産業衛生学雑誌
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原著
介護施設従業員における主観的健康感と炎症マーカーの関連
井上 由貴子中田 光紀 栗岡 住子永田 智久森 晃爾
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2021 年 63 巻 4 号 p. 117-128

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抄録

目的:主観的健康感は健康状態を自己評価する指標であり,免疫機能と関連することが報告されているが,種類の異なる3つの健康感指標(全般的,過去比較および他者比較)と炎症マーカーの関連ならびに年齢別のそれらの相対的な関連の強さについてはまだ十分に理解できていない.本研究は介護施設従業員を対象に,異なる健康感指標と炎症マーカーとの関連を検討した.対象と方法:介護施設で働く21歳~68歳(平均40.9歳)の職員120名(女性90名,男性30名)を対象に,健康診断に併せて血中炎症マーカー(インターフェロン-γ,インターロイキン[IL]-4,IL-6,腫瘍壊死因子[Tumor Necrosis Factor; TNF]-α,白血球数)を測定すると同時に質問紙により主観的健康感を尋ねた.重回帰分析にて共変量を調整し,40歳未満および40歳以上で層別化を行ったうえで,炎症マーカーと主観的健康感の関連を解析した.結果:全ての潜在的共変量を調整したモデルにおいて,40歳以上の高齢層では,全般的健康感の悪化はIL-6の増加と有意に関連し,40歳未満の若年層では他者比較健康感の悪化はTNF-αの増加と有意に関連した.他者比較健康感の悪化は参加者全体においてもIL-6の増加と有意に関連した.過去比較健康感は炎症マーカーと明確な関連を示さなかった.考察と結論:本研究の結果から,主観的健康感指標の種類が異なれば炎症マーカーとの関連も異なること,特にこれらの関連は,若年層と高齢層に分けて行うことでより明確になることが明らかとなった.これは,健康感指標の相違のみならず年齢も主観的健康感と炎症マーカーの関連を修飾することを示唆する.

Abstract

Objectives: Although self-rated health (SRH), the self-evaluation of one’s own health status, has been reported to be associated with the immune status, the relationship between three different SRH measures (global, self-comparative, and age-comparative) with inflammatory markers as well as the relative strength of these associations by age are not well understood. The current study investigated the associations between SRH measures and inflammatory markers among nursing home employees. Methods: A sample of 120 Japanese employees at a nursing home (90 women and 30 men), aged 21–68 years (mean, 40.9 years), underwent a blood test for the measurement of inflammatory markers (interferon-γ, interleukin [IL]-4, IL-6, and tumor necrosis factor [TNF]-α, white blood cell count) and SRH during the annual health checkup. Multiple regression analysis adjusted for covariates was performed to analyze the relationship between inflammatory markers and SRH measures stratified by age, that is, aged < 40 years (younger age group) and 40 years and over (older age group). Results: Among the participants aged 40 years and over, poor global SRH was significantly associated with an increase in IL-6, while poor age-comparative SRH was significantly associated with an increase in TNF-α among participants aged < 40 years in the fully adjusted model controlling for potential confounders. Age-comparative SRH was also significantly associated with an increase in IL-6 among all participants. Self-comparative SRH was not significantly associated with inflammatory markers. Conclusions: Our results suggest that three SRH measures are not equivalently associated with inflammatory markers, especially when the analyses were performed separately for the younger and older populations. This implies that not only differences in forms of SRH but also in age modify the relationship between SRH and inflammatory markers.

I. はじめに

主観的健康感は,個人が健康状態を自己評価する指標である.主に社会調査において,医学的検査などで健康度の調査を行うことが困難な場合に,その代替指標として用いられてきた.例えば,米国では1972年以降のNational Health Interview Survey(国民健康調査,現国民健康栄養調査)の調査項目に導入されており,日本でも1986年より国民生活基礎調査の調査項目に含まれている1.主観的健康感を検証する最も標準的な方法は,「あなたの現在の健康状態はいかがですか」という質問に対して,「非常に良い」から「非常に悪い」までを4あるいは5段階で回答する形式である2.明快な質問であることから,回答者にも理解しやすい.また,単一の質問項目であり,特別なスコアリングも必要としないため,簡便で情報収集の負担も少なくて済む.それ故に,現在でも健康指標として多用されている.

1. 主観的健康感と健康指標(死亡率・疾患罹患率)

主観的健康感に関するこれまでの多様な研究から,主観的健康感は死亡率1,2,3,4,5,6,7,8や疾患罹患率9に対して独立した寄与因子であり,身体機能の低下10,11,進行がんの生存率12とも関連していることが報告されている.うつ病や既往歴などの共変量を調整後も死亡率と強い関連があり,性別や人種の差異による影響も受けないとの報告もある3.なかでも,主観的健康感と死亡率との関連は,高齢者においてより明確である.その理由として,高齢者は若年者と比較して自身の健康状態への意識が強いこと7,健康・不健康な人との間で差異が明確なため主観的健康感にばらつきが生じやすいこと13が挙げられる.このことから,主観的健康感と健康指標14の関連について,年齢や世代による特徴を理解するためには,若年者と中高年者の年齢別に検討することが望ましいと推察される15,16

2. 主観的健康感とバイオマーカー

主観的健康感が健康の有用な予測指標として注目されてきた一方で,死亡率や罹患率に対する予測効果を裏付ける生物学的なメカニズムは必ずしも明確ではない.近年,このことを説明するために多様なバイオマーカーを用いた研究が行われるようになった17.例えば,主観的健康感が低い人は高い人に比べると高血圧の発生頻度が高く18,19,20,血糖値が高く21,高比重リポタンパクが低い15,22などが報告されている.一方,免疫指標をアウトカムに用いた研究では,炎症性サイトカインやC反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)23,24などの炎症マーカー,免疫グロブリンG(Immunoglobulin G; IgG)などの抗体価,NK細胞やB細胞などのリンパ球数25との関連が報告されている.Cohenらの初期の研究26では,米国の高齢者地域住民を対象に主観的健康感とインターロイキン(Interleukin; IL)-6との関連を調査し,主観的健康感が悪化した者ではIL-6値が有意に上昇することを報告した.その後の研究でも27,主観的健康感の悪化は炎症マーカー(IL-1β,IL-1レセプターアンタゴニスト,IL-6,腫瘍壊死因子[Tumor necrosis factor; TNF]-α,CRP,マクロファージ遊走阻止因子,白血球数)の亢進と関連することが報告されている16,24,28,29,30.その傾向は特に,男性よりも女性,若年者よりも高齢者において相対的に関連が強いことが示されている29,30.しかし,これらの研究はCRPやIL-6などの炎症マーカーの値が比較的高い欧米人を対象とした研究であり,肥満者が少なく,炎症マーカーの値が比較的低いアジア人31においては必ずしも同一の結果になるとは限らないと推測される.アジア人を対象とした研究では,中国人の成人男女において主観的健康感の悪化が血中フィブリノーゲン32,IL-6とCRPの増加に関連することが報告されている33.入院しているフィリピン人児童(6か月から5歳)を対象とした研究では,親が5段階で評価した健康状態(他者評価)の悪化とCRPの増加に関連が認められた34.

日本人を対象にした研究では,健常労働者において主観的健康感の悪化がB細胞数とIgGの増加亢進25,地域住民における主観的健康感の悪化による高感度CRP(high-sensitivity CRP; hs-CRP)の亢進と関連することが報告されている35,36

3. 主観的健康感の尋ね方の種類

これまでの主観的健康感と免疫指標に関する研究を概観すると,主に現在の全般的な健康感を問う項目(ここでは「全般的健康感」と定義)を用いた研究が主流であった.他方,主観的健康感には,過去の自分の健康状態と現在の健康状態を比較させる項目(ここでは「過去比較健康感」と定義),同年代の他者と自分を比較させる項目(ここでは「他者比較健康感」と定義)も存在する17,37,38.過去の自分の健康状態との比較は,経年変化に伴う健康の落差の有無を把握することが可能である.また,他者との比較を行うことで,自己の相対位置が把握できる.先に述べたように,加齢に伴って健康感に差異が発生する傾向があることが報告されていることから,比較対象を設けて質問することは年齢が評価に与える影響を低減し,より多角的に主観的健康感を捉えることができる.さらに,全般的健康感を問う設問に加えて,これらの異なった主観的健康感を同時に測定することで,設問ごとに免疫指標との関連に特異的な差異が生じる可能性を想察する.これらによって,主観的健康感と免疫指標との関連がより詳細に理解できると考える.そこで,本研究では,上記3つの健康感の指標を用いて,比較的健康な労働者を対象に主観的健康感と複数の炎症マーカーについて検討する.

4. 本研究の目的

上記をまとめると,1)主観的健康感と免疫指標に関するエビデンスは蓄積しつつあるが,多様な炎症マーカー(多種類のサイトカイン,CRP,白血球数)を同時測定して関連を検討した研究は限られていること16,24,25,29,30,39,2)異なる主観的健康感の指標を同時に調査し,それぞれの指標と免疫指標との関連の差異を年齢層別に検討した研究はほぼ皆無であること39,3)日本人のように肥満者が相対的に少なく,慢性炎症の亢進が総じて低い人種において31,主観的健康感と免疫系の関連についてのエビデンスが少ないこと25,32,33,35,36,4)身体的負荷が強いために健康を害しやすく,離職の可能性が高い介護職場で働く労働者を対象とした研究は皆無であることが挙げられる.本研究では介護職場の日本人労働者を対象に,年齢層別に複数の主観的健康感指標と炎症マーカーとの関連を検討することを目的とした.

II. 方法

1. 対象と方法

対象は関西にある介護施設Aに勤務する従業員である.A施設には,介護士,生活相談員,ケアマネジャー,看護師を中心に常勤・非常勤を含めた207人の従業員が在籍する.本研究では,従業員のうち施設内で健康診断を受診する予定である189人を研究対象者とした.

2016年11月に施設で実施される定期健康診断に併せて,同意が得られた従業員171名に対して,自己記入式調査票を配布し,各自記入後,同封の封筒に密封のうえで職場にて回収した.回答率は87.7%(150人)であった.急性感染の潜在的な影響を排除するため,白血球数が 12,000/mm3 を超える参加者の除外を検討したが25,該当者はいなかった.そのうち性別,年齢,定期健康診断結果,炎症マーカー,主観的健康感,生活習慣(喫煙,飲酒,運動),服薬の有無の結果がすべて揃った120名を最終解析対象とした.

本研究では,炎症マーカーであるサイトカイン(インターフェロン[Interferon; IFN]-γ,IL-4,IL-6,TNF-α)ならびに白血球数を測定した.サイトカインは細胞から分泌されるタンパク質で,免疫細胞の活性化や機能抑制の役割を担っている.一般にIL-4,IL-6,TNF-αは(向)炎症性サイトカインと総称され,IFN-γは(向)炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両者の役割を果たす40,41.また,ヘルパーT細胞は炎症などを伴う免疫反応を統率すると共に,産生するサイトカインの違いから,T helper 1(Th1)細胞とT helper 2(Th2)細胞に分類され,異なる免疫反応を誘導すると考えられている.Th1細胞は,主にIL-2やIFN-γを産生し,ウイルス等の病原体に感染した異常細胞を攻撃し,生体を守る.これに対し,Th2細胞は主にIL-4,IL-5,IL-6,IL-10やIL-13などを産生し,細菌などの感染性微生物から生体を守り,アレルギー反応を引き起こす42.これらのTh1細胞とTh2細胞は互いに制御しあい,どちらかに傾くことにより,炎症やアレルギーなど特有の疾患が生じるとされている43.本研究では,Th1細胞とTh2細胞のバランスを反映させる,IFN-γ/IL-4ならびにIFN-γ/IL-6の比を代替マーカーとして算出した44

2. 主観的健康感の調査方法

全般的健康感は「あなたの現在の健康状態はいかがですか?」の質問に対して,回答を1.よい,2.まあよい,3.ふつう,4.あまりよくない,5.よくない,の5択で設定した.この質問ならびに回答形式は,我が国の国民生活基礎調査と同じである.加えて,過去比較健康感39は「あなたの現在の健康状態は5年前に比べていかがですか?」,他者比較健康感45は「あなたの現在の健康状態は同じ性別,同じ年代の人に比べていかがですか?」で尋ねた.回答枝は 1.よい,2.まあよい,3.同じ,4.あまりよくない,5.よくない,の5択で設定した.

3. 基本属性,生活習慣の調査方法

自己記入式調査票にて,対象者の基本属性として年齢と性別を,生活習慣では喫煙状況,飲酒習慣,運動習慣を,健康状態として服薬の有無を質問した.また,健康診断の結果から既往歴,実測された身長と体重のデータを用いて体格指数(Body mass index; BMI)を,収縮期血圧と拡張期血圧のデータから平均血圧を,低比重リポタンパクと高比重リポタンパクのデータからLH比を算出した.喫煙状況は,a.吸わない,b.禁煙した,c.吸っている,の3群と喫煙本数(本/日)を,飲酒習慣はa.ほとんど飲まない,b.時々飲む,c.ほぼ毎日飲む,の3群と飲酒量(合/日)を聴取した.運動習慣は,a.毎週おこなっている運動やスポーツはない,b.週1回以上,軽い運動(息切れ,動悸を生じない程度)を行っている,c.週に1~2回,少なくとも20分間激しい運動(息切れ,動悸,発汗を伴う)を行っている,d.週に3回以上,少なくとも20分間激しい運動を行っている,の4群に分類した.服薬の有無が炎症マーカーと関連することが示されているため46,以下の薬物の使用の有無を調査した.a.降圧剤,b.ステロイド系薬剤,c.抗うつ薬,d.精神安定剤,e.抗コレステロール薬(スタチン等),f.抗不安薬,g.睡眠薬,h.頭痛薬(アスピリン等)の8種のうちいずれかを服薬している者を服薬ありと定義した.既往歴は,健康診断の問診票に記載のあるものを既往歴ありと定義した(詳細は「結果」に記載).

4. 炎症マーカーの分析

サイトカインの測定のために定期健康診断に併せて,参加者から生化学用採血管に静脈血 6 mlを採取した.全ての試料は採血後30分静置後に遠心分離機(3,000回転/分×5分)にかけ,固形成分と液状成分を分離した.その後,冷蔵(5°C)保存し,九州プロサーチ有限責任事業組合に輸送した.サイトカイン値測定に関しては,全血から上清を遠心分離後,血清試料を分析までPyrogenを含まないプラスチックチューブ中に-80°C以下で保存した.血清サイトカイン(IFN-γ, IL-4, IL-6, TNF-α)は,高感度マルチイムノアッセイ(電気化学発光法)にてMESOTM QuickPlex SQ 120(Meso Scale Discovery社)を用いて測定した.各項目の検出限界レベルはIL-6が 0.06 pg/ml,IFN-γが 0.2 pg/ml,IL-4が 0.02 pg/mlおよびTNF-αが 0.04 pg/mlであった.白血球数の測定は自動血球計数装置(XN-9100)を用いた.

5. 統計解析

全てのサイトカイン値は正規分布が認められなかった.対数変換や平方根変換などでも正規化が確認できなかったため,順位標準化(Blom’s normal score変換)により正規化を試みた.その結果,すべてが正規化した47.対象者の属性を年齢層別で比較するため,40歳未満と40歳以上の群で独立変数の関係をχ2 検定あるいはt検定で分析した.なお,カテゴリー変数の解析において期待値が5未満の場合はFisherの正確確率検定を使用した.また,主観的健康感と炎症マーカーの関連は,共変量の影響を取り除くため3段階の重回帰分析により行った.重回帰分析では,最初に年齢のみを調整し(Step 1),ついで年齢,性別および主観的健康感と性別との交互作用項を投入した(Step 2).主観的健康感は一般に性差が認められることから,主観的健康感×性別の交互作用項を投入した22,25.最後に主観的健康感とすべての潜在的交絡因子を投入した(Step 3).これらの交絡因子は先行研究25,46に基づき選択した.また,年齢による影響の差を調べるため,対象者を40歳未満(n=53)と40歳以上(n=67)の2グループに分けて階層別解析を行った.なお,検出限界値未満のサイトカイン濃度は,検出限界値を2で除した値を代入した47.統計解析にはSPSS Ver.21 for Windowsならびに統計ソフト「R」を用い,有意水準は5%未満とした.

6. 倫理的配慮

対象者には,研究の目的を文書で説明した.また,本研究への参加は義務ではないこと,検査結果が第3者へ公開されることはなく,人事情報や業績評価にも影響しないことを教示した.なお,対象者にはアンケート結果と炎症マーカーの結果についてのフィードバックを行うことを説明した.データは分析の段階で匿名化し,個人が特定されないよう配慮した.

本研究は,研究者が所属する2か所の機関の倫理審査委員会の承認を得て行われた(H29-252号ならびに19-Ig-99).

III. 結果

1. 参加者の特性

参加者の基本属性を表1a表1bに示す.平均年齢は40.9歳(SD=12.0)であり,女性が75%を占めた.BMIの平均は,最も病気になりにくいとされている基準の22.0であった.参加者の20.8%が現在喫煙しており,過去喫煙者は10.0%であった.また,61.7%が飲酒をする習慣があり,運動習慣のある者は29.2%であった.服薬ありの者は全体の11.7%だった.服薬内容は,降圧剤5名,ステロイド系薬剤1名,抗コレステロール薬(スタチン等)2名,頭痛薬(アスピリン等)6名で,抗うつ薬,精神安定剤,抗不安薬,睡眠薬を服用している者はいなかった.既往歴に記載のあった者は18.3%で,その内訳は高血圧7名,消化器疾患(胃潰瘍,十二指腸潰瘍)4名,呼吸器疾患(気管支炎,喘息)2名,婦人科疾患(卵巣嚢胞)2名,アレルギー(アトピー含む)2名,ヘルペスウイルス感染2名,高脂血症1名,心疾患(心室中隔欠損症)1名,膠原病(橋本病)1名であった.なお,これらの疾患を有することが原因で炎症マーカーに異常値を呈する者はいなかった.

表1a. 対象者の基本属性(分布)
全体40歳未満40歳以上
n=120(%)n=53(%)n=67(%)p
あなたの現在の健康状態はいかがですか?(全般的健康感).842a
 よい26(21.7)10(18.9)16(23.9)
 まあよい28(23.3)12(22.6)16(23.9)
 ふつう46(38.3)23(43.4)23(34.3)
 あまりよくない19(15.8)8(15.1)11(16.4)
 よくない1(0.8)0(0)1(1.5)
あなたの現在の健康状態は5年前と比べていかがですか?(過去比較健康感).032b
 よい15(12.5)2(3.8)13(19.4)
 まあよい19(15.8)8(15.1)11(16.4)
 ふつう42(35.0)23(43.4)19(28.4)
 あまりよくない32(26.7)17(32.1)15(22.4)
 よくない12(10.0)3(5.7)9(13.4)
あなたの現在の健康状態は同じ性別,同じ年代の人と比べていかがですか?(他者比較健康感).002a
 よい14(11.7)2(3.8)12(17.9)
 まあよい23(19.2)7(13.2)16(23.9)
 ふつう54(45.0)34(64.2)20(29.9)
 あまりよくない28(23.3)10(18.9)18(26.9)
 よくない1(0.8)0(0)1(1.5)
性別<.001b
 男性30(25.0)22(41.5)8(11.9)
 女性90(75.0)31(58.5)59(88.1)
喫煙.408b
 非喫煙者83(38.3)40(75.5)43(64.2)
 過去喫煙者12(10.0)4(7.5)8(11.9)
 喫煙者25(20.8)9(17.0)16(23.9)
飲酒.152b
 ほとんど飲まない46(38.3)22(41.5)24(35.8)
 時々飲む36(30.0)19(35.8)17(25.4)
 ほぼ毎日飲む38(31.7)12(22.6)26(38.8)
運動.819a
 なし85(70.8)38(71.7)47(70.1)
 週1回以上の軽い運動24(20.0)9(17.0)15(22.4)
 週1–2回の激しい運動9(7.5)5(9.4)4(6.0)
 週3回以上の激しい運動2(1.7)1(1.9)1(1.5)
服薬.021a
 なし106(88.3)51(96.2)55(82.1)
 あり14(11.7)2(3.8)12(17.9)
既往歴c.415b
 なし98(81.7)45(84.9)53(79.1)
 あり22(18.3)8(15.1)14(20.9)
a   40歳未満の群と40歳以上の群間におけるFischerの正確確率検定

b   40歳未満の群と40歳以上の群間におけるχ2 検定

c   高血圧,消化器疾患(胃潰瘍,十二指腸潰瘍),呼吸器疾患(気管支炎,喘息),婦人科疾患(卵巣嚢胞),アレルギー(アトピー含む),ヘルペスウイルス感染,高脂血症,心疾患(心室中隔欠損症),膠原病(橋本病)

表1b. 対象者の基本属性(平均,標準偏差[SD],範囲)
全体40歳未満40歳以上
平均SD(範囲)平均SD(範囲)平均SD(範囲)pa
年齢40.912.0(21–68)29.45.7(21–39)50.06.5(40–68)<.001
BMI(kg/m222.03.0(16.7–32.5)21.93.4(16.7–32.5)22.12.7(16.8–30.1).675
平均血圧(mmHg)88.912.2(63.0–120.3)86.411.2(66.0–114.7)90.812.8(63.0–120.3).247
LH比1.80.7(0.6–4.8)1.70.7(0.8–4.8)1.80.7(0.6–3.6).277
喫煙本数(本/日)5.310.4(0–60)3.67.8(0–36)6.612.0(0–60).120
飲酒量(合/日)0.81.2(0–9)0.91.4(0–9)0.80.8(0–4).634
IFN-γ(pg/ml8.07.0(1.6–540)7.05.8(1.6–31.0)8.87.8(2.2–54.0).057
IL-4(pg/mlb0.020.02(0.01–0.20)0.020.02(0.01–0.06)0.020.03(0.01–0.20).008
IL-6(pg/ml0.60.6(0.1–6.0)0.60.8(0.1–6.0)0.70.4(0.3–2.1)<.001
TNF-α(pg/ml1.60.4(0.9–3.2)1.50.4(0.9–3.2)1.60.4(1.0–3.2).082
白血球数(102/μl64.716.6(28–110)65.818.7(34–110)63.714.8(28–99).498
a   40歳未満の群と40歳以上の群間におけるt検定

b   検出限界 0.02 pg/ml(検出限界以下は 0.02 pg/ml/2=0.01 pg/mlとして計算した).

40歳未満の群と40歳以上の群間において,独立変数の関係を解析した結果,年齢のほかに過去比較健康感と他者比較健康感の回答結果,性別,服薬の有無,IL-4,IL-6に有意差を認めた.過去比較健康感と他者比較健康感では年齢が低い群で,健康感が悪いとする者が多かった.

2. 主観的健康感と従属変数の関連

主観的健康感に関連する因子を特定するために,各項目と従属変数の関連を表2に示す.主観的健康感は,得点が高いほど健康でないことを示す.全般的健康感においては従属変数との関連は認められず,調整済R2 値も有意ではなかった.過去比較健康感においては,年齢が低いことならびに服薬ありが健康感の悪化と有意に関連した.他者比較健康感においても,年齢が低いことが健康感の悪化と関連することが認められた.

表2. 主観的健康感の各項目と独立変数の関連
全般的健康感過去比較健康感他者比較健康感
βtpβtpβtp
Adjusted R2=-0.051
(p=.930)
Adjusted R2=0.082
(p=.035)
Adjusted R2=0.094
(p=.021)
年齢-.001-.013.990-.232-2.244.027-.255-2.482.015
性別(1:男性,2:女性).038.326.745.1711.584.116.1491.391.167
BMI.1771.496.137.1121.019.310.2051.872.064
平均血圧-.060-.521.603-.072-.669.505.102.959.340
LH比-.083-.677.500-.006-.052.959-.155-1.354.179
喫煙本数(本/日).066.625.533.1221.251.214-.060-.621.536
飲酒量(合/日)-.068-.650.517-.157-1.593.114-.153-1.561.121
運動習慣-.056-.543.588.075.772.442-.088-.922.359
服薬
(0:服薬なし,1:服薬あり)
.010.090.928.1981.993.049.096.969.335
既往歴
(0:既往歴なし,1:既往歴あり)
.032.315.754.1151.196.234.1781.857.066

3. 主観的健康感の各項目と炎症マーカーの関連

全般的健康感と炎症マーカーの関連について階層的重回帰分析を行った結果を示す(表3a).40歳以上では,IL-6ではすべてのステップにおいて有意な関連が認められた.40歳未満では,いずれの炎症マーカーとも関連が認められなかった.参加者全体ではIL-6のStep 1でのみ有意な関連が認められた.

表3a. 全般的健康感と炎症マーカーの関連(40歳未満,40歳以上,全体)
あなたの現在の健康状態はいかがですか?
(1.よい 2.まあよい 3.ふつう 4.あまりよくない 5.よくない)
Step 1Step 2Step 3
40歳未満
(n=53)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.014.095.925-.033.041.252.802-.063-.006-.034.973-.133
 IL-6-.017-.119.906-.028-.098-.610.545-.032-.071-.443.660.040
 TNF-α.078.539.592-.034.039.292.772.304***.087.652.518.333**
 IFN-γ.064.450.655-.011.093.576.568-.050.123.723.474-.077
 IFN-γ/IL-4.056.389.699-.016.069.425.673-.056.107.621.538-.109
 IFN-γ/IL-6.075.515.609-.035.1621.001.322-.043.158.975.335.024
 白血球数.1881.316.194-.004.017.111.912.074-.021-.133.895.123
40歳以上
(n=67)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.1421.148.255-.009.3001.781.080-.009.3901.949.057-.090
 IL-6.3943.432.001.131**.4853.078.003.116*.6173.800<.001.244**
 TNF-α.070.613.542.144**.2061.334.187.152**.3281.895.064.172*
 IFN-γ.1921.568.122.010.2151.270.209-.020.2611.390.170-.007
 IFN-γ/IL-4-.003-.021.983-.031-.112-.652.517-.048-.181-.910.367-.081
 IFN-γ/IL-6-.135-1.090.280-.010-.165-.965.338-.039-.223-1.136.261-.085
 白血球数-.022-.178.859.028-.066-.479.633.000-.110-.708.482-.092
全体
(n=120)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.081.887.377.018.074.811.419.008.075.781.437-.048
 IL-6.1671.996.048.169***.1651.958.053.156***.1521.908.059.258***
 TNF-α.057.635.526.052*.0851.029.306.197***.1061.313.192.250***
 IFN-γ.1411.577.117.043*.1431.582.116.029.1651.792.076.018
 IFN-γ/IL-4.031.339.735-.016.035.377.707-.031.046.464.643-.090
 IFN-γ/IL-6-.032-.347.729.007-.029-.311.756-.007.008.084.933.012
 白血球数.072.786.433.001.055.596.552.034.015.165.870.064

Step 1:年齢を調整

Step 2:年齢,性別,主観的健康感×性別を調整

Step 3:年齢,性別,主観的健康感×性別,BMI,平均血圧,LH比,喫煙本数,飲酒量,運動,服薬,既往歴を調整

* p<.05, ** p<.01, *** p<.001

表3bは,過去比較健康感の解析結果を示す.40歳以上においては,IL-4のStep 2とStep 3,IL-6のStep 1とStep 3で有意な関連が認められたが,調整済みR2 値は有意ではなかった.40歳未満ならびに参加者全体では,炎症マーカーとの関連は認められなかった.

表3b. 過去比較健康感と炎症マーカーの関連(40歳未満,40歳以上,全体)
あなたの現在の健康状態は5年前と比べていかがですか?
(1.よい 2.まあよい 3.同じ 4.あまりよくない 5.よくない)
Step 1Step 2Step 3
40歳未満
(n=53)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.054.385.702-.030.152.972.336-.009.136.793.432-.089
 IL-6-.003-.022.983-.028-.102-.653.517-.002-.195-1.240.222.082
 TNF-α.002.011.991-.040.071.543.590.299***.126.947.349.341**
 IFN-γ-.016-.116.908-.015-.029-.184.855-.056-.041-.237.814-.094
 IFN-γ/IL-4-.039-.278.783-.018-.101-.634.529-.037-.112-.652.518-.101
 IFN-γ/IL-6-.034-.237.814-.039.037.233.817-.054.090.554.583.010
 白血球数.2341.700.095.018.078.528.600.104-.013-.082.935.118
40歳以上
(n=67)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.1501.212.230-.006.3382.109.039.017.4922.351.022-.047
 IL-6.2532.093.040.037.2741.700.094.008.3982.127.038.094
 TNF-α-.007-.063.950.140**.100.667.507.137*.2041.098.277.147
 IFN-γ-.009-.074.941-.028-.033-.196.845-.060.014.068.946-.064
 IFN-γ/IL-4-.140-1.128.264-.011-.284-1.745.086-.013-.403-1.934.058-.036
 IFN-γ/IL-6-.218-1.788.079.020-.250-1.542.128-.005-.314-1.535.131-.052
 白血球数.008.064.949.028-.040-.280.780.014-.099-.541.591-.068
全体
(n=120)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.1151.266.208.025.1011.084.281.014.098.947.348-.043
 IL-6.1231.454.149.156***.1311.516.132.150***.0901.039.301.244***
 TNF-α-.007-.083.934.049*.068.812.418.197***.082.940.349.251***
 IFN-γ-.010-.105.917.023-.009-.096.924.006-.012-.123.903-.012
 IFN-γ/IL-4-.103-1.112.268-.006-.097-1.016.312-.022-.106-1.015.312-.080
 IFN-γ/IL-6-.1351.478.142.024-.1381.481.141.010-.109-1.102.273.024
 白血球数.0941.022.309.005.085.915.362.023.050.506.614.048

Step 1:年齢を調整

Step 2:年齢,性別,主観的健康感×性別を調整

Step 3:年齢,性別,主観的健康感×性別,BMI,平均血圧,LH比,喫煙本数,飲酒量,運動,服薬,既往歴を調整

* p<.05, ** p<.01, *** p<.001

表3cでは,他者比較健康感と炎症マーカーの関連を示す.40歳未満で,TNF-αのStep 2とStep 3で有意な関連が認められた.また,IL-6のStep 2と白血球数のStep 1で有意な関連が認められたが,調整済みR2 値は有意ではなかった.40歳以上ではいずれの炎症マーカーとも関連が認められなかった.参加者全体においては,IL-6はすべてのステップにおいて有意な関連が認められた.

表3c. 他者比較健康感と炎症マーカーの関連(40歳未満,40歳以上,全体)
あなたの現在の健康状態は同じ性別,同じ年代の人と比べていかがですか?
(1.よい 2.まあよい 3.同じ 4.あまりよくない 5.よくない)
Step 1Step 2Step 3
40歳未満
(n=53)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.010.070.945-.033.118.662.511-.039.052.293.771-.077
 IL-6.2441.787.080.033.3502.030.048.026.2301.184.243.085
 TNF-α.086.610.545-.032.2972.098.041.345***.3622.341.024.231*
 IFN-γ-.090-.644.523-.007-.096-.538.593-.049.042.201.841-.042
 IFN-γ/IL-4-.082-.585.561-.012-.166-.935.354-.038-.016-.090.928-.070
 IFN-γ/IL-6-.234-1.700.095.017-.304-1.730.090-.013-.082-.409.685.029
 白血球数.2932.170.035.050.125.802.427.030-.079-.423.675.040
40歳以上
(n=67)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.1321.053.296-.012.2001.395.168-.025.141.989.327-.112
 IL-6.1781.431.157.003.1991.388.170-.028.2841.926.059.070
 TNF-α.023.200.842.140**.108.823.414.142**.1641.141.259.141*
 IFN-γ-.007-.058.954-.028.029.201.842-.053.094.597.553-.037
 IFN-γ/IL-4-.117-.930.356-.017-.157-1.082.283-.044-.069-.492.625-.078
 IFN-γ/IL-6-.140-1.119.267-.009-.107-.745.459-.029-.106-.660.512-.062
 白血球数-.028-.226.822.028-.073-.530.598.003-.093-.565.574-.055
全体
(n=120)
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
βtpAdjusted
R2
 IL-4.0941.020.310.020.082.872.385.009.1051.035.303-.029
 IL-6.1822.149.034.173***.1832.110.037.160***.1722.017.046.255***
 TNF-α-.029-.312.755.049*-.031-.326.745.190***.010.103.918.177***
 IFN-γ.024.261.794.023.0901.052.295.007.1261.450.150.001
 IFN-γ/IL-4-.099-1.050.291-.007-.096-1.007.316-.023-.077-.742.459-.068
 IFN-γ/IL-6-.170-1.851.067.034*-.171-1.824.071.018-.120-1.216.227.038
 白血球数.1001.073.286.005.081.862.390.019.025.250.803.036

Step 1:年齢を調整

Step 2:年齢,性別,主観的健康感×性別を調整

Step 3:年齢,性別,主観的健康感×性別,BMI,平均血圧,LH比,喫煙本数,飲酒量,運動,服薬,既往歴を調整

* p<.05, ** p<.01, *** p<.001

IV. 考察

主観的健康感は,死亡率や罹患率に対して独立した寄与因子であり,医師の診断記録といった客観的な指標よりも,より正確に死亡率を予測することが報告されている4.しかし,その生物学的メカニズムは十分に解明されておらず,特に免疫指標との関連を調べた研究は限られている.そこで,本研究では介護施設の職員において,多様な主観的健康感と多種類の炎症マーカーとの関連を検討した.その結果,40歳以上において全般的健康感の悪化はIL-6の高値と(表3a),40歳未満においては他者比較健康感の悪化がTNF-αの高値(表3c)と関連が認められた.これらの結果をまとめると,主観的健康感の悪化は炎症反応の亢進に関与すると考えられるが,質問文の尋ね方ならびに年齢層の相違(若齢者であるか中高齢者であるか)によって主観的健康感と炎症マーカーの関連の強さが異なる可能性があると言える.このことは,主観的健康感の尋ね方が,対象とする年齢層によって区別するとより明確になる可能性があること,特に炎症マーカーとの関連においてはこの点が重要であると推察された.今後,対象人数を多くするとともに,異なる職種や性差の影響についても検討する必要がある.

本研究では主観的健康感と炎症マーカーの関連について,関連変数を段階的に投入した.したがって,年齢層別に主観的健康感と炎症マーカーの各項目が関連因子によって影響を受ける傾向を検証することが可能である.Step 2では基本属性(年齢,性別,主観的健康感と性別の交互作用項)を,Step 3ではさらに生活習慣や健康診断結果の項目を投入した.それ故に,Step 3で関連が認められた炎症マーカーは,これらの関連因子から独立して主観的健康感に関連する可能性を推察する.一方で,Step 2からStep 3へ移行した際に関連が消失したことは,主観的健康感と当該炎症マーカーの関連において生活習慣や健康状態が及ぼす影響が大きいことが示唆される.

主観的健康感の各項目と各炎症マーカーの関連について,以下に述べる.まず,潜在的交絡因子をすべて調整した解析において,全般的健康感においては,40歳以上では健康感の低下とIL-6の増加との関連が認められた.先行研究においても,主観的健康感が低いとIL-6が増加するとの報告23,30,33,39と一致している.今回,40歳以上でのみ有意な関係がみられた点について,これらの関連は高齢になればなるほど関連が強くなるという研究結果とも一致した16.これは,加齢に伴いIL-6等の炎症性サイトカインやCRPが増加し,ばらつきが増すことや,血管内炎症が亢進することと関連すると考えられる48,49.また,今回の対象者は疾患を抱えつつも比較的健康な日本人労働者だが,一般に日本人を含むアジア人では,欧米人に比べて炎症マーカーが低いことが示されている50.そのうえでも,40歳以上で関連が認められたことは,日本人の地域住民において,主観的健康感の悪化がhs-CRPの上昇と関連を示した先行研究35,36の結果と一致する.一方,先行研究では炎症マーカーとして用いているのがhs-CRPのみであったことを踏まえると,本研究ではCRPの産生を促進するサイトカインであるIL-6との関連を見出した点やTNF-αなどの他のマーカーとの関連が認められた点で,より知見を深めたといえる.

他者比較健康感については,40歳未満においてTNF-αとの関連が認められた.同じ性別かつ同年代の他者と比較した主観的健康感と免疫指標の関連を調べた研究は,我々が知る限り認められないため,その意味では本結果は新しい知見である.前述のとおり,高齢者は,他者と比較して自身の健康を過大評価する傾向がある38,45ことを鑑みると,他者比較健康感は高齢者よりも若年者に対して主観的健康感のスクリーニングに適した設問であるかもしれない.一方,5年前の自己と比較した過去比較健康感では,40歳以上においてIL-6ならびにIL-4の増加と有意な関連が示されたが,調整済みR2 値が有意でなかったことにより,関連は明確であるとは言えない.これらのことから,主観的健康感の各設問は,生物学的基盤を背景とし,全般的健康感は40歳以上の高齢層において,他者比較健康感は40歳未満の若年層に適した設問である可能性がある.

主観的健康感の各指標は似ているようでも,測定している概念や切り口が異なる51.主観的健康感を把握する際は,単一の項目のみでなく,これら複数の設問を用いることで研究の妥当性はより高まるのではないかと推察する.

本研究では主観的健康感の悪化が炎症マーカーの上昇と関連があることが示唆された.そのメカニズムについては,炎症マーカーの上昇が主観的健康感の悪化に影響を及ぼしている可能性が高いと考える52.近年のAndreassonら53の研究によって,サイトカインの上昇は,sickness behavior症状をもたらすことが明らかにされている.炎症性サイトカインを上昇させる要因としては,疾病や外傷などの急性の炎症によって増加する場合もあるが,ストレスやメンタルヘルスの悪化などのように体内で全身性の軽微な慢性炎症(systemic low-grade chronic inflammation)によって引き起こされることも判明している.Nakataら25の研究では,疾患による急性炎症の影響の可能性を除外するために,対象者を現病歴のない健康で若い(平均年齢32歳)ホワイトカラー労働者に絞って検証された.その結果,主観的健康感と炎症マーカーには関連を認めなかったが,主観的健康感の悪化はB細胞やIgGの増加,うつ症状と関連することが示唆された.本研究では,介護関連職を対象としている点で,比較的健康な集団であると考えられるが,現病歴やうつ症状,ストレスといった要因を考慮できていない.よって,主観的健康感と炎症マーカーの関連について健康な人でも起こる可能性があることを一部のみ支持できたと考える.

主観的健康感の今後の活用

主観的健康感は,死亡率や罹患率の予測因子であり,本研究において炎症マーカーとの関連も確認された.主観的健康感は,予防医学的に意義の高い健康指標であるとともに,簡便で安価に収集することができる.例えば,既存の健診の問診票への追加や産業保健スタッフによる面談などでも取り入れることが容易であるため,今後,産業保健現場での活用も期待される.

本研究の強みと限界

本研究では,これまでに報告された研究と比較していくつかの強みがあると考えられる.1)生物学的指標を用いた研究は多数存在するが,複数の炎症マーカーを用い,さらにサイトカイン比を検証した研究は限られている.2)主観的健康感は年齢によって影響を受けやすい点を鑑み,対象者の平均年齢である40歳を境として,若年群と高齢群と分けて検証した.それ故に,年齢による影響を最小限にすることが可能となった.3)本研究では,全般的な健康感を問う項目に加えて,過去比較健康感や他者比較健康感のように複数の指標を用いた.各項目と炎症マーカーとの関連を調査することで,先行研究では報告の少ない54若年層におけるこれらの関連を示唆することができたことは特筆すべき点である.

本研究の限界として,以下の点を挙げる.1)対象者の人数が少なく,男女の対象者数が不均衡(30対90)である.性別による影響を最小限にするために,主観的健康感と性別の交互作用項も調整変数に投入して解析を行ったが,結果の汎用性には限界がある.性別ごとに分けたうえでも,年齢層別で同様な結果が得られるのかを,サンプル数を増やして検証する必要がある.2)交絡因子の可能性がある,教育水準23,25,29,睡眠状況16,24,36,メンタルヘルス16,27,39について本研究では考慮できなかった.したがって,今後はこれらの要因を考慮する必要がある.3)特定の業種かつ職場における従業員を対象としたことで,職業選択のバイアスが生じた可能性があるが,介護関連職でもこれまでの研究と同様の結果が認められたことは注目に値する.4)本研究は横断研究であるため,認められた関連は因果関係を表すものではなく,相関性を示すのみである.今後は前向き研究にて検証を行う必要がある.5)炎症マーカーの中には,検出限界値未満が多数見受けられた測定項目(IL-4)も存在した(約70%).前述のように,そうしたマーカーを扱う場合は一般化可能性の観点から,結果を慎重に解釈する必要がある.

V. 結論

本研究の結果から,全般的健康感の低下はIL-6の上昇と関連し,その関連は40歳以上の高齢層においてより明確であることが明らかとなった.一方,他者比較健康感では,40歳未満の若年層でTNF-αの高値と関連することが明らかとなった.このことは主観的健康感の質問の差異ならびに年齢を若年者と中高年者とで解析を分けた場合に炎症マーカーとの関連が異なる可能性を示すエビデンスを提供したと言える.

謝辞

本研究の調査に協力してくださったA施設の職員の皆さまに深く感謝いたします.

付記

本研究は,第92回日本産業衛生学会にて口頭発表を行った.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

資金提供:本研究は,労災疾病臨床研究事業費補助金研究「ストレス関連疾患・作業関連疾患の発症に寄与する職業因子ならびに発症を予測するバイオマーカーと自律神経バランスに関する研究,平成28~平成30年度(研究代表者 中田光紀)」ならびに公益財団法人日本中小企業福祉事業財団(研究代表者 中田光紀)の助成を受け,実施した.

文献
 
© 2021 公益社団法人 日本産業衛生学会
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