金属鉱床探査などを目的とした自然電位探査は,陸上では従来から行われている。水中においても自然電場探査は行われており,近年では深海における自然電場観測によって海底熱水鉱床を探査する試みも始まっている。海水中では自然電位信号が小さいため,電場データに混入したノイズを除去する必要がある。しかし,複数の並行観測データを足し合わせて平均化する従来の手法(スタッキング)では,並列データに混入したノイズの間に相関が認められる場合,このノイズを除去することは難しい。そこで,海底下からの電場信号とノイズの独立性に着目し,独立成分分析(Independent Component Analysis : ICA)と呼ばれる多成分の混合信号を複数の独立な信号に分離する手法を用いて,ノイズの除去および信号の抽出を試みた。
まず曳航式自然電場探査により取得した電場データに対してICAの適用実験を行った。海底熱水鉱床や海底湧水域から離れた場所での電場データを解析した結果,本データには自然電場信号は含まれていないことが明らかとなり,抽出したノイズの原因を推定することができた。さらに,本データに対し,海底下からの自然電場信号を模した仮想的な信号成分を足しあわせて,擬似的な観測データを作成した。この擬似的データからICAを用いてノイズを抽出および除去した結果,スタッキングよりも明瞭に仮想的な信号成分を抽出することができた。
次に,自律型無人探査機を用いて取得した,海底熱水噴出域周辺での電場データに対してICAを適用した。その結果,スタッキングでは抽出することができなかった自然電場信号をICAにより抽出することができ,抽出および除去したノイズの原因を推定することができた。
以上からICAによるノイズ除去・信号抽出法は,スタッキングでは除去することが困難であるノイズを除去可能であると結論付けられる。本手法は海底自然電場探査だけでなく,陸上・海底での種々の電磁・電気探査にも広く適用可能であると思われ,より高精度の地下構造情報抽出に利用可能であると考えられる。