2003 年 55 巻 1 号 p. 1-10
近年,社会環境の大きな変化,さまざまなストレス要因を背景に,更年期障害,なかでも精神症状を有する女性の増加が顕著であり,その日常生活への影響が懸念される.ここでは,患者立脚型quality of life(QOL)評価方法の1つである包括的健康関連QOL尺度SF-36を用いて,更年期障害患者のQOLを健康人のそれと比較するとともに,ホルモン補充療法(HRT)の更年期障害患者QOLに及ぼす影響を調べた.対象は,神戸大学医学部附属病院産婦人科中高年外来を受診した47歳から63歳の更年期障害患者22名と,45歳から62歳の一般健康女性22名である.更年期障害患者は,主体症状別に身体症状主体群(N=10),精神症状主体群(N=5),身体症状・精神症状混在群(N=7)の3群に分類した.更年期障害患者ならびに一般健康女性のQOL評価をSF-36を用いて行い,両者を比較した.また,更年期障害患者のHRT前後におけるSF-36得点の推移を調べた.さらに,SF-36得点による更年期障害患者のQOL評価をKupperman index(血管運動神経,運動神経,知覚神経,精神神経症状別ならびに合計得点)による症状評価と比較検討した.更年期障害患者は一般健康女性に比して,SF-36得点は有意に低値を示し,なかでも,精神症状主体群ならびに身体症状・精神症状混在群においてその傾向が顕著であった.HRT前後におけるSF-36得点は,身体症状主体群では有意な改善は観察されなかったが,精神症状主体群では精神的QOLの改善が,身体症状・精神症状混在群においては,身体的ならびに精神的QOLの改善がみられた.HRTにより,更年期障害患者のKupperman indexは血管運動神経ならびに合計得点で有意な改善が認められたが,主体症状別検討では精神症状主体群と身体症状・精神症状混在群では,HRT前後で有意な改善は観察されなかった.
以上より,更年期障害患者のQOLは一般健康人に比較して著しく損なわれていること,なかでも精神症状がそのQOL低下に大きく関わることが推察された.また,HRTは身体的ならびに精神的QOLを向上させる可能性が示唆され,包括的健康関連QOL尺度SF-36は,更年期障害患者の客観的なQOL把握ならびに治療評価の有用な方法の1つになり得ると考えられた.〔産婦の進歩55(1):1-10,2003(平成15年2月)〕