2023 年 30 巻 2 号 p. 97-102
日本式経営の特徴としてしばしば注目される企業別組合であるが,高橋(2018)は,組合が自身の効用を最大にする独占的賃金決定モデルを仮定した上で,新規企業の労働組合の形態に関わる戦略的選択問題を取り上げ,新規参入企業の労働生産性が既存企業の労働生産性より少し高く,かつ,労働組合が賃金の引き上げに重きを置かない場合には,参入企業は産業別労働組合よりも企業別労働組合を選択することを明らかにしている.これに対して,保苅(2023)は,企業別組合を仮定した上で,戦略的な賃金決定方式を検討し,企業は,組合による独占的賃金決定方式ではなく,RTM方式を選択することを明らかにしている.本稿は,保苅(2023)に社会的厚生の観点を取り入れ,技術的に優位な企業と劣位にある企業の技術的な差が極端に大きくなければ,企業が組合による独占的賃金決定方式よりも,TM方式を選択した場合の方が,社会的厚生も大きくなることを明らかにした.