産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
調査報告
治療と仕事の両立支援に関する全国労働者調査~支援制度の認知と利用申出の意識
須賀 万智 山内 貴史柳澤 裕之
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 62 巻 6 号 p. 261-270

詳細
抄録

目的:治療と仕事の両立支援について,支援制度の認知と利用申出の意識を調べ,本制度の普及に向けた課題を明らかにする.方法:全国労働者12,000名を対象に,2020年1月にインターネット上でアンケート調査を実施した.調査項目は厚生労働省の両立支援の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,職場に病気を申し出ることに対する意識である.設問文と選択肢は前回2018年調査と同じものを用いた.結果:厚生労働省の両立支援の取り組みを知っている者は7%,事業所内に相談窓口があると答えた者は27%にとどまった.職場への申出はメリットの方が多いと思う者が15%に対し,デメリットの方が多いと思う者が31%と優位であった.多重ロジスティック回帰分析において,職場への申出の意識は厚生労働省の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,事業所内の産業医の認知と有意な関係を認めた.このほか,従業者300人未満の事業所,過去の就業制限の経験,職種のうち営業/接客,製造,運転/配達がデメリットの意識を高める因子として示された.結論:前回2018年調査から1年半を経ても,厚生労働省の両立支援の取り組みは労働者に十分認知されておらず,職場に病気を申し出て支援を請うことに抵抗感を持つ労働者の方が多いことが示された.本制度の普及のため,国および企業が啓発活動の更なる強化を図るとともに,事業所規模,雇用形態,職種の違いに配慮した支援制度のあり方を検討する必要がある.

緒言

治療が必要な労働者の就労継続(治療と仕事の両立)は,人口の減少と就業者の高齢化が進む中で,喫緊の課題である.「働き方改革実行計画」1の重要課題のひとつに掲げられると共に,厚生労働省のガイドラインの公表2,第13次労働災害防止計画の策定3,平成30年度診療報酬改訂を受けて,関係各機関で体制整備が進められている.

「事業場における治療と仕事の両立支援のガイドライン」2によれば,治療が必要な労働者に対して就業上の措置と治療に対する配慮を適切に行うために,事業者は主治医からの情報収集(労働者から主治医に勤務情報を提供し,主治医に就業継続の可否等に関する意見書をもらう),産業医等の意見聴取(事業者から産業医に主治医意見書を提供し,産業医に就業上の措置等に関する意見をもらう)を行ったうえで,就業上の措置等を検討,両立支援または職場復帰支援プランを作成,就業上の措置と治療に対する配慮を実行する.このとき,両立支援の実施検討は,主治医からの助言などに基づき,支援が必要と判断した労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことを基本としている.

しかし,著者らが2018年6月に実施したアンケート調査4において,治療しながら働き続けるという概念が労働者にも経営者にも浸透しておらず,両立支援のしくみを備えた企業がまだ少ないことが明らかにされた.治療と仕事の両立支援は「労働者本人からの申出」を基点としたスキームであるから,本制度が有効に機能するには,労働者が支援制度の存在を認知し,必要な状況になったときに利用しようとする意識が重要なカギになると考えられる.

支援の申出のしやすさは勤務先の休暇制度・勤務制度の整備状況も関係する5.厚生労働省「平成29年就労条件総合調査」6によれば,病気休暇制度がある割合は運輸業・郵便業20%から金融業・保険業60%まで業種間で大きく異なる.年次有給休暇の取得率も業種によって差があり,建設業,卸売業・小売業,宿泊業・飲食サービス業,生活関連サービス業・娯楽業,教育・学習支援業が30%台と低い傾向にあった.また,第一生命経済研究所「子どもがいる正社員の休暇に対する意識調査」7によれば,年次有給休暇の取得率は職種によっても差があり,高い方から,技術系専門職(男性72%,女性63%),事務(男性57%,女性48%),製造・生産現場作業(男性55%,女性40%),営業・販売・接客(男性45%,女性34%),介護・医療(男性35%,女性43%)の順であった.このことから,利用申出の意識は業種や職種によって異なる可能性が考えられるが,前回2018年調査4は企業規模(従業者数)による比較のみで,業種や職種による違いを検討できなかった.

本研究では,治療と仕事の両立支援について,前回2018年調査4から1年半を経て,全国労働者にアンケート調査を行い,支援制度の認知と利用申出の意識を調査した.前回は従業者10人以上の民間企業に勤務する正社員(正規雇用者)に限定したが,今回は従業者10人未満の小規模事業所や非正規雇用者を含め,対象範囲を拡大し,さらに業種や職種に関する情報を収集した.回答結果から,支援制度の認知と利用申出の意識について,事業所規模,業種,雇用形態,職種による違いを調べると共に,職場への申出に関わる要因を検討した.

方法

アンケート調査は2020年1 月にインターネット上で実施した.調査会社(株式会社クロス・マーケティング)のアンケートパネルを用いて,全国の民間企業の労働者12,000名を募集した.就業形態と就業環境が明らかに異なると思われる第一次産業を除いて,平成28年経済センサスの全国の従業者数の分布(企業産業大分類×企業従業者規模)8に一致させた.前回2018年調査4より対象範囲を拡大し,事業所規模(従業者数),雇用形態(正規雇用,非正規雇用)にかかわらず調査対象に含めた.

あらかじめ登録された属性情報に基づき,無作為に抽出した89,794名にメールで参加を呼びかけた.参加希望者は事前スクリーニング画面を開き,趣旨説明の確認と参加同意の表明を行ったのち,対象条件の適合/不適合を判別する項目(職業,業種,従業者数)を入力した.入力結果から適合者(職業が会社勤務,業種が第二次産業か第三次産業,従業者数が上限枠内)のみがアンケート画面に進み(不適合者は事前スクリーニングのみで終了となる),各設問に回答した.アンケートを最後まで回答した者には,アンケートパネルの会員規約に基づき,調査会社から報酬として金銭や商品などに交換できるポイントが提供された.調査回答者は最終的に13,041名で,そのうち無作為に抽出した12,000名について,回答結果を調査会社内で匿名・非識別加工され,電子データとして提供された.表1に調査回答者の構成割合を示した.本研究を実施するにあたり,東京慈恵会医科大学の倫理委員会の審査承認(31-364(9943))を受けた.

表1. 調査回答者の構成割合
業種N従業者数(人)年齢
1–910–4950–99100–299300–499500–9991,000–男性女性平均SD
全体12,0001,3472,4081,3011,8389039843,2548,5923,40847.19.6
11.2%20.1%10.8%15.3%7.5%8.2%27.1%71.6%28.4%
建設業7981662387793374614159919948.38.9
20.8%29.8%9.6%11.7%4.6%5.8%17.7%75.1%24.9%
製造業1,933762571823001431738021,65228148.89
3.9%13.3%9.4%15.5%7.4%8.9%41.5%85.5%14.5%
運輸業/郵便業689271208011545492535919849.18.6
3.9%17.4%11.6%16.7%6.5%7.1%36.7%85.8%14.2%
卸売業/小売業2,5383325102663531872176731,78475447.69.5
13.1%20.1%10.5%13.9%7.4%8.6%26.5%70.3%29.7%
宿泊業/飲食業1,160136287133179898625083033045.19.8
11.7%24.7%11.5%15.4%7.7%7.4%21.6%71.6%28.4%
学術研究/教育75010919391118506012947827247.29.6
14.5%25.7%12.1%15.7%6.7%8.0%17.2%63.7%36.3%
医療/福祉1,51115935121731713413519874676544.19.9
10.5%23.2%14.4%21.0%8.9%8.9%13.1%49.4%50.6%
その他2,6213424522553632182188081,91270947.39.8
13.0%17.2%9.7%13.8%8.3%8.3%30.8%72.9%27.1%

業種は日本標準産業分類(大分類)を8カテゴリーに再分類した

パーセントは各業種に占める割合を示す

調査項目は厚生労働省の両立支援の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,職場に病気を申し出ることに対する意識である.設問文と選択肢は前回2018年調査4と同じもので,以下の情報を与えたのち,順次回答させた.

―がんや脳卒中などの病気を治療されている方の中には,病状や治療によって,通常行っている業務を同じように行えない場合があります.例えば,抗がん剤治療を受けているときは,副作用のために出社できなかったり,肉体労働を制限されたりすることが考えられます.

厚生労働省の両立支援の取り組みの認知は,がんや脳卒中などの病気を抱える労働者が治療を受けながら仕事を続けられる職場環境を整備するため,厚生労働省が「治療と仕事の両立支援」を進めていることを聞いたことがあるかという設問に対して,「聞いたことがあり,どのようなものか知っている」「聞いたことがあるが,どのようなものか知らない」「聞いたことがない」の3択とした.

事業所内の相談窓口の認知は,病気の治療のため通常どおり勤務することが難しいと感じたときに働き方を相談できる窓口(または専門の担当者)があるかという設問に対して,「ある」「ない」「わからない」の3択とした.

職場に病気を申し出ることに対する意識は,自分自身が病気のため通常どおり勤務することが難しい状況になったと仮定して,職場に病気を申し出ることについてどのように思うかという設問に対して,「自分にとってメリットになることの方が多い」「自分にとってデメリットになることの方が多い」「どちらとも言えない」の3択とした.「自分にとってデメリットになることの方が多い」と答えた者には,さらにデメリットの内容を尋ねた.

このほか,事業所内の産業医の認知と産業医への相談経験の有無を尋ねた.また,回答者個人に関する情報として,職種(日本標準職業分類・大分類),雇用形態(正社員(管理職,非管理職),契約,嘱託,派遣),勤続年数,病気のため通常どおり勤務できなくなった経験(1ヶ月以上の病気欠勤,病気休職,時短勤務などの就業制限)の有無を収集した.

本研究では,職場を事業所単位でとらえ,本店,支店,営業所など複数の事業所に分かれている場合は回答者が所属する事業所について,派遣社員として勤務している場合は派遣先の事業所について回答するように指定した.このため,当該事業所で勤務経験が浅く,所内の状況を把握できていない可能性がある者,具体的には勤続年数が1年未満であった者(603名,5%)を分析対象から除外した.

統計学的解析

各設問の回答結果をχ2乗検定で比較した.事業所規模を調整する必要がある項目は事業所規模(従業員数)で層別し,Cochran-Mantel-Haenszel検定で比較した.職場への申出の意識(メリットの方が多い,デメリットの方が多い)に関わる要因を検討するため,多重ロジスティック回帰モデルを用いて調整オッズ比と95%信頼区間を計算した.目的変数は職場への申出の意識で,「メリットになることの方が多い」の有無と「デメリットになることの方が多い」の有無をそれぞれ検討した.説明変数は厚生労働省の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,事業所内の産業医の認知のほか,個人の因子として雇用形態,職種,就業制限の経験,職場の因子として事業所規模(従業者数),調整変数は性,年齢を投入した.モデルの適合度はHosmer-Lemeshow検定で評価した.統計学的解析には,SAS version 9.4(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用した.有意水準は5%とした.

結果

表2に研究対象者の基本属性を示した.全体の88%が正社員で,そのうち27%が管理職,63%が非管理職であった.正社員に比べ,契約・嘱託は高年齢,派遣は低年齢に偏り,女性が多かった.職種は事務と営業/接客がそれぞれ約3割を占め,正社員に比べ,契約・嘱託は専門/技術とその他,派遣は事務が多かった.全体の9%が病気のため通常どおり勤務できなくなった経験があると答えた.

表2. 研究対象者の基本属性
全体雇用形態
正社員契約・嘱託派遣
N11,39710,0471,097253
年齢平均 SD47.39.546.89.252.310.144.79.6
性別男性8,24172.3%7,44874.1%71164.8%8232.4%
女性3,15627.7%2,59925.9%38635.2%17167.6%
婚姻未婚8,31573.0%7,44874.1%71164.8%15661.7%
既婚3,66232.1%3,18031.7%41137.5%7128.1%
死別/離別6,70658.8%6,11960.9%56151.1%2610.3%
学歴中学8787.7%7487.4%12511.4%52.0%
高校2,79024.5%2,42024.1%30227.5%6826.9%
短大・専門学校2,28220.0%1,94719.4%26123.8%7429.2%
大学5,61949.3%5,04850.2%46842.7%10340.7%
大学院5655.0%5135.1%494.5%31.2%
職種事務3,52230.9%3,12031.1%28225.7%12047.4%
営業/接客3,61331.7%3,23232.2%33730.7%4417.4%
製造8047.1%7177.1%565.1%3112.3%
建設4043.5%3733.7%262.4%52.0%
専門/技術4303.8%3533.5%706.4%72.8%
その他9268.1%7307.3%17015.5%2610.3%
就業制限一度も経験なし10,37291.0%9,15391.1%98289.5%23793.7%
過去に経験あり8127.1%7037.0%968.8%135.1%
現在あり2131.9%1911.9%191.7%31.2%

職種は日本標準職種分類(大分類)を6カテゴリーに再分類した

表3に両立支援の取り組みの認知と職場への申出の意識を示した.全体では,厚生労働省の両立支援の取り組みを「知っている」者は7%,事業所内に相談窓口が「ある」と答えた者は27%であった.雇用形態別では,厚生労働省の取り組みを「知っている」,相談窓口が「ある」と答えた者の割合は,正社員,契約・嘱託に比べ,派遣で有意に低かった.職場への申出は「メリットになることの方が多い」と思う者が15%であったのに対して,「デメリットになることの方が多い」と思う者が31%と優位で,正社員,契約・嘱託に比べ,派遣で有意に高かった.

表3. 両立支援の取り組みの認知と職場への申出の意識
全体雇用形態
正社員契約・嘱託派遣p
N11,39710,0471,097253
厚労省の取り組み知っている7506.6%6876.8%**534.8%*104.0%.027
聞いたことはある2,80924.6%2,47224.6%28125.6%5622.1%
聞いたことがない7,83868.8%6,88868.6%76369.6%18773.9%
相談窓口ある3,01626.5%2,69426.8%*29426.8%2811.1%**<.001
ない5,72750.3%5,13451.1%**47343.1%**12047.4%
わからない2,65423.3%2,21922.1%**33030.1%**10541.5%**
職場への申出メリットが多い1,75915.4%1,57615.7%*15313.9%3011.9%.006
デメリットが多い3,49630.7%3,02830.1%**37233.9%*9637.9%*
わからない6,14253.9%5,44354.2%57252.1%12750.2%

**p<.01,*p<.05(残差分析)

両立支援の取り組みの認知が正社員,契約・嘱託に比べ,派遣で低いという結果には,派遣労働者の健康管理は派遣元と派遣先の双方に責任を課せられているという,法制度上の立場の違い9が関係していると考えられた.このことは,事業所内に産業医がいるか「わからない」と答えた者が正社員で9%,契約・嘱託で15%であったのに対して,派遣で29%と有意に高かった(p<.001)ことからも裏付けられた.以下の分析は,事業所規模,業種などの職場の因子の影響を評価するため,派遣(253名,2%)を除いた11,144名を分析対象とした.

表4に事業所規模別にみた両立支援の取り組みの認知を示した.厚生労働省の取り組みを「聞いたことがない」,相談窓口が「ない」と答えた者の割合は,産業医が「いない」と答えた者の割合と同様に,事業所規模が小さいほど高かった.

表4. 事業所規模別にみた両立支援の取り組みの認知
従業者数(人)
1–910–4950–99100–299300–499500–9991,000–p
N1,2642,1901,1851,6898129243,080
厚労省の取り組み知っている393.1%**753.4%**584.9%*935.5%*728.9%**768.2%*32710.6%**<.001
聞いたことはある23018.2%**49222.5%**29725.1%46627.6%**19724.3%22424.2%84727.5%**
聞いたことがない99578.7%**1,62374.1%**83070.0%1,13066.9%54366.9%62467.5%1,90661.9%**
相談窓口ある1118.8%**26011.9%**22118.6%**39923.6%**23829.3%31534.1%**1,44446.9%**<.001
ない97977.5%**1,54070.3%**72060.8%**83649.5%36044.3%**35938.9%**81326.4%**
わからない17413.8%**39017.8%**24420.6%*45426.9%**21426.4%*25027.1%**82326.7%**
産業医常勤でいる221.7%**542.5%**534.5%**1629.6%**10312.7%13714.8%90829.5%**<.001
非常勤でいる221.7%**1185.4%**25521.5%50029.6%**27133.4%**34837.7%**1,12936.7%**
いない1,14890.8%**1,82683.4%**75864.0%**86951.5%*35443.6%**34637.4%**69522.6%**
わからない725.7%**1928.8%11910.0%1589.4%8410.3%9310.1%34811.3%**

**p<.01,*p<.05(残差分析)

表5に業種別にみた両立支援の取り組みの認知を示した.厚生労働省の取り組みの認知は,事業所内の産業医の認知と同様に,事業所規模を調整しても業種間で有意差を認めたが,事業所内の相談窓口の認知は業種間で有意差を認めなかった.厚生労働省の取り組みを「知っている」者の割合が最も高かったのは医療/福祉,最も低かったのは宿泊業/飲食業であったが,その差は数パーセント程度と小さかった.

表5. 業種別にみた両立支援の取り組みの認知
業種
建設業製造業運輸業/
郵便業
卸売業/
小売業
宿泊業/
飲食業
学術研究/
教育
医療/福祉その他p
N7571,8156372,3931,0766901,3672,409
厚労省の取り組み知っている466.1%1347.4%314.9%1345.6%524.8%547.8%1239.0%1666.9%.034#
聞いたことはある18824.8%44724.6%16425.7%59224.7%27025.1%15422.3%37227.2%56623.5%
聞いたことがない52369.1%1,23468.0%44269.4%1,66769.7%75470.1%48269.9%87263.8%1,67769.6%
相談窓口ある17122.6%63134.8%17227.0%56823.7%26724.8%17625.5%35025.6%65327.1%.443#
ない44558.8%75841.8%29145.7%1,27153.1%58754.6%37354.1%66948.9%1,21350.4%
わからない14118.6%42623.5%17427.3%55423.2%22220.6%14120.4%34825.5%54322.5%
産業医常勤でいる577.5%40022.0%9715.2%1737.2%605.6%649.3%31623.1%27211.3%<.001#
非常勤でいる15820.9%65536.1%17527.5%51121.4%21720.2%15622.6%21315.6%55823.2%
いない48564.1%63735.1%30447.7%1,50362.8%68663.8%41460.0%64847.4%1,31954.8%
わからない577.5%1236.8%619.6%2068.6%11310.5%568.1%19013.9%26010.8%

業種は日本標準産業分類(大分類)を8カテゴリーに再分類した

#事業所規模を調整したCochran-Mantel-Haenszel検定による

表6に職場への申出の意識を示した.職場への申出の意識は,厚生労働省の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,事業所内の産業医の認知と有意な関係を認めた.個人の因子のうち雇用形態,職種,就業制限の経験,職場の因子のうち事業所規模と有意な関係を認めたが,業種間で有意差を認めなかった.

表6. 職場への申出の意識
Nメリットが多いデメリットが多いわからないp
雇用形態正社員(管理職)3,07062120.2%83627.2%1,61352.5%<.001
正社員(非管理職)6,97795513.7%2,19231.4%3,83054.9%
契約・嘱託1,09715313.9%37233.9%57252.1%
職種事務3,40257717.0%99629.3%1,82953.8%<.001
営業/接客3,56949814.0%1,15332.3%1,91853.7%
製造7739812.7%26634.4%40952.9%
建設3996516.3%11027.6%22456.1%
運転/配達4234610.9%15336.2%22453.0%
専門/技術1,67833119.7%46227.5%88552.7%
その他90011412.7%26028.9%52658.4%
就業制限一度も経験なし10,1351,41013.9%3,05630.2%5,66955.9%<.001
過去に経験あり79921526.9%29236.5%29236.5%
現在あり21010449.5%5224.8%5425.7%
従業者数(人)1–91,2641209.5%44635.3%69855.2%<.001
10–492,19022510.3%77235.3%1,19354.5%
50–991,18514312.1%39233.1%65054.9%
100–2991,68923313.8%54132.0%91554.2%
300–49981214718.1%24129.7%42452.2%
500–99992416417.7%26829.0%49253.2%
1,000–3,08069722.6%74024.0%1,64353.3%
業種建設業75711214.8%23030.4%41554.8%.381#
製造業1,81532718.0%51728.5%97153.5%
運輸業/郵便業6379615.1%19831.1%34353.8%
卸売業/小売業2,39333013.8%76932.1%1,29454.1%
宿泊業/飲食業1,07617015.8%35833.3%54850.9%
学術研究/教育69012017.4%22132.0%34950.6%
医療/福祉1,36722216.2%41130.1%73453.7%
その他2,40935214.6%69628.9%1,36156.5%
厚労省の取り組み知っている74036449.2%14119.1%23531.8%<.001#
聞いたことはある2,75356420.5%90732.9%1,28246.6%
聞いたことがない7,65180110.5%2,35230.7%4,49858.8%
相談窓口ある2,9881,10637.0%55618.6%1,32644.4%<.001#
ない5,6074417.9%2,30041.0%2,86651.1%
わからない2,5491827.1%54421.3%1,82371.5%
産業医常勤でいる1,43945431.5%28019.5%70549.0%<.001#
非常勤でいる2,64357421.7%68826.0%1,38152.3%
いない5,99661310.2%2,24137.4%3,14252.4%
わからない1,066888.3%19117.9%78773.8%

職種は日本標準職種分類(大分類)を6カテゴリーに再分類した

業種は日本標準産業分類(大分類)を8カテゴリーに再分類した

#事業所規模調整したCochran-Mantel-Haenszel検定による

表7に職場への申出の意識に関わる要因を示した.職場への申出は「メリットになることの方が多い」という意識は,厚生労働省の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,事業所内の産業医の認知と有意な正の関係(オッズ比1以上)を認め,過去と現在の就業制限の経験もメリットの意識を高める方向に関係した.一方,職場への申出は「デメリットになることの方が多い」という意識は,厚生労働省の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知,事業所内の産業医の認知と有意な負の関係(オッズ比1未満)を認め,従業者300人未満の事業所,過去の就業制限の経験,職種のうち営業/接客,製造,運転/配達がデメリットの意識を高める方向に関係した(ただし,Hosmer-Lemeshow検定によるモデル適合度は良くなかった).

表7. 職場への申出の意識に関わる要因
メリットが多いデメリットが多い
オッズ比95%信頼区間オッズ比95%信頼区間
雇用形態正社員(管理職)1.120.98–1.280.980.88–1.08
正社員(非管理職)1.00reference1.00reference
契約・嘱託1.040.85–1.281.140.99–1.32
職種事務1.00reference1.00reference
営業/接客0.930.80–1.081.161.04–1.29
製造0.760.59–0.981.341.12–1.59
建設1.020.75–1.410.930.73–1.19
運転/配達0.770.55–1.101.391.11–1.73
専門/技術1.150.97–1.360.990.87–1.14
その他0.760.60–0.971.000.85–1.18
就業制限過去に経験あり1.651.37–1.991.641.40–1.92
現在あり2.842.05–3.951.150.83–1.60
従業者数(人)1–91.050.82–1.331.191.02–1.39
10–490.990.82–1.211.221.07–1.40
50–990.900.72–1.121.191.02–1.39
100–2990.920.76–1.101.211.06–1.39
300–9990.990.84–1.171.140.99–1.31
1,000–1.00reference1.00reference
厚労省の取り組み知っている3.102.59–3.700.710.58–0.86
相談窓口ある5.254.62–5.960.500.45–0.56
産業医いる1.291.12–1.490.840.75–0.93
Hosmer-Lemeshow検定χ2=13.05,p=.110χ2=16.40,p=.037

職種は日本標準職種分類(大分類)を6カテゴリーに再分類した

オッズ比は性年齢を調整した多重ロジスティック回帰モデルによる

職場への申出は「デメリットになることの方が多い」と答えた者(3,496名,31%)にデメリットの内容を尋ねたところ,全体では,「上司や同僚に迷惑をかける」(52%),「給料が下がる」(50%),「職場に居づらくなる」(48%)の順に多かった.非正規雇用者(契約・嘱託,派遣)に限定すると,「雇用契約を打ち切られる」(50%),「職場に居づらくなる」(48%),「給料が下がる」(47%)の順に多かった.

考察

全国労働者12,000名にアンケート調査を行い,治療と仕事の両立支援について,支援制度の認知と利用申出の意識を調査した.前回2018年調査4から1年半を経ても,厚生労働省の両立支援の取り組みは労働者に十分認知されておらず,職場に病気を申し出て支援を請うことに抵抗感を持つ労働者の方が多いことが示された.両立支援の実施検討は,労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことを基本としている2ことから,支援制度の認知の低さ,利用申出の意識の低さは本制度の普及を阻む,極めて大きな問題であると考えられる.

厚生労働省の両立支援の取り組みの認知は,「知っている」者の割合が前回(2018年)6%に対し,今回(2020年)7%(正社員に限定しても7%)で違いが見られなかった.前回2018年調査4は従業者10人以上の民間企業に限定しており,双方の結果を厳密に比較することはできないが,支援制度の認知が明らかに進んだとは言いがたい.厚生労働省の取り組みを「知っている」者の割合は,雇用形態別にみると,派遣で有意に低かった.東京都保健福祉局が実施した実態調査から,非正規雇用者が柔軟な働き方を選択できる環境が十分整備されていないことが示されている10.「働き方改革実行計画」1に基づき,非正規雇用者の格差是正が進められているところであるが,本研究の結果から,派遣労働者に関しては,支援制度の整備だけでなく,そもそも支援制度の認知でさえ進んでいない実態が明らかになった.非正規雇用者でも,特に派遣で,正社員との開きが大きかったことから,おそらく健康管理の責任所在の違い(派遣労働者の健康管理は派遣元と派遣先の双方に責任を課せられている)9がこのような情報格差を生じた原因だろうと推察された.派遣社員に対しても両立支援を進められるように,安全衛生教育,健康診断,長時間労働者の面接指導と同様に,派遣元と派遣先が協力・連携し,情報提供と環境整備に努める必要があることを再認識すべきである.

事業所規模別にみると,規模が小さい事業所ほど,厚生労働省の取り組みを「聞いたことがない」,相談窓口が「ない」と答えた者の割合が高かった.前回2018年度調査において,規模が小さい企業では,経営者レベルでも,厚生労働省の取り組みが知られておらず,相談窓口の設置などが遅れていることが示されており4,このことを反映した結果だろうと解釈される.一方,業種間の比較では,厚生労働省の取り組みの認知,事業所内の相談窓口の認知ともに顕著な差異が見られなかった.治療と仕事の両立に関する問題は約10年前からさまざまなかたちで取り組まれ11,ガイドライン以外にも,Webサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」を通じた情報発信や全国各地のシンポジウム/セミナーの開催などが進められてきた12.平成30年労働安全衛生調査(事業所調査)13によれば,治療と仕事を両立できるような取組を行っている事業所の割合は55.8%と前年より9.1ポイント増加した.しかし,取組内容は個別の労働時間や勤務内容の調整(90.5%)が主体で,相談窓口の明確化(23.1%)や労働者の意識啓発(12.3%)は多くない.該当事例が発生してから対処方法を検討している様子がうかがわれ,事が起きる前に本制度を従業員に知らしめる活動は十分とは言えないように思われる.本研究から明らかになった支援制度の認知の低さ,利用申出の意識の低さを解消するために,各事業所で従業員に対する啓発活動を積極的に進めることが求められる.規模が小さい事業所にも支援制度の導入を進めるには,まずは企業経営者に本制度の意義を伝えるように,多方面から繰り返しアプローチしていく必要があるだろう.

職場への申出の意識は,「メリットになることの方が多い」と思う者の割合が前回(2018年)18%に対し,今回(2020年)15%(正社員に限定しても16%)で違いが見られなかった.一方,「デメリットになることの方が多い」と思う者の割合も前回(2018年)33%に対し,今回(2020年)31%(正社員に限定しても30%)で違いが見られなかった.先述のとおり,前回2018年調査4は従業者10人以上の民間企業に限定しており,双方の結果を厳密に比較することはできないが,利用申出の意識が改善したとは言いがたい.多重ロジスティック回帰分析の結果から,厚生労働省の取り組みや事業所内の相談窓口を知っていることがメリットの意識を高め,デメリットの意識を抑える方向に働くことが示された.このことは,支援制度の存在を知らしめることが利用申出の促進につながる可能性を示唆している.デメリットの意識に関わる因子として,このほかに,従業者300人未満の事業所と過去の就業制限の経験が示された.支援制度が知られていない規模が小さい事業所では,利用申出を否定的に捉える者が多いことがわかる.過去の就業制限の経験はメリットの意識を高める因子としても示されており,病気のため通常どおり勤務できなくなったときの職場の対応に満足した者は肯定的に,そうでなかった者は否定的に捉えるようになったと推察された.その一方,現在の就業制限の経験はメリットの意識を高める因子であって,デメリットの意識を高める因子としては示されていないことは特筆すべきであり,要就業制限者に対する職場の対応が以前よりも改善されていることがうかがわれる.厚生労働省の取り組みの認知や事業所内の相談窓口の認知と共に,事業所内の産業医の認知がメリットの意識を高め,デメリットの意識を抑える方向に働くことが示された.産業医は従業員の健康を考え,治療と仕事の両立に関する相談に対しても,適切に対応し,専門的な助言を与えてくれるという期待を反映した結果であると考えられる.産業医および産業看護職には,このような従業員の期待に応えるべく事業所内の相談体制を整えること,また,医療専門職という立場から,従業員に対する啓発活動を積極的に展開し,両立支援を推進していくことが求められる.

職種との関係については,営業/接客,製造,運転/配達に従事する者がデメリットの意識を持ちやすいことが示された.営業/接客は顧客への対応を主たる業務とするため,顧客の都合を優先せざるを得ない,担当業務を代えにくいなどの事情から申出しにくい状況にあると思われる.このことは,営業・販売・接客が他の職種に比べ,年次有給休暇の取得率が低く,休暇取得にためらいを感じる者が多いという報告からも裏付けられる7.製造,建設,運転/配達は,肉体労働が中心であるため,職場に病気を申し出ることが配置転換や欠勤・休職につながると考える者や,シフト制が一般的であるため,勤務シフトを外れにくいと感じている者が少なくないと思われる.そのなかで建設が統計的に有意とならなかったのは,建設業は規模が小さい事業所が多く(表1),事業所規模の影響の方が大きいため,職種としての影響が見えなくなったと推察された.両立支援における職種による違いを調べた研究はこれまで報告されていないが,本研究の結果から,雇用形態と共に,職種の特性に配慮した支援制度のあり方を検討する必要性が明らかになった.ガイドラインには,職種が申出に影響する可能性を明記すること,各事業所には,申出をためらいやすい職種があることを認識したうえで,誰もが申出しやすい環境づくりに努めることが求められる.

本研究の結果は全国労働者12,000名が参加した大規模な調査に基づき,治療と仕事の両立支援に関する実情を表わすデータとして有用である.ただし,調査回答者は調査会社のアンケートパネルから募集され,日本のすべての労働者を代表する集団とは言えない可能性がある.回答を自己申告に頼っていることによる情報バイアスや,回答を途中で止めた者が抜けていることによる選択バイアスの可能性を否定できない.設問文と選択肢は本研究のために作成したもので,信頼性・妥当性を検証されていない.また,職場への申出の意識に関する多変量解析(表7)に関しては,Hosmer-Lemeshow検定によるモデル適合度が良くなかったことから,確定的な評価結果とは言えない.このため,結果の解釈と一般化は慎重にすべきである.治療と仕事の両立支援を推進するために,同様の調査を今後も定期的に実施し,普及状況の把握と支援制度の改善に努めることが望まれる.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

資金提供:本研究は労災疾病臨床研究事業費補助金を受けて行われた.

文献
 
© 2020 公益社団法人 日本産業衛生学会
feedback
Top