日本生態学会誌
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総説
東南アジア熱帯における動物による種子散布研究の現状と展望 : 特に大型の果実食鳥類と哺乳類に着目して
北村 俊平
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2007 年 57 巻 2 号 p. 159-171

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抄録

今日、東南アジア熱帯の森林は急激な減少を続けており、そこに生息する動物も絶滅の危機に瀕している。この総説では、東南アジア熱帯における動物による種子散布の有効性を取り扱った既存の情報(果実食動物の行動圏、腸内滞留時間、散布距離、種子散布地の特定、林床における果実消費、二次散布)を整理し、新熱帯やアフリカ熱帯における最新の研究成果を交えながら、東南アジア熱帯において種子散布に貢献する果実食動物の絶滅がもたらす影響について考察する。東南アジア熱帯においては、日中にどのような動物がどのような果実を利用するかについてはかなりの情報が蓄積されつつある。一方、夜にどのような動物が果実を利用しているか、林床でどのような動物が果実を利用しているか、どのくらいの距離を種子は散布されるのか、どこに種子は散布されるのか、散布後の種子の運命はどうなのか、の情報は非常に限られている。現段階の情報では、東南アジア熱帯において、ある特定の果実食動物の絶滅が、生態系に及ぼす影響を予測することは困難である。種子散布や種子捕食といった動物と植物の相互作用を介した生態系機能についての研究は、持続的な森林管理や熱帯林生態系の回復や復元に必要不可欠である。種子散布を担っている果実食動物相は地域により異なるので、情報の少ない東南アジア熱帯における独自の研究の進展が待たれる。

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© 2007 一般社団法人 日本生態学会
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