社会経済史学
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1879年コレラ流行時の有力船主による防疫活動 : 宮林彦九郎家の事例
二谷 智子
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2009 年 75 巻 3 号 p. 313-336

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抄録

近代史では,国民国家論の立場から幕末・明治期コレラ流行時の衛生が検討され,伝染病流行に直面した人々の生活の近代化過程が,民俗・心性・予防言説に焦点を絞って検討されてきたが,他方で,近世医療史の研究が進み,その歴史像に批判も出されている。本稿は,石川県(現富山県)の地域有力者であった宮林彦九郎家が,1879年コレラ流行時に交わした書簡を分析し,流行下でコレラに対応した人々の具体的な様相と,船主が実践した防疫の有り様を検討して,上述の争点に実証的な裏付けを提供する。船主兼地主の宮林家は,情報ルートを複数持ち,入手した情報を照らし合わせ,冷静かつ客観的に判断して,自己所有船と家族の防疫をした。地域では,地方行政官の意向も入れて地元の防疫活動を自発的に行った。この点には,近世以来の地域有力者による施療との同質性があり,地方行政官もそれを織り込んで,防疫活動を展開した。1879年コレラ流行を経験した宮林家は,地域住民の「智力ノ培養」が今後の重要課題となることを認識し,石川県地方衛生会の設置(1880年7月)より早い,80年1月に自費で新聞縦覧所を開設した。

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© 2009 社会経済史学会
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