産業衛生学雑誌
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調査報告
疾病を抱える労働者の治療と仕事の両立支援の取り組み状況:和歌山県内事業場の規模別比較から
森岡 郁晴 寺下 浩彰宮下 和久生田 善太郎竹下 達也藤吉 朗山本 則夫湯上 ひとみ
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2023 年 65 巻 1 号 p. 28-40

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抄録

目的:がんや糖尿病などの疾病を抱える労働者の治療と仕事の両立支援は十分とはいえない.そのため,本研究では,事業場における疾病を抱える労働者の治療と仕事の両立支援の取り組み状況を事業場の規模別に明らかにし,疾病を抱える労働者に対する職場改善を検討することを目的とする.対象と方法:和歌山産業保健総合支援センターの事業場リストから無作為に抽出した789事業場を対象に,無記名の質問紙を郵送により配布した.質問紙は,事業場,就業中のがん経験者やがん治療中の労働者(以下,がんを抱える労働者),疾病(がん,糖尿病等の私傷病)を治療している就業中の労働者(以下,疾病を抱える労働者),企業と労働者への支援体制を尋ねる内容とした.結果:質問紙は187事業場から回収された(回収率:23.7%).がんを抱える労働者がいる,あるいは以前いたと回答した事業場は,小規模(労働者数50人未満)の事業場で43.4%,中規模(労働者数50–99人)で70.9%,大規模(労働者数100人以上)で83.1%であった.いずれの規模でも,がんを抱える労働者を復職させたり,雇用したりする際に配慮していることで最も多かったのは,「治療のために休むこと」であった.また,がんを抱える労働者が職場にいることで,職場に生じる困難で最も多かったのは,「働き手が足りなくなる」であった.職場復帰の判断のために必要な主治医等からの情報は,「現在の健康状態や体力」が多かった.一方,いずれの規模でも,疾病を抱える労働者が治療と仕事を両立できるような取り組みで最も多かったのは,「通院や体調等の状況に合わせた配慮,措置の検討」であった.また,取り組みに関する困難や課題で最も多かったのは,「代替要員の確保」であった.職場復帰の判断のために必要な主治医等からの情報は,がんを抱える労働者と同様で,「現在の健康状態や体力」が多かった.両立支援コーディネーター養成事業については,いずれの規模でも60%以上が知らなかった.結論:疾病を抱える労働者に対する職場改善として,通院や体調等の状況に応じた配慮,代替要員の確保が重要となることが示された.両立支援コーディネーターは,積極的な周知を進める必要があることが示唆された.

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