抄録
心理学実験科目において,成績評価の枠組みから実験レポートの評価を切り離し,課
題の遂行量のみを成績評価の材料とする方法を試みた。これにより,レポートの評価が形成
的アセスメントとして有効に機能することを意図した。しかし,この方法は「レポートを提
出さえすれば単位が得られる」と誤解され,教育の質を損なう懸念があった。そこで,介入
前後における実験レポートの得点を比較した。その結果,得点の低下は見られず,学修を大
きく損なうことなく本評価法を運用できる可能性が示唆された。また,成績評価上の遂行状
況を受講者が把握しやすいように,LMS(Moodle)の機能を用いて,各課題の遂行に応じ
たデジタルバッジを付与した。事後調査における因子分析の結果,「楽しさ」「自己調整」「学
習阻害」の3 因子が抽出された。「楽しさ」と「自己調整」の平均項目得点が大きい一方で
「学習阻害」の平均項目得点は小さく,バッジが学修の自己調整を促進する可能性と,ネガ
ティブな影響は限定的であることが示唆された。本研究の限界として,学修態度の変化を直
接測定していない点と,評価の客観性が担保されていない点が挙げられる。今後の課題とし
て,学修態度の事前・事後比較と,第三者による評価を導入した効果の検証が求められる。