2019 年 49 巻 p. 57-74
近年日本では奨学金政策が社会からの耳目を集めている。しかし、奨学金が学生生活に全くプラスの効果も与えず、学生を借金苦に追い込むだけの「負の政策」なのか、その検討はまだ十分になされていない。また、奨学金の効果検証に関わる先行研究は、収入支出の一部費目のみを取り上げたものが多くなり、奨学金政策の影響の実態を反映したものとは言えない。 そこで本稿では、日本学生支援機構の奨学金が学生の収入・支出に与える影響について、プロペンシティースコアマッチングを用いた形で、学生の収入・支出総額や各費目を総合的な観点から奨学金の効果を検討する。これにより、奨学金の受給者と非受給者の持っている属性—例えば親の年間収入、住居形態等を統制し、奨学金が学生の収入・支出に与える因果的な効果を検証する。 検証の結果、奨学金受給によって家庭給付を抑制し、収入・支出総額が増加し、その分、食費等への支出が可能となるし、娯楽嗜好費に用いられていないし、修学費は相対的多く確保していることを示す知見が含まれる。こうした知見は、奨学金政策への懐疑的な見解への反証となるとともに、奨学金の実態に即した今後の政策的な議論を可能にするものである。