2024 年 61 巻 1 号 p. 19-31
気候変動と生物季節の対応関係の理解を深めるためには,従来とは異なる間接的な手法により様々な種を対象に長期的な生物季節モニタリングを行う必要がある.本研究は,岐阜県を対象に,サツキマス(Oncorhynchus masou ishikawae)と天然アユ(Plecoglossus altivelis)の月別の取扱数量データを解析し,河川の遡上季節や降河季節との関連性や,それらの経年変化の評価を試みた.アユの降河季節の時期:10月〜12月における年間総取扱数量に対する各月の取扱数量の割合は,モニタリング期間(1982年〜2021年)において統計的に有意な増加トレンドを示した.その結果,河川水温の上昇にともない天然アユの降河季節の時期が晩期化した可能性が示唆された.しかしながら,月別の取扱数値データとサツキマスの遡上季節には,有意な関係性はみられなかった.また,サツキマスの降河季節とアユの遡上季節については,月別の取扱数値データは禁漁期間を含むため解析が困難であった.卸売市場の取扱数量データは,各水系における取扱数量の変動,時間分解能や記録の誤り,市場動向を原因とした不確実性や系統的な誤差を含むが,生物季節の間接的な推定とその経年変化のモニタリングにおいて有用であることが示唆された.