社会経済史学
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1920年代~1930年代の天津における通貨供給メカニズムと金融市場の近代化 : 上海との連関,及び天津銀銭業準備庫の分析を中心として
諸田 博昭
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2013 年 79 巻 3 号 p. 373-394

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抄録

1920年代における天津の通貨供給量は,天津と上海の各種短期金利指標を基準に,裁定取引によって銀需給が調整されることで比較的安定的に推移していた。しかし,1930年代の恐慌期には,上海事変によって一時期上海との資金融通関係が途絶し,加えて過剰な銀元遊資により,天津の決済の要であった外国銀行買弁が銀元預金の受け入れを拒否したことで,天津の金融市場は変革を迫られた。1932年10月には,銀行界と銭業界が共同で銀行業銭業連合準備庫を創設し,ここに余剰銀元を預け入れ,集中決済や有事の際の市場の安定化,上海向け銀元為替市場などの機能を持たせることで,上海との連関を更に強くする形で天津の金融市場は,効率性と安定性を確保した。天津では,1920年代からの決済習慣の相違が要因となって,上海より早期に銀行界と銭業界の統一的決済機関が誕生したのであり,1930年代の金融の近代化には,法令による上海を中心とした画一的な近代化という局面以外に,全国的一律性をそれほど必要としない金融インフラが地域的に多様化するという局面があったと言える。

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© 2013 社会経済史学会
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