産婦人科の進歩
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原著
奈良県産婦人科医会によるHTLV-1キャリア妊婦に関するアンケート調査
大井 豪一原田 直哉中村 徹堀江 清繁井上 芳樹高井 一郎小林 浩赤崎 正佳
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2013 年 65 巻 3 号 p. 251-260

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抄録

奈良県内のすべての産婦人科医療施設に対し,2007年から2011年までの5年間におけるHTLV-1スクリーニングに関する調査を無記名質問紙法にて実施した.施設回収率は96.1%(73/76)であり,妊婦健診実施施設に限定すると97.8%(44/45)であった.その結果,HTLV-1一次スクリーニング陽性率は0.17%(93/54, 589),二次検査陽性率は60.3%(35/58)であった.新たにキャリアであると診断された症例(新HTLV-1キャリア)35名,すでにキャリアであると診断されていた症例(既知HTLV-1キャリア)13名と未確認HTLV-1キャリア(一次スクリーニング陽性で二次検査が未施行の22名と二次検査が判定保留でPCR法を未施行の4名)26名の合計74名を次世代HTLV-1継代high risk groupとし,この群を対象に乳汁栄養法,妊娠期間中のカウンセリングの有無,母子フォローアップの有無や新生児感染の有無に関して解析した.乳汁栄養法は,推奨3方法(完全人工栄養,短期母乳,凍結母乳)を92%(68/74)の症例において,また確定HTLV-1キャリア(新+既知)に限定すると98%(47/48)の症例で実施されていた.確定HTLV-1キャリア(新+既知)と未確認キャリアの2群間に対し,乳汁栄養法,カウンセリング施行率と母子フォローアップ率に差があるかをχ2検定にて解析した結果,すべてに有意差(p=0.0047,p=0.0005,p=0.0009)を認めた.この有意差を認めた要因は,乳汁栄養法では未確認HTLV-1キャリアに凍結母乳46%(12/26)が多いためであった.一方,カウンセリング施行率と母子フォローアップ率では,確定HTLV-1キャリアと未確認HTLV-1キャリアのそれぞれに差(48% vs. 76%,48% vs. 12%;確定 vs. 未確認)を認めたためであった.今回のアンケート調査で次の反省点が明らかとなった.一次スクリーニング陽性妊婦の中で二次検査やPCR法を未施行である妊婦がそれぞれ28%(26/93),50%(4/8)と多く存在したこと,HTLV-1キャリア妊婦に対するカウンセリング率が48%(23/48)と低率であること,HTLV-1キャリア妊婦への説明時に不備を認めたこと,次世代HTLV-1継代high risk groupにおいて約2/3の母子症例が分娩後のフォローアップとして次施設へ紹介されていなかったこと,新生児HTLV-1感染症の有無に関しては,分娩を扱った産婦人科医がほぼその結果を知らなかったことであった.〔産婦の進歩65(3):251‐260,2013(平成25年8月)〕

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© 2013 近畿産科婦人科学会
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