2017 年 69 巻 4 号 p. 215-219
本研究では,学生ピアノコンペティションの時系列採点データを活用し,戦後日本社会におけるピアノ教育過程を数理的に追及することを目的とする.具体的には,“1992 ~2015 年度のピティナ全参加者の属性・選曲・採点結果” という延べ56 万件規模のデータベースを解析し,ピアノ技術の伝承過程とそこから導かれる社会的距離,さらにはピアノ学習者の演奏技術習得過程に,焦点を当てる.本研究で着目するのは,(i) ピアノ教育における師弟関係と,(ii) 楽曲の習得過程,の2 つに関する“ネットワーク” と“距離” である.時間・空間・難易度という3 軸上で展開されるピアノ教育“過程”を定量的に解析することによって,ピアノ教育者が感覚的に認識していた仮説の可視化のみならず,その数学的帰結から導かれる新たなる知見の創出を目指す.