社会経済史学
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イギリス商務院と最低賃金制度の形成 : 1909年産業委員会法をめぐって
松永 友有
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2011 年 77 巻 1 号 p. 93-114

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抄録

1909年の産業委員会法によって,イギリスは近代史上,いわゆる大国の中では初めて最低賃金制度を導入した国となった。その画期性にもかかわらず,産業委員会法制定の経緯については,これまで未だ乏しい研究しか存在しない。本稿は,同法の担当官庁である商務院の役割に焦点を当てることによって,従来の研究とは異なる視点から産業委員会法の形成過程を究明しようと試みる。すなわち,従来は労働者保護政策に積極的な組織とみなされてきた商務院は,輸出貿易の拡大を至上任務とする組織的性質を有しており,その結果として元々商務官僚は最低賃金制度には一貫してきわめて消極的であった。自由党内閣に最低賃金制度を受け入れさせるにあたって,本来最も積極的な貢献をしたのはハーバート・グラッドストン内務大臣であった。それにもかかわらず,本来は本命視されていた内務省に代わって,商務院が産業委員会法を担当するに至った。事務次官ルウェリン-スミスを始めとする商務官僚がイギリスの産業競争力の維持を何よりも重視して産業委員会法を運用した帰結として,同法の効果は最小化されたのである。

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