生理的統合は、同化産物や栄養塩類や水、情報などを1つの個体内の複数のラメット間で地下茎や走出枝を通じてやりとりする現象である。クローナル植物は、一個体のおかれている面積より小さいスケールで撹乱や資源の不足などが生じるとその環境の不均一性に応答し、生理的統合がより効果的に機能することが知られている。ササは日本の植生を代表する多年生の矮性タケ亜科植物であり、長い地下茎に複数の地上稈をもつクローナル植物である。また、特に森林群集の構造やダイナミズムに大きな影響を与えることがよく知られている。したがって、ササのクローナル植物としての適応戦略を明らかにすることは、日本の森林の群集構造や遷移過程などを明らかにする上でも極めて重要だと考えられる。森林の林床は一般的に暗いが、頻繁に形成されるギャップにより、光資源は空間的に不均一である。著者らは、ササ1つ1つの個体がこのようなギャップと林冠下にまたがるように地下茎を伸長させていることを見いだした。このようなササの空間分布パターンは、生理的統合がその成長や資源獲得に重要な役割を果たしていることを示唆している。著者らはこれまでにいくつかの操作実験を行い同化産物と窒素の転流を確認し、チマキザサ(Sasa palmata)において生理的統合が機能することを実証してきた。さらに、森林の林床でどれ位の距離を実際に転流するかを調べた。本稿はこれらの実験結果を基に、ササにおける生理的統合の機能と森林における資源獲得戦略について論考した。