物理探査
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論文
物理探査データのジョイント・インバージョン―三次元速度構造モデル構築手法―
杉本 芳博山内 泰知高岡 宏之
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2018 年 71 巻 p. 86-102

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抄録

地震動評価のための三次元速度構造モデルは,微動アレー探査や地震探査,重力探査,ボーリングデータなど,S波速度やP波速度,密度,層厚に関する情報を含む多くの物理探査や地質データを使って構築される。これらのデータを統合して三次元速度構造モデルを構築するためのツールとしてジョイント・インバージョンのプログラムを開発した。異なる種類の探査データを同時に解析するため,広域モデルとローカル・モデルを同時に使う解析モデルの枠組みを導入し,非線形最小二乗法によるジョイント・インバージョンの定式化を行った。加えて,未知パラメータを減らすために,P波速度および密度はS波速度の関数として取り扱った。異なる探査データの同時解析においては,探査データ毎に重み係数を適切に調整することが重要であるため,ヤコビアン行列の行ベクトルのL2ノルムを使ったデータの規格化の方法について検討した。さらに,異なる探査データ間のノイズレベルの差を平準化するため,焼きなまし法(SA)を使ったABIC最小化法を適用し最適重み係数の組み合わせを推定した。シミュレーションの結果,これら2つの重み付けの方法は最適な重み係数の組み合わせを選択する方法として有効であることが確認された。次に,探査データの組み合わせを変えて解析した6ケースのインバージョン結果の精度を比較した。シミュレーション結果から,複数の探査データを使ったジョイント・インバージョンによってモデルの誤差が改善することが示された。さらに,これらの解に関する解像度行列の解析結果から,異なる種類の探査データによってもたらされる情報量の増加によって解の一意性が改善することが示された。最後に,残差分布の観点から解の収束性を議論するため,新たに考案した方法を使って多次元パラメータ空間から二次元面を切り出し,その面上にいくつかのRMS残差の分布をマッピングした。それらの分布図によって,ジョイント・インバージョンによる解の精度や一意性,初期モデル依存性の改善を視覚的に理解することができた。ジョイント・インバージョン法は三次元速度構造モデルを作成するための強力かつ効果的なツールであり,今後の発展が期待される。

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© 2018 社団法人 物理探査学会
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