める「健康上特に有害な業務」の具体的基準(現在)
多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
・鉱物又は金属を精錬する平炉,転炉,電気炉,溶鉱炉等について,原料を装入し,鉱さい若しくは溶融金属を取り出し,又は炉の状況を監視する作業
・鉱物,ガラス又は金属を溶解するキュポラ,るつぼ,電気炉等について.原料を装入し,溶融物を取り出し,若しくは攪拌し,又は炉の状況を監視する作業
・鉱物,ガラス又は金属を加熱する焼鈍炉,均熱炉,焼入炉,加熱炉等について,被加熱物を装入し,取り出し,又は炉の状況を監視する作業
・陶磁器,レンガ等を焼成する窯について,被焼成物を取り出し,又は炉の状況を監視する作業
・鉱物の焙焼,焼結等を行う装置について,原料を装入し,処理物を取り出し,又は反応状況を監視する作業
・加熱された金属について,これを運搬し,又は圧延,鍛造,焼入,伸線等の加工を行う作業
・溶融金属を運搬し,又は鋳込みする作業
・溶融ガラスからガラス製品を成型する作業
・ゴムを加硫缶により加熱加硫する作業
・熱源を用いる乾操室について,被乾操物を装入し,又は乾燥物を取り出す作業
多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
・多量の液体空気,ドライアイス等を取り扱う場合にこれらのものが皮膚にふれ,又はふれるおそれのある作業
・冷蔵倉庫業,製氷業,冷凍食品製造業における冷蔵庫,製氷庫,貯氷庫,冷凍庫等の内部に出入りして行う作業
ラジウム放射線,エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
 電離放射線障害防止規則第3条に規定する管理区域内において行う同規則第2条第3項に定める作業
土石,獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
 じん肺法施行規則第2条に定める粉じん作業
異常気圧下における業務
・潜函工法,潜鐘工法,圧気シールド工法その他の圧気工法による大気圧をこえる圧力下の作業室,シャフト等の内部における作業
・ヘルメット式潜水器,マスク式潜水器その他の潜水器(アクアラング等)を用い,かつ,空気圧縮機若しくは手押しポンプによる送気又はボンベからの給気を受けて行う作業
削岩機,鋲打機等の使用によつて身体に著しい振動を与える業務
・さく岩機,びょう打機,はつり機,コーキングハンマ,スケーリングハンマ,コンクリートブレーカ,サンドランマ等の手持ち打撃空気機械(ストローク 70 mm以下であって,かつ,重量2㎏以下のものを除く.)を用いて行う作業
・チェンソー又はブッシュクリーナ(刈払機)を用いる作業
重量物の取扱い等重激なる業務
 重量物を取り扱う(人力により,持ち上げ,運び又は下に卸す)作業であって,その対象物がおおむね 30 kg以上であるもの
ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
・さく岩機,びょう打機,はつり機,コーキングハンマ,スケーリングハンマ,コンクリートブレーカ,鋳物の型込機等圧縮空気を用いる機械工具を取り扱う作業
・圧縮空気を用いて溶融金属を吹き付ける作業
・ロール機,圧延機等により金属を圧延し,伸線し,歪取りし,又は板曲げする作業(液圧プレスによる歪取り又は板曲げ及びダイスによる線引きを除く.)
・動力を使用するハンマを用いて金属の鍜造又は成型を行う作業
・両手で持つハンマを用いて金属の打撃又は成型を行う作業
・タンブラにより金属製品の研ま又は砂落しを行う作業
・チェン等を用い,動力によりドラム缶を洗滌する作業
・ドラムバーカを用いて木材を削皮する作業
・チッパを用いてチップする作業
・抄紙機を用いて紙を抄く作業
鉛,水銀,クロム,砒素,黄りん,弗素,塩素,塩酸,硝酸,亜硫酸,硫酸,一酸化炭素,二硫化炭素,青酸,ベンゼン,アニリン,その他これに準ずる有害物の粉じん,蒸気又はガスを発散する場所における業務
・鉛中毒予防規則第1条第5号に定めるもののうち,屋内作業場又はタンク等の施設内において行う鉛業務(同規則第3条の規定により適用を除外されたものを除く.)
・四アルキル鉛中毒予防規則第1条第1項第5号に定める四アルキル鉛業務(同規則第1条第2項の規定により適用を除外されたものを除く.)
・クロームメッキ槽のある屋内作業場における,メッキ状況の看視,加工物のメッキ槽への取付け及び取りはずし,メッキ後の加工物の水洗等の一連の作業 (注)この場合,ゼロミスト等で無水クローム酸の液面を覆っても,有害要因の発散源を密閉したものとはみなさない.
・有機溶剤中毒予防規則第1条第1項第6号に掲げるもののうち,屋内作業場又はタンク等の施設内において行うもの(同規則第2条又は第3条の規定により適用を除外されたものを除く.)
・地下駐車場の業務のうち,入庫受付け業務,出庫受付け業務,料金徴収業務,自動車誘導等の場内業務,洗車等のサービス業務

5. 女性および年少者の就業制限対象業務の見直し

1178通達と同時期の女子年少者労働基準規則第13条に,満18歳に満たない者を就かせてはいけない業務の範囲として57の業務が規定され,その内の29業務は満18歳以上の女子も就かせてはならない業務の範囲として定められた(表8).

表8. 年少者の危険有害業務の就業制限の範囲(女子年少者労働基準規則第13条,当時)
※1 汽缶の焚火その他取扱の業務
※2 溶接による汽缶の製造若しくは改造又は修繕の業務
 3 汽缶の据付工事の作業主任者の業務
※4 起重機運転の業務
 5 アセチレン発生装置の作業主任者の業務
 6 映写機の上映操作の業務
 7 火元責任者の業務
 8 圧縮ガス又は液化ガス製造装置の作業主任者の業務
 9 危険物の取扱い主任者の業務
※10 巻揚能力2トン以上のガイデリツク又は高さ15メートル以上のコンクリート用エレベーターの組立,移動若しくは解体の作業主任者の業務
※11 溶鉱炉,金属溶解炉又は電気炉の作業主任者の業務
※12 金属圧延の作業主任者の業務
※13 30馬力以上の原動機による制限圧力2キログラム毎平方センチメートル以上の空気圧縮機の作業主任者の業務
 14 乾燥室の作業主任者の業務
※15 積さい能力2トン以上の人荷共用若しくは荷物用のエレベーター又は高さ15メートル以上のコンクリート用エレベーター運転の業務
 16 動力による軌道交通運輸機関並びに乗合自動車及び積載能力2トン以上の貨物自動車の運転の業務
 17 動力による巻揚機(電気ホイスト及びエヤーホイストを除く)運搬機又は索道運転の業務
※18 高圧(特別高圧を含む.)電線路及びこれに属する電気機械及び器具の取扱いの業務
※19 運転中の原動機及び原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除,注油,検査,修繕,又は調帯の掛け換えの業務
※20 天井走行起重機の玉掛け又は合図の業務
 21 消費量が毎時100ガロン以上の液体燃焼器の点火の業務
※22 動力による土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務
 23 ゴム,エボナイト等粘性質のロール練の業務
※24 直経25センチメートル以上の丸のこ盤(横びき用のものを除く.)又は動輪が直径75センチメートル以上の帯のこ盤における木材の送給の業務
 25 動力によって運転する圧機の金型若しくは切断機の刃部の調整又は掃除の業務
※26 操作場構内における軌道車輌の入換,連結又は開放の業務
 27 軌道内であつて,ずい道の内部見透距離400米以内又は車輌の通行頻繁な場所における単独の作業
※28 蒸気又は圧縮空気による圧機又は鍛造機械を用いる金属加工の業務
※29 動力による打抜機,切断機等を用いて厚さ8ミリメートル以上の銅板加工の業務
※30 バイレン機を用いる鋳物の破壊の業務
※31 木工用かんな機,単軸面取機を用いる業務
※32 岩石鉱物の破砕機に材料を送給する業務
 33 火薬,爆薬,火工品,塩素酸塩類,過塩素酸塩類,硝酸カリ,硝酸アンモニア,芳香族ニトロ化合物,硝化綿,セルロイド若しくはこれに準ずる爆発性のものを取扱う作業で爆発の危儉のある業務
 34 カリウム,ナトリウム,マグネシウム粉,生石灰,黄りん,赤りん,硫化りん若しくはこれに準ずる發火性の物の製造又はこれ等を取扱う作業で発火の危険のある業務
 35 エチルアルコール,メチルアルコール,エーテル,さく酸エチル,さく酸アミル,ベンゼン,トルーエン,ガソリン,二硫化炭素若しくはこれに準ずる引火性の物を取扱う作業で発火の危険のある業務
 36 圧縮ガス又は液化ガスの製造又はこれ等を用いる業務
 37 水銀,砒素,黄りん,弗化水素酸,塩酸,硝酸,青酸,苛性アルカリ,石炭酸其の他これに準ずる有害なものを取扱う業務
※38 鉛,水銀,クローム,砒素,黄燐,弗素,塩素,青酸,アニリン其の他これに準ずる有害なもののガス,蒸気若しくは,粉じんを発散する場所における業務
※39 土砂の崩壊の危機がある場所又は深さ5メートル以上の地穴における業務
※40 高さ5米以上の吊足場若しくは棒はりの上又はこれに準ずる高所における作業
※41 丸太足場の組立又は解体の業務,但し,地上における補助作業を除く
※42 直径35センチ以上の材木の業務
※43 木馬道,修ら又は管流等による木材搬出の業務
 44 土石,獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
 45 ラヂウム放射線,エツクス線その他の有害放射線に曝される業務
※46 多量の高熱物体を取扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
※47 多量の低温物体を取扱う業務及び著しく寒冷なる場所における業務
※48 異常気圧下における業務
※49 さく岩機,鋲打機使用によって身体に著しい振動を與える業務
 50 ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
 51 病原体によって汚染のおそれ著しい業務,但し,保健婦,看護婦,助産婦令により免許を受けたものを除く
 52 酒類醸造の業務
 53 焼却,清掃又は屠殺の業務
 54 監獄又は精神における業務
 55 酒席に侍する業務
 56 特殊の遊興的接客業務における業務 但し,昭和24年3月末日までは満16歳以上の者を除く
 57 前記各号の外中央労働基準委員会の議を経て労働大臣の指定する業務

※満18歳以上の女子を就かせてはいけない業務

その後,対象業務が度々検討され,現在では年少者の就業制限の業務の範囲として,年少者労働基準規則第8条で44の業務が定められ(表9),妊婦の危険有害業務の就業制限の範囲は,女性労働基準規則第2条により24の業務が定められている(表10).これらの業務のなかには,後に定義される特定業務従事者健康診断の対象にもなる業務との重複(多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務,多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務,異常気圧下における業務,さく岩機,鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務,強烈な騒音を発する場所における業務)もみられる.

表9. 年少者の就業制限の業務の範囲(年少者労働基準規則第8条)
1 ボイラー(労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第1条第3号に規定するボイラー(同条第4号に規定する小型ボイラーを除く.)をいう.次号において同じ.)の取扱いの業務
2 ボイラーの溶接の業務
3 クレーン,デリック又は揚貨装置の運転の業務
4 緩燃性でないフィルムの上映操作の業務
5 最大積載荷重が2トン以上の人荷共用若しくは荷物用のエレベーター又は高さが15メートル以上のコンクリート用エレベーターの運転の業務
6 動力により駆動される軌条運輸機関,乗合自動車又は最大積載量が2トン以上の貨物自動車の運転の業務
7 動力により駆動される巻上げ機(電気ホイスト及びエアホイストを除く.)運搬機又は索道の運転の業務
8 直流にあつては750ボルトを,交流にあつては300ボルトを超える電圧の充電電路又はその支持物の点検,修理又は操作の業務
9 運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除,給油,検査,修理又はベルトの掛換えの業務
10 クレーン,デリック又は揚貨装置の玉掛けの業務(2人以上の者によつて行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く.)
11 最大消費量が毎時400リットル以上の液体燃焼器の点火の業務
12 動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務
13 ゴム,ゴム化合物又は合成樹脂のロール練りの業務
14 直径が25センチメートル以上の丸のこ盤(横切用丸のこ盤及び自動送り装置を有する丸のこ盤その他反ぱつにより労働者が危害を受けるおそれのないものを除く.)又はのこ車の直径が75センチメートル以上の帯のこ盤に木材を送給する業務
15 動力により駆動されるプレス機械の金型又はシヤーの刃部の調整又は掃除の業務
16 操車場の構内における軌道車両の入換え,連結又は解放の業務
17 軌道内であつて,ずい道内の場所,見通し距離が400メートル以内の場所又は車両の通行が頻繁な場所において単独で行う業務
18 蒸気又は圧縮空気により駆動されるプレス機械又は鍛造機械を用いて行う金属加工の業務
19 動力により駆動されるプレス機械,シヤー等を用いて行う厚さが8ミリメートル以上の鋼板加工の業務
20 削除
21 手押しかんな盤又は単軸面取り盤の取扱いの業務
22 岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務
23 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが5メートル以上の地穴における業務
24 高さが5メートル以上の場所で,墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務
25 足場の組立,解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く.)
26 胸高直径が35センチメートル以上の立木の伐採の業務
27 機械集材装置,運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務
28 火薬,爆薬又は火工品を製造し,又は取り扱う業務で,爆発のおそれのあるもの
29 危険物(労働安全衛生法施行令別表第1に掲げる爆発性の物,発火性の物,酸化性の物,引火性の物又は可燃性のガスをいう.)を製造し,又は取り扱う業務で,爆発,発火又は引火のおそれのあるもの
30 削除
31 圧縮ガス又は液化ガスを製造し,又は用いる業務
32 水銀,砒素,黄りん,弗化水素酸,塩酸,硝酸,シアン化水素,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
33 鉛,水銀,クロム,砒素,黄りん,弗素,塩素,シアン化水素,アニリンその他これらに準ずる有害物のガス,蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
34 土石,獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
35 ラジウム放射線,エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
36 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
37 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
38 異常気圧下における業務
39 さく岩機,鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務
40 強烈な騒音を発する場所における業務
41 病原体によつて著しく汚染のおそれのある業務
42 焼却,清掃又はと殺の業務
43 刑事施設(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)第15条第1項の規定により留置施設に留置する場合における当該留置施設を含む.)又は精神科病院における業務
44 酒席に侍する業務
45 特殊の遊興的接客業における業務
46 前各号に掲げるもののほか,厚生労働大臣が別に定める業務

表10. 妊婦の危険有害業務の就業制限の範囲(女性労働基準規則第2条)
1 次の表の上欄に掲げる年齢の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる重量以上の重量物を取り扱う業務
2 ボイラー(労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号.第18号において「安衛令」という.)第1条第3号に規定するボイラーをいう.次号において同じ.)の取扱いの業務
3 ボイラーの溶接の業務
4 つり上げ荷重が5トン以上のクレーン若しくはデリツク又は制限荷重が5トン以上の揚貨装置の運転の業務
5 運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除,給油,検査,修理又はベルトの掛換えの業務
6 クレーン,デリツク又は揚貨装置の玉掛けの業務(2人以上の者によつて行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く.)
7 動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務
8 直径が25センチメートル以上の丸のこ盤(横切用丸のこ盤及び自動送り装置を有する丸のこ盤を除く.)又はのこ車の直径が75センチメートル以上の帯のこ盤(自動送り装置を有する帯のこ盤を除く.)に木材を送給する業務
9 操車場の構内における軌道車両の入換え,連結又は解放の業務
10 蒸気又は圧縮空気により駆動されるプレス機械又は鍛造機械を用いて行う金属加工の業務
11 動力により駆動されるプレス機械,シヤー等を用いて行う厚さが8ミリメートル以上の鋼板加工の業務
12 岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務
13 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが5メートル以上の地穴における業務
14 高さが5メートル以上の場所で,墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務
15 足場の組立て,解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く.)
16 胸高直径が35センチメートル以上の立木の伐採の業務
17 機械集材装置,運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務
18 次の各号に掲げる有害物を発散する場所の区分に応じ,それぞれ当該場所において行われる当該各号に定める業務
イ 塩素化ビフエニル(別名PCB),アクリルアミド,エチルベンゼン,エチレンイミン,エチレンオキシド,カドミウム化合物,クロム酸塩,五酸化バナジウム,水銀若しくはその無機化合物(硫化水銀を除く.),塩化ニツケル(II)(粉状の物に限る.),スチレン,テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン),トリクロロエチレン,砒素化合物(アルシン及び砒化ガリウムを除く.),ベータ―プロピオラクトン,ペンタクロルフエノール(別名PCP)若しくはそのナトリウム塩又はマンガンを発散する場所 次に掲げる業務(スチレン,テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン)又はトリクロロエチレンを発散する場所において行われる業務にあつては(2)に限る.)
(1) 特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)第22条第1項,第22条の2第1項又は第38条の14第1項第11号ハ若しくは第12号ただし書に規定する作業を行う業務であつて,当該作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させる必要があるもの
(2) (1)の業務以外の業務のうち,安衛令第21条第7号に掲げる作業場(石綿等を取り扱い,若しくは試験研究のため製造する屋内作業場又はコークス炉上において若しくはコークス炉に接してコークス製造の作業を行う場合の当該作業場を除く.)であつて,特定化学物質障害予防規則第36条の2第1項の規定による評価の結果,第3管理区分に区分された場所における作業を行う業務
ロ 鉛及び安衛令別表第4第6号の鉛化合物を発散する場所 次に掲げる業務
(1) 鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号)第39条ただし書の規定により呼吸用保護具を使用させて行う臨時の作業を行う業務又は同令第58条第1項若しくは第2項に規定する業務若しくは同条第3項に規定する業務(同項に規定する業務にあつては,同令第3条各号に規定する業務及び同令第58条第3項ただし書の装置等を稼働させて行う同項の業務を除く.)
(2) (1)の業務以外の業務のうち,安衛令第21条第8号に掲げる作業場であつて,鉛中毒予防規則第52条の2第1項の規定による評価の結果,第3管理区分に区分された場所における業務
ハ エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ),エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート),エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ),キシレン,N・N―ジメチルホルムアミド,スチレン,テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン),トリクロロエチレン,トルエン,二硫化炭素,メタノール又はエチルベンゼンを発散する場所 次に掲げる業務
(1) 有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)第32条第1項第1号若しくは第2号又は第33条第1項第2号から第7号まで(特定化学物質障害予防規則第38条の8においてこれらの規定を準用する場合を含む.)に規定する業務(有機溶剤中毒予防規則第2条第1項(特定化学物質障害予防規則第38条の8において準用する場合を含む.)の規定により,これらの規定が適用されない場合における同項の業務を除く.)
(2) (1)の業務以外の業務のうち,安衛令第21条第7号又は第10号に掲げる作業場であつて,有機溶剤中毒予防規則第28条の2第1項(特定化学物質障害予防規則第36条の5において準用する場合を含む.)の規定による評価の結果,第3管理区分に区分された場所における業務
19 多量の高熱物体を取り扱う業務
20 著しく暑熱な場所における業務
21 多量の低温物体を取り扱う業務
22 著しく寒冷な場所における業務
23 異常気圧下における業務
24 さく岩機,鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務

労働安全衛生法時代

1. 労働安全衛生法上での位置づけ

衛生上有害な業務に対して年2回以上実施しなければならない健康診断は,昭和47(1972)年に制定された労働安全衛生法で,特定業務従事者健康診断と名付けられた.

旧労働安全衛生規則第48条第1項第2号で定められた特定業務従事者健康診断の対象業務は,現在の労働安全衛生規則第13条第1項第3号にそのまま引き継がれた.その数値基準も,昭和23(1948)年の1178通達で定められた以降,「強烈な騒音を発する屋内作業」が,等価騒音レベル90デシベル以上の屋内作業場に変更された(平成4年8月24日 基発第480号)以外,大きな変更はされていない.その結果,特定業務従事者健康診断の実施基準の多くは,現在の許容濃度9を超えている(表11).

表11. 特定業務従事者健康診断の実施基準と許容濃度等の勧告(2018年度)で示された基準値の比較
対象業務・物質1,178通達などの基準許容濃度等備考
暑熱WBGT
屋外:36.75(°C)
屋内:37.75(°C)
WBGT:26.5~32.5(°C)
作業強度により異なる
1178通達の基準である,乾球温度摂氏40°C,湿球温度摂氏32.5°C,黒球寒暖計示摂氏温度50°Cとした場合のWBGTとして算出
粉じん10~15(mg/m30.03~8(mg/m3粉じんの種類等により異なる
騒音90(dB)85(dB)1日の曝露時間を8時間とした場合の許容騒音レベル
0.5(mg/m30.03(mg/m3
水銀0.1(mg/m30.025(mg/m3
クロム0.5(mg/m30.05(mg/m3)(6価クロム化合物)
0.5(mg/m3)(金属クロム,3価クロム)
砒素1(ppm)0.3~3(μg/m3ヒ素及び無比ヒ素化合物(Asとして)過剰発がん生涯リスクレベル10-3~10-4 に対応する評価値
黄リン2(ppm)0.1(mg/m3
弗化水素3(ppm)3(ppm)
塩素1(ppm)0.5(ppm)最大許容濃度,常時この濃度以下に保つこと
塩酸10(ppm)2(ppm)最大許容濃度,常時この濃度以下に保つこと
硝酸40(ppm)2(ppm)
亜硫酸10(ppm)-
硫酸5(mg/m31(mg/m3最大許容濃度,常時この濃度以下に保つこと
一酸化炭素100(ppm)50(ppm)
二硫化炭素20(ppm)1(ppm)
青酸20(ppm)5(ppm)
ベンゼン100(ppm)0.1~1(ppm)過剰発がん生涯リスクレベル10-3~10-4 に対応する評価値
アニリン7(ppm)1(ppm)

2. 新規に規制された特定化学物質との関連

エチレンオキシドおよびホルムアルデヒドが特定化学物資障害予防規則において特定第二類物質および特別管理物質に指定された際,これらの物質は,標的臓器の特異性がないため,特殊健康診断の対象とせず,取扱者は曝露レベルに関係なく特定業務従事者健康診断として実施されることになった10.これに伴い,現在の労働安全衛生規則第13条第1項第3号ヲ(表6)の「これらに準ずる有害物」として,エチレンオキシド(平成13年4月27日付け基発第413号)とホルムアルデヒド(平成20年2月29日付け基発0229001号)が追加された.

結語

特定業務従事者健康診断の対象業務は,差し当たり特別な衛生管理をしなければならない有害物を取り扱う業務として昭和22(1947)年の旧労働安全衛生規則第48条で定められ,対象業務の定量的基準は当面妥当と考えられる基準値として昭和23(1948)年の通達によって示された.

その通達により有害業務の基準として同時に定められた労働時間延長制限の対象業務は,のちに数値基準から業務列挙方式へ大きく変更された.また,年少労働者の就業制限の対象業務は57業務から44業務へ,女性の就業制限対象業務は29業務から24業務へと度々変更されてきた.

しかし,特定業務従事者健康診断の対象業務及びその基準は,約70年間ほとんど変更されなかった結果,対象業務の基準値の多くは忘れ去られており,現在の許容濃度を超過している.また,特定業務従事者健康診断の実施開始後に,特殊健康診断も開始され,双方の健康診断の対象となる業務では,特定業務従事者健康診断の役割が相対的に低下している.

当時とは社会情勢や医療水準も大きく変化し,有害業務の管理方法や作業環境測定の技術も飛躍的に向上している.そのため,特殊健康診断と特定業務従事者健康診断の目的や役割を再整理し,現在の実態に応じた特定業務従事者健康診断のあり方を改めて考える必要がある.

謝辞

本研究は,労災疾病臨床研究事業費補助金研究「特定業務従事者の健康診断等の労働安全衛生法に基づく健康診断の諸課題に対する実態把握と課題解決のための調査研究(研究代表者 産業医科大学 森晃爾)」により実施しました.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
© 2020 by the Japan Society for Occupational Health
feedback
Top