日本生態学会誌
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宮地賞受賞者総説
アロクロニックな生殖隔離と生物の測時機構(宮地賞受賞者総説)
宮竹 貴久
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2006 年 56 巻 1 号 p. 10-24

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抄録

花の開花、珊瑚の配偶子放出、昆虫の交尾など、生殖活動を行うタイミングが決まっている生物は多い。集団間で繁殖するタイミングがずれると生殖隔離が生じる。本論では、生殖隔離において生物の時間的な側面がどのように関わっているのかについて議論する。多くの生物の行動や生理的な反応は、一定間隔で生じる事象、すなわちリズムを伴って生じる。生物リズムは、約1日に近い周期の長さを持つサーカディアンリズム、それよりも長いインフラディアンリズム(>24h)、それよりも短いウルトラディアンリズム(<24h)の3つに分けられる。野外で生殖隔離に生物の時間現象が関わっているとされる事例についてこの3つのリズムの分類に沿って紹介する。次に、近年急速にその理解が進んだ体内時計を司る分子遺伝的機構と異時的な生殖隔離(Allochronic reproductive isolation)の関わりに着目して研究されたショウジョウバエとミバエの研究事例を紹介する。とくに時計遺伝子の多面発現効果が、交尾時刻の変化を介した生殖隔離を引き起こしうる可能性についてウリミバエを用いたモデル研究について解説する。最後に、アロクロニックな生殖隔離の研究における今後の問題点について議論する。時計遺伝子と種分化の関係という新しい研究領域が開かれつつある。

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© 2006 一般社団法人 日本生態学会
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