2020 年 52 巻 p. 19-32
本稿の目的は、大学教育投資の成功の陰に潜む失敗の可能性について検証する事である。我々は、標準的な地方私立大学における4学部3ヵ年分の就職先データを用いて、当該大学卒業者の期待生涯賃金及び期待教育投資収益率を推計し、その値の平均と分散の変動、安定性に着目した分析を行った。 主要な知見は以下の通り。(1)就職状況及び期待生涯賃金・期待収益率について学部別に見た場合、該当学生数が少ない学部においては変動が大きくなるものの、大学計で見た場合、結果は安定的である。(2)標準的な地方私立大学における大学教育投資収益率は、「平均」的には全国大卒者計の数値を若干下回るものの一定の投資効果が期待できる。(3)ただし、その分散(ちらばり)について見た場合、全体の4割強において大卒平均を上回る投資効果が確認される一方で、2割前後の投資失敗者が存在する。 さらに、知見から得られる含意は以下の通りである。(1)政策的観点からは、大学教育投資の重要性とともに投資の失敗の可能性を常に明確にし、こうしたエビデンスのより広範囲・強固な基盤を作成していく事が必要である。(2)経営的観点からは、自大学における大学教育投資の「平均」的な効果とともに失敗の可能性を含めたエビデンスに関するIRの推進が期待される。