2023 年 57 巻 3 号 p. 217-223
人がにおいを感じるのは,においのもとであるにおい分子が存在するからである。そして,におい分子のさまざまな構造変化をにおい受容体がとらえることで,人は多様なにおいを区別している。におい受容体の種類は約400しかないのに,多様なにおいを感じることができる。さらに多くのにおい素材のにおいは多数のにおい成分から構成されている。では,どのようにして,素材のにおいは個々のにおい分子のにおいから作られているのか,その理由を知るには嗅覚特有の複雑な受容機構の理解が必要である。そして,受容体がにおい分子の構造のどんな変化をとらえているかについての知見もにおい受容機構の解明には必要である。代表的な香材である白檀や乳香などの香気特性の解析から,構造類似のにおい分子の共存が,素材の香気特徴の発現にとって重要であることが示された。さらに,サンタロールやアネトールなどのにおい分子の構造変換から,におい受容体がにおい分子のどのような構造を認識しているかについての知見も得られた。