抄録
樹木の環境保全機能を重視した植林や都市緑化を検討する場合, できる限り良質な苗木を生産する技術が必要となる。本報では, 公益機能への関心が高まっている広葉樹であるクスノキに着目し, 夏期 (8月) から冬期 (1月) にわたりビニルハウス内で, 光強度および土壌水分が異なる環境下での稚苗の成長特性を調査した。
試験期間中の個体乾物重, 葉面積, 葉乾物重の経時変化は, 単純ロジスティック曲線によって近似できた。被陰環境条件下 (相対光量子量が約29%) では, 乾物生産量, 絶対成長率, 相対成長率 (RGR) がいずれも増大した。これはクスノキ苗固有の特性と考えられる。この場合, 一定の成長を維持するため, 光合成によって生産された同化産物を葉へ積極的に分配し, 地上部成長を盛んに行った。さらに, 成長解析の結果, クスノキ稚苗は被陰環境条件に対して, 葉肉厚を薄くして葉面積を拡大するという回避的な順応様式をとることがわかった。また, 低土壌水分条件下では, RGRは低下した。この場合, 地上部成長を抑えて根の割合を増加させるという耐忍的な順応様式をとることが確認された。