SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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Field Study
Educational support for obtaining national qualifications of foreign care workers: A qualitative analysis
Junko KameyamaYumi HashizumeHisako Yanagi
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2021 Volume 63 Issue 4 Pages 133-142

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抄録

目的:本研究は,外国人介護福祉士候補者(以下,候補者)の国家資格取得に向けた就労継続と教育支援上のニーズや課題を明らかにすることを目的とした.対象と方法:国家試験を受験し合格した12人を対象に半構造化面接を実施し,グラウンデッド・セオリー・アプローチの継続的比較分析を援用した.分析結果の妥当性は,member checkとpeer debriefingで検討した.結果:「国家資格の取得過程にある壁」を中核カテゴリに,外国人介護職者と受入れ施設に関わる要因として4つのカテゴリが,受入れ施設と施設での教育支援に関わる要因として6つのカテゴリが抽出された.考察と結論:合格者から見る就労継続と教育支援上のニーズや課題は,研修面と実務面の両方にまたがって多様なこと,外国人である候補者の権利保障に関わることが考えられた.国家資格取得のための教育支援として,就労と学習両立に関わる多様なニーズへの対応を要し,現行の育成プログラムには限界があることから,改善は喫緊の課題である.

Abstract

Objectives: The purpose of this study was to clarify the needs and issues of continuing employment and educational support for foreign care worker candidates (hereinafter referred to as candidates) to acquire national qualifications. Methods: Semi-structured interviews were conducted with 12 people who took and passed the National Examination for Care Workers. The data was analyzed using the constant comparative method of the grounded theory approach. The validity of the results was examined by member checks and peer debriefing. Results: With “the wall in the process of acquiring national qualifications” as the core category, four categories were extracted as factors related to foreign care workers and accepting facilities, and six categories were extracted as factors related to accepting facilities and educational support. Conclusions: We considered that the needs and issues of continuation of employment and educational support from the perspective of successful applicants are diverse across both training and practical aspects, and are related to the protection of the rights of foreign candidates. Educational support for acquiring national qualifications should meet various needs related to working and learning at the same time, and there are limitations to current training programs. It is necessary to evaluate and improve the current program based on this new knowledge.

I. はじめに

我が国の2025年度の介護人材の需要見込みは253万人とされる.一方で,将来の生産年齢人口の減少等の予測を反映した供給見込みは215.2万人とされ,37.7万人の不足が確定値として示された1

本邦は,2008年に締結された経済連携協定(Economic Partnership Agreement; EPA「以下,EPA」)に基づき,インドネシア,フィリピン,ベトナムの3か国から介護福祉士候補者(以下,候補者)の受入れを開始した.また,2018年,介護福祉士の資格所有者を対象とした出入国管理及び難民認定法(以下,入管難民法)と外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律が発効された2.続いて,2019年4月,外国人労働者の受入れ拡大に向け,在留資格「特定技能」を新設する入管難民法改正が施行され2,今後,介護分野ではより一層の外国人労働力の流入をみせることが予測される.

しかし,定着率に関しては, EPAに基づく候補者のおよそ27%が雇用契約終了の4年次で帰国しており3,日本人介護職者の年間離職率15.4%4と比べて低くはない.また, 2008年から2016年までに入国した候補者のうち,介護施設で就労を継続する者の数は,入国者数全体の約14%に止まった5

本邦において候補者は,社会福祉士及び介護福祉士法により,国家試験受験資格として介護等の従業期間3年以上,かつ実際の従事日数540日以上の要件を満たす必要があり,この期間,候補者は,実務内容の習得(on job training; OJT「以下,OJT」)に併せ,日本語と受験に向けた専門的学習に携わることが求められる.すなわち,候補者が国家資格を取得するためには,教育支援とともに就労継続支援が重要であると考える.

これまでの内外の先行研究では,介護を含めた外国人労働者の離職要因を探索した研究は比較的多い.しかし,介護に従事する外国人職員の国家資格取得のための就労継続・教育支援に関するニーズと課題を研究した報告は数少ない.

国外の先行研究では,外国人労働者は低賃金な職種の場合,より名声のある専門職へ就くための一通過点と見なして離職する傾向と6,第2言語能力や所有資格の乏しさからNativeの労働者と関わる中で劣等感を体験し,マイノリティであることから社会的,経済的な差別を認識して,昇進の機会もほとんどないため離職に至る傾向が指摘されている7,8.言語能力については第2言語に限らず,専門用語など職場で用いられる言葉の障壁が離職要因となっている9.なお,本邦の介護施設に類似した施設で従事する外国人労働者に関するものが1件あり,そこでは移民者(非白人)の1年以内の離職意向と関連する要因として,施設利用者やその家族に敬意を払われないことが示されていた8

国内の先行研究では,高齢者施設において,日本人職員と外国人介護職員双方による文化的適応を促し,協働を可能とする組織文化を築くための課題を分析した研究10や,職場の就労条件への満足度が高いほど日本において介護職員としてキャリアを形成したいという意向が強くなることを示唆した報告など11,外国人介護職の受入れに係る課題改善に主眼を置く研究報告は散見される10,11,12,13,14,15,16,17,18,19.しかし,介護に係る教育の視点から就労継続の課題を示した報告は,官見によれば1件のみであった.そこでは,看護師資格を有する候補者が自国で受けた看護の教育的背景と日本における介護業務内容との結びつきが低いことから,外国人介護職員の定着に向けて介護に関わる基本的事項の教育を支援する必要性が指摘されていた20

介護福祉士の国家試験に合格した外国人介護職員の7割は在留し,介護職者として就労を継続しており5,有資格者の就労希望期間は無資格者に比べて長い21.また,外国人を含む介護職者全体の平均勤続年数は,保有資格のない者の4.4年に対して8.0年と長いことから22,外国人介護職者のより長期的な就労継続には,国家資格取得に向けた支援が有効と思われる.また,先述した候補者の国家資格に関する法的規定により,候補者にとって教育支援と就労継続上の支援は不可分である.そこで本研究は,介護に従事する外国人職員の国家資格取得に向け,就労継続と教育の視点から必要な支援に関するニーズと課題の明確化を目的として質的研究を実施することにした.

II. 研究方法

1. リクルート方法

候補者を受入れている11の介護施設を選定し,施設責任者に研究の概要について口頭及び書面による説明を行い,8施設から研究協力に同意を得た.調査対象は施設責任者から推薦されたEPAに基づく外国人介護職者で,被推薦者となった外国人対象者へは,個別に研究の概要に関する説明を行い,参加を依頼した.

2. 調査対象

2019年1月に介護福祉士国家試験を受験した者で,日本語能力N3もしくは同等以上の能力のある者とした.日本語能力は,外国人介護職者を対象とした先行研究21を参考に設定した.

3. 倫理的配慮

研究協力の依頼にあたり,『介護に従事する外国人職員の国家資格取得に向け,就労継続と教育の視点から必要な支援に関するニーズと課題について明らかにする』という本研究の目的を明示した文書を提示した.外国人対象者向けの調査依頼書の文章は,難解な漢字や用語の使用を控え,ふり仮名を用いた易しい日本語で記した.匿名性を保障することと,面接は対象者の自由意思で行われることを口頭及び書面にて説明した.

調査は個別面接とし,同意が得られた場合にのみ録音を行った.本研究は,筑波大学医の倫理委員会の承認を受けて行った.(承認日:平成31年1月30日,承認番号:第1368号)

4. データ収集と分析方法

先行研究が皆無に等しいことから,質的記述的調査による探索的研究を行うこととした.同意を得られた対象者の個々の都合日時に合わせて施設訪問し,インタビューガイド(表1)に基づき半構造化面接を実施した.インタビューガイドの設問は,データ収集者のバイアスがかかるのを抑制するため,広く対象者の認識を引き出すことを念頭に置き23,国家資格取得を目指していたときの教育支援や就労状況のニーズについて,より具体的な回答を引き出せると考えた構成にした.面接は,1人あたり1回であった.データの解釈にあたっては,個別事象から共通の要素を抽出し,当該現象を説明できるような理論・モデルを生成することにおいて,本研究の目的に合致することから,グラウンデッド・セオリー・アプローチ24の継続的比較分析を援用した.

表1. インタビューガイド
基本的属性
 1.所属
 2.国籍
 3.年齢
 4.性別
 5.日本語能力
 6.所有資格
 7.日本における就労・研修期間
 8.介護福祉士国家試験の結果
質問項目
 1.来日にあたっての目標
  日本に来るときに目標はありましたか.
  日本に来る前と来た後で,目標は変わりましたか.
 2.日本における学習に関する質問
  日本で勉強に使える時間は,週に何時間くらいでしたか.
  日本での勉強に対して,今どう感じていますか.
  日本での勉強で,困ったなと感じたことはありましたか.
  日本での勉強で,良いなと感じたことはありましたか.
  どうなれば,日本での勉強がもっと良くなると感じますか.
 3.日本における実務に関する質問
  日本での仕事は,どのような事をしていますか.
  日本での仕事に対して,今どう感じていますか.
  日本での仕事で,困ったなと感じたことはありましたか.
  日本での仕事で,良いなと感じたことはありましたか.
  どうなれば,日本での仕事がもっと良くなると感じますか.
※  施設責任者より聴取した

まず,面接中に録音された全ての語りを文字化した.次に,本研究のカテゴライズは次のプロセスで行った.まず,文字化した対象者の語りを読み込み,意味内容が類似する発言を部分的に抽出し,それぞれの内容のまとまりを対象者の語りに最も近い概念であるコードとして示した.例えば,対象者の「利用者の人の言うことが分からないんです.聞き取れない」という発言と「利用者と話すときは方言とか使って.聞き取れなかったんです」という発言を抽出し,コード名〈発話の聞き取れなさ〉を付与してサブカテゴリとした.その後,複数の対象者間で共通性のあるコードをまとめて整理し,それらを統合してカテゴリ《介護に関わる日本語能力とコミュニケーション技術》とした.さらに,カテゴリ間の差異と共通性を継続して比較しながら,すべてのカテゴリ《介護に関わる日本語能力とコミュニケーション技術》《勉強に困ったときの解決法》《長期休暇希望と取得の間に生じる心理》《職場の人間関係》《勤務体制と勉強時間の設定》《勤務に伴う疲労》《介護場面における施設利用者への対応に係る困難》《指導者の専門分野・指導方法》《受けたい指導と施設の支援体制》《国家試験のプレッシャー》を網羅すると解される,中核となるカテゴリ【国家資格の取得過程にある壁】を定めた.分析結果の妥当性は,データと暫定的な解釈をデータ提供者のもとに示し,その分析結果が現実的に妥当なものかを尋ねるmember checkと,分析結果が創出される毎に,質的研究におけるスーパーバイザーの意見を求めながら検証を繰り返すpeer debriefingを行った.最終的に中範囲理論としての妥当性について,質的研究の実践者から,エキスパートレビューを受けた.エキスパートレビューのもとの妥当性の判断においては,月に2度,本理論の枠組みに含まれるすべての概念(コード)について,対象者の語りからの明確な説明が可能かどうか検討を重ねて行った.

5. データ収集期間と面接時間

調査期間は平成31年3月28日~令和元年6月30日である.12名の面接に要した総時間数は453分(7時間33分)で,1人当たりの面接時間は11分~67分(平均38分),全データの文字数は63,635字であった.

III. 結果

1. 対象者の基本的属性

協力が得られた対象者は,12人であった.うち10人が女性であり,年齢は27~32歳(平均29歳)であった.国籍は,インドネシア1人,フィリピン6人,ベトナム5人であった.所属は,老人介護保健施設が1件,特別養護老人ホームが8件,障害(児)者支援施設が3件である.日本語能力は,最も高いレベルから順にN1が1人,N2が8人,N3が3人であった.12名すべての日本における就労・研修期間は3年7か月~4年7か月で,国家試験受験要件を満たしている.全対象者が自国で看護師資格を取得しており,全員が平成30年度の介護福祉士国家試験を合格していた.

2. 外国人介護職者の国家資格取得を困難にし得る要素

抽出された中核カテゴリと主要カテゴリを【 】,カテゴリを《 》,サブカテゴリを〈 〉でそれぞれ示した.また,対象者の言葉の引用は「 」内に示し,末尾に発言者のID番号を付記した.引用文中に( )で語句を補い,対象者の語りの意味を損ねない範囲で改変した.結果として,中核カテゴリ【国家資格の取得過程にある壁】と,2つの主要カテゴリ,10のカテゴリ,そして33のサブカテゴリが抽出された.

1) 【外国人介護職者と受入れ施設に関わる要因】

(1) 《介護支援に関わる日本語能力とコミュニケーション技術》

対象者は,施設利用者(以下,利用者)の〈発話の聞き取れなさ〉に困難を感じていた.具体的には,「聞き取れない.歯がなかったり,認知症の人だったり(#1)」「利用者と話すときは方言とか使って.で,聞き取れなかったんですね(#8)」と口述され,利用者の加齢による器質的変化や疾患に伴う構音機能の低下および認知症による発語への影響や方言に起因していた.また,「私は,日本語まだまだできなくて(#4)」等,外国人である対象者は〈日本語の運用能力の不足〉を抱えており,それは,《介護場面における施設利用者への対応に係る困難》に後述する〈母語の違いによって生じる壁〉にもつながっていると解釈した.

また,対象者は全員看護師資格を取得していたが,臨床経験を持たない者も多く,その場合は〈看護師であるが経験はない〉ために「介護をどういう仕事か,最初は分からない人もいると思いますね(#8)」と,業務内容を覚え,慣れてゆくために支援を求めていることが語られた.

(2) 《勉強に困ったときの解決法》

対象者は,勉強に困ったとき「現場の職員,先輩も.自分で解決できない場合は,他の人に頼りますね(#2)」と,自分なりの解決方法を見出していた.一方で,「誰にも相談しなかった.言えない(#5)」や「自分で(解決)できるなら言わない.我慢する(#3)」のように,〈我慢し続ける〉ことで上手く解決できているとは言えないケースもあった.この「我慢」を共通言語とする語りをしたのは12人中5人で,全てフィリピン国籍の女性であった.また,「SNSで『(自分の施設の困りごとについて)こんなことがある』と相談すると,『うちも』とか『ここでも同じことがある』と返事がたくさん返ってきます(#1)」「同じEPAの友達とかも相談するし(#3)」と,〈EPA独自のソーシャルネットワーク〉を活用して解決を図る者もいた.

(3) 《長期休暇希望と取得の間に生じる心理》

候補者は,年次有休の全てを用いて最長2週間の休暇を取得することがある.この期日に対して対象者は,「短いですよね?(#12)」と率直な気持ちを述べた.また,「母とか(電話で)いつも力もらっても,ああ,会いたいよーって(#11)」と〈家族と離れて海外で働く心境〉を口にした対象者もいた.その反面,〈同じ職場の日本人職員への遠慮〉を口にする対象者もおり,「(日本人)職員可哀そうだから.もし(自分が長期休暇を取ると),本当に職員少なくて(迷惑をかけてしまう)(#10)」といった,後ろめたさを交えて語られた.しかし,〈候補者の心に生じる葛藤〉もあり,「休み取れないです.(自分が長期休暇を取ると)『なんで〇〇(自分の国籍)人だけ特別に?』って,そういう(ふう)になっちゃうんです(#11)」「でも私外国人だから,本当に.本当に私,特別だから.そう思うときもあります(#6)」と日本人職員から受ける反発を感じて苦悩する様子が窺えた.

(4) 《職場の人間関係》

対象者は,「日本人は(間違いに)気づいたら(気づいたとしても),本人に,そこ(間違っている)と言わないですね(#3)」といった,所属するグループの和を乱さない意図で同僚の誤りを直接指摘しないという25,26〈日本人特有の気遣い〉を指摘した.また,「私,最初は,日本人あまりいい人(と)思っていなかった.(日本語を)間違えたら怒るかもしれないと思っていて(#4)」というような,来日当初の〈まだ日本を知らないことによって生じた誤解〉もあり,中には,「(勉強で分からないことでも)聞かない方がいい.忙しくて教える暇はない,分からないと(職員が)答えてくる(#5)」のように,対象者から職員に学習内容等について援助を求めた際に拒絶された体験を契機に,〈日本人職員からの援助に対する諦観〉を抱いたものもあった.他に,「疲れていても,いいイメージを(同僚や利用者に)持ってもらう必要がある(#5)」に表出されるように,勤務で疲弊しながらも〈人間関係の構築のための努力〉を続けるケースもあった.さらに,人間関係と気遣いに関する語りは,施設職員に対してのみではなく,〈職場で支援する職員の体制づくりの不完全さ〉へも向けられていた.具体的には「悩みあって,誰々に相談すると(別の)誰々に相談するようにって言われて,(いつまで経っても)解決しない(#12)」のように対象者の問題解決に向き合う職員が乏しいことに対する事項も抽出された.

2) 【受入れ施設と施設での教育支援に関わる要因】

(1) 《勤務体制と勉強時間の設定》

このカテゴリは,〈学習能率との密接な関係〉を示す.「遅番のときは(勉強は)しない.次の日が早番なら(勉強は)無理だと思います(#2,#10)」「シフトが変わっていることで,なかなか勉強する時間取れなかった(#11)」のように,勤務体制やシフトと関連して物理的に学習時間が取れない場合が示された.

また,上記に関連して,「施設での勉強時間は,1~2年目は少ないと感じました(#1)」「1日1時間だけなのであまり集中もできなくて(#7)」といった,〈勤務時間内に設定された学習時間の短さ〉に関して,是正を望む点が抽出された.さらに,勤務時間内に設定された学習時間の不足は,「週に4時間から6時間は,自分で勉強しました(#1)」といった,休日や勤務以外の時間を使って補う〈勉強のための自由時間の削減〉や,「家に帰っても勉強しなければなりませんから,不安でした(#2)」のように〈不安の醸成〉にも結びついていた.

これに関連し,「勉強の時間.(雇用)契約に勉強のサポート(を保障すると)書いてありますけど,でも,あのー,こっち(受入れ施設)に来たら,もう無かった.そして,給与は,(可処分所得を増やしたいのなら)夜勤入ってしまえと言われた(#10)」のような,〈契約不履行による人権にかかわるケース〉が抽出された.

(2) 《勤務に伴う疲労》

対象者は,様々な要因から疲労を感じていた.「仕事が休みの日は休みたいけど,勉強とかやらないといけないし(#3)」「(夜勤の後は)勉強できない.もうバタンキューです(#12)」のように,先述の《勤務体制と勉強時間の設定》に関連するものから,また,「日本語で仕事を覚えるのが大変(#2)」に示される〈すべての業務を日本語のみでこなす難しさ〉や,「(人員が自分)1人の時間で,入居者さん何人か(ら同時に)呼ばれて,対応しきれないときはつらいです(#4)」のように〈職員の不足をカバーする状況〉や,「全介助とか多いし,トランスファーとか多いし,それ毎日,だいたい毎日やってて,腰とかやられて(#11)」と〈業務内容に特徴づけられる慢性化した疲労の蓄積〉にまで及んでいた.本研究では対象者の42%(5人)から腰痛の訴えを確認した.これらの疲労は,「仕事をして疲れ,疲れて,なんか勉強したくなくなりますね(#8)」と〈学習意欲低下への連鎖〉するようなマイナス要因にもなっていた.

(3) 《介護場面における施設利用者への対応に係る困難》

利用者の精神症状などに起因する〈ハラスメントを被る経験〉や,他の介護職員の対応から,職員が提供するケアの方法に対して抵抗感を語る対象者が多く見受けられた.対象者12人中6人が業務の中で,利用者の精神症状などに起因するハラスメントを述べており,「不穏のときは辛いです.この3年間で2回,3回殴られました(#1)」「私の髪,引っ張られちゃったんですね.もう,すごく痛かったですね(#6)」といった実体験にて語られた.また,「(利用者から)『もうやだよ.言葉さっぱり分からないよ』って言われていました(#11)」といった〈母語の違いによって生じる壁〉を感じたものもあった.

このような対応に係る困難に対しては,「どうしようもない感じ.暴力と暴言のときは,(施設の指示に従い)紙に(利用者から)何を言われたか(されたか)書いて.で,(それ)だけですね(#7)」のように,〈ハラスメントを受けた時の施設側の対応の脆弱さ〉が見いだされ,施設側が具体的な対策を講じていない現状の中で,候補者は不本意に過ごしていることが確認された.

他方,〈特定の介護職員によるケア方法への抵抗感〉では,「隣に座って話をしたりしますが,(高齢の利用者が)また動き始めるため,そのうちに(職員は),ああ!って(苛立ちを含んだ大声を真似し,その高齢者の腕を抑えるジェスチャーをしながら)こうしたりします(#1)」と,落ち着かない高齢者の動きに際し,転倒予防など安全上の配慮の意味も考えられるが,高齢者を制止する職員の対応に抵抗を感じていることや,「利用者さんに介助するとき,あのー,優しい気持ちで(接した方がいい).あんまり,なんか,大きい声でとか(で)怒るのは,あんまり(#9)」と,対象者なりに利用者への望ましい対応を考えている点が抽出された.

(4) 《指導者の専門分野・指導方法》

対象者の12人中9人(75%)が,「日本語分からなかったら専門用語も分からない(# 1, 3, 4, 6, 他)」と答え,「日本国憲法とか言葉も難しくて,何回聞いても覚えられなかった(#4)」のように〈日本語教育の重要度に反する指導方法の未充足感〉を強調した.また,国家資格取得に向けて〈教育的知識と専門的知識を兼ね備えた指導者の不在〉も感じていた.実務と学習の中で対象者は,「専門(的なこと)は,他の人に聞いても分からない(#1)」や「職員だから,先生ではないので,(実務に関する日本語の)教え方も分からない(#7)」と学習上の支援について物足りなさを語った.一方,良いケアとはどういうものか自身の考えを問われた際には,「いいケアは,利用者さんの気持ち,ちゃんと,はい.あのー,あのー(#8)」のような不確実な回答が見受けられ,〈良質なケアに関する確かな感覚の言語化を促進する教育的関りの不足〉が垣間見えた.このことは,「(介護に対する自分なりの)理想論あります.相手の意志を尊重しますとか.でも,(実際には)トイレに行きたいと車椅子を動かす人にも待ってもらってまとめてトイレ(へ)誘導します.理想は,(現場では)あまり役に立たないと思いました(#1)」が示すように,適切とは言えない介護実践の中で,いつしか〈介護における理想像を見失う〉状態につながる場合があると解された.

(5) 《受けたい指導と施設の支援体制》

このカテゴリは《勤務に伴う疲労》にて先述した〈業務内容に特徴づけられる慢性化した疲労の蓄積〉に係る〈腰痛対策の不足〉として確認された.対象者は,「(腰の)痛みは,あるけど,もう大丈夫.我慢できる.(#10)」と述べ,適切な対応を受けているとは言い難い状況が見いだされた.

また,国家試験では,高齢者に限らず幅広い年齢の対象や障害に関しても出題される.しかし,高齢者施設で研修する対象者では,「私は(携わっている仕事は)老人介護なので,子どもとか,障害のこと分からないので大変です(#1)」のように〈受入れ施設ごとの特徴から受ける学習への影響〉の大きさが語られた.

(6) 《国家試験のプレッシャー》

「勉強しなければならないというプレッシャーがある.辛い(#5)」のように〈試験に特化した精神的重圧〉が抽出され,「怖いと思いました.大きな不安です(#6)」といった,不安を抱えながら受験までの日々を過ごしている様子が窺えた.

IV. 考察

1. 外国人介護職者と受入れ施設に関わる要因

本研究で抽出された〈日本語の運用能力の不足〉が示した言語能力の制限に起因する混乱や誤解は,先行研究9が提示していた雇用側と被雇用側の問題を超える,新たな課題を示している.例えば〈言葉の聞き取れなさ〉においては,介護に従事する外国人において,読む・書く・聞く・話すといった技能の獲得に止まらない,より高度な言語能力と技術の獲得について支援する必要性を提示した.それは,利用者が高齢であることに加え,身体的に被った障害に起因する対話機能や精神機能に何らかの障害をもつ人に関わる職種に求められるものである.さらに,〈看護師であるが経験はない〉という,候補者の背景がもたらす制約の影響も考えられた.

本研究では,対象者の75%(9人)が専門用語の習得を前提とした日本語学習の切迫性を国籍(内訳:インドネシア1名,ベトナム4名,フィリピン4名)に関係なく表出していた点を確認したが,これについては,緊切な人材不足に晒される日本の介護領域において,候補者であっても直ちに現場の即戦力として期待される現状が関与すると考える.現在,日本の約7割の施設が介護職員の募集に難渋しているとされるが18,その中で,第2言語である日本語で対人援助業務のすべてを担う候補者の負担は大きいといえる.

加えて,〈人間関係の構築のための努力〉が示すように,候補者は言葉のハンディに加えて,異なる文化的背景を持つ異国で,良い人間関係構築のため,努力を続けている点が浮き彫りになった.このことから,彼らの文化やメンタリティを理解した上で,必要な教育上の支援を検討することは重要と考える.これは学習動機の維持と向上に結びつくものと捉えられ,特に,外国人介護職者にみられる《長期休暇希望と取得の間に生じる心理》に対しては,休暇に関する事業所の方針および状況説明をきちんと行い,候補者の理解を得ること.また,介護職者間でのコミュニケーションを促進すること,さらに,家族に会えない候補者へのメンタルケアを十分に行うことが重要と考えられた.

こうした様々な課題の中で候補者は,それぞれ独自に解決の糸口を見出していたことが確認されたが,同時に福祉職の倫理規定に関わる点から教育支援を検討する必要性も見いだされた.例えば,SNS等を用いた〈EPA独自のソーシャルネットワーク〉である.海外で就労・研修を継続する候補者にとってSNSは,蓄積したストレスを軽減する効果を持つことから,重要なサポート資源とされている27,28,29,30.加えて本研究では特に,仕事上で候補者が気づいた問題の原因を理解し,解決のために日本人介護職者等から適切な助言を得る際に,自身が置かれた同様の状況を熟知する身近な他者と結びつけるもの30としての意義が確認された.その一方でSNSを介した問題解決の手段には,施設に関する情報漏洩・拡散の危険性が懸念される31.この解決においては,社会福祉職の倫理規定に関する教育支援として検討する必要性と,同時に仕事の上で困ったときに相談する相手として,候補者が職場以外の人を選択せざるを得ない状況に置かれている現状に留意する必要性を指摘すると考える30

本研究において〈我慢し続ける〉ことはフィリピン女性に特徴的な傾向を見出していたが,このことを別の角度から見るなら,候補者の出身国の文化的背景を考慮した教育上の支援の必要性を示唆すると考えられる.例えば,今回対象とした介護職者の出身国はインドネシア,フィリピン,ベトナムで,彼らはいずれもチームとしてまとまり,一致団結して目標に向かう色合いの強い国民性を背景に持ち,また,彼らの祖国は独自性を活かし柔軟な発想や創意工夫を求める職場風土も併せ持つ32.一方,〈日本人特有の気遣い〉が示すように,同じアジア圏であっても日本の組織文化は上層部の決定に従うという異なる様相を呈している.このような管理体制で,〈職場で支援する職員の体制づくりの不完全〉な状況下にあって,特に来日間もない候補者にとっては学習上や職務上の困りごとや要望等について,日本の組織文化に沿うニュアンスで上手く周囲に伝えつつ解決に向かうには,課題が多いと考える.

2. 受入れ施設と施設での教育支援に関わる要因

介護の勤務形態は,大半が早番,日勤,遅番,夜勤の4交替制のシフト勤務となっている.実際は受入れ施設によって異なるが,概ね来日後2年目程から夜勤が導入されることが多い.これには,候補者を就労開始日から雇用契約が1年に達した時点で夜勤加算基準等に算入できることになった33制度的な背景の影響が考えられる.しかしながら,このカテゴリが示すように,本研究では,このシフト制によって候補者の就労と学習の両立をより難しくしている点が示唆されたと考える.特に来日間もない候補者にとって,第2言語を駆使して高齢の利用者の対応に追われることで,日勤帯でも相当に心身の疲労に繋がる点や,比較的少人数の配置で,およそ16時間に及ぶ夜間帯勤務の後や,遅番の後に早番が組まれるシフトの場合において,学習能率を上げて勉強に集中するのは実質的に困難なことが推測された.これらのことは〈学習能率との密接な関係〉として捉えられ,本研究結果が示すように,〈勤務時間内に設定された学習時間の短さ〉が,国家資格取得を趣旨とする候補者をさらに追い詰めることとなっていると考えられた.さらに,この状況が,候補者に不安や焦燥といった負の感情を抱かせ,《国家試験のプレッシャー》で見出された試験合格に関する持続的な精神的重圧をもたらすと言えることから,是正に向けた検討の余地があると考える.

国際厚生事業団(JICWELS)は,候補者の受入れ施設選定に関わる,国内唯一のあっせん機関に位置づけられているが,その活動には,外国人介護人材の権利保障に関わる支援が含まれる.その相談窓口における対応の内訳によると,「雇用管理」に関する内容が約50%,「研修」に関する内容が約14%と報告されている3.本研究の〈契約不履行による人権にかかわるケース〉で示された,勉強時間の確保を保障した契約不履行の実態は,その1つに該当すると考える.

また,本研究では候補者の権利擁護やハラスメント対策に関する支援の必要性が明らかとなった.2019年4月に全国の介護保険担当主管課に向けて介護現場におけるハラスメント対策マニュアル34が厚生労働省より配信された.本研究では〈ハラスメントを被る経験〉が示すように,対象者の半数において被害の実情が語られたが,施設全体に対する候補者の比率から相対的に判断すると,潜在する被害総数の多さを示すものと考えられる.さらに,本研究で慢性的な腰痛について訴えた対象者の割合が42%(5人)であった点においても同様のことが言え,外国人,日本人といった枠を超えて労働者の権利と安全の観点から看過できない実情が垣間見えたと考える.

対象者は,〈特定の介護職員のケア方法への抵抗感〉が示すように,介護の実践の場で自らの理念に必ずしも即さない状況に時折触れていた.介護現場の実態に関する先行研究において,良いケアに接することを求める対人援助職者の不全感は徐々に高いストレスとなり,離職に至る要因となることが指摘されている35,36,37.一方,本来EPAの取決めでは候補者の実務経験は要件とされておらず,多くの候補者は一般的に卒後直ちに登録申請を行い,施設入職後OJTを通して介護職としての研鑽を積む16.しかし,サブカテゴリ〈特定の介護職員のケア方法への抵抗感〉〈教育的知識と専門的知識を兼ね備えた指導者の不在〉〈良質なケアに関する確かな感覚の言語化を促進する教育的関りの不足〉〈介護における理想像を見失う〉が示すように,行われる介護支援の根拠や理由を職員全員が正しく共有し,質の高いケアを展開しているとは言い難い現状で,即戦力として期待され介護労働に従事している候補者にとって,OJTに特化した教育方法で十分かどうかは疑問が残る.候補者の受ける研修内容については,介護福祉士国家試験の受験に配慮した適切なものとし,これを実施するための介護研修計画が作成されていることが望ましい.一方,これについては制度としては定められてはいるものの22,その内容自体に評価基準はない.本研究で見出された〈職員の不足をカバーする状況〉が示すように,実際には介護現場の人材不足と十分な教育上の関りを持つための時間を作れない現状が,「忙しくて教える暇はない,分からないと答える」日本人介護職員の言葉に凝縮されていたと考える.

本研究の中核カテゴリ【国家資格の取得過程にある壁】は,介護の現場における国家資格取得に向けた就労・研修の継続が,候補者にとっていかに困難で努力を要するものであるかの実情を明示している.さらに,産業衛生と健康科学双方の観点から妥当と考えられる対象者の長期休暇の希望が,〈候補者の心に生じる葛藤〉が示すように,実際の希望と取得の間には隔たりがあることと,それはまた日本人職員への遠慮など,不足する介護人材という日本の現状に強く関連するものと考えられた.先述の〈我慢し続ける〉が示したように,候補者は自身の日本語能力の限界のほか,職員からの低評価(不評)を恐れて要望等を回避していると解釈されることから,このことが候補者の正当な権利保障を損ねている可能性も考えられた.

本研究結果は,介護に従事する外国人職員の国家資格取得に向けた教育支援や就労継続に関するニーズと課題を提示し,候補者への支援体制整備の重要性を示した.また,分析結果から,介護福祉士国家試験合格者で,母国での所有資格が看護師という特定の特性を持ち合わせた語りから生成された,ある特定の領域内全般に適用可能性のある,中範囲理論が提示された38,39,40.この理論は,介護福祉士国家資格取得の過程にある壁【中核カテゴリ】を構成する,2つの【主要カテゴリ】,10の《カテゴリ》,33の〈サブカテゴリ〉全要素について何らかの対策を講じることにより,EPAに基づく外国人介護福祉士候補者の国家試験合格が促進されることを説明し,さらには「外国人介護職者の,より長期的な就労継続に際し,国家資格取得に向けた支援は必須である」という,わが国で差し迫る2025年問題をはじめとした介護職者の需要の伸びと不足への対応のための課題を導くものと言える.同時に,これら課題への取組みは外国人介護職者にのみ有用なものではなく,日本人介護職者にとっても健康的で正当な就労環境の整備と,これによってもたらされる施設利用者への適切なケア提供に繋がる可能性がある点からも重要と考える.

表2. EPAに基づく外国人介護職者の国家資格取得を困難にし得る要素
中核カテゴリ主要カテゴリカテゴリサブカテゴリ
国家資格の取得過程にある壁外国人介護職者と受入れ施設に関わる要因介護に関わる日本語能力とコミュニケーション技術発話の聞き取れなさ
日本語の運用能力の不足
看護師であるが経験はない
勉強に困ったときの解決法我慢し続ける
EPA独自のソーシャルネットワーク
長期休暇希望と取得の間に生じる心理家族と離れて海外で働く心境
同じ職場の日本人職員への遠慮
候補者の心に生じる葛藤
職場の人間関係日本人特有の気遣い
まだ日本を知らないことによって生じた誤解
日本人職員からの援助に対する諦観
人間関係の構築のための努力
職場で支援する職員の体制づくりの不完全さ
受入れ施設と施設での教育支援に関わる要因勤務体制と勉強時間の設定学習能率との密接な関係
勤務時間内に設定された学習時間の短さ
勉強のための自由時間の削減
不安の醸成
契約不履行による人権にかかわるケース
勤務に伴う疲労すべての業務を日本語のみでこなす難しさ
職員の不足をカバーする状況
業務内容に特徴づけられる慢性化した疲労の蓄積
学習意欲低下への連鎖
介護場面における施設利用者への対応に係る困難ハラスメントを被る経験
ハラスメントを受けた時の施設側の対応の脆弱さ
母語の違いによって生じる壁
特定の介護職員のケア方法への抵抗感
指導者の専門分野・指導方法日本語教育の重要度に反する指導方法の未充足感
教育的知識と専門的知識を兼ね備えた指導者の不在
良質なケアに関する確かな感覚の言語化を促進する教育的関りの不足
介護における理想像を見失う
受けたい指導と施設の支援体制腰痛対策の不足
受入れ施設ごとの特徴によって受ける学習への影響
国家試験のプレッシャー試験に特化した精神的重圧

V. 研究の限界と課題

本研究の対象者12人は全員が介護福祉士国家試験の合格者であり,母国での所有資格は全員が看護師であった.今回は,介護福祉士国家試験合格者で,母国での所有資格が看護師という特定の特性を持ち合わせた12名の対象者の語りから生成された点から,ある特定の領域内全般に適用可能性のある,中範囲理論と解した38.また今回,グラウンデッド・セオリー・アプローチの一部を援用し,記述理論としては一定の見解に達し得たものの,説明理論に至るにはまだ検討の余地を残すと考える.今後は国家試験合格に至らなかった候補者や離職者,および候補者の受入れ側を調査対象として候補者への研修支援に関わる様々な職種を対象に含めた調査を行い,因子探索の精度を向上させる必要がある.

謝辞

本調査研究の実施にあたり,多大な御協力を賜りました理事長様ならびに施設長様を始め,候補者を御指導,御支援される研修責任者の方,研修支援担当者の方,そして調査に御協力くださったEPAに基づく介護福祉士の皆様方に心から御礼申し上げます.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
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