物理探査
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論文
和歌山平野における微動アレイ記録から回転成分を用いて推定したラブ波位相速度
吉田 邦一上林 宏敏大堀 道広
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2022 年 75 巻 p. 70-78

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抄録

 強震動予測に用いる地下構造モデルの作成には,微動アレイ探査の結果がよく用いられる。これまでは鉛直成分をもとにしたレイリー波の位相速度が用いられてきたが,水平成分を用いたラブ波の位相速度の推定ができれば,地下構造モデルをより精度よく構築できることが期待される。ラブ波の位相速度の推定法として,回転成分を用いたものが最近提案されている。本研究では,この手法の妥当性を評価するため,和歌山平野で観測された微動アレイ記録の水平成分を用いてラブ波の位相速度を推定した。回転成分を求める手法をゆがんだ三角形アレイにも対応できるように改良し,水平成分の記録を解析した。この解析で得られた回転成分波形から,空間自己相関法により位相速度を求めた。得られた位相速度は,ほとんどの観測サイトで正の分散性を示した。回転成分の空間自己相関法により推定したラブ波の位相速度と,既往研究による同じアレイ記録を用いた水平成分のf-k法により求めたラブ波の分散曲線を比較すると,重複する周波数帯域でほぼ同じ値が得られた。また,空間自己相関法の方がf-k法よりも低周波数側の位相速度を求めることができた。ラブ波位相速度を求めたサイトのうちIMFサイトについて,微動記録から推定した位相速度と既往のPS検層および3次元地下構造モデルを組み合わせて作成した地下構造モデルから計算した理論位相速度を比較した。その結果,観測と理論の位相速度はごくわずかなずれがあるものの,ほぼ対応した。次にアレイ記録から回転成分および発散成分を計算して,それぞれのパワーを比較した。さらに,IMFサイトについて回転および発散成分をラブ波とレイリー波のパワーに変換した。その結果,本研究のアレイ記録では,回転成分が発散成分よりも卓越しており,水平成分にはレイリー波よりもラブ波が卓越していることが示唆された。

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© 2022 社団法人 物理探査学会
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