SANGYO EISEIGAKU ZASSHI
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ISSN-L : 1341-0725
Field Study
Characteristics of compensated mental disorders caused by overwork among drivers and non-drivers in the Japanese trucking industry
Nobuyuki Motegi Shun MatsumotoTomohide KuboShuhei IzawaHiroki IkedaMasaya TakahashiShigeki Koda
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2022 Volume 64 Issue 5 Pages 244-252

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抄録

目的:「道路貨物運送業」の精神障害の労災請求件数,支給決定件数は過去10年で上位3位以内に入っており,過労死等防止対策においてメンタルヘルス対策が重要と考えられる.そこで本研究は,「道路貨物運送業」の労災認定された精神障害等の事案の特徴を明らかにすることを目的とする.対象と方法:本研究では,平成22(2010)~29(2017)年度の8年間に支給決定された3,517件の精神障害等事案(業務上)のうち,237件を分析対象とした.対象者は,運転業務従事者と非運転業務従事者の2群に分けて検証を行った.分析内容は,運転業務従事者と非運転業務従事者の内訳,性別の件数,精神障害発症後の生存あるいは自殺件数,発症時と死亡時の平均年齢と年齢階層別の件数,疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)による決定時疾患名の件数,及び労災認定事案の出来事による長時間労働単独による認定,長時間労働と長時間労働以外の出来事による認定,そして長時間労働以外の出来事による認定の件数の分析をした.結果:性別は男性214件(90.3%),女性23件(9.7%)であり,男性がほとんどであった.全体の生存・自殺は,生存が202件(85.2%),自殺は35件(14.8%)であった.発症時の平均年齢(SD)は,全体が41.1(±9.2)歳,男性は41.7(±9.0)歳,女性は35.7(±9.5)歳,死亡時は全体(男性)が40.3(±9.9)歳であった.最も多い3つの疾患について示すと,全体では,F32うつ病エピソードが113件(47.7%)で最も多く,F43.2適応障害が58件(24.5%),F43.1心的外傷後ストレス障害が27件(11.4%)であった.職種別では,F32うつ病エピソードが運転業務従事者65件(43.6%),非運転業務従事者が48件(54.5%)で最も多かった.労災認定事案の出来事を3つに分類した結果,運転業務従事者は長時間労働単独が18.8%,長時間労働と出来事が33.6%,長時間以外の他の出来事は47.7%であった.非運転業務従事者は長時間労働単独が23.9%,長時間労働と出来事が50.0%,長時間以外の他の出来事は26.1%であった.長時間労働の要因は,運転業務従事者が「入社当初から長時間労働」が30.8%であり,非運転業務従事者は,「配置転換・転勤」は23.1%,「業務拡大・増加」が18.5%であった.考察と結論:運転業務従事者の長時間労働の削減には時間外労働を前提とした勤務体系を改善する必要が考えられる.運転業務従事者の長時間労働は運転労働以外に手待ち,荷役,付帯作業が要因となっており,発・着荷主の現場での作業時間の実態及び内訳を明らかにする必要があると考えられる.非運転業務従事者の長時間労働要因は,仕事の中身が変わったことによる不慣れや職務の増加,通常業務に加えて新規事業担当や荷扱い時間の変更などによるものであった.「道路貨物運送業」において,精神障害等の過労死等防止対策は,運転業務従事者と非運転業務従事者それぞれの検証及び教育等の対策が必要と考えられる.

Abstract

Objectives: This study examined the characteristics of occupational mental disorders among those involved in the transport and postal activities in the trucking industry. Method: We examined 237 out of 3,517 cases of occupational mental disorders, compensated between the fiscal years 2010 and 2017. An assessment was made for sex, “life-or-death” status at compensation, age at the onset and suicide, the diagnosis according to the International Classification of Diseases, Tenth Revision, and other factors regarding occupational compensation. The participants were divided into two groups: truck drivers and non-truck drivers. Results: Men accounted for approximately 90% of the cases. Depressive episode (F32) was the most common diagnosis in drivers and non-drivers, thus constituting 65 out of 149 and 48 out of 88 cases, respectively. The next most common type of mental disorder was adjustment disorders (F43.2), with 34 out of 149 drivers and 24 out of 88 non-drivers reporting them. Furthermore, the majority of drivers that had posttraumatic stress disorder (24 out of 27 cases) reported that they “suffered a serious illness or injury” and “experienced or witnessed a terrible accident or disaster.” Occupational disasters due to long working hours were 52.4% for drivers and 73.9% for non-drivers. A total of 30.8% of the drivers reported working long hours since they joined the company. Conclusion: Drivers’ long working hours entail waiting at the origin and cargo destination site, handling cargo, and incidental tasks other than driving. Thus, the reduction in work hours regarding these tasks needs to be a fundamental goal, and measures that include mental health care for accidents and miserable experiences must be implemented. However, long working hours for non-drivers are likely linked to job expansion/increase and reassignment/relocation. These findings highlight that to prevent overwork-related mental disorders, appropriate actions should be taken considering different sources of exposure for drivers or non-drivers.

はじめに

我が国の過労死等の問題は非常に深刻である.その中で平成26(2014)年6月に過労死等防止対策推進法が成立し,同年11月に施行された.精神障害等の労災請求件数は,平成10(1998)年から20年間で急速に増加し,令和元(2019)年度には,2,000件を超えた1,2.支給決定件数も増加傾向であったが,最近の5年間は500件前後で推移し,労災認定率は30%強である1,2.業種別の支給決定件数は,「製造業」が最も多いが,従業員100万人あたりの支給決定件数を発生率として計算した結果,「情報通信業」が13.5%で最も多く,その次に「運輸業,郵便業」が13.0%であった3

日本標準産業分類の大分類である「運輸業,郵便業」の中分類にあたる「道路貨物運送業」は,トラックによる陸上貨物輸送が主の業種であるが,平成22(2010)年度から令和元(2019)年度の10年間の精神障害の請求件数,支給決定件数は,「社会保険・社会福祉・介護事業」,「医療業」と共に上位3つの業種として認定されている.令和元(2019)年度の請求件数は91件,支給決定件数は29件で共に3番目であった3.「道路貨物運送業」は,精神障害等の過労死等防止対策が必要と考えられる.

「道路貨物運送業」の運転業務従事者の現状は,労働時間は全職業の平均労働時間の2割長く,規制緩和による競争により賃金は平均賃金よりも1~2割低く,人手不足である4.運転業務従事者の勤務・睡眠時間に関する質問紙調査では,①拘束時間が長いこと,②休息時間が短いこと,③睡眠時間が短いこと,④疲労蓄積が高いことが特徴であった5.その過労対策には運行形態にあわせた休日配置と睡眠管理の重要性が示唆されている6

全日本トラック協会は,平成29(2017)年に過労死等防止計画策定ワーキンググループを結成し,実効性のある計画を策定した7.内容は長時間労働対策,健康管理対策を中心とした対策8項目を掲げたものである.この計画は脳・心臓疾患対策を基本としており,精神障害等は対象としていない策定内容である.

精神障害等の労災認定は,平成23(2011)年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」が新たに定められ,これに基づいて労災認定が行われている8.発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について,特別な出来事と36の出来事からなる「業務による心理的負荷評価表」にて評価をするものである.特別な出来事の類型は,心理的負荷が強度のもの,極度の長時間労働の2つであり,36の出来事の大きな分類は,①事故や災害の体験,②仕事の失敗,過重な責任の発生等,③仕事の量・質,④役割・地位の変化等,⑤対人関係,⑥セクシャルハラスメントである.

それに加えて労災認定は,長時間労働に従事することも精神障害発病の原因となり得ることから,以下の3つの視点から評価される.①「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」,②「出来事」としての長時間労働,③他の出来事と関連した長時間労働である.このように,長時間労働は,労災認定の重要な評価項目であることから,労災認定における長時間労働を加えた出来事の分類は「長時間労働のみによる認定」,「長時間労働と長時間労働以外の出来事による認定」,「長時間労働以外の出来事」による3種類が考えられる.

精神障害等の労災認定に関する研究報告は,年代別,性別,業種別,職種別の包括的な報告は見られる1,3,9.「運輸業,郵便業」の脳・心臓疾患に関しては,認定件数が最も多い運転業務従事者の被災状況,積載貨物の分析,運行パターン等についての解析の結果,発症時年齢は50代が多く,長い拘束時間,不規則な勤務,交替・深夜勤務に加えて早朝勤務等が関係している10,11.精神障害等に関しては,「運輸業,郵便業」の結果は,50%が恒常的な長時間労働,残り半分が仕事上の問題,上司や乗客に関連した問題であった,ことが認定に至った12.これらの報告から運転業務従事者の労災認定は,脳・心臓疾患,精神障害等共に長時間労働等による影響が大きいものであるが,上述した「長時間労働のみによる認定」と「長時間労働と長時間労働以外の出来事による認定」はどちらの認定件数が多いかは明らかではない.それに加えて,過労死等の既存の研究は,大分類の業種をまとめたのみで,中分類の業種に限定した報告,そして,運転業務従事者の精神障害等の決定時疾患に関する報告は見られない10,11,12.また,道路貨物運送業の業務は,運転業務以外に,運転業務従事者の運行を安全管理する運行管理者,自社等に倉庫保有時の倉庫作業者,一般的な事務職員や管理者等,社内等で業務を行う非運転業務従事者がいる.社外業務である運転業務従事者と共に,社内業務である非運転業務従事者の精神障害等の特徴について明らかにすることも必要と考える.

そこで本研究は,上記の観点から「道路貨物運送業」の労災認定された精神障害等の事案の特徴を明らかにすることを目的とする.

対象と方法

本研究で解析に試用したデータは,労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターにおいて,厚生労働省より「過労死等の労災補償状況」で公表しているデータ並びに全国の労働局及び労働基準監督署から集約した調査復命書等の提供を受け,データ整理・電子化・入力したものを使用した13

対象とした業種は,運輸業,郵便業(大分類)の中分類に該当する「道路貨物運送業」,「道路貨物運送業」に関連する「運輸に附帯するサービス業」とした.分析に用いたデータは,平成22(2010)~29(2017)年度の8年間に支給決定された3,517件の精神障害等事案(業務上)データベースの「道路貨物運送業」230件と「運輸に附帯するサービス業」7件の合計237件とした.

また,精神障害の業務起因性判断のための調査復命書を使用した.この調査復命書は,「心理的負荷による精神障害の認定基準」に決められた調査項目について記したものであり,その内容から労災認定の可否が明記されたものであった8

対象は,運転業務従事者と非運転業務従事者の2群とした.

分析項目は,事案対象の内訳,性別(男性・女性)の件数,精神障害発症後の状態が生存(自殺未遂を含む)あるいは自殺の件数,発症時と死亡時の平均年齢と年齢階層別の件数,疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10 -International Classification of Diseases, Tenth Revision)による決定時疾患名の件数とした.

それに加えて,労災認定された事案の中で,長時間労働に関連する項目を3つに分類した.その3つは「長時間労働単独による認定」,「長時間労働と長時間労働以外の出来事による認定」,「長時間労働以外の出来事による認定」であった.その内の「長時間労働」と「長時間労働以外の出来事」を36の出来事から6分類した項目では,③仕事の量・質が「長時間労働」に該当し,①事故や災害の体験,②仕事の失敗,過重な責任の発生等,④役割・地位の変化等,⑤対人関係,⑥セクシャルハラスメントが「長時間労働以外の出来事」に該当とした.

更に,長時間労働の背景要因を明らかにするため,調査復命書の記載内容と出来事を基に9つに分類した.その要因は,①入社時から長時間,②業務拡大・増加,③配置転換・転勤,④繫忙期,⑤対人関係,⑥担当人員削減,⑦昇格・昇進,⑧事故,⑨不明(長時間労働による認定であるが,その要因の記載が見られないもの)とした.複数の出来事による認定の分類分けは,主となる出来事を分類項目とした.長時間労働に関する3つの分類と背景要因の9つの分類は,復命書の記載内容から,第一筆者が事案ごとに分類を行い,まとまった時点で4人の筆者が確認をした.

分析方法は,項目毎にクロス集計を行い,関連性の検定であるχ2検定を行った.有意差が認められた場合は残差分析を行った.その項目は,職種(運転業務・非運転業務)については,生存・自殺及び疾患名,長時間労働関連は,生存・自殺及び職種を行った.また,発症時及び自殺時の職種間の平均年齢の差についてはt検定を行った.解析はIBM SPSS Ver26 for Windowsを使用した.

本研究は労働安全衛生総合研究所倫理審査委員会にて審査され,承認を得たうえで実施された(通知番号2020N04).

結果

事案対象者の基本属性を表1に示した.運転業務従事者が149件(男性138,女性11),非運転業務従事者は88件(男性76,女性12),合計237件(男性214,女性23)であり,男性が全体の90.3%を占めた.

表1. 事案対象者の基本属性
職種
運転業務非運転業務合計
n(%)n(%)n(%)
全体149(100.0)88(100.0)237(100.0)
男性138(92.6)76(86.4)214(90.3)
女性11(7.4)12(13.6)23(9.7)
非運転業務内訳
倉庫作業運行管理事務職管理職その他
n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)
全体17(100.0)17(100.0)21(100.0)21(100.0)12(100.0)
男性16(94.1)16(94.1)13(61.9)21(100.0)10(83.3)
女性1(5.9)1(5.9)8(38.1)0(0.0)2(16.7)

全体及び職種別の生存・自殺,発症時・自殺時の年齢を表2に示した.全体の生存件数(割合)は202件(85.2%),自殺は35件(14.8%)であった.生存・自殺と職種は有意であり(χ2(1) = 17.39, p < .001),残差分析の結果,生存は運転業務従事者が多く,自殺は非運転業務従事者に多かった.

表2. 全体及び職種別の生存・自殺,発症時・死亡時年齢
全体運転業務非運転業務p
n(%)n(%)n(%)
生存・自殺
 生存202(85.2)138(92.6)*64(72.7)
 自殺35(14.8)11(7.4)24(27.3)*
合計237(100)149(100)88(100)
chi-square test< .001
発症時年齢(平均,SD)(41.1, 9.2)(41.6, 8.7)(41.3, 9.8)
T-test.327
19歳以下2(0.8)1(0.7)1(1.1)
20–29歳26(11.0)15(10.1)10(11.4)
30–39歳74(31.2)46(30.9)27(30.7)
40–49歳92(38.8)60(40.3)36(40.9)
50–59歳38(16.0)24(16.1)12(13.6)
60–64歳5(2.1)3(2.0)2(2.3)
合計237(100)149(100)88(100)
死亡時年齢(平均,SD)(40.3, 9.9)(44.6, 9.6)(38.1, 9.4)
T-test.083
19歳以下0(0.0)0(0.0)0(0.0)
20–29歳5(14.3)1(9.1)4(16.7)
30–39歳10(28.6)3(27.3)7(29.2)
40–49歳16(45.7)5(45.5)11(45.8)
50–59歳3(8.6)1(9.1)2(8.3)
60–64歳1(2.9)1(9.1)0(0.0)
合計35(100)11(100)24(100)

*残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が 1.96 より大きかったもの

全体及び職種別の決定時疾患名を表3に示した.全体の疾患の上位3つは,F32うつ病エピソードが113件(47.7%)で最も多く,F43.2適応障害が58件(24.5%),F43.1心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorders, PTSD)が27件(11.4%)の順であった.職種と疾病の分類(F2,F3,F4)との間が有意であり(χ2(2) = 6.05, p = .049),残差分析の結果,運転業務従事者はF4:神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害,非運転業務従事者はF3:気分[感情]障害がそれぞれ多かった.

表3. 全体及び職種別の決定時疾患名
全体運転業務非運転業務p
n(%)n(%)n(%)
F2:統合失調症,統合失調症型障害及び妄想性障害1(0.4)1(0.7)0(0.0)
F3:気分[感情]障害127(53.6)71(47.7)56(63.6)*
F4:神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害109(46.0)77(51.3)*32(36.4)
合計237(100.0)149(100.0)88(100.0)
chi-square test.049
F31 双極性感情障害8(3.4)2(1.3)6(6.8)
F32 うつ病エピソード113(47.7)65(43.6)48(54.5)
F34 持続性気分(感情)障害3(1.3)2(1.3)1(1.1)
F3 下位分類不明3(1.3)2(1.3)1(1.1)
F40 恐怖症性不安障害2(0.8)2(1.3)0(0.0)
F41 その他の不安障害6(2.5)5(3.4)1(1.1)
 F43.0 急性ストレス反応4(1.7)3(2.0)1(1.1)
 F43.1 心的外傷後ストレス障害27(11.4)24(16.1)3(3.4)
 F43.2 適応障害58(24.5)34(22.8)24(27.3)
 F43以下の下位分類不明4(1.7)3(2.0)1(1.1)
F44 解離性(転換性)障害3(1.3)3(2.0)0(0.0)
F45 身体表現性障害2(0.8)2(1.3)0(0.0)
F4 下位分類不明3(1.3)1(0.7)2(2.3)

*残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が 1.96 より大きかったもの

生存・自殺及び職種別の労災認定事案の出来事を表4に示した.生存・自殺の認定件数(割合)は,長時間労働単独が49件(20.7%),長時間労働と出来事及び長時間以外の他の出来事がそれぞれ94件(39.7%)であった.生存・自殺と3つの長時間要因は有意であり(χ2(2) = 8.29, p = .016),残差分析の結果,生存は「長時間以外の他の出来事」,自殺は「長時間労働と出来事」において多かった.

表4. 生存・自殺及び職種別の労災認定事案の出来事
生存・自殺全体(n = 237)生存(n = 202)自殺(n = 35)p
n(%)n(%)n(%)
長時間49(20.7)42(20.8)7(20.0)
長時間+出来事94(39.7)73(36.1)21(60.0)*
他出来事94(39.7)87(47.7)*7(20.0)
chi-square test.016
職種全体(n = 237)運転業務(n = 149)非運転業務(n = 88)
n(%)n(%)n(%)
長時間49(20.7)28(18.8)21(23.9)
長時間+出来事94(39.7)50(33.6)44(50.0)*
他出来事94(39.7)71(47.7)*23(26.1)
chi-square test.004

*残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が 1.96 より大きかったもの

職種別の認定件数(割合)は,運転業務従事者は長時間労働単独が28件(18.8%),長時間労働と出来事が50件(33.6%),長時間以外の他の出来事は71件(47.7%)であった.非運転業務従事者は長時間労働単独が21件(23.9%),長時間労働と出来事が44件(50.0%),長時間以外の他の出来事は23件(26.1%)であった.職種と3つの長時間要因は有意であり(χ2(2) = 10.92, p = .004),残差分析の結果,運転業務従事者は「長時間以外の他の出来事」,非運転業務従事者は「長時間労働と出来事」において多かった.

職種別の長時間労働の要因を表5に示した.長時間労働関連の認定件数(割合)は,運転業務従事者が78件(52.3%),非運転業務従事者が65件(73.9%),全体が143件(60.3%)であった.全体の上位3つの項目は「入社時から長時間」が32件(22.4%),「配置転換,転勤」が29件(20.3%),「業務拡大・増加」が27件(18.9%)であった.運転業務従事者は,「入社時から長時間」が24件(30.8%)で最も多かった.非運転業務従事者は,「配置転換,転勤」が15件(23.1%),「業務拡大・増加」は12件(18.5%)であった.

表5. 全体及び職種別の長時間労働の要因
全体運転業務非運転業務
n(%)n(%)n(%)
入社時から長時間32(22.4)24(30.8)8(12.3)
業務拡大・増加27(18.9)15(19.2)12(18.5)
配置転換・転勤29(20.3)14(17.9)15(23.1)
繫忙期10(7.0)6(7.7)4(6.2)
対人関係12(8.4)5(6.4)7(10.8)
担当人員削減10(7.0)3(3.8)7(10.8)
昇格・昇進10(7.0)2(2.6)8(12.3)
事故2(1.4)2(2.6)0(0.0)
不明11(7.7)7(9.0)4(6.2)
合計143(100)78(100)65(100)

考察

本研究は,道路貨物運送業の労災認定された精神障害等の事案について,運転業務従事者と非運転業務従事者の特徴を明らかにすることを目的とした.その結果,男性が90.3%を占めた.決定時疾患は,うつ病が最も多く,その次に適応障害,3番目がPTSDであった.長時間労働に関連した認定は,運転業務従事者が52.2%,非運転業務従事者は73.9%であった.職種別の長時間労働の要因では,運転業務従事者は,「入社時から長時間」が30.8%で最も多く,非運転業務従事者は,「配置転換,転勤」が23.1%,「業務拡大・増加」は18.5%であった.以下,長時間労働とPTSDの観点からそれぞれ考察する.

長時間労働について

運転業務従事者の労災認定事案の要因として,長時間労働を含んだ認定が約50%であった.そこで,長時間労働の要因を調べた結果,「入社時から長時間」が約30%と最も多かった.この「入社時から長時間」というのは,復命書の被災労働者(請求者)からの聞き取りによるものであり,仕事内容・量が入社(運転業務)当初から時間外労働を含めたものと考えられる.運転業務従事者の長時間労働の要因のひとつとして,運転労働以外の手待ち,荷役,付帯作業がある.そのため,発・着荷主の現場での作業時間の実態及び内訳を明らかにする必要があると考えられる.また,運転業務従事者に対する労働時間規制は,改善基準告示により他の産業に比べて長い拘束時間が認められている.ところが,改善基準告示違反の運送業者が増加し,多くの運転業務従事者がこの拘束時間の上限超える実態が存在し,労災認定の決定件数が多い要因になっている14.このような業界の慣行,会社の常識といわれることが労災発生の背景になっている15.長時間労働削減の改善例として,手待ち時間改善のために荷役の予約システムを導入や,従来の手荷役からパレットを使用した荷役へ変更,さらにパレット積みのまま発送から到着の荷卸しまで一貫して輸送する一貫パレチゼーションを導入して付帯作業を減らすことが行われ,これらの取組みは運転業務従事者の拘束時間を削減するのに有効であることが実証されている14.このように長時間労働削減に向けて一部動きが出てきている.

非運転業務従事者では,長時間労働に関する出来事が約70%であった.非運転業務従事者の長時間労働の大きな要因は,「配置転換・転勤」では,仕事の中身が変わったことによる不慣れや異動先での職務の増加,「業務拡大・増加」では,通常業務に加えて新規事業担当や荷扱いの時間帯の変更による長時間労働などであった.長時間労働による認定件数は運転業務従事者が約50%であったが,非運転業務従事者は約75%であった.運転業務従事者は時間外労働の年960時間の上限規制が2024年に適用されるが,非運転業務従事者は既に適用されている.人手不足の運送業界では,運転業務従事者とともに非運転業務従事者にも何らかの対策が必要であると考えられる.運転業務従事者特有の長時間拘束による長時間労働と比較して,非運転業務従事者では,仕事の中身が変わることや業務増大による長時間労働が要因のため,職種別の対応が必要と考えられる.具体的な対応案として,運転業務従事者には,管理者は安全輸送を心がけるための知識を身につけさせるため,継続的に指導・監督の実施が必要であると考えられる16.指導・監督により,運転業務従事者が事故防止や過労防止運転知識が身につき,それが過労死等防止になると考えられる.非運転業務従事者は,運転業務従事者も含めた長時間労働をしない働き方をするには管理者の配慮が必要になる.また,倉庫作業者は他の非運転業務従事者と異なりトラックの荷積・荷卸等に関わる現場作業である.しかし,転倒・転落やフォークリフト等の運搬機械等による労働災害が多い17.作業者に対して安全衛生教育をすることで労働災害を未然に防ぐことができると考えられる17

非運転業務従事者の自殺件数は,運転業務従事者より2倍以上多く,3つの長時間要因の内の「長時間労働と出来事」が,3分の2を占めた.対人関係の出来事が7件と最も多く,その内,「上司とのトラブル」が4件と半分を占めた.非運転業務従事者は,運転業務従事者と異なり社内での業務が多いため,ハラスメント対策が必要と考えられる.ハラスメントが発生する背景には,組織の問題があると言われている18.具体的な対策は,社内研修を行う,相談窓口の設置を組織として実施することである18.しかし,道路貨物運送業は中小企業がほとんどであり,具体的な対策がわからない場合は所在地のトラック協会に相談等を行うと,ハラスメントの情報入手が可能と考えられる.社内研修の資料がない場合は,厚生労働省が資料を公表しているので,それらを参考に社内研修を実施することが有効と考えられる19,20

業務上の事故や悲惨な体験に伴うPTSDについて

決定時疾患は運転業務従事者,非運転業務従事者ともにうつ病が最も多く,適応障害がその次に多かったが,両者の違いは特に見られなかった.長時間労働に関する認定では,調査復命書より,うつ病,適応障害共に,心身的疲労,睡眠障害などが原因で発症することがみられた.ここでは,全体の決定時疾患3位であり,運転業務従事者と非運転業務従事者との件数に差が見られ,交通事故や,自然災害等の深刻なイベントにより引き起こされる精神障害であるPTSDに着目する21

運転業務従事者の長時間労働以外の出来事の約70%が事故やケガに関するものであった.交通事故によりPTSDを発症する可能性が高いのは,交通事故で負傷し生存した人たちと言われている22.運転業務従事者は主な業務が運転業務のため,常日頃から交通事故のリスクがある立場にある.

PTSDの件数は,27件中運転業務従事者が24件,非運転業務従事者は3件であった.事故や悲惨な体験の出来事の全体件数は24件であった.その24件中22件が,36の出来事で大分類された中の①事故や災害の体験に該当する,であり,そのすべてが事故やケガに関連することであった.非運転業務従事者の2件も含め合計24件が事故やケガ関連であった.

平成30(2018)年の自動車運送業における重大事故件数は5,449件であり,「道路貨物運送業(貨物軽自動車運送業を除く)」は1,918件と,乗合バスの2,504件の次であった.その内,重傷者数は「道路貨物運送業」は1,311人中634人であった.死者数においては667人中558人とタクシー75人,バス44人と比較して非常に多く,死亡リスクが非常に高い業種である23.また,事故において運転業務従事者は被害者若しくは加害者になる12.その中で被害者・加害者両方において,事故の相手が自殺時のPTSD発症は6件であった.PTSDを発症した運転業務従事者の事例では,トラックを衝突された運転業務従事者を6名集めて,それぞれの経験を他者と共有できるかを目的に専門家監督の立会いの下グループ会議を行った結果,事故の回避が出来なかった経験を共有することでき,運転業務従事者に良好な精神状態を与えたことが支援方法のひとつと奨励された24.PTSDを発症した場合,その回復に個人で取組むには限界があるといわれている25.そのため,リハビリや心のケア等のソーシャルサポートネットワークの重要性が示唆されている22,26.実際,同じ境遇の運転業務従事者が一同に集まることや中小企業が大半を占めるトラック業界単独の取組みは難しく,現状上述したソーシャルサポートネットワークと連携することが最適と考えられる.また,消防等における事故や災害時等に対応するマニュアルが各自治体等で作成されているが,それらを参考に運転業務従事者向けのマニュアル等を作成することが運転業務従事者のPTSD対策になると考えられる27

なお,大きな自然災害であった東日本大震災で救援活動を行った消防職員の9割は何らかのストレスを抱えていた28.アンケート項目の「必要な対策」で最も多かった回答が,長期休暇の付与で54.4%であった.出来事1の「(重度の)病気やケガをした」と出来事2の「悲惨な事故や災害の体験・目撃」は,出来事の大分類の①事故や災害の体験に該当し,出来事2は,出来事1と異なり,ケガによる長期の入院がなく,交通事故等による体験や目撃によるため,翌日から勤務の可能性も当然ある.従って,業務上の事故等があった場合,事業者は長期休暇の取得が出来る仕組みを設ける必要があると考えられる.

研究の限界

本研究は,厚生労働省より「過労死等の労災補償状況」で公表しているデータ並びに全国の労働局及び労働基準監督署から集約した調査復命書等の提供を受け,データ整理・電子化・入力したものを使用した13.労災を申請し認定された事案を対象としており,労災を申請しながらも認定されなかった事案や労災の申請自体がされなかった事案は対象外であることに起因するバイアスの影響が認められる.本研究の結果は「道路貨物運送業」の労災認定事案であるが,労災の申請・認定のハードルが高いものであることから「道路貨物運送業」の労働者全体に一般化できないことも本研究の限界と考えられる.今回,調査復命書を用いて,出来事の分類を行った.「長時間労働のみ」という結果を示したが,実際には,長時間労働のみの申請と長時間労働と長時間以外の他の出来事を含めた申請がある.補償の迅速性を確保するために労働基準監督署は,すべての事案ではないが,長時間労働で認定された場合は,長時間以外の他の出来事についての調査をしない,つまり評価なしとして扱うことがある.そのため,調査復命書では被災労働者における全ての出来事が網羅されているとは言えず,資料としての限界があることも認められる.

結論

本研究は,「道路貨物運送業」の労災認定された精神障害等の特徴について明らかにすることを目的とした.運転業務従事者の長時間労働の要因として,「入社当初から長時間労働」が約30%を占めていた.長時間労働の削減には時間外労働を前提とした勤務体系を改善する必要が考えられる.運転業務従事者の長時間労働は運転労働以外に手待ち,荷役,付帯作業が要因となっており,発・着荷主の現場での作業時間の実態及び内訳を明らかにする必要があると考えられる.また,運転業務従事者は,交通事故等の事故による心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する傾向があった.ケガのケアとともに精神面のケアを早急に出来る環境が必要と示唆された.

非運転業務従事者は,長時間労働による認定要因が多かった.その主な内容は,「配置転換・転勤」で,仕事の中身が変わったことによる不慣れや職務の増加,「業務拡大・増加」で,通常業務に加えて新規事業担当や荷扱い時間の変更などによるものであった.それに加えて,運転業務従事者より自殺件数が多く,その中で対人関係,特に「上司とのトラブル」が多かったため,ハラスメント対策が必要と考えられる.

「道路貨物運送業」における精神障害等の過労死等防止対策は,運転業務従事者と非運転業務従事者それぞれにおける検証及び教育等の対策が必要と考えられる.

謝辞

本研究は厚生労働省労災疾病臨床研究事業費補助金(150903-01,180902-01)の研究助成を受けて実施された.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
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