産業衛生学雑誌
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調査報告
インドの労働衛生に関する制度および専門職育成の現状
―日本企業が海外拠点において適切な労働衛生管理を実施するために
石丸 知宏廣里 治奈森 貴大伊藤 直人平岡 晃簑原 里奈梶木 繁之上原 正道小林 祐一森 晃爾
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2020 年 62 巻 3 号 p. 136-145

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抄録

目的:インドで事業を展開する日系企業が現地で労働衛生に取り組む上で参考となるようにインドの労働衛生の現状を整理した.対象と方法:事前調査として,学術情報の検索エンジンを用いた文献検索と,インターネットによる一般情報検索を行った.その後,現地の行政機関,国際機関,日本大使館,教育・研究機関,日系企業を訪問して,インタビュー調査を行った.収集した情報をインドにおける行政機関,法体系および監督体制,事業場の労働衛生管理体制および専門人材,事業場の主要な労働衛生活動,医療制度・労災補償制度に整理した.結果:インドにおける労働安全衛生行政は,労働雇用省が所管している.工場,港湾,鉱山,建設業の4つの業種で労働安全衛生に関する法律が存在する.工場法では,産業保健センターや安全委員会の開設,工場医や安全管理者の選任に基づく管理体制が定められている.工場医になるには,医師免許取得後,3ヶ月全日制のAssociate Fellow of Industrial Health(AFIH)の取得が一般的である.また,健康診断や作業環境測定などの規定があるが,州よって労働法の内容は異なる.低所得の労働者のみ医療保険の適応となる.原則的には全ての労働者が労災補償の対象となっているが,届出件数はあまり多くない.考察と結論:州によって労働法の内容や安全衛生に関わる状況が異なるため,日系企業においてはインドにおける全体像のみならず進出地域の事情を把握することが重要である.工場法に労働衛生に関する様々な規定は存在するものの,行政による管理監督機能が脆弱であり,工場医,安全管理者などの専門職が不足している中,労働衛生活動が十分に実施されていない可能性がある.また,社会保障も脆弱であることが示唆された.日系企業が本国と同等以上の取り組みをインドで行うために,企業内で専門職を育成する体制の構築,日本本社や現地の教育研究機関など外部からの専門的な支援,労働衛生活動を適切に実施するための仕組みづくりを検討する必要がある.

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© 2020 公益社団法人 日本産業衛生学会
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