日本生態学会誌
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日本産スズメバチ属ハチ類の生態学的研究 : I.越冬後のメスバチの営巣前の生活, 特に種内および種間の優劣位関係について
松浦 誠
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1969 年 19 巻 5 号 p. 196-203

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抄録

日本産のVespaの生活史について, 1957年以来調査, 観察が行なわれたが, 本稿ではV.mandariniaを中心に, 日本の西南暖地に分布する5種について, 越冬を終えたメスバチが造巣活動に入るまでのpre-nesting stageにおける生活をとりあつかった.越冬を終えたメスバチの出現時期は種によって異なり, 通常V.xanthopteraが4月中旬までに見られV.mandarinia, V.crabro flavofasciataおよびV.analis insularisは5月上旬頃までに現われる.V.tropica pulchraは5月下旬以後であった. 越冬直後のメスバチはQuercus属植物などの樹液を訪れ, 昼夜にわたり摂食活動を行なったのち, 受精個体のみが造巣活動に入った.越冬個体の半数以上を占める不受精個体は同種の営巣活動には加わることなく, 樹液の摂取を続け, V.mandariniaでは7月下旬まで野外に見られた.これらの不受精メスバチの卵巣は, 越冬後の樹液の摂取とともに発達を始めたのち, 卵吸収によって成熟卵は消失した. 樹液を求めて集ったVespaのメスバチ間には, 異種間だけでなく同種間においても, それぞれ直線的な優劣位関係が認められた.異種間の関係ではV.mandariniaがメスバチおよびXenosに寄生されたハタラキバチにおいても, 他種に対して最優位でmandarinia>crabro flavofasciata≥analis insularis>xanthoptera>tropica pulchraの関係が認められた.同種間でも, 各個体はそれぞれの順位に従って吸液を行なった.日中は, 樹孔は頻繁に上位の個体が来訪するため, 樹孔附近で待つ下位の個体には吸液の機会はほとんど与えられなかった.しかしながら夜間では, 他からの飛来がなくなるうえ, 充分に吸液を行なった個体は樹孔を離れて眠りにつくため, 最下位の個体においても, 上位個体が吸液を終えるのを待つことにらって, 充分な吸液の機会が与えられた.

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© 1969 一般社団法人 日本生態学会
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